Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(7/12)

 (偽のカリーソは二人の先に立って歩く。
  ヒネスは、偽のカリーソに駆け寄る。)

 

ヒネス (偽のカリーソに、小声で)きみを、おれの友人と思っていいか?
偽のカリーソ (ヒネスをけげんそうに見て)
 その前に、あなたにお聞きしたいことがあります。
 あなたはカルロス様の家のかたですよね?
ヒネス そうだ。
偽のカリーソ あなたは、どういう立場のかたなんです?
ヒネス おれは、ただの従者だよ。
 事情があって、主人より前を歩いているだけだ。
偽のカリーソ それでは、お答えします。
 もしあなたが、神に本気でお仕えになるなら、
 そしてもちろん女性と、遊びと、
 呪いと、いさかいを遠ざけるなら、
 私たちは、大の仲良しになれるでしょう。
ヒネス きみが、神にそれをお願いしてくれよ。
偽のカリーソ ええ、そうします。
ヒネス (自信がなさそうに)遊びと、女性と…できるかなあ。
偽のカリーソ それらは、おそろしい敵ですよ。

 

 (三人は退場。

  ドニャ・クララとフェリックスが入ってくる。)

 

フェリックス (ドニャ・クララと仲むつまじく手をとり合って歩く)
 この緑の草原には、
 いくつもの泉がわき、
 その美しさを競っているね。
 冷たく澄んだ水は、
 豊かな流れとなって地にあふれ、
 草を喜ばせている。
 咲き乱れる花々の色は、
 きみの美しさに挑んでいるようだけど、
 水面に姿を映してみれば、
 きみの真っ白な肌やほのかな赤味にはかなわない。
 美しいクララ、
 ここで、この暑い昼下がりを一緒に過ごそう。
 この緑の迷宮を分かつ花々の間に、
 ダフネやヒアキントスよりも美しいきみを見つけて、
 太陽神も立ち止まるだろう。
〔*ダフネとヒアキントスは、太陽神アポロに愛された少女と少年の名。〕
 あの鳥たちは、
 優しいさえずりで、きみにモテットを歌っている。
 内気な兎たちは、
 巣穴の中に身をひそめている。
 野兎は草のベッドの上に横たわり、
 女鹿は夫を迎えに行こうと、森の中を駆けてゆく。
 この岸辺では、
 キジバトがさびしげに鳴いている。
 このポプラの木々は、互いに抱き合っているようだ。
 カエデの木々は、夫婦のようにしっかりと絡まりあっている。
 ここに紙があったらなあ!
 紙さえあれば、いい詩を書くことができるのに。
 きっと、詩集が何冊も書けるよ。
ドニャ・クララ あなたが大好きよ、フェリックス。
 どんなことを書くつもりなの?
フェリックス ぼくが手に入れた愛についてだよ。
 メドーロがアンジェリカの心を射止めた話〔*『狂えるオルランド』のこと〕を
 思い出したから。
ドニャ・クララ だめよ、それは書かないで。
 嫉妬深いオルランドに、それを読まれたら困るわ。
 彼から逃れて生き延びるには、
 どこかに身を隠さなくてはいけないの。
 それには、アンジェリカが持っていた魔法の指輪がいるのよ。
 でなければ、彼に見つかって、
 怒りの復讐を受けるわ。
 たとえアンジェリカを遠いインドに隠しても、
 オルランドが自分の受けた侮辱に復讐しようと思ったら、
 彼の狂気から逃れて生きていくことは誰にもできないんだから。
 だって、地獄にいてさえ、
 彼の怒りの矛先は、
 永遠の審判者である神に向けられているんだもの。
 私のフェリックス、
 あなたが手に入れた愛のことは、あなたの胸に刻んでおいて。
 私がこの秘密を打ち明けられるのは、その場所だけなの。
フェリックス ぼくは世界一幸せな男だ。
 きみがぼくの妻になってくれたんだから。
ドニャ・クララ そういうあなたはなあに?
フェリックス きみの夫だ。(クララと抱き合う)
 少し、ここに座っていてくれないか。
 きみの膝の上で眠りたいんだ。
ドニャ・クララ ええ。
 (草の上に腰を下ろし、フェリックスに)ここに頭を載せて。
フェリックス ぼくは苦しみの後に、こうして幸せを手に入れた。
 幸せすぎて、愚かな人間になってしまうんじゃないかと心配だよ。
ドニャ・クララ よく眠れるように、
 この木の葉で少しあおいであげるわ。

 

 (フェリックスはドニャ・クララの膝を枕にして眠る。
  羊飼いが登場。)

 

羊飼い (悲しげに)
 ぼくほど、不幸せな者はいない。
 ぼくが、自分を不幸せだと言っていいのかどうかわからないけれど。
 狼から、羊の群れを守っているつもりだった。
 けれど狼は、いちばん美しい、真っ白な羊を連れていってしまった。
 人間がするように、口笛を吹いてみよう。(口笛を吹く)
 大声で叫んでみよう。
 山や森に声が響き渡り、
 茂みの中にまで届くように。
 ぼくはどうしてもあの羊に戻ってきてもらいたいんだ、
 ふるさとの草原へ。

 

 (少し離れたところから、ドニャ・クララとフェリックスにむかって)

 

 こんにちは!そこの羊飼いさん!
 この小川のそばで、ぼくの羊を見なかった?
 あそこの、樫とブナの木に覆われた高い山に牧場がある。
 ぼくは、白い羊の群れをそこで飼っている。
 ぼくの手をはなれ、
 狼について行ってしまった羊がいるんだ。
 彼女を見なかったかい?

 

(ドニャ・クララは困惑し、聞こえないふりをする。)

 
(さらに大声で)ねえ、返事をしてくれないか?
 こんにちは、牛飼いさん!
 ねえ、そこのヤギ飼いさん!
 ハリネズミみたいに
 ぼくを警戒しているお二人さん!
 ぼくの羊を見なかった?
ドニャ・クララ (傍白)あの羊飼いは、キリストの真似でもしてるの?
 フェリックスを起こそうかしら・・・
 でも彼は疲れて眠っているから、やめておきましょう。
 (羊飼いに向かって)こんにちは!羊飼いさん。
 だれかに嫉妬しているみたいね。
 あなたの羊っていうのは、あなたが恋している人のことでしょう?
 私はあなたの羊ではないけど、お気の毒に思うわ。
 とても悲しそうね。だれを探しているの?
羊飼い 群れからはぐれた、かわいそうな小さな羊なんだ。
 狼たちに惑わされて、行ってしまったに違いない。
 彼女を見なかったかい?
ドニャ・クララ (傍白)本物のキリストを見ているみたい。
 なんだか怖いわ!
羊飼い (ドニャ・クララを見つめて)その羊は、とてもかわいらしかった。
 額に一点の染みがあるのを除けば、全身が真っ白だった。
 草原のアイリスも、麦畑のヒナゲシも、そして空の星さえも、
 彼女の美しさとは比べものにならない。
 ぼくは彼女の首に、金よりも高価な鈴をつけ、
 口笛で合図をし、彼女を呼び、
 手から塩を与えたんだ。
 りっぱな羊になるようにね。
 彼女のためとあらば、ぼくは茨の中を歩いて
 花を取りに行くこともいとわない。
 ぼくはそこの山に、彼女のために、
 三つの支柱をもった小屋を建てたけれど、
 それは、他の山に彼女が迷い込んでしまわないためだ。
 そして彼女を、
 おいしい草の生えているぼくの牧場から、
 汚れのない子羊とともに、山頂へ昇っていかせるためだ。
 けれど、彼女をかわいがっても、愛しても、世話をしても、
 なんにもならなかった。
 ぼくがいちばん大切にしていたときに、彼女は、
 村から来た狼たちとともに去ってしまったんだから。
 ぼくがどうしてここへやってきたか、
 ぼくの心の痛みと羊への愛情がどれほどのものか、
 それは神が知っている。
ドニャ・クララ (動揺を隠そうとしながら)
 ずいぶん、やきもち焼きなのね。
 愛する羊を探しにやってきた羊飼いさん、
 そこに気もちのいい木陰があるから、心配しなくても大丈夫よ。
 もし彼女が喉の渇きに苦しんだとしても、
 すぐに泉が湧いてくるでしょうから。
羊飼い そうはならないよ。
 だって、彼女の内にある炎はもう死んでしまったんだから。
ドニャ・クララ 羊飼いさん、とにかく私は、
 その羊がこの草原にいるところは見なかったのよ。
羊飼い きみの目はずっと、夫に釘づけなんだね。
 きみは贈り物をもらったみたいに
 だいじそうに夫を腕に抱えて、
 彼の首にリボンをかけているよ。
 考え直す気はないんだね。
 それじゃ、さようなら。(退場)
ドニャ・クララ (羊飼いの姿を目で追いながら)
 美しくて、優雅な人!
 この村に、あんなに素敵な羊飼いがいるなんて!

 

 (フェリックスが目覚める。)

 

フェリックス クララ、だれかと話をしていたのかい?
ドニャ・クララ 羊飼いとよ。あなたが眠っている間にね。
フェリックス その人は、何をしていたんだ?
ドニャ・クララ 羊を探していたのよ。
 あなたも彼に同情すると思うわ。
 その羊のために彼は、
 群れの羊をすべて置いてきてしまったの。
 ただ、彼の愛情にその羊が逆らっているというだけの理由で。
フェリックス (ものうげに)愛する者には、そういう不安がつきものなんだ。
ドニャ・クララ 彼は疲れ果てて、額に汗をかいていたわ。
 その汗は、王様の顔に与えられた、名誉のしるしみたいだった。
 彼は杖を持っていたの。
 そして、愛する羊の姿を求めて、森や山や川辺を探していた。
 彼が口笛を吹くと、草は身を震わせた。
 彼は腰に、すてきな投石器〔*羊を呼び寄せるために使う〕をさげていたわ。
 それは絹でできていて、
 三つ編みにした紐で帯に結びつけられていた。
 その帯には、りっぱな留め金とボタンがついていたの。
 なめし皮と赤い紐で作ったサンダルをはいて、
 白百合の中に咲いているカーネーションみたいに、
 彼はこの草原に立っていたのよ。
 足元に花を咲かせながらね。  
フェリックス きみは、夢でも見ていたんじゃないか?
ドニャ・クララ そうね。
 きっとあれはみんな、夢だったんだわ。
フェリックス もしかしたら、
 ぼくたちが交わした愛のことを考えているうちに、
 美しい光景が夢の中に出てきたのかもしれないよ。
 心は絵筆のようなものだから。

 

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