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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

復讐なき罰(12/13)

『復讐なき罰』(El castigo sin venganza)

カサンドラ (懸命に感情を抑えて)

 驚きました。あなたのお言葉でなければ、

 信じられないところです。

公爵 私はフェデリーコの申し込みを受け入れた。

 結婚式は明日、執り行う予定だ。

カサンドラ それは、アウローラの気もち次第でしょう。

アウローラ (公爵に向かって、きっぱりと)

 フェデリーコとの結婚は、お断りいたします。

公爵 (傍白)これ以上、確かめる必要があるか?

 私は何をためらっているのだ?

 (アウローラに)

 アウローラ、フェデリーコの

 品格や知性や勇気は、

 カルロスにかなわないかね?

アウローラ それは知りません。

 でも、フェデリーコは

 私が彼を愛し、求めていた時に

 私を拒んだのです。

 いまさら愛しているなどと言われても、

 私のほうから願い下げですよ。

公爵 彼のためではなく、

 私のために結婚してくれないか。

アウローラ (肩をすくめて)

 結婚というのは、好きな相手とするものでしょう?

 フェデリーコとは結婚する気になれません。

 

 (アウローラは退場。)

 

公爵 ずいぶんと頑固だな!

カサンドラ アウローラの言うとおりです。

 もう少し穏やかな言い方が

 あっただろうとは思いますが。

公爵 いや、だめだ。

 無理やりにでも、結婚させよう。

カサンドラ (とりなすように)

 あなたの権力を

 お使いになるべきではありません。

 愛には好みというものがあるのですから。

 無理強いはなさらないでください。

 

 (公爵は退場。)

 

カサンドラ (こらえきれずに叫ぶ)

 フェデリーコの裏切り者!

 もう私に飽きたのね!

 

 (フェデリーコが登場。)

 

フェデリーコ 父上がこちらに

 来られませんでしたか?

カサンドラ (フェデリーコに詰め寄る)

 よくも、ぬけぬけと顔を出したわね!

 この大嘘つき!

 公爵にアウローラとの結婚を

 申し込んだんですって?

フェデリーコ (指を立てて制する)

 お静かに。

 人に聞かれたら危険です。

カサンドラ しらじらしい!

 こんなときに、危険もなにも

 あるもんですか!

フェデリーコ (焦る)

 そんな大声を上げたら…

 

 (公爵がひそかに登場。)

 

公爵 (傍白)

 証拠をつかみたい。

 聞き取りにくいが、

 ここで、あの二人の話を聞いてやろう。

 私が盗み聞きをせねばならんとは、情けない!

フェデリーコ (懸命に説得を試みる)

 カサンドラ様、

 せめて、ご自身の身分を

 お考えになってください。

カサンドラ あなたみたいな卑怯者は

 見たことがないわ!

 私は、死ぬほど悩んだあげく、

 あなたのために名誉を捨てたのに!

フェデリーコ ぼくは、

 まだ結婚していません。

 カサンドラ様、

 いつまでもこんなことを

 続けられると思いますか?

 父上に疑われることなく

 ぼくたちが無事に過ごすためには、

 こうするしかなかったのです。

 父上ほどの方が、

 ご自分の名を汚した者を

 見過ごせるはずがありません。

 それは、君主にあるまじき行為です。

 先の見えない恋に溺れるのは、

 お互いにもうやめましょう。

カサンドラ 臆病者!人でなし!

 あんなに涙を流して

 私に懇願したくせに!

 そのせいで私たちは、

 愚かな情熱に負けて

 名誉を手放してしまったのよ。

 その上、今度は、

 もっともらしい理屈をつけて、

 それをなかったことにするのね!

 今になって、逃げ出そうっていうのね!

 あきれたわ!もう我慢できない!

 

 (カサンドラはフェデリーコを非難し続ける。)

 

公爵 (傍白)これ以上ここにいたら、

 心が凍り付いてしまいそうだ。

 あんな話を、まだ聞こうというのか?

 拷問にかけるまでもなく、

 あいつらは白状した。

 いや、むしろ拷問にかけられているのは

 私のほうだ。

 これ以上の証拠はいらない。

 あいつらが、すっかり吐いてくれたからな。

 名誉よ、おまえがあの二人の判事だ。

 判決と処罰を言い渡せ。

 しかし、私の家名に

 傷がつかないようにしなければ。

 不祥事は、とかく噂が

 広まりやすいものだからな。

 不名誉な事実は、

 外に漏らすことなく、

 永遠に葬り去らなくてはならん。

 名誉を回復したように見えても、

 人の噂がなくならない限り、

 受けた侮辱は消えないのだから。

 

 (公爵は退場。)

 

カサンドラ (泣き叫ぶ)

 ああ、女に生まれるくらい不幸なことはないわ!

 男なんて、だれも信用できない!

フェデリーコ (カサンドラの前にひざまずき、必死になだめる)

 わかりました、

 なんでもあなたの望みどおりにします。

 お約束します。

カサンドラ (泣きながら)ほんとう?

フェデリーコ ええ、誓います。

 

 (フェデリーコとカサンドラは固く抱き合う。)

 

カサンドラ (急に元気になり)

 だったら、愛に不可能はないわ。

 私はあなたのものだったし、今もそうよ。

 これからは、なにか口実を作って

 毎日会えるようにしましょう。

フェデリーコ それでは、これで失礼します。

 くれぐれも気をつけて。

 公爵を愛しているようにふるまってください。

 本来は、そうするべきなのですから。

カサンドラ わかったわ。

 そうしたとしても、

 あなたを侮辱することにはならないもの。

 それはお芝居であって、本心ではないわ。

 

 (二人は退場。アウローラとバティンが登場。)

 

『復讐なき罰』13(終) - Las comedias de Lope de Vega

『復讐なき罰』11 - Las comedias de Lope de Vega