Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

バレンシアのらんちき騒ぎ(12/12)(終)

ヘラルド やめなさい、フェードラ!頼むから。
 立会人は別の者にやってもらうよ。
フェードラ (ライダの姿を見失い、周りにいる者たちに)
 あの、生意気な娘を見なかった? 
ライダ (人ごみから顔を出して)黙ってなさいよ、
 山羊のアマルテイアさん*1。 
 あごひげでも、つけたらいかが?
 たとえ今日、あのろくでなしのベルトランと結婚できても、
 明日は、もう彼はあなたのものじゃなくなってるでしょうよ。

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(参考)ヴァザーリ《山羊アマルテイアの乳を飲むユピテル

フィレンツェ、ヴェッキオ宮 1555-1556年

http://museicivicifiorentini.comune.fi.it/en/palazzovecchio/visitamuseo/sala_di_giove.htm


フェードラ 首に縄をひっかけてやるわよ、
 このジャジャ馬!
フロリアーノ (不機嫌に)
 静かにしろよ。
 きみの夫に敬意を払ったらどうだ?
フェードラ 口をきいたらだめだとでもいうの?
フロリアーノ きみが?まさか。
 ほんの少し、口を糸で縫いつけるだけでいいよ。
フェードラ (用意された贈り物を見て)
 あなたたちの贈り物は、
 たったのこれだけ?
詩人 文句ばっかり言ってると、
 しわが増えるよ。
フロリアーノ (フェードラに)
 なにが気に入らないんだ?
フェードラ あなたは黙っててよ、おばかさん!
フロリアーノ 黙ってられるか。
 ひっぱたくぞ。
フェードラ なんてことを言うの?妻にむかって!
フロリアーノ 妻のつもりだったのか?
フェードラ それじゃ、ほんとうの妻じゃないの?
フロリアーノ これは、ぼくが望んだことじゃない。
 だから、これは真剣なものじゃないってことを覚えておいてくれ。
ヘラルド おい!でたらめを言うな!
フロリアーノ このことに口は出さないでくれ。
 でなければ、もっとたくさん、ほんとうのことを言うからな。
モルダーチョ おとなしくしておこうぜ。
 おれたちが、いかれた連中だと思われるから。
ベリーノ モルダーチョの言うとおりだ。
カランドリオ (ポルトガル語で)
 われわれも、気晴らしをしていいのか?
 おれは楽しい気分なんだ。
モルダーチョ カランドリオ、このおやじがいいと言うなら、
 踊ろうじゃないか。
ヘラルド (モルダーチョに)私からも頼む。
 なにか音楽を演奏するように言ってくれ。
 ベラルドも協力してくれるだろう。
詩人 あまり気が進まないなあ。
 だけど、やってもいいよ。

 

 (患者たちは仮面をつけて踊り、ライダを除いてそのまま退場。
  バレリオとエリフィーラが登場。)

 

バレリオ どうしてそんなに、
 ここへ帰りたがるんだ?
エリフィーラ あなたから逃げているわけじゃないわ。
 気になっていることがあるだけよ。
ヘラルド どうしたんだ?
バレリオ 彼女が、
 ぼくの家に着くやいなや逃げ出して、
 いちもくさんにここへ戻ってきてしまったんです。
ヘラルド エルビラ、なぜ戻ってきたんだ?
 この人は、おまえを救ってくれたのに。
エリフィーラ あの家にいると、私は不幸になるの。
 私はここに、幸福を置いていったんだもの。
 それでも私は、やっていけると思っていたわ。
 でも、けっきょく無理だった。
 あの家に着いたとたん、自分が死ぬような気もちになったの。
バレリオ はっきりした理由はわからないのですが、
 しかたなく、ぼくもついてきたんです。
エリフィーラ (嘆く)
 私には、理性なんてないのよ。
 頭がいかれてるんだから。
 ようするに、嫉妬のせいで、
 おだやかな愛が追いやられてしまったってことなの。
 神が地上に与えた罰で、
 これほど重いものはないわ!
 私の病気が治せるなんて思わないで。
 ベルトランのせいで、
 私は、なにがなんだかわからなくなっちゃったのよ。
レオナート (傍白)
 あれは、エリフィーラじゃないか!
 なんて変わりようだ!
バレリオ ベルトランのせいだって?
 この男が、きみに妖術でもかけたのか?
フロリアーノ バレリオ、怒らないでくれ。
 それは誤解だ。
 ぼくがきみを裏切ったことなんてないだろう?
エリフィーラ (フロリアーノに)
 それで、あなたは結婚したの?
フロリアーノ したよ、エルビラ。
 ぼくの隣に妻がいるだろう?
エリフィーラ 結婚したのね?裏切り者!
フロリアーノ きみが行ってしまったから結婚したんだ。
 きみはぼくを嫌いになって、
 バレリオを好きになったじゃないか。
 彼といっしょに帰りなよ、エルビラ。
 親戚の人たちを喜ばせてあげるべきだ。
エリフィーラ よくも結婚したわね、ろくでなし!
フロリアーノ (傍白)
 彼女はやっぱり、この結婚式を
 ほんものだと思っているんだな。
エリフィーラ 私はあなたを永遠に失ったってことね?
 この二枚舌の詐欺師!
 恥知らず!あんたなんか、死ねばいいわ!
 私を捨てておいて、自分だけ楽しもうなんて。
 そうはいかないわよ!
フロリアーノ (傍白)
 ひょっとして彼女は、ぼくのことを
 全部ばらすつもりだろうか?
エリフィーラ この、嘘つきのフロリアーノ!
 こんなスモック、にせものじゃないの!
フロリアーノ (傍白)
 たいへんだ!身の破滅だ!
 (大声で)
 エリフィーラ!ちょっとこっちへ…
エリフィーラ レイネーロ皇太子を殺したことを隠すために、
 精神病患者のふりをしてるんでしょう?
ヘラルド レイネーロ皇太子だって?
 (フロリアーノに)ちょっと待て!
 この嘘つきめ!
 きさまは皇太子を殺したフロリアーノなのか?
フロリアーノ ちがいます。
 彼女は頭がいかれてるんです。
 (傍白)
 もうおしまいだ!恋ってのは恐ろしい!
 女に秘密を打ちあけると、ろくなことはない!
ヘラルド 幸運の女神が、私に味方してくれた。
 (エリフィーラに)
 きみのおかげで助かったよ。
 みんな、そいつを捕まえろ!

 

 (フロリアーノが取り押さえられる。)

 

ピサーノ (フロリアーノに)
 よくもだましたな!
 こんなことをして、罪を隠せると思ったのか?
 おれたちまで、死刑になるところだったぞ。
ヘラルド バレリオもけしからん。
 私を欺くなんて。
バレリオ (おろおろして)
 フロリアーノはぼくの友人なので、
 助けなければと思ったんです。
騎士 (前に進み出て)
 もし彼に、レイネーロを殺したという以外の罪がないのなら、
 解放してやりたまえ。
ヘラルド どういう意味ですか?
騎士 (天を仰ぎ)
 神よ、あなたの手は、
 なんと多くの奇跡を生みだされることでしょう!
 (フロリアーノに)
 私がわからないか、フロリアーノ?
フロリアーノ (騎士の顔を見て驚く)
 これは幽霊か?それとも幻か?
騎士 私だよ。そんなにおびえなくていい。
フロリアーノ 皇太子殿下!亡くなられたはずでは?
バレリオ あなたは、レイネーロ皇太子ですか?
騎士 そうだ。
バレリオ ほんとうに?
騎士 ほんとうだよ。
 そんなに、かしこまらないでくれ。
バレリオ フロリアーノに殺されたのでは?
騎士(レイネーロ) いいや。生きているよ。
フロリアーノ ぼくは、あなたの死によって、
 ぼくの命も奪われることになると思っていました。
 あなたのおかげで、ぼくの命は救われました。
 ですが、どうか教えてください。
 なぜ、このような不思議なことが起きたのですか?
レイネーロ 私の死は、偽装だったんだ。
フロリアーノ 偽装ですって?どうやったんです?
レイネーロ 聞いてくれ。
 私はあの、美しいセリアに恋していた。
 きみがそうだったようにね。
 セリアはその美しさといい、家柄の高貴さといい、
 まさにアラゴンの誉れだ。
 彼女の家の前で、
 私はほかの男たちと、多くの勝負を行った。
 豪華な武具と羽根飾りをつけて、
 徒歩のトーナメントに出たし、
 手の込んだ細工の指輪に、
 心のこもった言葉を刻み、
 競って彼女に贈りもした。
 闘牛では、何度もすれすれのところで
 牛の突進をかわし、
 その太い首を剣ではねた。
 私の姿や物腰は、
 すべての者に好ましく思われたようだが、
 セリアだけは私に冷たくあたったんだ。
 彼女は、私を死ぬほど苦しめるために生きているようなものだ。
 私が、自分の馬に拍車をつけていると、
 みな「神のご加護を!」と言ったものだが、
 彼女はこう言った。
 「馬から落ちて、
  あぶみに引きずられればいいわ」とね。
 私はある夜、闇の中を歩いて、
 彼女の様子を見にいった。
 それというのも、夜が更けると、
 彼女に恋する男たちが、
 コウモリのように、彼女の家の窓辺にやってくるからだ。
 私は剣と盾を持ち、
 ひとりの従者に盾を、
 ふたりの従者に大ぶりの剣を持たせていた。
 盾を持った従者には、
 私の名を名乗らせ、私の服を着せていた。
 きみが傷つけたのは、その男だ。
 残念なことに、彼は死んだ。
 私は、ほかの従者たちがきみを追おうとするのを止め、
 死んだ従者をすぐにそこから運び出した。
 そして私は、私が死んだという噂を、
 サラゴサの街中に広めさせたんだ。
 この悲劇に、石も心を動かされたのではないかと思うほど、
 市民たちは嘆いていたが、
 私が確かめたかったのは、
 生きているときは一度も情けをかけてくれなかったセリアが、
 私が殺されたと聞いて、
 同情してくれるのかどうかだった。
 私が死んだという知らせを聞いて、
 私の父、老アルノルフォ伯は大いに嘆き、
 千台もの馬車を使って、
 きみと、私の遺体を捜索した。
 それというのも、私は死んだ従者をひそかに埋葬し、
 その翌日の午後にはサラゴサを去っていたからだ。
 ここバレンシアに来て、私が聞いたのは、
 セリアが私のために嘆き悲しんでいるということだった。
 だから私は、これからサラゴサへ戻り、
 自分が生きていることを知らせようと思う。
 たとえそこで、再びセリアのために、
 死なんばかりの思いをするとしても。
 私は、きみもつれて帰りたいんだ。
 そうすれば、父の喜びはさらに増すだろうから。
 死んだ男が、いかれた男をつれていくというのは、
 なかなか、おつなものだろう。
 きみも、うまく芝居をしていたものだな。 
フロリアーノ まさか、こんなことになるとは!
 神よ、感謝します!
ベリーノ それで、まともな人間が、
 いかれた人間を装っていたというわけだな。
 しかし、教えてくれ、フロリアーノ。
 エルビラは何者なんだ?
レオナート (進み出て)
 もし、お許しがいただけるのでしたら、
 私が事情をお話しいたします。
 私はこのかたと、このかたの父上の従者だったのです。
ヘラルド エルビラは、どこから来たんだ?
レオナート 真実を申し上げねばならないのが恐ろしいのですが、
 私はこのかたを、さる郷士の家から
 さらってきたのです。
 その家柄については、あとでくわしく申し上げます。
 私はこのかたをバレンシアにつれて来ましたが、
 主人の怒りを思うと、こわくなってきました。
 それで、このかたをここへ置き去りにしてしまったのです。
 さらに、三千ドゥカードはあろうかという宝石も奪いました。
 宝石はまだ私の手元にありますので、
 すべて、お返しするつもりです。
 病院の人々がこのかたを見つけて声をかけ、
 精神病患者と思って入院させたのでしょう。
 (観客に向かって)
 そのあと、ここで繰り広げられた大恋愛については、
 みなさまがよくご存じですよね?
 (エリフィーラに)
 どうか許してください、エリフィーラ。
 エルビラではなく、エリフィーラというのが
 あなたのほんとうの名でしょう?
ヘラルド 信じられないような話だな!
 私は頭が混乱しているよ。
 (フロリアーノとエリフィーラを見ながら)
 それで、この二人は結婚するつもりなのか?
フロリアーノ いいえ。
 だって、バレリオが彼女を愛しているんですから。
 彼のおかげで、ぼくは危機から逃れられたんです。
 彼がエリフィーラと結婚するべきです。
バレリオ いいや。
 それは、きみの気もちを無視して、
 友情という名のもとに、
 愛を踏みにじるということだ。
 きみたちの心は結ばれているし、
 ぼくは、こんなに深く愛し合っている人たちを引き裂くのが、
 正しいとは思わない。
フロリアーノ (バレリオを抱擁する)
 きみには、いくら感謝してもしたりない。
 きみはこの病院で、
 ぼくの命を二度も救ってくれたんだ。
 (エリフィーラの前にひざまずき)
 エリフィーラ、ぼくと結婚してくれ。
 この結婚式は、ぜんぶお芝居だったんだ。
 ぼくを、きみの夫として、
 そしてきみのしもべとして、受け入れてくれ。
エリフィーラ (フロリアーノに手を差し出して)
 私の手も、心も、すべてをあなたに差し出すわ。
 あなたのおかげで、私の身は自由になったんだもの。
レイネーロ このような盛大な宴では、
 すべてが、まるくおさまってもらいたい。
 バレリオ、きみはフェードラを知っているだろう?
 彼女の結婚式が、偽りのものだったことも?
 きみに、彼女を幸せな結末へと導いてやってほしい。
 彼女と結婚する気はないかね?
バレリオ (しばらくフェードラと見つめ合ってから、レイネーロに)
 皇太子殿下、
 フェードラさんが正気なら、
 喜んでそうするのですが。
 私も彼女を愛したいと思っていますから。
フェードラ (いそいで)
 だったら、問題ないわよ。
 私は、あなたのせいでベルトランを失ったけど、
 もともと、彼と結婚するために
 病気になったふりをしていたんだから。
 あなたが私との結婚を望んでくれるなら、
 私もうれしいわ。
ヘラルド (驚く)
 フェードラ、おまえは正気だったのか?
バレリオ それなら、結婚してくれ。
フェードラ いいわ、バレリオ。
ベリーノ こんな結末になるとはな!
バレリオ (フェードラの手を取って)
 ぼくのかわいいおばかさん、
 きみはぼくのものだ。
フェードラ あなただって、恋にいかれた男よ。
 そうでなかったら、あなたのものにはなれないわ。
 あなたがりっぱな騎士でよかった!
バレリオ きみが大好きになりそうだ。
 きみも喜んでくれる?
ライダ (二人の間に割り込んで)
 私のことだけはみんな、いかれてると思ってるのね。
 仲人好きなおじさんたち!
ヘラルド まだ、なにか不満があるのか?
ライダ みなさんに、
 ちょっとうちあけ話をしたいの。
ベリーノ どんなことだ?
ライダ 私、錯乱したふりをしていたの。
 こうすれば、自分が失ってしまった幸福を
 取り戻せるかと思ったのよ。
 おねがい、もとの私に戻らせて!
レオナート (ライダの前に進み出て)
 もし、きみがぼくを愛してくれるなら、
 きみの苦しみも和らぐかもしれないよ。
 ぼくはさっきから、きみにひかれていたんだ。
 ぼくの妻になってくれないか?
ライダ それならあなたは、私の夫になってくれる?
 私もあなたが気に入ったの。
レイネーロ では、私が、
 この三組の結婚式の立会人になろう。
 大団円にふさわしい役目だ。
 フロリアーノ、
 われわれはいっしょに、サラゴサへ帰ろう。
フロリアーノ (うやうやしく)
 殿下を殺した人間がこうして生きのび、
 このような恩恵にあずかるとは、
 世にもまれなる出来事と申せましょう。
レイネーロ 一件落着だな。
フロリアーノ (観客に向かって)
 みなさま、これにて、
 『バレンシアのらんちき騒ぎ』は幕となります*2


 

バレンシアのらんちき騒ぎ(11/12) - Buenaguarda: las comedias de Lope de Vega

 

 

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*1:アマルテイアはユピテル神に乳を与えた山羊の名。ライダは、自分と同様にフェードラが「嫉妬の角」を生やしているという意味で使っているのでしょう

*2:原文では『精神病院(El hospital de los locos)』となっていますが、おそらく題名を後で変更したのでしょう。ここでは混乱を避けるため、原題と同じに修正しました。