Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(6/12)

 (フェリックスとカリーソはドニャ・クララから離れる。)

 

ドニャ・クララ (門の上にあるマリア像に向かって祈る)
 聖母マリアよ!
 大きな災いが訪れたために、
 私はここから出ていかなくてはなりません。
 私は、ある人の激しい愛によって心を惑わされ、
 愚かな衝動にかられ、魂をないがしろにしてしまいました。

 

 アロン〔*モーセの兄。杖でさまざまな奇跡を起こした〕の
 聖なる杖である聖母マリア
 あなたは人間でありながら、
 実り豊かな樹〔*キリストのこと〕を神にお与えになりました。
 その樹がもたらした実りによって、
 未開の国の人々さえも、あなたを賛美するようになりました。

 

 美しき聖母マリア、あなたは
 キリストという太陽を包む天幕であり、
 ヤコブの妻ラケルであり、
 あの高貴なエステルです。
 〔*これらの女性たちは旧約聖書に登場し、
   聖母マリアの「予型」とみなされている。〕
 あなたは人類の永遠の救済者であり、
 いつも私たちを正しく導いてくださる、
 尊い方位磁針です。

 

 私は、あなたの息子で私の夫である主に誓った言葉を
 破ってしまいました!
 (泣きながら)美しき聖母マリア
 私は不義を犯し、途方に暮れています。
 盲目の愛が私を襲い、なぎ倒しました。
 激情に逆らおうとしても、無駄に終わりました。
 なんと恥ずべきことでしょうか!

 

 天に輝く星であり、永遠の生命の源である聖母よ、
 私は自分のけがれた目を、あなたへ向けることができません。
 けれど、私の弱い心に潜んでいた悪魔が
 絶望へと私を招きよせ、
 情に流された愚かな私は、
 死ぬか、ここから抜け出すかをすでに迫られてしまいました。

 

 恩寵に満ちた、汚れなき天上のマリアよ、
 敬虔なる御母よ、
 どうか私のために、ひとつだけ願いをお聞きください。
 このような大きな過ちを犯しているときに恐れ多いのですが、
 必要なことですので、勇気を出して申し上げます。
 私の愚かで身勝手な考えはおそらく世間から非難され、
 私は自分を見失っていくことでしょうが、
 どうか、この修道院にはご加護を与え続けてください!

 

 私は院長であったにもかかわらず、ここを見捨てていこうとしています。
 修道女たちをお守りください。
 彼女たちは、神に仕える羊の群れのようなものです。
 羊飼いであった私は、無責任にも、
 危険な狼たちのもとに群れを置き去りにしていくのです。
 ここの修道女たちが、だれも道を踏み外しませんように!
 私が犯したような過ちによって非難されることがありませんように!
 悪魔の誘惑の手に落ちることがありませんように!
 彼女たちをお守りください、
 聖母マリアよ!彼女たちをあなたにお委ねいたします。

 

カリーソ (クララの様子を見て)泣いているみたいですよ。
フェリックス (動揺して)どうして?
 もう後悔しているっていうのか?
ドニャ・クララ そして私の天の夫キリスト、
 私はあなたを裏切り、
 すでにあなたの妻ではなくなってしまいました。
 けれど、どうかここの羊たちをお守りください!
フェリックス (カリーソに)彼女は神の制裁が怖くて、
 ここを出ていくことができないんだろうか?
カリーソ かもしれませんね。
 そばへ行って、励ましてあげたほうがいいですよ。
フェリックス (クララのそばへ行き、心配そうに)どうしたんです?
 いつまでもここにいたら、夜が明けてしまいますよ。
 なぜ泣いているんです?
ドニャ・クララ (涙をふき)ここで、修道院にお別れを言っていただけよ。
 私が後悔しているとか、迷っているとか思わないでね。 
フェリックス 怖れるようなことは何もありません。
 私たちの愛にまさる力はないのですから。そうでしょう?
ドニャ・クララ (フェリックスにすがりつく)行きましょう。
フェリックス 心細くなったんですか?
ドニャ・クララ (傍白)聖母マリアよ、彼女たちに
 どうかあなたの善きご加護を!

 

(三人は退場。
 舞台袖から、声が響く。)

 

声 天使よ、聞いてちょうだい。

 

(天使が出てくる。)

 

天使 はい、生命をつかさどる女王様〔*聖母マリアのこと〕!
 何かご用命ですか?
声 今すぐ、あの女の人に姿を変えなさい。
 かわいそうに、あの人は情に負けてしまって、
 こんな形で天の夫を軽んじることになってしまったの。
 おまえは彼女とそっくりの顔になって、同じ服を着て、
 修道院長の仕事を代行しなさい。
 そして、天の教えにしたがって、
 修道女たちを正しく導いてやりなさい。
天使 (うやうやしくお辞儀をする)
 彼女がこの修道院にいないうちは、
 仰せのとおり、私が彼女の仕事をいたしましょう。

 

 万能の主である神よ、
 あなたは人間たちを深く愛していらっしゃいます!
 あなたの裁きの手を下ろし、
 怒りを鎮めてくださいますように!
 私たち天使に、人間に仕え、
 彼らの身代わりになり、
 善きものを栄誉として与え、
 悪しきものから守るよう、お命じください!

 

 かつてあなたは、何度も人間のもとへ、
 わたしたちを送られました。
 わたしたち天使は、
 砂漠でハガルを慰め、
 イサクをいけにえにしようとしたアブラハムを制止しました。
 天と地をつなぐ梯子をヤコブに見せ、
 燃える柴の中からモーセを導き、神との契約を結ばせました。

 

 バラムの前に立ちふさがり、
 ヨシュアに恩恵を与え、
 ミディアンから逃れるギデオンの前にも現れました。
 エリヤにパンを与え、
 アッシリア人たちを滅ぼし、
 イザヤの唇に火を置いて
 彼の罪をきよめました。

 

 燃えさかる炉の中のミシャエルに、
 神からの祝福を与えました。
 獅子たちをおとなしくさせ、
 ダニエルを力づけました。
 貞淑で勇敢なユディトを守り、
 旅するトビアスにも付き添いました。

 

 聖ヨセフの夢の中、
 聖家族のエジプト逃避の際にも現れ、
 池を動かし、
 牢の扉を開け、
 シナイ山に現れ、
 聖フィリポと聖ペトロのもとにも現れました。
〔*これらは、聖書の中で天使が登場する場面を集めたもの。〕

 

 しかし、天の夫であるキリストに
 恥ずべき裏切りをしてしまった哀れな女性に対する、
 このたびのお恵みに比べれば
 これらの事柄は、どれも些細なものだったと言えましょう。

 

 (鐘の音が聞こえてくる)

 

 朝課の鐘が鳴った。
 さっそく、彼女に代わって仕事をしよう。
 天空の星であるあのかたが、
 私に、そうお命じになったのだから。
 この修道院は、なんと頼もしいご加護を得ることだろう!
 神をのぞけば、まことに聖母マリアほど善き守護者はいない。(退場)

 

 (ドン・カルロスと従者のヒネスが登場。)

 

ドン・カルロス 例のことについて調べてみたんだ。
 やはり、まちがいはなかった。
ヒネス ドン・フアンですか?
ドン・カルロス ドン・フアンだ。
ヒネス あの人は、あなたの友人だったのに!
ドン・カルロス ああいう、下劣な好奇心をもった人間に
 友人など存在しないということが、
 今回の件でわかったよ。
 ヒネス、これに反撃するチャンスをぼくに与えてくれ。
 親友だと思っていたあいつに裏切られたのだから。
 女性がらみのこととなると、
 己の身勝手な目的のために
 その女性の父親をだましたり、
 不安がらせたりしようとする輩がいるものなんだな。
 おまえは、だれが自分のほんとうの友人なのかを知りたくないか?
 その友人が、なにを考えているか知りたくないか?
 だったら、そいつに金や女性にからんだ問題がないか、
 よく調べてみろ。
 人間はだいたいが、そういうものによって堕落するんだから。
ヒネス いえ、やめておきます。
 そういうことをすると、
 永遠に友人を失ってしまいそうですから。
ドン・カルロス ドン・フアンは、
 このチャンスを狙ってぼくに打撃を与えた。
 彼もエレナに言い寄ろうとしていたから、
 これで自分が有利になると踏んだのさ。
 彼がいまわしい噂を流し、
 ドン・ペドロにそれを信じ込ませたせいで、
 ぼくはエレナを失ったばかりか、名誉も人望も失ってしまった。
 ドン・フアンは、ぼくの血筋を汚れたものだと中傷したんだ。

 〔*ドン・カルロスの先祖にコンベルソ(改宗ユダヤ人)がいたことを指摘したのだと思われる。当時は先祖代々キリスト教徒の家系であることが尊ばれ、異教徒の血が混じっている家系はそれだけで卑しいとみなされていたため、先祖にコンベルソがいたことを隠すのは珍しくなかった。〕

 もしこの噂を放置しておいたら、
 ぼくの名誉はいずれ、完全に汚されてしまう。
 こういうでっちあげは、身の破滅を招くんだ。
 ぼくは騎士団に入ることも許されず、
 あらゆる名誉を失ってしまうかもしれない。
 ヒネス、敵対者たちの悪だくみのせいで、
 たったひとつの嘘がふくらんで、
 膨大な数の偽証が生まれてしまうんだ!
 これまでにもぼくは、周囲の人間から敵意を向けられ、
 理不尽なほどのしつこさで名誉と地位を奪われてきた。
 おまえはどうか、分別を失わないでくれ。
 分別を備えていれば、噂などに振り回されずにすむのだから。
 それにしても、こんなことは許しがたい。
 明日にでも、気まぐれな連中が、
 ぼくに関するでたらめな噂を
 世間に広めてしまうかもしれないんだから。
 今日こそ、ドン・フアンの命を奪ってやろう。
 そして、ぼくの名誉を取り戻さなければ。
ヒネス 私もお手伝いいたします。
 やつを一網打尽にしてやりましょう。
ドン・カルロス われわれの手で、彼に思い知らせてやろう。
 (人影を見つけて)あれはだれだ?
ヒネス カリーソです。
 この修道院のサクリスタンですよ。
 信心深い人物と思われているようですが、
 本当は偽善者なんです。

 

カリーソの服を着た、偽のカリーソ〔*もうひとりの天使〕が入ってくる。)

 

 この男はいつも修道院の入口に立って、
 遊んでいる若者たちを叱っているんです。
 カード賭博などは堕落だと
 さんざん嫌味を言っていますが、
 私から見れば、
 彼のほうがよっぽどインチキ野郎ですよ。
ドン・カルロス 黙れ。彼をよく見てみろ。
ヒネス (偽のカリーソを見て驚く)
 てっきりカードを投げているのかと思ったら、
 花をまいていたんですね。
偽のカリーソ (花をまきながら、カルロスに)
 デオ・グラティアス、カルロスさん。
ドン・カルロス こんにちは!
偽のカリーソ 「ポル・シエンプレ」と言いなさい。
ドン・カルロス (あわてて)ポル・シエンプレ。
偽のカリーソ あなたに、神のお恵みがあらんことを。
 あなたがたたお二人を抱擁させてください。
 最高の善である神が、
 あなたがたに天の善きものをお与えくださいますように。(二人を抱擁する。)
ヒネス あのカリーソとは思えない。
 姿は彼そのものなのに、別人みたいだ。
 服もつつましいものだし、
 態度も控えめになっている。
ドン・カルロス (偽のカリーソに見とれて)おまえは黙っていろ。
 このお姿は、純粋さと信心深さの極みだぞ。
偽のカリーソ 多くの美徳
 謙譲の精神をお持ちでいらっしゃるわが院長様が、
 あなたに、守衛室へ立ち寄っていただきたいとおっしゃっています。
ドン・カルロス 今は夜ですから、昼間に出直しましょうか?
偽のカリーソ 重要なことですから、夜でもかまいませんよ。
ドン・カルロス (うしろめたさを感じて)カリーソさん、
 私など、彼女に会う資格はありません。
 (傍白)しかし、何か大事な知らせがあるのかもしれないな。
ヒネス (ドン・カルロスに小声で)クララ様は、

 エレナ様の姉なんでしょう?
ドン・カルロス そうだ。
ヒネス (小声で)このような重要な事柄では、
 たいてい、信心深いかたがその場をうまくおさめるものです。
 クララ様は、あなたにいい知らせを伝えようとしているんですよ。
ドン・カルロス それならいいんだが…
ヒネス (小声で)まず、お二人でお話しください、
 あなたが行おうとしている復讐についてね。
ドン・カルロス (偽のカリーソに)
 カリーソさん、今、空いている部屋はありますか?
偽のカリーソ もちろんです!こちらへどうぞ。

 

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