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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(12/12)(終)

 (ドン・カルロスとヒネスは守衛室に入る。
  農家の娘の服を着たドニャ・クララが登場。)

 

ドニャ・クララ (修道院の扉を見ながら)
 神のお導きに従うのは、
 むこうみずな行為だったかもしれないけど、
 神はこうして私の犯した罪に
 罰をお与えになったのよ。
 私はこの身なりで、歩いて、たったひとりで、
 シウダー・ロドリゴの街まで来たわ。
 そして、私が見捨ててしまった家の
 入口までやってきたわ。
 ここを去ったとき、
 私は天上へと開かれていたあの扉を
 自分の前で閉ざしてしまったのね。 
 (守衛室の様子をうかがい)守衛室にだれかいるみたい。
 ああ、なつかしい私の家!
 私の夫がお生まれになった、聖なる宿屋!
 ああ、尊い聖母マリア
 私はあなたに、自分が見捨てた羊たちの
 ご加護をお願いしました。
 彼女たちをお守りくださいましたか?
 ええ、もちろんそうでしょう!
 あなたは神のお力のおかげで、
 お望みのことはなんでもおできになるのですから。
ヒネス (カルロスとともに守衛室から出てきて、クララに)
 だれかを探しているのか?
ドニャ・クララ ええ。
 でも、あなたを探しているわけじゃありません。
ヒネス きれいな娘だなあ!
ドン・カルロス なんて美人なんだ!
ドニャ・クララ いま、この修道院の院長をつとめておられるのは、
 どなたでしょうか?
 私は、そのかたとお話がしたいのです。
 (傍白)ああ、神よ!
 私はあの恥ずべき行為について
 話さなくてはなりません!
ドン・カルロス 院長の名は、
 ドニャ・クララ・デ・ラーラだよ。
ドニャ・クララ (驚いて)ドニャ・クララ!
ドン・カルロス 太陽のように明るい女性だ。
ドニャ・クララ 私をからかっていらっしゃるんですか?
 その人は、三年前に亡くなったのでしょう?
ドン・カルロス 亡くなったって?ばかなことを言うんじゃない!
ドニャ・クララ (傍白)この人は私のことを知っているのかしら?
 私のことで、なにか噂でも立っているの?
ドン・カルロス クララ様は聖女のような人だ。
 この修道院に住み、
 すべての人間に模範を示している。
 みな、彼女のことを賞賛しているよ。
 たった今も、彼女は奇跡を起こしたんだ。
ドニャ・クララ どんな奇跡を?
ヒネス 我々は、これからそれを話しに行くところさ。

 

 (ドン・カルロスとヒネスは退場。)

 

ドニャ・クララ だれのことを言っていたの?
 クララは私なのに!どういうこと?
 クララがここに住んでいる?
 しかも、デ・ラーラと言っていたわ。
 私の姓と同じよ。
 怖いわ。何が起きているの?

 

 (天使が登場。)

 

天使 クララ、恐れなくてもいいのですよ。
 あなたの天の夫は、もう怒りをしずめられたのですから。
ドニャ・クララ あなたが院長様ですか?
 私は、たくさんお話ししたいことがあるのです。
 あなたを見ただけで、私の恐れは消えてしまいました。
 クララというお名前だそうですね。
 あなたはとても清らかな光に満ちた明るい(clara)クララですが、
 ひとりの暗いクララが、あなたの光の前でお話することをお聞きください。
 (うつむいて)私は…
天使 それ以上は言わないで。
 私には、あなたがだれなのかがわかっています。
ドニャ・クララ あなたは、聖女のようなかたなんでしょう?
 どうか私の話を聞いてください。
天使 (やさしく)クララ、ここはあなたの修道院なのですよ。
 お入りなさい。
 そして、あなたの誓いにふさわしくなかったけれども、
 あなたが天の夫を捨てたときに置いていった服は、
 当時のまま、あなたの独房にありますから、
 それを着なさい。
 フェリックスがあなたを惑わしたときに、
 私はあなたの仕事を引き受けたのです。
ドニャ・クララ (天使の足元にひざまずき)
 感謝の言葉もございません。
 あなたはどなたですか?
天使 クララ、これまでのことは、
 告解のとき以外、だれにも話してはいけません。
 三年もの間、ここの管理をしていたので、
 私はすっかりくたびれました。
 あなたが犯したあやまちについては、
 それなりの悔悛をして償いなさい。
 そうすれば、あなたが長い間いなかったにせよ、
 天の夫は、寛大なお心をもって
 あなたを胸に抱いてくださるでしょうから。
ドニャ・クララ どうか教えてください。
 あなたはだれなのですか?
 お願い、行かないで!
天使 私は、あるご婦人にお仕えしている者です。
ドニャ・クララ お名前は?
天使 「ブエナ・グアルダ(善きご加護)」ですよ。
ドニャ・クララ あなたと一緒なら、
 私は元気にここへ入っていけそうです。
天使 (クララを修道院の中へと導き)では、ついていらっしゃい。
ドニャ・クララ 私の夫よ、あなたはなんと慈悲深いおかたでしょうか!
天使 そのおかたを夫と呼んでかまいませんよ、今ならね。

 

 (天使とドニャ・クララは修道院の中へ入る。
  貧しい身なりのフェリックスとカリーソが登場。)

 

カリーソ だれも私たちを覚えていないみたいですよ。
 どうなってるんでしょう?
フェリックス 万事休すだな。
カリーソ 神から与えられた恩恵を仇で返した者には、
 ろくなことが起こらないんですね。
フェリックス (沈痛な表情で)この修道院で、
 私は執事として、許されぬことをしてしまった。
カリーソ フェリックス様、
 私は、クララ様に会うのが怖くてたまりませんよ。
フェリックス 神は、私に罪を償わせるために、
 ここへ私をつれてきてくださったのだと思う。
カリーソ (びくびくしながら)それじゃあ私はその間、
 カリンの皮でもむいていましょうか?
 でも、名乗り出ることもできないのに、
 どうやって罪を償うっていうんです?
 たぶん、あなたとクララ様が同じ日に行方をくらましたから、
 みんなは、あなたがパリスになり、クララ様がヘレネになって、
 今ごろ二人でトロイアにいると思ってるんですよ。
 〔*トロイアの王子パリスがギリシャの美女ヘレネを誘拐したことをさす。〕
 いつか、ギリシャ語のできる判事が現れたときに、
 私たちを火あぶりにするっていう魂胆でしょう。

 

 (偽のカリーソが入ってくる。)

 

フェリックス (小声でカリーソに)この人はきっと、
 ここの修道女たちがいま雇っているサクリスタンだろう。
 行って、話をしてみてくれ。
カリーソ (偽のカリーソに)デオ・グラシアス。
 (傍白)なんておそろしい言葉だ!
偽のカリーソ ポル・シエンプレ。
 なぜこの扉から入るんですか?
 聖堂のほうへまわってくださいよ。
カリーソ ちょっとお伺いしますが、
 いま、この修道院にいるサクリスタンはどなたですか?
偽のカリーソ 私ですよ。私をご存じないところをみると、
 あなたは、よそから来られたかたのようですね。
カリーソ (十字を切って)私は、あらゆる善にとってのよそ者です。
 そして、災いの主人です。
偽のカリーソ 私は、もう6年間、この修道院に住んでいます。
カリーソ 6年?そんなはずはありません。
 だって、三年前は、ここにカリーソがいたんですから。
偽のカリーソ 私がカリーソですよ。
カリーソ カリーソ
偽のカリーソ ええ。
カリーソ あなたの名は、カリーソというんですか?
偽のカリーソ そうです。
カリーソ (フェリックスにむかって)お聞きになりましたか?
フェリックス ああ。
カリーソ (動転して)あなたは、どのカリーソなんですか?
 どんなカリーソなんです?
偽のカリーソ 私の父はフアン・デ・カリーソ
 母はルイサ・デ・モンタルボです。
 二人とも、古くからのキリスト教徒の家系です。
カリーソ それは、私の両親のことだ。
偽のカリーソ 幼いころに亡くなった姉が一人います。
 もう一人の姉は結婚して、サラマンカにいます。
カリーソ どうなってるんだ?わけがわからない!
フェリックス (偽のカリーソにむかって)待ってください。
 私の頭がおかしくなっているのでなければ、
 このことには、なにか深い事情があるはずです。
 ところで、ここの修道院の執事はどなたですか?
偽のカリーソ エステバン・フェリックスです。
フェリックス (驚いて)エステバン・フェリックス!
偽のカリーソ ええ、悪くない身分の人で、
 領地もたくさん持っていますよ。
フェリックス まさか!
 その人は、三年前に死んだのでは?
偽のカリーソ 死んだ?彼はさっき、院長様と一緒にいましたけど。
フェリックス 院長はどなたですか?
偽のカリーソ ドニャ・クララです。
フェリックス ドニャ・クララ・デ・ラーラ?
偽のカリーソ ええ。
フェリックス (小声でカリーソに)カリーソ
 この人は悪魔か天使か、どちらかはわからないが、
 生身の人間でないことはたしかだ。
偽のカリーソ ほかに、お聞きになりたいことはありますか?
フェリックス いいえ。これでおしまいです。
 ありがとうございました。 

 

 (偽のカリーソは退場。)

 

カリーソ 私たちは、
 ここから出ていったときと同じ人間なんでしょうか?
フェリックス 私が別人になったっていうのか?
カリーソ さっぱりわかりません。
フェリックス 院長と話をしてみよう。
 きっと、この謎がわかるだろう。
カリーソ 私の存在が別のものになったら、
 私の罪はどうなるんでしょうね?

 

 (フェリックスとカリーソは修道院の中へ入る。
  再び修道服を着たドニャ・クララとドン・ペドロが登場。)

 

ドン・ペドロ おまえに感謝しなければならないよ、クララ。
 老いた私にとって、今日は幸福な日だ。
 このような安全と平和を築くことができたのだから。
 カルロスは私に謝罪してくれた。
ドニャ・クララ (困惑して)
 ええと、お父様、カルロスってだれのこと?
 お父様と話をするのが怖いわ。
 事情がよくわからないから。
ドン・ペドロ おまえは、よっぽど神への奉仕に没頭しているんだな。
 妹と関係を修復した義兄のことさえも、
 すぐに忘れてしまうなんて。
ドニャ・クララ ああ、そうね!カルロスの奥さんっていうのは…
ドン・ペドロ エレナだよ。
ドニャ・クララ そうよね。
ドン・ペドロ (あきれて)おまえが私を説得して、
 エレナを結婚させたんじゃないか。
 三年前のことだぞ。
 だれの話をしていると思ったんだ?
 とにかく、彼は私の足元にひれ伏して、
 自分のあやまちを告白したよ。
ドニャ・クララ 彼っていうのはエレナの夫のことね?
 何か揉め事があったみたいだけど、
 二人はもう仲直りをして、
 不愉快なことは忘れようとしているんでしょう?
ドン・ペドロ ドン・カルロスはそう言っていた。
 そしてクララ、もちろんのことだが、
 私はおまえのおかげで彼が改心したのだと思っている。
ドニャ・クララ (調子を合わせて)
 お父様、私は自分にできることをしたまでよ。
 彼は少し、やんちゃをしていただけなんだと思うわ。

 

 (守衛所の女性と、銀細工師が登場。)

 

銀細工師 (守衛所の女性に)
 あのかたは、すぐにサインをするとおっしゃったんですよ。
 ですからいま、それをしていただきたいんです。
守衛所の女性 (クララに)ランベルト宛のこの証書にサインをしてください。
ドニャ・クララ どうして?
守衛所の女性 あなたがそうおっしゃったんでしょう?
 彼をご存じないんですか?
ドニャ・クララ 彼って?
守衛所の女性 銀細工師ですよ。
ドニャ・クララ ああ、そう。
 それで、彼は私になにをしてほしいの?
守衛所の女性 サインです。至急だそうですよ。
ドニャ・クララ (ためらって)サイン?
 あとでもう一度来てもらって。
銀細工師 (怒って)私はクストディアを持ってきて、
 あなたは今日じゅうに支払うと約束したじゃありませんか!
 また出直して来いって言うんですか?
ドニャ・クララ (傍白)この銀細工師が
 クストディアを作ってくれたから、
 代金を払わなくてはいけないのね。
 (銀細工師に)証書を見せてください。サインします。
ドン・ペドロ (場の空気を和ませようと)みなさん、
 もっと、人生における有益な事柄について考えましょうよ。
守衛所の女性 (無視して、クララに)
 ドニャ・イネスから頼まれている、
 提督宛てのお手紙を書いてください。
ドニャ・クララ どんな手紙?
守衛所の女性 (あきれて)こんな大事なことなのに、
 のんきにしてらっしゃいますね!
 あなたのいとこが、投獄されているんですよ。
ドニャ・クララ どこに?
守衛所の女性 マドリードです。
ドニャ・クララ (思い出したふりをして)
 ああ、そうだったわね!いま、ちゃんと思い出したわ。
 それで、なにを手紙に書くんだったかしら?
守衛所の女性 ドン・ルイスが亡くなったことです。
ドニャ・クララ そう、そう。
ドン・ペドロ ご愁傷様です。
守衛所の女性 それでは、これで失礼します。
 院長様、大丈夫ですか?
 あなたが、かなり心配になってきましたよ。

 

 (ドニャ・クララを残して全員退場。)

 

ドニャ・クララ 目がまわりそう!
 私の心は、とんでもなく混乱しているわ。
 三年間も留守にしていたから、
 みんなの言うことがよくわからない。
 (天を仰ぎ)ああ、神よ!でもそれは、
 この家が善きご加護を得ていたことにほかなりません。
 私を混乱させているとはいえ、
 彼らが話していることはどれもみな、
 善きことであり、神の御心にかなうことなのですから。
 この修道院は、
 なんとすばらしい状態にあることでしょう!
 私が目にするもの、話をするもののすべてが、
 天上の香りに満ちています!
 修道女たちの話にうまく答えられなくても、
 彼女たちは私を許してくれます。
 みな、私が高められていると言っています。
 私の愛する天の夫よ、
 私の魂は、愛に満ちた甘美な苦悩とともに、
 あなたの中にとどまることでしょう。

 

 (フェリックスとカリーソが登場。)

 

フェリックス (傍白)私は、ここに来るのが恐ろしかった。
 当然のことだが。
カリーソ あれは、クララ様のようですよ。
フェリックス (クララを見て呆然とする)
 彼女はまるで、天上に立っているようだ。
カリーソ (怯えて)魂が宿っていないんじゃないでしょうか?
フェリックス 彼女をよく見てみろ。
カリーソ たしかにクララ様です。
 私たちがここから脱け出したあとも、
 ここにおられたんですね。
 しかしそれでは、私たちがトレドへ連れていったクララ様は
 幻だったんでしょうか?
フェリックス そうだ。この街の人々は、
 彼女が奇跡を起こす聖女だと言っていた。
 私たちが彼女を連れだしたのなら、
 彼女が修道院へ戻れたはずはない。
カリーソ でも、戻っていますよ。
フェリックス 不思議だ!
ドニャ・クララ (二人に気づいて)だれ?そこにいるのは。
フェリックス フェリックスです。
 おわかりになりますか?

 

 (ドニャ・クララはフェリックスを見て怯え、身を引く。)

 

 (悲しそうに)なぜ、怯えていらっしゃるんですか?
ドニャ・クララ (動揺を抑えて)しかたがないでしょう?
 あなたは私に災いをもたらした人なんだから。
カリーソ (ドニャ・クララに駆けよって)
 私のことはわかりますか?
 カリーソですよ!

 

 (ドニャ・クララは、少し表情を和らげる。)

 

フェリックス 院長様、あなたはどのようにして、
 あなたの修道服と、あなたの名誉と、
 あなたの美徳と、あなたの家を
 取り戻されたのですか?
ドニャ・クララ この修道院を脱け出すとき、
 あなたは、私が泣いている姿を見たでしょう?
 私はあのとき、
 この修道院の門の上に置かれていた聖母像に祈っていたの。
 「私は自分を見失ってしまったので、
  ここに残して行く修道女たちに
  善きご加護を与えてください」と。
 そして天の女王である聖母マリアは、
 私の代わりに、そしてあなたたちの代わりに、
 千の世界をも統治できる能力をもって、
 彼女たちを守ってくださったのよ。
 あの天使たちが、私たち三人ぶんの仕事を代行し、
 私たちの評判を守ってくれたの。
 あなたに捨てられた私は、途方に暮れて、
 神のためとはいえ、つらい痛悔の苦行をしたわ。
 私の犯した罪の大きさを思えば、たいしたものではなかったけれど。
 私はここへ戻ってきて、天使と話をしたの。
 天使は、告解のとき以外に
 このことを話してはならないと私に命じられたわ。
 あなたたち二人にお願いがあるの。
 どうか、神の慈悲深い御心にすがって、
 あなたたちも悔い改めをして。
フェリックス (クララの足元にひざまずいて)
 その、気高い御手に接吻させてください。
 あなたに祝福がありますように。
 私は、この修道院には戻らず、
 私の罪を償いに行きます。
 そして、この哀れな肉体に
 褐色の粗布〔*隠修士などが着る衣〕をまとうことにいたします。

 

 (フェリックスはクララの元を去る。
  カリーソがフェリックスの後を追う。)

 

カリーソ 私は、あなたとともにあやまちを犯しましたが、
 これからは、あなたの善き行いにお付き合いしますよ。

 (二人は修道院から出ていく。)

 

幕 
 

 

守護天使(11) - buenaguarda

 

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