読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ある修道女の物語

La encomienda bien guardada: comedia. Inc.: Tarde pienso que venimos... Exp.: la encomienda bien guardada | Biblioteca Virtual Miguel de Cervantes

守護天使』ロペの自筆原稿(1610年)

http://www.cervantesvirtual.com/obra/la-encomienda-bien-guardada-manuscrito-comedia-inc-tarde-pienso-que-venimos-exp-la-encomienda-bien-guardada--0/

 

守護天使』を含むロペの戯曲集は1621年に出版されました。その際にロペは、ある女性に「自分が読んだ物語を三幕のコメディアにしてほしい」と頼まれてこの戯曲を書いたと記しています。

 

 この女性が読んだ本というのがなんなのか、はっきりとは判明していないようですが、この戯曲と似た内容をもつ物語は中世の文学の中にいくつか見つかっています。たとえば13世紀、アルフォンソ10世(賢王)の治世に作られた『聖母マリアのカンティーガ集』の55番の歌は、次のような内容です。

 

・聖母を深く信仰していたある修道女が、修道士と恋に落ちて修道院を脱け出す。

・修道女が妊娠すると、修道士は逃げ出す。

・修道女は修道院に戻ってくるが、彼女が脱け出したことはだれにも気づかれていなかった。

・彼女が子どもを産むと、天使がひそかにその子をとりあげ、修道院から離れた場所で育てた。

・修道女が年老いてから、りっぱに成長した息子と会うことができた。

 

 『聖母マリアのカンティーガ集』にはこのほかにも、恋をして修道院を脱け出す(または脱け出そうとする)修道女が出てくる内容のものがあり、聖母が彼女の身代わりになったり、キリスト像が修道女を叩いて罰したり、修道女が何人もの子どもを産んでから修道院に戻ったり、といろいろなヴァージョンがあります。

参考:オクスフォード大学による歌詞の英訳

http://csm.mml.ox.ac.uk/index.php?p=poem_list

 

 ロペはこの物語を17世紀という時代にふさわしい筋書きに修正しました。修道女は妊娠することはなく、悔悛を経て修道院に戻ります。ロペがとくにこだわったのは、ヒロインと駆け落ちをする男もまた最終的に神から赦されるという点だったのではないかと思います。