Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

フアン・デ・ディオスとアントン・マルティン(Juan de Dios y Antón Martín)

ロペへの帰属:確実

執筆年代:1611-1612年

種類:宗教劇

補足:ポルトガル生まれの聖人「神の聖ヨハネ(あるいは聖ヨハネ・ア・デオ。スペイン語読みではフアン・デ・ディオス。多くの貧者を救済し、彼の名を冠した病院修道会が作られた)」と、彼の弟子でマドリードに病院を創設したアントン・マルティンの生涯を描く。男装の女性が登場する。

参照元ARTELOPE. Base de datos y Argumentos del teatro de Lope de Vega

 

*人名はスペイン語の読みに従う。

 

 ポルトガル生まれの青年フアンは、スペインで羊飼いをしていた。ある日、彼は牧人頭に「オロペーサ伯爵の軍隊に入るため、羊飼いをやめたい」と告げる。

 

 当時、フランス軍がスペインのフエンテラビアを攻撃しようとしており、オロペーサ伯爵は神聖ローマ皇帝カール5世(スペイン国王カルロス1世) を援護するための軍隊を準備していた。フアンの言葉を聞いた牧人頭は、彼に自分の古い剣と帽子を与え、伯爵の元へ送り出す。

 

 オロペーサ伯爵の居城に着いたフアンは、兵士の服を着た女性レオノールに出会い、伯爵に会いたいと願い出る。レオノールの紹介でフアンと面会した伯爵は彼を気に入り、入隊を許可する。

 

 レケーナに住むドニャ・マリアは、ベラスコペドロ・マルティンという二人の男性から求愛されている。二人の男性は嫉妬心から互いを侮蔑し合う。マリアは二人の争いを止めようとするが失敗する。

 

 フアンは戦場で戦うが、兵士としての生き方に疑問を感じ始める。彼は戦利品の宝物箱を見張っているよう隊長に命じられる。そこへ、やくざ者のカラオーラが現れ、「戦いが終わるまで、宝物箱を土の下に埋めておこう」とフアンをそそのかす。彼の指示に従ったフアンは、まんまと宝物箱の中身をカラオーラに盗まれてしまう。

 

 隊長は、フアンが宝物を盗んだのだと思いこみ、彼を死刑にしようとする。そこへアルバ公爵が現れ、フアンの弁明を聞いて彼の無実を信じる。公爵によって死刑を免れたフアンは、兵士の生活をやめて他の方法で神に奉仕しようと決心する。

 

  ペドロは、婉曲な言葉を使って自分を侮辱したベラスコに腹を立て、彼を殴打してしまう。ベラスコの復讐を恐れたペドロの兄弟アントン・マルティンは、ペドロにバレンシアへ逃げるよう勧める。

 

 軍隊を退いたフアンのもとに、神の声が届く。彼の前にザクロの実(*スペイン語グラナダ)を持った裸足の子どもが現れる。フアンがその子どもを背負ってやろうとすると、子どもは「あなたが『貧しい人々を彼らの休める場所へと運ぶ』と約束しないのなら、その申し出は受けません」と告げる。フアンはその約束を受け入れ、子どもを背負う。子どもはフアンに「フアン・デ・ディオス(神のフアン)」という名を与え、ザクロの実を彼に分け与える。

 

 裂けたザクロの実の中から、十字架が出てくる。子どもはフアンに「グラナダで、あなたは世話をすべき貧しい人々に出会うでしょう」と告げて姿を消す。フアンはすぐにグラナダに向けて旅立つ。

 

 カラオーラは、宝物箱を盗んで手に入れた金を賭博でみな失ってしまう。彼は隊長に給料の前払いを要求するが、隊長は戦争が終了したことを彼に告げて断る。

 

 グラナダに到着したフアンは、その地で書物や歌を書いた紙片などを販売する。彼は少年たちに、特に聖歌や聖画などを薦める。そこへ、名高いフアン・デ・アビラ(アビラの聖ヨハネ。舞台には登場しない)がグラナダにやってきたという知らせが届き、フアンは店番を少年たちにまかせて彼の説教を聴きに行く。

 

 グラナダにやってきたカラオーラは、負傷しているふりをして金を稼ごうとするが、少年たちに嘘を見抜かれ、ばかにされてしまう。

 

 フアン・デ・アビラの説教を聴いたフアンは激しく感動し、店に置いてあった本をすべて少年たちに与える。さらに彼は身体を地に投げ出して、神に許しを乞う。人々はフアンが正気を失ったのだと思いこみ、彼を病院へ入院させる。

 

  ペドロは結局、ベラスコによって殺されてしまう。ベラスコは捕えられ、グラナダで処刑されることになる。アントンはそれを見届けるためグラナダへ行く。

 

 ベラスコの父グラナダへやってきて、アントンの前にひざまずき、息子の罪の許しを乞う。しかしアントンはそれを拒む。ベラスコの父は、グラナダで知り合った騎士から「フアン・デ・ディオスがとりなしをしてくれるだろう」と告げられる。騎士は、フアンが病院を出た後、自ら貧しい人々や病人たちを助けるための病院を建て、献身的に活動していることを話す。

 

 アントンに会ったフアンは、兄を殺したベラスコへの復讐心を抱いている彼に、敵を許すことこそ神の御心にかなうことであると諭す。初めは抵抗を見せていたアントンもフアンの言葉を受け入れ、ベラスコを許すことを決心する。

 

 フアンとアントンは、病院の前で待っている貧しい人々のもとへ食料を運ぶ。フアンはそこでカラオーラに再会する。カラオーラは恥じて逃げようとするが、フアンは彼にも食べ物を与える。食べ物が足りなくなると、天使が空から降りてきて人々に食べ物を分け与える。その奇跡を目撃したアントンとカラオーラは、修道士となってフアンの活動を手伝うことを決心する。

 

  フアンは、セビーリャからグラナダへやってきたリーファ侯爵に寄付を求めに行く。フアンの評判を知っている侯爵はこころよく寄付をするが、フアンの聖性を確かめるために自分の正体を隠して彼を観察しようと考える。

 

 侯爵はマントで顔を隠してフアンに近づき、困窮しているので金が必要だと訴える。フアンは侯爵の作り話を信じ、所持していたお金のすべてを彼に渡す。

 

 悪魔がその様子を見て、フアンをだまそうと企む。悪魔は侯爵が去った後、顔を隠して遠くからフアンに施しを乞う。しかしフアンが神への懇願を彼に求めると、悪魔はそれを拒む。

 

 フアンが悪魔の要求を拒否すると、悪魔は怒り、フアンを激しく殴打する。フアンは倒れるが、十字架を掲げて悪魔を追い払う。医師たちがフアンを助けて病院へ運ぶ。

 

 カラオーラが、悪魔に憑かれた女性をフアンのもとへつれてくる。フアンが女性に罪の告解をさせると、女性は正気を取り戻す。

 

 タリーファ侯爵が病院へやってきて、フアンを試したことを謝罪する。侯爵は病院に多額の寄付をすることを約束する。

 

 フアンが僧房にいると、悪魔が彼を襲う。悪魔はフアンを空中に放り投げ、何度も殴打したあげく、高所から彼の身体を落下させて重傷を負わせる。

 

 フアンは次第に衰弱していくが、貧しい人々への奉仕を続ける。彼は娼婦たちに仕事をやめるよう諭し、快楽を捨てて誠実な生活を選ぶことを勧める。グラナダに住む女性ドニャ・イネスはフアンの活動に共鳴し、悔悛した女性たちを自宅に受け入れる。

 

  アントンとカラオーラは、病院を建てるための資金を新しいスペイン国王フェリーペ2世に出してもらうため、マドリードへ赴く。

 

 休みなく働き続けるフアンを見て、修道士たちや支援者たちは彼の身体を心配する。フアンは自分に迫りくる死について瞑想する。フアンのゆるぎない信仰心を見て、悪魔さえも感銘を受け、彼の死に立ち会おうと考える。

 

 フアンは支援者や大司教の見ている前で、祈りをささげながら息を引き取る。天使が降りてきて、フアンの魂を天上へ運んでいく。

 

 悪魔はアントンがマドリードに病院を建てようと計画していることを知り、彼を妨害しに行こうと決心する。

 

 マドリードに着いたアントンとカラオーラは、エルナンド・デ・ソモンテスという寛大な貴族の家に滞在し、国王フェリーペ2世に自分たちのグラナダでの活動について報告する。若きフェリーペに仕えるアルバ公爵は、王が彼らに500ドゥカードを与えるよう命じたことを二人に告げる。

 

 エルナンド・デ・ソモンテスは、梅毒などの性病患者を助けるための病院を建設しようとするアントンを支援する。

 

 アントンは、「エル・プラド」と呼ばれる場所へ夜の音楽会を聴きに来た人々に喜捨を求める。アントンの慈善活動の噂を知った人々は、喜んで彼に金を渡す。

 

 アントンのもとに、フアンの死とグラナダで彼のために行われた盛大な葬儀の様子が知らされる。アントンとカラオーラは悲しみに沈みながらも、貧者たちの支援活動を続ける。

 

 悪魔は、ベラスコに姿を変えてアントンに近づく。しかしアントンは彼を手厚くもてなす。悪魔は病院にいる女性にアントンを誘惑するようそそのかすが、それも失敗に終わる。

 

 悪魔が逃げ出すと、貧しい人々や子どもたちをつれた「慈愛」の寓意人物が現れる。「慈愛」の両側にはフアン・デ・ディオスと幼児キリストがいる。フアンはアントンに向かって、新しい修道会にフアン・デ・ディオスの名が与えられるであろうということ、いずれフェリーペ3世が教皇パウルス5世から小勅書を受け取り、修道会にさらなる名誉が与えられるであろうということを教える。フアンが姿を消したのち、アントンが劇の第二部の上演を約束して幕となる。(*第二部は現存せず)

 

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アロンソ・カーノ《聖フアン・デ・ディオス》彩色木彫

1655年頃、グラナダ県立美術館 

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