Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(11/12)

ドニャ・クララ 恐ろしい悪魔、
 私を二度と、あんな世界につれていこうと思わないで。
 おまえが私に見せるものは、
 罰としておまえにあげるわ。
 魂は、罪でいっぱいになってしまえば、
 こんなふうにそれを吐き出すんだから。

 

 (人が泳いでいる水音が聞こえてくる。)

 

(男性1の声) これはいい!
 この水はお湯みたいに温かいぞ!
ドニャ・クララ (空を見上げて)私の目よ、
 もう見るべきものはないわ。
 ただ、天を仰ぎなさい。
 あの美しい天上のヴェールの中に、
 観想すべきことがたくさんあるでしょう。
 私の目よ、この世のものを軽蔑しなさい。
 私はそれによって堕落したのだから。
 私の怒りは、それに向けられているのだから。
 天の夫が私を見捨てられたとき、
 私が失ったもののことを考えなさい。

 

 ああ、主よ!私の目はいつ、
 あなたを再び見る勇気を持てるのでしょうか?
 愛する主よ、
 私は、あなたからの贈り物を捨ててしまったのです!
 あなたに寄りそうことを忘れ、悪い人々と交わったのです!
 あなたの信頼を裏切ったのです!
 誓願のときにあなたから受け取った指輪を、
 壊してしまったのです!

 

 私の目よ、泣きなさい、好きなだけ!
 二つでは足りない、
 千の目が流す涙を主のお目にかけたい。
 私の夫よ、どこにおられるのですか?
 さぞ、お怒りになっておられることでしょう。
 神よ!どうか私の溜息を受け取ってください!
 私の罪をしのぐお慈悲をもっておられる主よ、
 私にあなたの光をお与えください。
 (悲しげに)
 あなたは十字架につけられています。
 けれどあなたが、わたしのために死なれることはないでしょう。
 私には、その資格がありません。

 

 (羊飼いが登場。)

 

羊飼い (よろめきながら)
 美しい緑の川辺よ、
 涼やかな風よ、
 花咲ける谷間よ、
 清らかに澄んだ水よ、
 それらを包む山々よ、
 ぼくをおまえたちの小道へ案内してくれ。
 ぼくがあれほど深く愛し、そして失った者を
 見つけることができるように。
 茨を踏みながら歩き、
 ぼくのサンダルは血に染まる。
 籔の中の小枝を払い、
 ぼくの手は傷つく。
 さびしい川辺の砂地で眠り、
 ぼくの髪は乱れる。
 そして、夜明けに雲が去っていくころ、
 ぼくの顔は朝露でぬれる。
 ああ、神よ、ぼくは疲れ果てました。
 どんな杖があれば、
 この重荷に耐えることができるのですか?
ドニャ・クララ (傍白)神よ、お教えください。
 この羊飼いは、
 以前、ある昼下がりに、
 トルメス川沿いの、柳の木々の下で、
 私がフェリックスを膝の上で眠らせていたときに
 会った人ではありませんか?
 (羊飼いにむかって)ねえ、羊飼いさん!
 あなたに神のご加護がありますように!
 以前、べつの谷間であなたに会ったような気がするの。
 あなたはとても美しい人だから、
 あれから年月が経って、ずいぶん苦労したようだけど、
 あなたの姿は私の記憶に残っているのよ。
 今はここの山の中に住んでいるの?
 羊は飼っているの?
 タホ川の岸辺で何をしているの?
羊飼い 娘さん、ぼくは前と同じことをしているよ。
 おぼえていないのかい?
 ぼくがあの昼下がりに、羊を探して、
 草原や、砂地や、山々を歩いていたことを?
 ぼくは今も、その羊を探しているんだ。
 彼女のために、ぼくはさまよい続けている。
 彼女が見つからなければ、
 ぼくは、ぼくの父に再びまみえることはないだろう。
 とはいっても、ぼくの父は
 いつもぼくのことをごらんになっているし、
 ぼくに慈悲を与え、愛してくださるんだ。
 だって、ぼくたちは同一なんだから。
ドニャ・クララ 美しい羊飼いさん、
 なぜあなたは、むなしく羊を探しつづけているの?
 ほとんど価値のないものに、
 そんなに愛情をかける必要はないわ。
 なんのためにさまよっているの?
 あなたが何をしても、
 彼女の心が変わることはないでしょう。
 彼女が狼たちの手に落ちたのは、
 確かなことなんだから。
羊飼い そう。いまわしい狼は、
 ぼくの大切な羊たちを追いまわすんだ。
 ある昼下がりに、山の中で、
 ぼくがそいつを一度殴ってやったものだから、
 そいつは生意気にも、ぼくに復讐しようとしている。
 もっとも、力ずくで殴ったぼくのほうも、
 少なからず血を流したのだけれど。
 狼は彼女を噛んだけれど、食べはしなかったよ。
ドニャ・クララ そんなに長い間、あなたは彼女を呼びつづけているのに、
 どうして彼女はやってこないの?
羊飼い 彼女には、その勇気がないんだ。
 もちろん彼女は、彼女がぼくを探しに来れば、
 いつでもぼくが両手を広げて迎えるということは知っているんだけど。
 だってぼくは、羊たちが犯した不義に復讐するような、
 傲慢な羊飼いではないからね。
 彼女たちが泣き、つらい思いをしていれば、
 (彼女たちが泣いているのを見ることほど、
  ぼくにとって、心地よいものはない。
  それは、彼女たちがぼくに、心を分けてくれているんだから。)
 ぼくは彼女たちに塩を与える。
 そして、塩を食べた羊たちの何頭かは、ぼくの元を去っていく。
 ぼくの父の食卓に置かれるものの中で、
 彼女たちほどおいしい肉はないんだ。(退場)
ドニャ・クララ 行かないで。ねえ、待って!
 これは夢なの?幻影なの?
 私の欲望がこんな悪戯をしているの?
 でも、これは神のなさった悪戯だわ!
 私の目が見たものであろうと、
 心が感じたものであろうと、
 神は私にお告げを与えてくださった。
 お恵みを私に与えてくださるために。
 元気を出して行きましょう、
 ここからシウダー・ロドリゴまで。
 この、村人の服を着たままで。
 あの羊飼いは、きっと天使だったのよ。
 私を、元の場所へ戻るよう導いてくれたんだわ。
 私の哀れな生活と、悔悟の日々は終わったのね。
 あなたがもしそうなら、天使よ、私を導いてください。(退場)

 

 (ドニャ・クララの服を着た天使とドン・ペドロが登場。)

 

ドン・ペドロ 私はおまえに説得されて、
 エレナをドン・カルロスと結婚させたんだ。
 おまえがそうしなければ、私は彼にエレナを与えていなかっただろう。
 彼の血筋について、
 親戚がやかましく騒ぐのを聞くのに疲れていたからな。
 クララ、私は、
 エレナだけが結婚運の悪い娘だと言うつもりはない。
 しかし私は、娘の幸せと平和を願っている。
 私は、おまえを責めるつもりもない。
 おまえが、よかれと思ってこうしたのはわかっている。
 しかし、現実にエレナはつらい思いをしているんだ。
天使 ドン・カルロスに、なにか問題でもあるの?
ドン・ペドロ 彼は、満足するということがないのだ。
 おまえには結婚というものがわからないだろうが、
 既婚者として、これほど悪い性質はない。
天使 私は、別の結婚によって、
 やさしい天の夫と生活しているわ。
ドン・ペドロ その選択をした者は幸いだ!
 ドン・カルロスが女と遊びにかまけて、
 家に帰らなくなってから二年になる。
 そのくせ、彼は理不尽なほど嫉妬深いのだ。
天使 そういうのは、若い頃に陥りやすいことよ。
 神はドン・カルロスがそれに陥ることを望まれるの。
 たいていの人は、そうなった後も立ち直るんだから。
 彼を私のところへよこしてくれない?
ドン・ペドロ わかった。
 おまえに会えば、彼はおまえの美徳に恐れをなすだろう。
 悪は、善から逃げていくものだからな。
天使 人生ははかないものよ。
 私には、そんな楽しみを大事にしている人たちが理解できないわ。
 なぜそんな、かよわいものにしがみついているのかしら。
ドン・ペドロ 若いうちに、悪習は改めさせなければならん。
 彼を呼んでこよう。(退場)
天使 (独白)ああ、クララ!
 あなたの家と、あなたの夫の元に、
 まだ帰ってきてくれないなんて!
 たしかに、私がここにいるのは神のご意思で、
 私はこの名誉ある役目を果たしているのだけど、
 あなたが神からの慰めを得て、そろそろ戻ってきてほしい。
 この地上で、私は栄光に満ちているけれど、
 あなたが栄光を得るようになれば、私のそれも増すのだから。
 

 

 (クストディア〔聖体顕示台〕を持った銀細工師が登場。)

 

銀細工師 お許しをいただいたので、
 守衛室から入りました。
天使 今日、あなたを呼びに行かせたんです。
 私に用事がおありのようだったので。
 クストディアが完成したんですか?
銀細工師 はい、金で…いえ金箔を貼った銀で、
 精妙な細工がしてあります。
天使 主の家〔*ホスチアの容器をさす〕となるのに
 ふさわしい聖具ですね。
 よく作ってくださいました。
 あそこの、カーテンの掛かった部屋に、
 ひっそりと置いておきましょう。
 とても大きいけれど、あそこに置けば、
 まるで天上にあるように見えるでしょうから。
銀細工師 雛形のほうをお気に入りだったそうですが、
 細工ではこちらの方が上回っています。
天使 神の家を作るなんて、あなたはすばらしいかただわ!
銀細工師 あなたはもっとすばらしい。
 この上ない美徳によって、
 神を賛美なさっているのですから。
 あなたは、特別なかたです。
 なぜなら、あなたは何度も、神ご自身の
 生けるクストディアとなられたのですから。
天使 私が何者であるか、それは神がご存知です。
 すべての賞賛は、神にささげましょう。
銀細工師 すみませんが、代金か、
 今日中に徴収できる支払命令書をくださいませんか。
 職人たちが私にうるさく請求するんです。
天使 わかりました。
 今日じゅうに、全額お払いします。

 

 (銀細工師は退場。
  ドン・カルロスとヒネスが入ってくる。)

 

ドン・カルロス (いらいらしている様子で)
 私は、待たされるのが嫌いなんです。
 まだ出てきてくださらないなら、入りますよ。
天使 どうしたんですか?
ドン・カルロス 祈祷室にいたんです。
 もう待ちくたびれましたよ。
天使 あなたに抗議したいことがあります。
ドン・カルロス なんのことですか?
天使 あなたが私の妹をどう扱っているか、
 まわりの人間はみな知っています。
 私の父は、こんな状況を招いたのは
 私だと言って怒っているのです。
 カルロス、あなたはエレナに対して
 慎ましく、正直で、誠実な人間になると、
 あんなに謙虚な態度で誓ったではありませんか。
 あなたは以前、自分の敵が流した嘘をつきとめると言っていましたね。
 シウダー・ロドリゴには、
 エレナに対するあなたの理不尽な仕打ちや、
 あなたの不遜な態度を非難する人はいないのでしょうか?
ドン・カルロス (落ち着きを失って)
 クララ様、あなたの顔から発せられる
 清らかな光、聖なる輝きは、
 私に、否応なく尊敬の念を抱かせます。
 誓って申しますが、あなたがこんなすばらしいかたでなかったら、
 私はエレナを妻としていなかったでしょう。
 エレナは嫉妬深いのです。
 彼女のせいで、私の名誉を傷つけるような
 噂がたっているんです。
天使 そのことなら、私はもっとよく知っていますよ。
 あなたが、あることにかまけていることも、
 だれに宛てて、どんな手紙を書いたのかも、
 愛の言葉とともに、
 彼女の家の格子窓で何を言ったのかも、
 あなたが何を取り決めたのかも、
 それから…
ドン・カルロス (いたたまれなくなって)
 やめてください、お願いです。
 あなたが私たち二人の間の出来事をご存じだとすれば、
 それはきっと神のお力に違いありません。
 ああ、クララ様!
 あなたの美徳にはかないません。
 どうかお許しください。
 (クララの足元にひれ伏す)
天使 カルロス、これは、
 あなたの心の平安のためにやっているのですよ。
 エレナにそんなことをさせてはいけません。
 私の父を怒らせてはいけません。
ドン・カルロス 私はこれから、エレナを大切にします。
 そして、彼女に心から謝罪します。

 

 (果樹園の女性が登場。)

 

果樹園の女性 (駆け込んできて)
 早く来てください、クララ様!
 マグダレーナさんが、たった今、
 池のほとりを歩いていて、
 水に落ちてしまったんです!
天使 カルロス、ちょっと失礼するわね。
ドン・カルロス (驚いて)大変だ!
果樹園の女性 (クララをせかして)
 院長様、急いでください。彼女は溺れているんです。
天使 (落ち着いた様子で)大丈夫よ。
 彼女には「善きご加護」がありますから。

 

 (果樹園の女性と天使は退場。)

 

ドン・カルロス (ヒネスに)あの、聖女のような女性をどう思う?
ヒネス この街の人々はみな、彼女をほめたたえています。
 彼女にまつわる不思議な噂もあります。
ドン・カルロス どうして、ぼくの考えていることがわかったんだろう?
 ぼくがひそかにドニャ・アナと付き合っていることを、
 どうして知ったんだろう?
ヒネス (肩をすくめて)彼女は、人間の姿をしたセラフィムなんですよ。
ドン・カルロス ぼくは今日から、もっと彼女を敬うようにしよう。
 そして、自分の行いを悔い改めることにしよう。
ヒネス からかわれているだけでしょう。
 これが夢でなく、現実に起こったことなら。
ドン・カルロス ヒネス、人生とははかないものだ。
 そして死とは、強大なものだ。
 そのことを知ったなら、
 正しい人間をうらやまない者はいないだろう。

 

 (果樹園の女性が入ってくる。)

 

果樹園の女性 不思議な奇跡が起きました。
 あなたがたにこのことを知っていただきたいし、
 この奇跡の証人となっていただきたいので、どうか聞いてください。
 クララ様は、池に着くとすぐに、
 水の中に入られました。そして、服をぬらすこともなく
 マグダレーナさんの腕をつかみ、
 岸へ引き上げたのです。
 彼女は無事でした。
 このことをドン・ペドロ様と、
 エレナ様へお伝えください。(退場)
ドン・カルロス どう思う?
ヒネス (呆然として)わけがわかりません。
ドン・カルロス 私は、嬉しいようなおそろしいような、
 変な気もちだ。

 

守護天使(12)(終) - buenaguarda

守護天使(10) - buenaguarda