Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

バレンシアのらんちき騒ぎ(6/12)

エリフィーラ 後悔してるのよ。
 ここのお嬢さんに、
 私、ひどいことを言ってしまったんだもの。
 理由を言いましょうか。
 ひとつは、私のことを恋人だと、
 あなたに思ってほしかったからよ。
 もうひとつは、あなたたちが
 あんなことをしているのを見たからよ。
フロリアーノ エルビラ、
 ぼくは、すべての聖人に誓う。
 もしぼくが彼女に恋してるなら、
 臓物入りのオムレツを焼いてる最中のフライパンで、
 なぐり殺されてもいい。
 もしぼくが、ドラリーチェ姫のしもべのマンドリカルドでないのなら、
 悔い改めるほどの罪は犯してないけど、
 苦行僧の服を身にまとってもいい。
 フェードラさんはこの病院育ちで、
 子どもみたいな人なんだ。
 だからぼくたちは、
 一緒にお遊戯をしていただけだよ。
 あんなことは、もう二度としない。
 もし、またきみを困らせるようなことをしたら、
 ぼくも、あのふざけたフェードラさんも、
 煮るなり、焼くなり、きみの好きにしてくれてかまわない。
エリフィーラ (元気になって)
 ばかね!まだそんなことを言ってるの?
 煮ようが、焼こうが、
 私があなたを好きなことには変わりないわ。
 そうね、もしそれで美味しくなかったら、
 お酢に漬け込んで、マリネにでもしようかしら。
 私は、この病院にやって来たときから、
 あなたのことが好きなの。
 お遊戯を見たくらいでは、
 びくともしないわよ。
 あなたは、マンドリカルドでいなくちゃだめ。
 ロドモンテ*1と戦うことになるとしてもね。

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(参考)アリオスト『狂えるオルランド』フランス語訳

ギュスターヴ・ドレによる挿画 1879年

ドラリーチェをめぐって争うマンドリカルドとロドモンテ

Roland furieux : poème héroïque / Arioste ; traduit par A.-J. du Pays ; et illustré par Gustave Doré


フロリアーノ (傍白)
 ああ、アモルよ!
 ぼくたちを助けてくれ。
 この人に、知恵を与えてほしい。
 おまえは、賢い者たちを愚かにすることもできるし、
 その逆のこともできるんだから。
エリフィーラ (傍白)
 アモルよ!
 もしおまえが、天国のような楽園を作りたいのなら、
 おまえが壊したところを直してちょうだい!
 もしそれが、自然に逆らうことだとしても、
 この怪物に、知性を与えてあげてちょうだい!
フロリアーノ (傍白)
 アモルよ!
 非凡な美しさをもつこの顔に、
 どうか魂を与えてくれ!
 彼女がぼくの嘆きを聞き、
 ぼくの苦しみをわかってくれるように。
エリフィーラ (傍白)
 アモルよ!頼れるのはおまえだけだわ。
 どうか奇跡を起こして!
 この人が、私の言うことを理解して、
 紳士のように接してくれるように!
フロリアーノ (傍白)
 神よ!この女性を、
 あなたのお力にゆだねます!
エリフィーラ (傍白)
 私のことを信用してもらえないうちは、
 この人に私の気もちをうちあけたくないわ。
フロリアーノ (傍白)
 彼女に信用してもらえないうちは、
 ぼくの気もちをうちあけるのがこわい。
エリフィーラ (傍白)
 でも、頭のいかれた人間なら、
 思っていることをそのまま言っていいのよね?
フロリアーノ (傍白)
 ぼくは、頭のいかれた人間なんだから、
 この苦しみを口に出したっていいわけだ。
 実際は、まともだけど。
エリフィーラ (フロリアーノに)
 ねえ、そこの人!
 もしかしてあなた、
 アモルがどんなものか、知ってる?
フロリアーノ アモルってのは、裏切り者さ。
 ソーセージみたいに、吊るして、煙であぶってやればいいんだよ。
 だれかを見ることによって、愛が生まれる。
 けれど、愛は矛盾をはらんだ感情で、
 決して満たされることはない。
 かつては深く愛した者を、
 最後は忌み嫌うようになる。
エリフィーラ (傍白)
 アモルよ、出だしは好調だわ。
フロリアーノ かんたんに言えば、
 愛とは美しさを求める気もちだ。
 その気持ちは二種類に分かれるけど、
 たいせつなのは、美にも二つの種類があるということだ。
 つまり、肉体的な美と、知的な美。
 神はきみに、残念ながら後者の方は与えてくれなかった。
 それこそ、魂が最も必要とするものなのに。
エリフィーラ うるさいわね。
 あんたこそ、月や風にもまさる、
 落ち着きのない、きまぐれなおばかさんじゃないの。
フロリアーノ きみも、
 月の周期によって症状がかわるタイプなの?
エリフィーラ 体調は少し変わるけど*2
 精神はおかしくなったりしないわ。
フロリアーノ 月は太陽を愛し、
 その光と、生命と、恩恵を受けている。
 もしきみが月のような人なら、
 愛の模範となるだろう。
 だけど、もしきみが生まれたときに水星の影響を受けていたら、
 貞淑でもあるだろうな。
 それこそ、ぼくにとっては最大の苦しみなんだけど。
 アモルについて尋ねるきみは、
 アモルによる苦しみのことは知ってるの?
エリフィーラ アモルは私たちの生みの親だってことは知ってるし、
 そのほかのことも知ってるわ。
 愛を実際に体験したのは、
 あなたに出会ってからよ。
 それまでは、頭で理解しているだけだったわ。
フロリアーノ (おそるおそる尋ねる)
 するときみは、
 ぼくを信用してくれているってこと?
エリフィーラ (傍白)
 もしかして、この人、まともなのかしら?
フロリアーノ (傍白)
 いまの彼女は、正気なのかな?
エリフィーラ ねえ、私の言うことがわかる?
 私、あなたが気に入ったのよ。
 ワインに胡椒が合うみたいにね。
フロリアーノ ぼくもきみが気に入ったんだ。
 聖土曜日のあとに食べる、豚肉みたいにね*3
エリフィーラ (傍白)
 私の言葉を、ちゃんと理解して答えてるんだわ。
 驚いた!この人、病気じゃないのね?
フロリアーノ (傍白)
 この人には、ちゃんと理性がある。
 それどころか、頭がいい。
エリフィーラ (相手の出方を見ながら)
 私、ほんとは、
 高貴な家の生まれなのよ。
フロリアーノ (相手の出方を見ながら)
 ぼくの家も、騎士の家系だ。
 パリに土地を持っていて、千マラベディの収入がある。
 ここで、こんなことをしているのは、
 ぼくの趣味みたいなものさ。
エリフィーラ (意を決して告白する)
 ある男が私を、
 郷士の父の家からさらってきたの。
 猟犬みたいな男だったけど、
 私の心までは奪っていかなかったわ。
 この病院の人たちが私を見つけて、
 大騒ぎをして、
 私をとっつかまえて、尋問したのよ。
フロリアーノ (意を決して告白する)
 ほんとうのことを言うと、
 ぼくはアラゴンの皇太子を殺した犯人と思われて、
 やむを得ず、この病院に入ったんだ。
 気がふれた人間のふりをして、
 死刑を免れようと思ってね。
 しばり首になるよりは、
 病人扱いされるほうがましだから。

 

 (二人は近よる。)

 

エリフィーラ それ、ほんとうの話?
フロリアーノ そうだよ。きみはどうなの?
エリフィーラ ほんとうよ。
フロリアーノ (エリフィーラの前にひざまずき)
 だったら、どうか、
 ぼくをあわれなやつだと思ってくれ。
 ぼくは、きみを愛している。
 きみが、たとえ頭のおかしな人だとしても、
 ぼくの心の秘密を打ち明けるよ。
 きみのせいで、ぼくも頭がおかしくなりつつあるんだ。
エリフィーラ あのね、私の名はエルビラではないの。
 それに、頭もおかしくないわ。
 あなたは、そう思っていたんでしょうけどね。
 私の身分はそう悪くないけど、
 いまはもっと高貴になりたいとさえ思うわ。
 ここの入れられるまでの私の名は、
 エリフィーラといったの。
 他の人にうちあけられない秘密も、
 私にだけは、どうかうちあけて。
 私、あなたが大好きなの。愛してるの。
 死ぬまで、あなたのものでいたいのよ。
フロリアーノ ああ、こんな幸せなことはない!
 神のお恵みだろうか?
 (エリフィーラに腕をさしのべる)
 きみを抱きしめてもいい?
エリフィーラ (ピサーノが来るのを見て)
 それは、まだ無理みたい。

 

 (ピサーノ登場。)

 

ピサーノ (フロリアーノに)
 おい、このろくでなし!
 バラバラにちょん切ってやるぞ!
フロリアーノ (腹を立てて)
 なんだ、おいぼれじいさんめ!
 この、平和そのものの関係が不満なのか?
ピサーノ ああ。戦争だ!
 おまえなんか、塩漬けにしてやる。
 おーい、マルティン!トマス!
フロリアーノ まったく、間が悪いな!

 

 (トマスとマルティンが登場。)

 

トマス なにかあったの?なにか起きたの?
ピサーノ このふたりが、おしゃべりできないようにしろ。
 男には足かせをはめて、
 女には、手かせをはめておけ。
エリフィーラ (フロリアーノをかばって)
 手かせぐらい、かまわないわ。
 でも足かせはやめて。
 この人に、はめたりしないで。
フロリアーノ (エリフィーラをかばって)
 両方とも、ぼくにはめてくれ。
 ぼくが悪いんだから。
ピサーノ そうなのか?
フロリアーノ (わざとなれなれしい声で)
 ぼくにはめてよ、メトセラさん*4
 (傍白)
 病人のふりをしておこう。
 足かせはこわいけど。
マルティン 生意気なやつめ、この病院の規則を知らないのか?
 男と女がいっしょにいるところを見たら…
トマス すぐに引き離すことになってるんだよ。
フロリアーノ (病人のふりをして)
 ぼくをどこにつれていくの?
 晩ごはんにつれていってくれるの?
エリフィーラ だったら、私もつれていってよ。
ピサーノ おあいにくだな。彼女をはやくつれていけ。

 

 (フロリアーノとエリフィーラは
  それぞれ縄をかけられ、別々の方向へつれていかれる。)

 

エリフィーラ いまいましい引き綱ね!
 こんなにごりっぱなのは見たことないわ!

 

 (ピサーノを残して全員退場。)

 

ピサーノ (ため息をつく)
 あのいかれた男が、彼女に夢中になったのも無理はない。
 まともな男でさえ、彼女に夢中になってるんだから。
 彼女に魂をささげたいとさえ、思ってるんだから。
 彼女のせいで、おれの頭は、
 風車みたいに回りっぱなしだ。
 ああ、アモルよ!おまえは無分別な男だったのに、
 どうして神になることができたんだ?
 これまでのおれの楽しみといえば、
 金勘定とクラレット*5だった。
 それなのに、アモルがやってきてからというもの、
 おれは、後ろ髪を結わえたり、
 前髪を気にしたりしている。
 風見鶏は去ってしまった。
 年齢なんてあてにならない。
 アモルってやつは、欲望と人間のとりもち役だ。
 とにかく、おれは相当いかれてる。
 この状況を、嬉しいとさえ感じてるんだから。

 

 (トマス登場。)

 

トマス だんなさまのいとこが来たよ。
 アラゴンの法官の。
ピサーノ リベルトか?
トマス そう。
ピサーノ 大歓迎だ。
 もっとも、彼にとっては無関係な家だがね。
 ここは、健康な人間にはふさわしくない場所だよ。

 

 (リベルト登場。)

 

リベルト なかなかきみに会いに来れなくて、すまなかった。
 やっとバレンシアに来たよ。
ピサーノ よく来てくれた!
 抱擁しよう、何度でも。
リベルト 少なくとも、二回は抱擁するよ。
 一回は親類として、もう一回は友人として。
 だって私は、
 きみの親類より、友人であるほうがいいからね。
ピサーノ リベルト、どうかこの病院でくつろいでくれ。
 こう言われると、嫌味に感じてしまうかな?
 だが、たとえ精神病院であっても、
 われわれはここでせいいっぱい、きみをもてなすつもりだ。
 バレンシアへは、どんな用事で来たんだい?
リベルト レイネーロ皇太子の不幸な事件は聞いているだろう?
 あの、アルノルフォ伯の嫡男の*6
ピサーノ ここでも、そのことが話題になっているよ。
 ただの噂だと言っている者もいるがね。
リベルト ピサーノ、神に誓って、ほんとうの話なんだ。
 それだけじゃない。
 皇太子は、いかがわしいごろつきに殺されたんだよ。
 われわれはそいつを懸命に探しているんだ。
ピサーノ きっと、きみは全力で任務に励んでいるんだろうな。
 きっときみは、そいつを見つけ出すよ。
 そして、それをきっかけに出世できるさ。
リベルト われわれはみな、犯人の人相書きを持っている。
 サラゴサで大量に印刷してきたんだ。
 やつをとり逃がさないように。
ピサーノ ぜひ、それを見せてくれ。
リベルト いいとも。
(人相書きを見せる。)
 これが犯人だ。
ピサーノ いい男だな!ここには、なんて書いてあるんだ?
リベルト 「フロリアーノ。年齢は29歳から30歳。」
ピサーノ どうも、どこかで見たような気がするなあ…
リベルト ほんとうか?
 この殺人狂に、うっかり気づかれていなければいいが。
 この任務は極秘なんだ。私に責任がかかっている。
ピサーノ なあに、
 そいつはいまごろ、ぼんやり星でも眺めているだろう。
 恐れることはない。
 こっちへ来てくれ。
 夕食の前に、きみに贈り物を渡したいから。
リベルト きみに会えただけでじゅうぶんだよ。
 (傍白)

 この男に見つからないように、気をつけないとな。

 

 (ピサーノとリベルトは退場。)

 

トマス (独白)
 秘密にできるような秘密なんてものは、この世にありゃしない。
 大地が、秘密を永遠に守ると天に誓っても、
 壁に耳あり、障子に目ありだ。
 この秘密がぼくに関係あるとしたら、
 それは、ぼくの兄弟みたいな友人を、
 死から救ってやれるからだ。

 

 (足かせをはめられたフロリアーノが登場。)

 

フロリアーノ みじめな境遇にいる者にとって、
 幸せなのは、友人を持つってことだな。
 だけど、悲しいことに、
 ぼくの友人は、ぼくに最大の不幸をもたらしているんだ。
 しまった、うっかりまともなことを言ってしまったぞ。
 だれかに聞かれていないかな?
 (トマスを見つけて)
 なにかあったのか、トマス?

 

バレンシアのらんちき騒ぎ(7/12) - Buenaguarda: las comedias de Lope de Vega

バレンシアのらんちき騒ぎ(5/12) - Buenaguarda: las comedias de Lope de Vega

*1:『狂えるオルランド』の登場人物。ドラリーチェをめぐってマンドリカルドと戦います。

*2:月経のこと

*3:聖土曜日は復活祭の前日で、カトリックでは復活祭前の準備期間(四旬節)に肉食を断つ慣習がありました。

*4:メトセラは長寿で知られるユダヤの族長。

*5:ボルドー産ワイン

*6:このコメディアでは、架空のアルノルフォ伯という君主がアラゴン王国を統治しているという設定になっています。カスティーリャバレンシアとは君主が異なるのでしょう。