Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

死なないロミオとジュリエット

≪カステルビン家とモンテス家≫

2004年の上演

http://www.resad.es/estruch/castelvines.htm

 

『カステルビン家とモンテス家』は、ロペのコメディアの中では知名度の低い作品です。スペインでも上演されることはほとんどありません。おそらくその理由は、同じ物語を扱ったシェイクスピアの戯曲の方が、あまりにも有名になってしまったからでしょう。そう、『ロミオとジュリエット』です。

 

 原作は、イタリアに伝えられた伝説をもとにバンデッロが書いた『ひとりは毒、もうひとりは悲嘆によって不幸な死を遂げた恋人たちと、それにまつわる様々な出来事』という小説です。シェイクスピアは、これが英語に翻案されたものに基づいて『ロミオとジュリエット』を書き、ロペはスペイン語の翻案に基づいて『カステルビン家とモンテス家』を書いています。

 

 シェイクスピアはおおむねバンデッロの小説や、その英語による翻案に忠実に従ってストーリーを作っているのですが、ロペはかなり独自の変更を行っています。最も大きな違いは、最後に主人公たち(ロセロとフリアという名前になっています)が死ぬのではなく、結婚するということです。

 

ロセロ もし、両家が結婚によって結ばれることになれば、

 どちらも相手に復讐するのはやめるだろうし、

 ヴェローナの人間は、イタリア中から羨ましがられることになるだろう。

                   (『カステルビン家とモンテス家』)

 

 ロセロは、フリアと知り合う前から、カステルビン家とモンテス家の反目を婚姻によって解決する方法を考えています。つまり彼は、ただフリアが恋しいという思いだけで行動しているのではなく、彼女との結婚がおそらく両家の和解にも役立つだろうと考えているのです。

 

 フリアは、舞踏会でロセロと出会い、たちまち恋に落ちます。彼女はシェイクスピアが創造したジュリエットよりも成熟した女性で、自分を口説いてくる従兄のオタービオをうまくあしらいながら、ロセロに自分の思いを告げ、積極的に近づこうとします。ロセロももちろん、美しいフリアに恋をします。そして二人は、互いの家族に知られないように、たびたび逢瀬を重ねます。

 ロセロは両家の対立をできるだけ避けようと努力しますが、オタービオにひどい侮辱を受け、がまんならずに彼を殺してしまいます。そしてロセロは追放処分を受けます。

 

 フリアは、父から強制された結婚から逃れ、ロセロと結ばれるために薬を飲んで仮死状態になりますが、ロセロは友人アンセルモのおかげでその事実を知ることができます。そして彼は従者マリーンを従えて地下墓所に行き、フリアを救い出します。

 

フリア 私は生きているわ。

 死んでいるように見えたのは、強い毒薬のせいだったの。

 ロセロが私をここへつれてきてくれたのよ。

 だから、彼を私の夫と呼んでくれるわよね?

ロセロ ぼくは、彼女を墓場から救い出しました。

 だから、彼女はふたたびぼくの妻になったわけです。

パリス ぼくからも言いますが、彼が彼女と結婚できるだけの

 じゅうぶんな理由は、ほかにもたくさんありますよ。

アントニオ〔*フリアの父〕 (フリアに)それでは、彼と結婚しなさい。

 そして私と抱擁しておくれ。

フリア 待って、お父さま。

 まず、私の従姉〔*ドロテーア〕が、

 彼女にふさわしい相手と結婚するべきだわ。

テオバルド〔*フリアの叔父〕 それは誰だ?

フリア アンセルモよ。

アンセルモ ぼくに、事情を説明させてください。

アントニオ あとでいいさ。彼女と結婚したまえ。

マリーン で、私には

 誰も慰めを与えてくれないんですね?

フリア あなたは、セリア〔*フリアの侍女〕と結婚しなさい。

 1000ドゥカードを贈るわ。

ロセロ(観客に向かって)この続きは、もうおわかりですよね?

 これで、『カステルビン家とモンテス家』は終わります。

                   (『カステルビン家とモンテス家』)

 

 ロセロとフリアは、若さゆえの傲慢さももっていて、恋においては邪魔者を出し抜いたり、恋人を疑って嫉妬したりもします。シェイクスピアの主人公たちほどピュアではありません。しかし、強い精神で父親たちを説得し、最後はハッピーエンドを勝ち取っています。ロペの恋愛喜劇のお約束どおり、脇役のカップルも成立して、めでたしめでたしとなります。

 ロペとしては、(宗教的な理由もあるでしょうが)自殺という手段は主人公たちに取らせたくなかったのでしょうし、身分の違いに比べれば、家と家との仲違いなど(たぶん)たいした障害ではないのだから、若い恋人たちが結ばれる明るい結末のほうが観客も喜ぶと思ったのかもしれません。ゆえに、フリアが埋葬された地下墓所にロセロとマリーンが向かう場面でも、不気味な描写はほとんどなく、肝だめしのようなコミカルな台詞と演技が見られます。

 

 スペインでも『ヘロとレアンドロ』(ミラ・デ・アメスクア作)、『クレオパトラの毒蛇』(ロハス・ソリーリャ作)『ピラモとティスベ』(ペドロ・ロセーテ作)など、主人公が自殺するという悲劇は書かれています。しかし、ロペはたとえ主人公がキリスト教徒でなかったとしても、自殺はあまり好まなかったようです。

 

『カステルビン家とモンテス家』は、英訳されています。こちらではシェイクスピアの作品にならって『キャピュレット家とモンタギュー家』になっています。

 

『カステルビン家とモンテス家』のあらすじは、「あらすじデータベース(A~C)」のカテゴリーにあります。

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