読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(10/12)

 (山の陰から、ピストルを持ち、マントを着た4人の山賊が登場。)

 

山賊1 (片言のスペイン語で)兵隊ども。
 金を置け。
 すぐ、そこの石の上に。
フェリックス やれやれ、ついていないな!
カリーソ ついていないのは、あっちのほうですよ。
 だって、なにももらえないんですから。
 (山賊たちに向かって)紳士のみなさん、
 私たちは一文無しなんです。
山賊2 着ているもの、脱げ。
 ここから、去れ。
 でなければ、撃つ。
フェリックス わかった。脱ぐよ。
カリーソ ちょっと待って。

 

(フェリックスとカリーソは服を脱ぐ。)

 

 (服を山賊にわたして)
 悪魔もどきのあなたがたに、これをさしあげます。
 悪魔もどきっていうのは、
 最後の審判の日まで地上にいて、
 罪のない人間の手を握っている連中のことですよ。
フェリックス (傍白)これまでに味わった多くの苦しみを思えば、
 こんなことはなんでもない。
山賊3 まだか?
フェリックス (服を山賊にわたして)さあ、どうぞ。

 

 (山賊たちは、フェリックスの服に穴があいているのに気づく。)

 

カリーソ フェリックス様は、
 ただ、言われるままに服をわたしただけですよ。
 服を縫うのは私の役目ですが、
 この場をなんとかつくろおうとしていたせいで、
 ほころびをつくろうひまがなかったんです。
 どうぞそれを持っていきなさい。
 神があなたがたとともにありますように。
山賊1 (二人を不思議そうに見て)どこから来た?
カリーソ いいことを教えてあげましょう!
 天国からですよ!
 とはいっても、私たち二人は、
 無垢な存在というわけじゃないんですが。
山賊2 これから、どうする?
カリーソ 寝るつもりです。
 裸になってしまえば、
 それ以上の修行をする必要もありませんので。
山賊2 (態度をやわらげて)
 おまえたちは、尊敬すべき人間のようだから…
カリーソ あなたがたも、そういう人であることを願いますよ。
山賊2 貧しい人間たちが捨てた、
 古い服がある。
 望むなら、これを着せてやる。

 

 (山賊たちは粗末な服を取り出して、二人に着せる。)

 

カリーソ これは、仕事着ってやつですね。
 こういう格好で物乞いをしている連中はたくさんいますから、
 私たちもお恵みを願うことにしますか。
山賊2 行け。
フェリックス (嘆く)悲しい人生だな!
カリーソ でも、喜ばなくちゃいけませんよ。
 少なくとも、食べ物に困ることはなくなったんですから。

 

 (フェリックス、カリーソ、山賊たちは退場。
  菜園の中。
  老いた村人のリセーノと、その息子コスメが登場。)

 

リセーノ それでだな、コスメ、つぎ木をする時期は、
 上弦の月の頃で、穏やかな晴れた日がいい。
 しかし、枝は新しいものを選ぶよう気をつけろ。
 少なくとも、生えて一年以内のものがいい。
 日なたに生えている場合は5月が最適で、
 日陰に生えている場合は、6月か7月が最適だ。
コスメ (傍白)気が落ち着かない。
 父さんの言っていることに、
 喜びも感じないし、尊敬の念も感じない。
リセーノ 樹の皮から樹液が染み出し、新芽が出てきたら、
 小枝を胸か膝の上の高さのところに差して、
 エスクード(盾)のような形に二本の切込みを入れて切るのだ。
 そのことから、これは「エスクデーテ」と呼ばれている。

 

 (つぎ木のやり方をコスメに見せながら説明する。)

 

 片側から、樹皮を押し上げ、
 親指と人差し指で樹皮をつまみ、
 樹液を出し、形を整えて、
 次の切込みを入れる間、
 それを口にくわえておくのだ。
コスメ (傍白)なにも耳に入ってこない。
 菜園よ、つぎ木よ、ぼくを許してくれ。
 生きている木と、死んだ枝とでは、
 つながるはずもないんだ。
リセーノ 枝を差すとき、裂け目を作ってはいけない。
 そのほうが、なめらかに芽が出てくる。
 それから、新芽のうちにそれを横に切って、
 上の部分を曲げ、切り口をぴったりとつけなさい。
コスメ (リセーノの話をさえぎって)
 父さん、わかったよ。
 つぎ木の話はもういい。
 机とか、釘抜きとか、針入れとか、
 オウガンハギとか、錐とか、
 南瓜なんかの話も、もうたくさんだ。
 それよりぼくに、結婚というつぎ木を与えてくれないか?
 人間だって、ひとりで実を結ぶことはできないんだから。
 父さん、考えてみてくれよ。
 菜園には、草や木が生えている。
 草は3、4年は生き、
 木は、30年から60年は生きる。
 そして木は、樹齢100年でも、
 おいしい実を結ぶことができる。
 もし父さんが、母さんとつぎ木をしなかったら、
 ぼくという実を結ぶこともなかったんだろう?
リセーノ (当惑して)困ったやつだな!
 まだ30にもならないというのに、
 もう結婚したいなんて!
 おまえは、自分がそんなに都合よく結婚できると思ってるのか?
コスメ 仲人になってくれる人はいるよ。
 父さんに面倒をかけるつもりはない。
リセーノ タホ川沿いには、村や集落がたくさんある。
 そのあたりの農家には、きれいな娘たちがいるぞ。
 おれが探してきてやろう、
 おまえに、結婚というつぎ木をするのにふさわしい娘をな。
コスメ いらないよ、父さん。
 ぼくにはもう、好きな人がいるんだ。
 ぼくの心を乱し、ときめかせてくれる人がね。
リセーノ それはだれだ、コスメ?
コスメ あのフアナだよ。父さんも知ってるだろう?
リセーノ フアナだと?
 3年前に、ここへ迷い込んできた女か?
 あの女にそんな気もちを抱いているなんて、
 恥知らずにもほどがあるぞ!
コスメ いいかい、父さん。
 彼女の人柄を悪く言うなら、父さんは何もわかっていない。
 フアナは、聖女のような生活をしているんだ。
 いつも祈りや断食に身をささげている。
 タホ川の岸辺にある、あの岩窟で隠遁生活を送り、
 苦行のために我が身を何度も鞭打っている。
 彼女の美しい肌は、
 鮮血を浴びて紅く染まっているよ。
 それなのに彼女を、よそ者で、
 あやしげな身の上の女だっていうのかい?
リセーノ もし彼女が、ほんとうに心の清らかな人間だとすれば、
 そんな女を妻にしてもいいのか、おまえは?
 家にこもって、悔悟の日々を送っているような女を?
コスメ 父さん、ぼくの気もちをわかってくれ。
 自分の求めているものがなんなのか、よくわからないんだけど、
 何かがぼくの心に小声でささやくんだよ。
 彼女を草原で見かけたら、
 とにかく説き伏せて、
 苦行や祈りをやめさせろって。
リセーノ ああ、フアナはきれいな娘だからな。
 コスメ、おまえは
 彼女の隠遁をやめさせたいだけではないんだろう。
 菜園の主人が急に会いにやってきて、
 しつこくつきまとったりすれば、彼女も迷惑に思うさ。
 かえって、苦行の量を増やすかもしれん。
 しかしコスメ、もしおまえがフアナを気に入って、
 お互いに相性も合うとわかれば、
 結婚相手としては、それにこしたことはない。
 私も彼女をお前の妻として認めよう。
コスメ (リセーノに抱きついて)父さん、ありがとう。
 いつまでも長生きしてくれよ。
リセーノ (傍白)やれやれ。
 こいつの恋愛ざたに、死ぬまでつきあわされるのか。(退場)
コスメ (独白)ぼくが抱いている感情が
 愛であるはずはない。
 だって、まるで地獄で身を焼かれているような気分なんだから。
 激しい胸騒ぎがぼくを襲い、
 身体を凍らせるかと思えば、炎の中で焼き、
 焼いてはまた、雪の中で凍らせる。
 ああ、フアナ!ぼくは食事のときも、
 きみの完全さを思い描いてばかりいる。
 そしてぼくは、食べながら物思いにふける。
 眠っているときも、
 きみの名を呼んですぐに目が覚める。
 すべてが地獄の業火のようだ。
 ここには、川が流れている。
 ぼくの苦しみを和らげることができるなら、
 この川の中に飛び込みたい。

 

 (ドニャ・クララの姿を見て)

 

 ああ、彼女がいた!
 怯えてはいけない、彼女は天使なんだから。

 

 (農家の娘の服を着たドニャ・クララが登場。)

 

ドニャ・クララ (傍白)主よ、いつになったら
 私の罪はお許しを得るのでしょうか?
 私の生命であるイエスよ、
 いつあなたは、私にお慈悲の言葉をかけてくださるのでしょうか?
 私の犯した悪い行いは、
 すべての血と生命をもって償うべきものです。
 「女よ、あなたは許された」?
 〔*『ヨハネによる福音書』中の、キリストが姦淫を犯した女に言った言葉をさすと思われる。〕
 けれど、あなたを辱めてばかりいた者が、
 それに値するでしょうか?
 私は、神が地上に与えた
 最も栄光ある、最も美しい天の夫に
 不義を犯した女なのに。
 けれど、主よ、
 私は私の流した血を信頼しています。
 その血は希望の芽なのです。
 私のイエスよ!私は罪を犯しました!
 私の罪はおそろしいものです!
 私が希望と信仰のうちに痛悔していることを
 あなたはご存知です。
 悪魔は、私にこう言っています。
 「おまえは、私が利用する価値もない女だ。
  これは、おまえの主が、
  不義を犯した女に罰を与えているのだ」と。
 しかし主よ、私は彼に言ってやるのです。
 「主が、悔悛の苦しみを味わっている人間の心を
  拒絶されることは決してありません」と。
 ああ、美しき聖母マリアよ!
 あなたなしでは、私はどうなってしまうのでしょう?
 聖母マリアという輝く星がなければ、
 どうやってこの海原を渡って、
 神の元へ行くことができるでしょう?

 

 (コスメを見て、怯えて叫ぶ)

 

 だれなの?そこにいるのは!
コスメ コスメだよ。そんなに怯えなくてもいいだろう?
 ぼくは乱暴な男じゃないんだから。
 トレドの山から、熊が下りてきたわけじゃあるまいし。
 熊がハチミツを盗むみたいに、
 美しいきみを盗みに来たと思っているのかい?
ドニャ・クララ 神のご加護があなたにありますように。
 コスメ、あなたにお願いがあるの。
コスメ 言ってごらん、フアナ。
 あっという間にかなえてみせるよ。
 きみが頼みごとを言い終わらないうちにね。
ドニャ・クララ 私が忘れてきた本を、
 家まで取りに行ってきてくれない?
コスメ いいよ。きみはどこに行くの?
ドニャ・クララ この、タホ川のほとりの花畑にいるわ。
コスメ 本は、きみの部屋にあるんだね?
ドニャ・クララ そうよ。
コスメ すぐここに戻ってくるよ。
 ぼくは足が速いし、近道を知っているからね。
 ちゃんとここにいてくれよ。(退場)
ドニャ・クララ (独白)愛によって打ち負かされ、
 勝利者となられたイエスよ、
 あなたのチュニカは血に染まっていますが、
 頭には勝利の王冠があります。
 その王冠に、最高の君主である神は、
 あなただけが読む名前をお書きになりました。
 十字架の上で焼かれた子羊よ、
 あなたの胸の傷口から炎が噴き出し、
 あなたの身を焦がしています。
 人間の罪を償うために、
 あなたは私たちにホスチアを送られました。
 あなたの傷が刻印された手紙とともに。
 主よ、あなたは寛大な指揮官です。
 あなたが十字架の下で掲げておられる聖なる旗に
 従っていく者はだれですか?
 シオンの子羊よ、あなたに仕える資格が私にあるのなら、
 私は棕櫚の葉とストラを持ち、あなたについてまいります。

 

 (優美な服装の男女と、バスケットを持った若者が、
  歌手たちとともに踊りながら登場。)

 

歌手たち (歌う)タホ川で泳ぐなんて、
 笑い死にしても知らないよ。
 指の間に砂が入って、
 くすぐったいのなんのって!
女性1 (若者に命令する)草の上に食事を並べてちょうだい。
 草をテーブルがわりにするから。
ドニャ・クララ (怯えて)これは悪魔のしわざだわ!
 私の罪を思い出させるために現れたのよ!
男性1 (女性2にむかって)きみはきれいだ!
女性2 あなたこそ、すてきよ。
男性1 ぼくほど幸せな者はいない。
ドニャ・クララ (泣きながら)やめて、こんな歌!
歌手たち (歌う)ばかな私に、
 ビレッタ(*聖職者の帽子)はいらない。
 浮かれ騒げば、
 理性も吹き飛ぶ。
ドニャ・クララ (傍白)これはみんな、悪魔が作り出しているのよ。
 悪魔が、私の快楽を呼び覚ましているんだわ。
女性1 菜園って、ピクニックには最高ね!
男性2 ちょっと、服を脱ごうかな?
男性1 ぼくも、暑くなってきた。
男性2 あの、ポプラの木陰に行こう。
女性1 (女性2にむかって)男の人が泳ぐところを見るのは好き?
女性2 もちろん。
女性1 あそこで、食事にしましょう。
男性1 かわいいお嬢さん、
 川に飛び込むから、見ていてくれよ。
歌手たち (歌う)あなたが水に飛び込めば、
 私の目はあなたに釘づけ。
 みんなで泳ぎましょう。

 

 (ドニャ・クララを残して全員退場。)

 

ドニャ・クララ 悪魔は、なんて嫌なものを見せるのかしら!
 私を不安に陥れ、
 過去の快楽へ誘っているのね。
 私の肉体よ、
 自分に課せられた罰のことを思い出しなさい。

 

 (二人の青年が登場。)

 

青年1 グスマン、きみは汗まみれだぞ。
 危ない真似をするからだ。
 体をふけよ。時間には余裕があるから。
青年2 (クララを見て)かわいい娘がいる!
青年1 お嬢さん、
 この川の浅瀬はどこだい?
ドニャ・クララ それを知らないなら、
 川で泳いだりしてはだめよ。
青年2 水が冷たくなければ、泳いでもいいんだけどね。
ドニャ・クララ 私に近づかないで。
 もっと暑くなったら、泳ぎなさい。
青年1 (クララに近づき)きれいな腕だなあ!
青年2 (クララの腕をとって)それに柔らかい!
ドニャ・クララ (傍白)これも悪魔がやっているんだわ。
 私から離れる気はなさそうね。
青年2 サンゴをあげよう。
 そのかわり、ぼくにキスしてくれないかな?
青年1(クララに)そんなに、素っ気なくするなよ。
ドニャ・クララ (青年たちの手を振り払い)あなたたちが紳士なら、
 女性にこんなことをして
 恥ずかしいと思わないの?
青年2 天使みたいにきれいだけど、
 頭のかたい娘だな。
 それじゃ、ぼくたちが泳いでいる間、
 この服を持っていてくれないか。
 ぼくたちの身体を見るのも、
 なかなか楽しい体験だと思うよ。
ドニャ・クララ そんな言い方をするところをみると、
 あなたたちはこの街の人じゃないわね。
青年2 きついことを言うね!
青年1 まあ、彼女の言うことももっともだ。
 放してやれ。
 ぼくは、貞淑な女ってものが苦手なんだ。
青年2 トレドのサグラ地区には何度か来ているが、
 こんなにきれいな娘を見たのは初めてだよ。

 

 (二人は退場。)

 

守護天使(11) - buenaguarda

守護天使(9) - buenaguarda