Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

復讐なき罰(4/13)

公爵 こっちに来てくれ、アウローラ。

 (アウローラを抱擁する。)

 不安と焦燥の闇の中にいた私を、

 おまえはまさに曙の女神アウローラとして

 明るい光で照らしてくれた*1

 私の心に慰めと、

 太陽のようにすばらしい助言を与えてくれた。

 私は鏡の中に自分の姿を見るように、

 そこに解決策を見出すことができた。

 フェデリーコがおまえの誠実な愛を信じ、

 それに応えるというのなら、

 私の人生と名誉に敬意を払ってくれたおまえに、

 彼を伴侶として与えると約束しよう。

 おまえはもちろん彼から

 真剣に愛されるにふさわしい女性だが、

 私から見れば、それ以上の価値がある。

 おまえたち二人の考えが一致したら、

 二組の結婚式を同時に挙げるとしよう。

 フェデリーコが帰ってきたら

 このフェラーラはお祭り騒ぎになるぞ。

 楽しみに待っていなさい。

アウローラ (感激して)公爵様、

 私はあなたの娘となり、

 あなたに忠誠を誓います。

 なんとお礼を申し上げたらいいか!

 

 (バティンが登場。)

 

バティン 公爵様、

 どうか、祝福のお言葉を

 このバティンと、風とにお与えください。

 我々には、その権利があるんですから。

 我々は一緒に走っていたのですが、

 私が風におされて走っていたのか、

 風が私におされて走っていたのか、

 私が風の翼に乗っていたのか、

 風が私の足に乗っていたのか、

 どちらともわからないほどでした。

 カサンドラ様は、無事に到着されましたよ。

 性根の悪い小川が

 馬車を転覆させたという知らせが

 もう届いているかもしれませんが、

 大事には至りませんでした。

 ちょうどそのときフェデリーコ様が駆けつけ、

 カサンドラ様を抱きかかえてお救いしたのです。

 そのおかげで、お二人は仲良くなられました。

 世間では、継母と継子とが

 親しくなることなどありえないなどと申しますが、

 お二人はまるで本当の親子のように

 連れだって、楽しげにしていらっしゃいます。

公爵 (喜んで)バティン、

 二人が仲良くしているというのは、

 とてもありがたい知らせだ。

 そればかりではない。

 フェデリーコが喜んでいるというのは、

 ここ最近、なかったことだ。

 これも、神のおぼしめしだな。

 フェデリーコは利口な子だから、

 カサンドラとうまくやっていけるだろう。

 二人は旅路の途中で出会って、

 フェデリーコがおりよく

 カサンドラを助けたというわけか?

バティン はい。それはあのお二人にとって

 幸運なことでございました。

アウローラ (バティンに)

 私も、あなたから聞きたいことがあるの。

バティン これは、アウローラ様!

 あなたのお名前は、

 曙の女神にたとえて

 しゃれたことを言うのに

 とても便利ですね。

アウローラ 教えて。

 カサンドラ様は、とても美しい方?

バティン (答えをためらう)

 それは、あなたよりも

 公爵がお知りになりたがっていることでは?

 でも、お二人とも、

 あの方の評判を聞けばおわかりになりますよ。

 (到着の合図が聞こえてくる。)

 私の口からご説明はできません。

 だって、もうあの方はご到着されたんですから。

公爵 (バティンに褒美として金鎖を与える)

 バティン、この金鎖を首につけるがいい。

 

(華やかな行列とともにルティーリオ、フローロ、アルバーノ、ルシンド、ゴンサーガ侯爵、フェデリーコ、カサンドラ、ルクレシアが登場。)

 

フェデリーコ (カサンドラに)

 この庭園の中に、

 父があなたのために造らせた四阿(あずまや)があります。

 ここで父があなたを迎えます。

 その間に、フェラーラ市へ入城する行列の準備が整うでしょう。

 あなたの素晴らしさには足元にも及びませんが、

 いまのイタリアにおいては最も美しい光景が見られるはずです。

カサンドラ フェデリーコ、

 ここはとても静かね。

 なんだか心細いわ。

フェデリーコ (公爵とアウローラを示して)

 静けさの理由は、あれですよ。

フローロ 公爵とアウローラ様がいらっしゃいました。

公爵 (カサンドラに近づいて)

 美しいカサンドラ

 私は心からあなたに、

 このフェラーラ公国を捧げよう。

 神が、この国の主人となるあなたに

 ご加護を与えたまわんことを!

 そして、国の繁栄と栄誉が

 とこしえに続かんことを!

カサンドラ 偉大なる公爵様、

 私はあなたの忠実な妻となるために参りました。

 私があなたの妻となることで、

 私の家は栄え、父は名誉を与えられ、

 祖国は栄光に包まれることになるでしょう。

 私はそのご恩に応え、

 あなたにふさわしい妻になりたいと存じます。

公爵 (ゴンサーガ侯爵に)

 ようこそ、ゴンサーガ侯爵。

 (侯爵を抱擁する。)

 私の大切な宝を、よく送り届けてくださった。

侯爵 こちらこそ、公爵のお役に立てて光栄です。

 私はお二人の喜ばしい結婚式に

 参加することになっております。

 婚礼の音楽の演奏が終わるまでは

 私に借りがあるとお思い下さい。

アウローラ (カサンドラに挨拶する。)

 カサンドラ様、私がアウローラです。

カサンドラ 私が楽しみにしていたことは

 いろいろあるけど、

 中でもあなたに会えて

 いちばん嬉しいわ、アウローラ。

 ぜひ、あなたのお友だちになりたいし、

 あなたのお世話をしたいの。

アウローラ 私は心を込めてあなたを愛し、

 お仕えします。

 いまは胸がいっぱいで、それしか言えません。

 カサンドラ様、

 フェラーラはなんて幸運なんでしょう。

 あなたという名誉を得ることができたなんて!

カサンドラ 到着してすぐに

 これほどのご好意を示していただいたおかげで、

 このあともずっと、

 楽しいことが待っているような予感がするわ。

公爵 (カサンドラに)どうか、席についてくれ。

 私の親族と家族が、

 あなたに心からの挨拶をするから。

カサンドラ わかりました。

 あなたのご指示には、すべて従います。

 

(天蓋の下に、公爵、カサンドラ、侯爵、アウローラが座る。)

 

カサンドラ フェデリーコは座らないのですか?

公爵 そうだ。

 彼が最初に、あなたの手に接吻しなくてはならないのでな*2

カサンドラ (困惑して)それは、どうかやめてください。

 私は、そこまでへりくだった態度を

 示していただきたくはありません。

フェデリーコ 受け入れてくださらなければ、

 私の気もちも、

 あなたへの忠誠も報われません。

カサンドラ そんなことはないわ。

フェデリーコ (傍白)ああ、苦しい。

カサンドラ (フェデリーコに椅子をすすめて)ここに座って。

フェデリーコ (穏やかに制して)

 どうか、もうおやめください。

 あなたのお手に三度、接吻いたします。

 (ひざまずき、カサンドラの手に接吻しながら)

 一度目はあなたのために。

 私はここにいる親族一同の代表として、

 生きている限り、あなたに忠実にお仕えいたします。

 二度目は、公爵のために。

 私は公爵を尊敬し、

 公爵への忠誠を誓います。

 三度目は、私のために。

 あなたへの義務は果たしましたので、

 これは私の意思によるものです。

 カサンドラ様、

 どうかこれは、私の心から生じた、

 何者に強いられたわけでもない

 真の忠誠だとお思いになって下さい。

カサンドラ それなら、

 あなたのそれほどの忠誠に対する感謝の首飾りのかわりに、

 私の腕を首にかけてあげる。

 (フェデリーコを優しく抱擁する。)

公爵 フェデリーコは、そつがないな。

侯爵 (アウローラに近づき)

 美しいアウローラ様、

 あなたの評判を耳にしてから、

 ずっとお会いしたいと思っていました。

 いささか緊張しているのですが、

 こうしてあなたとお近づきになれた幸運に

 感謝しております。

 望みがかなったいま、

 あなたの美しさを目の前にして、

 よりいっそう、あなたにお仕えしたいという気もちが

 わいてきました。

アウローラ (愛想よく笑って)侯爵様、

 そのようなお言葉をいただき、光栄です。

 あなたの武勇はイタリア中に知れ渡っていますし、

 戦いでのすばらしいお手柄のことも

 お聞きしております。

 恥ずかしながら、

 あなたがこんなに優雅な方だったとは

 今まで存じ上げませんでした。

 強さと優雅さを兼ね備えておられるなんて、

 すばらしい方ですね。

 あなたのように高貴で立派な家柄の方なら

 無理のないことかもしれませんけれど。

侯爵 (喜んで)ありがたいお言葉です。

 今日から私はあなたの騎士となりましょう。

 このあとの宴の席で、

 私はフェラーラ中の騎士たちに向かって、

 最も美しい女性に仕えているのは自分だと

 宣言いたしますよ。

公爵 (他の者たちと話をしていたが、それを打ち切って)

 みなさん、そろそろ休まれるといい。

 私が長々とおしゃべりをしていても、

 みなさんを疲れさせてしまうだろうから。

 長旅をさせてしまった上に、

 二度も礼を失するわけにはいかない。

 しかし、誤解しないでもらいたい。

 時間を惜しんでいるからといって、

 この幸福を与えてくれたみなさんの愛情に

 感謝していないわけではないのだ。

 

 (一同、壮麗な演出の元に退場する。フェデリーコとバティンが残る。)

 

フェデリーコ (傍白)なんて、くだらないことを考えているんだろう!

バティン くだらないことって、なんですか?

フェデリーコ 「人の世は夢」という言葉があるけど、

 ほんとうにそうだな。

 すべてのものは夢だ。

 眠っているときだけでなく、

 はっきりと目覚めているときも、

 人はいろいろなことを夢に見てしまう。

 熱にうなされ、妄想にとらわれているときでさえ

 思いつかないようなことを。

バティン おっしゃる通りです。

 私は大勢の人間の中にいると、

 無性にだれかをひっぱたきたくなったり、

 首根っこにかみつきたくなったりすることが

 ありますよ。

 バルコニーに立っていると、

 ふいにそこから飛び降りて

 自殺することを想像して

 恐ろしくなったり、

 教会で神父の

 お説教を聞いていると、

 「それはどこかの本に書いてあったぞ」と

 言いたくなったり、

 葬式に行くと、

 笑いたくなったり、

 だれかが二人でカード遊びをやっているのを見たら、

 灯りを吹き消してやりたくなったり、

 人が歌っているのを見れば

 自分も歌いたくなったりするんです。

 そして女性を見れば、

 愚かにも、

 彼女の束ねた髪をほどくことを想像して、

 ほんとうに自分がそうしたかのように

 赤面してしまうんです。

フェデリーコ (嘆く)

 神よ、ぼくをお救いください!

 目覚めている者に訪れる

 愚かな夢よ、消えてくれ!

 ぼくはなにを思い描いている?

 なにを考えている?

 なにを期待している?

 なにを訴えている?

 なにを企んでいる?

 もうたくさんだ!

 こんなばかげた想像は!

バティン (心配そうに)

 なにか、隠していらっしゃることがあるなら

 話してください。

フェデリーコ バティン、

 ぼくはまだ、なにかをしたわけじゃない。

 だから、おまえに隠すことはなにもない。

 想像とは、実体のないものだからね。

 いま起きていないことは、

 これからも起こるはずはない。

 だから、おまえに打ち明ける必要もない。

バティン それなら、

 私がそれを言い当てたら、

 否定しませんね?

フェデリーコ (動揺を隠して)

 おまえにそれがわかるくらいなら、

 あの空に花が咲き乱れ、

 この庭に星が降ってくるだろうな。

バティン 当ててみせますよ。

 あなたは、継母さんが気に入ったんでしょう?

 それで、こう思っているんでしょう?…

フェデリーコ (いそいで)

 やめろ、言うな!

 

 (間。)

 

 その通りだよ。

 だけど、ぼくに罪はないだろう?

 思うだけなら、ぼくの自由なんだから。

バティン ええ、そうですよ。

 思いってものは

 翼をもっていますからね。

 心の中に宿った思いは

 二度と消えません。

 それは、鏡の中を見るよりもあきらかです。

フェデリーコ 父上は、運のいい人だ。

バティン まったくです。

フェデリーコ 父上がねたましいよ。

 ぼくはもう、幸せにはなれそうもない。

バティン お気もちはわかりますよ。

 カサンドラ様は、あなたにこそお似合いでしたから。

フェデリーコ たとえ死ぬほど苦しんでも

 この愛が許されるはずがない。

 ぼくに許されるのは、嫉妬することだけだ。

 

『復讐なき罰』5 - Las comedias de Lope de Vega

『復讐なき罰』3 - Las comedias de Lope de Vega

*1:アウローラはスペイン語で「曙」の意。もともとはギリシャ神話の曙の女神の名。

*2:継子であるフェデリーコがひざまずいてカサンドラの手に接吻することで服従の意思を示す儀式と考えられる。