Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

バレンシアはお好き?

 現在、『バレンシアのらんちき騒ぎ』の翻訳中です(Hiikichiさんのリクエストで)。しかしなかなか進みません…とりあえず、スペインで上演された舞台の動画をご紹介しておきます。セリフや舞台装置は現代風にアレンジされていて、ミュージカル風に出演者が歌ったりします。もともと軽快なドタバタ喜劇なので、いま上演してもじゅうぶん楽しめそうです。


Los locos de Valencia, del Centre Teatral de la ...

 

 ロペのコメディアの題名でバレンシアという地名が入っているものは、これのほかに『バレンシア寡婦』(未邦訳)があります。『バレンシアのらんちき騒ぎ』も、『バレンシア寡婦』も、大らかで楽しいハッピーエンドの恋愛喜劇です。ロペにとってバレンシアとはそのような喜劇が似合う場所だったのでしょうか。彼はアルマダの海戦から帰還した後、妻イサベルとバレンシアで新婚生活を送っています。『守護天使』(翻訳済)の中で、登場人物のカリーソが「バレンシアは地上の楽園」だと言っているのは、イサベルと過ごしたバレンシアでの楽しい生活を反映した台詞であるのかもしれません。

 

 15-16世紀のバレンシアは豊かな文化をもつ街でした。『バレンシアのらんちき騒ぎ』の舞台となるのは精神病院です。これは医療を目的として精神疾患の患者を収容する施設としては、ヨーロッパで最も早い時期に建てられたものだそうです。この時代の精神疾患についての医学的な対処はイスラム文化圏のほうが進んでおり、その知識がスペインにもたらされたと考えられています。

 

 スペインの精神病院というと、思い浮かぶのはゴヤが描いた絵です。しかしこれはロマン派の時代に特有の異常なものに対する強い関心、あるいは当時の迷信深い人々への風刺を示しているものでもあります。

ゴヤ≪精神病院≫1812-1814年

王立サン・フェルナンド美術アカデミー

 

 ロペの時代のスペインでは、たとえばセルバンテスが書いた小説『ドン・キホーテ』や『ガラスの学士』が人気を博したように、狂気というものに対するある種の共感や寛大さ、あるいは知的な関心が見られます。『バレンシアのらんちき騒ぎ』においても、暗さはみじんも感じられません。終始コミカルな笑いと、ちょっと切ない恋愛劇が繰り広げられます。ロペはどちらかといえば、弱さをもった人間全般に共感を示し、人生を楽観的にとらえようとしていたように思えます。