Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

キリストもまた嫉妬する

The Good Shepherd, lunette from above the entrance (mosaic)

≪善き羊飼い≫ モザイク

5世紀 ガッラ・プラチディア廟堂、ラヴェンナ(イタリア)

 

 第二幕と第三幕で、ひとりの羊飼いがクララの前に現れる場面は魅力的です。この羊飼いはあきらかにキリストであり、『狂えるオルランド』の話をしていたばかりの幸せなカップルの間に、まさに嫉妬するオルランドのごとく割って入り、ふたりを引き裂いてしまう最強のガラーン(美男)です。

 

 こう書いてしまうとキリストが悪役のようですが、実際、善男善女ばかりがでてくるこの劇の中で、私にはキリストだけがとても意地悪に見えます。

 

 ロペはフェリックスを決して悪い男には描いていません。むしろ純粋すぎて気の毒なほどです。ロペはフェリックスの言葉を通して、恋をするという人間の自然な感情を信心で抑え込むことがはたして可能なのかという、普遍的な問題を投げかけています。同じように、どうしても修道院の厳しい生活になじむことができず、偽善的にしかふるまえないカリーソは、フェリックスとクララの逃避行に付き添う決意をして、いそいそとスータンを脱ぎ「私は人間らしくなったんだ」と言い放ちます。

 

 しかし、人間らしさを求める彼らの行動に対して、キリストと天使は「ノー」をつきつけます。クララがキリストの妻となる(つまり修道女になる)終生誓願を立てたのだから、というのが唯一の理由のようです。

 

 ロペの宗教劇は、中世以来ヨーロッパに受け継がれてきた民衆の素朴な信仰を基盤にして書かれていると言えます。腑に落ちないところがあるとしても、教会の決まりに背くべきではないという点では一貫しています。

 

 ティルソ・デ・モリーナの代表作『不信心ゆえ地獄堕ち』にも、羊飼いがキリストのメタファーとして登場しますが、この作品では、普段の品行の悪さよりも、傲慢さからくる絶望こそが人間を地獄へと導くのだという思想がテーマになっており、羊飼いはそれを主人公に伝える役割を果たします。ロペよりも明確で力強いメッセージをもっている点が、彼の宗教劇の長所です。

 

 宗教劇としては、ティルソの作品のほうがロペの作品よりも高い評価を得ていると言えます。しかし、舞台でキリスト教の教義を語ること自体がかなりむずかしくなってしまった現代では、むしろロペの宗教劇のほうが斬新で面白く感じられるかもしれません。

 

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