Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

相違の中にも慰めあり

El remedio en la desdicha | Biblioteca Virtual Miguel de Cervantes

ロペ・デ・ベガ戯曲集第13巻』1620年

『不運の中にも慰めあり』冒頭ページ

 

  スペインの劇作家たちは、通俗的なコメディアのほか、宗教的な祝祭において上演される神秘劇なども数多く手がけました。彼らはこの時代において、カトリック教会の力を大衆に宣伝する役割を果たしています。また、アッシジの聖フランチェスコ、聖アウグスティヌス、アビラの聖テレサマドリードの聖人イシドロなど、多くの聖人たちの物語が戯曲化されて上演されました。

 こうした宗教劇の中には、他の宗教に対する偏見が露骨に表れているものもあります。ロペもまた、その種の指摘をまぬがれないであろう内容の劇を書いています。たとえば『ラ・グアルディアの無垢なる子ども』という劇は、ユダヤ教徒たちによってキリスト教徒の幼い子どもが殺されるという内容ですし、『ロザリオの信心』という劇には、コーランムハンマドに対する批判が見られます。そして、歴史劇『クリストバル・コロン(コロンブス)による新世界発見』では、(キリスト教徒から見れば)偶像崇拝を行っているネイティヴ・アメリカンキリスト教という「正しい神」が伝えられる過程が描かれます。異端審問所の審問官でもあったロペにしてみれば、こうした劇の需要に応えざるをえない事情もあったでしょう。

 

 個々の劇を見ると、異教徒という設定のキャラクターもまた普通の感情をもったロペの劇らしい登場人物に描かれていることが多く、宗教の違いを越えてキリスト教徒に恋をしたり、嫉妬に苦しんだりしています(逆もしかり)。

 

 スペインには、キリスト教徒とイスラム教徒の平和な共存を理想的に描いたモーロ小説とよばれるジャンルも存在しています。ロペが書いたコメディア『不運の中にも慰めあり』は、作者不詳のモーロ小説『アベンセラーヘと美しいハリファ姫』(邦訳は『渋沢龍彦文学館2 バロックの箱』筑摩書房1991年に収録、会田由訳)にもとづいており、イスラム教徒であるアビンダラエスとハリーファという若いカップルの恋愛が可憐に描かれています。

澁澤龍彦文学館 (2)

澁澤龍彦文学館 (2)

 

  このほか、『パレルモ市の聖なる黒人ロサンブーコ』そして『日本の殉教者たち』など、ロペはアフリカやアジアの人物を主人公にした劇も手掛けています。もちろん、教会や信徒たちからそのような要請があったということもあるのでしょうが、ロペ自身もできるかぎり人間同士の垣根を低くしたいという思いがあったのかもしれません。