Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(3/12)

フェリックス そんなことをしても、
 私のおろかな考えが変わるとは思えません。
ドニャ・クララ その女性に会わないようにしなさい。
フェリックス それは無理です。もう会ってしまったのですから。
ドニャ・クララ 神様にお祈りしなさい。私を信じて。
 私も一緒に祈ってあげる。
フェリックス (かすかな望みをかけて)院長様、
 お祈りではなく、他の方法で
 私を救っていただくことはできませんか?
ドニャ・クララ (警戒して)私に、その女性を説得しろというの?
 それはできないわ、絶対に。
 あなたはまさか、悪魔の誘惑に屈したんじゃないでしょうね?
 修道女を愛したとか?
フェリックス (うなだれて)おっしゃるとおりです。
 そのかたは修道女で、とても美しいのです。
 そのかたの瞳を見るたびに、私は胸を焦がしています。
ドニャ・クララ とんでもないことだわ!いったい、それはだれなの?
フェリックス (苦しげに)だから、あなたなんですよ!
 (深く恥じ入り)恐ろしいことです。どうぞお許しください。
ドニャ・クララ (動揺しながらも、心を落ちつかせて)
 フェリックス、あなたを怒鳴りつけることもできなくはないけど、
 それはやめておくわ。
 きっとこれは、ずるがしこい悪魔の仕業よ。
 悪魔は四六時中、人間につきまとっているの。
 あなたの、死を願うほどに絶望している姿を見れば、
 悪いのはあなたではなく、
 あなたをそそのかした悪魔だということがわかるわ。
 ともかく、あなたの心を慰めるために祈ってあげる。
 (フェリックスを励ますように、明るい表情で)
 私って、そんなに美人なの?
 あなたがそんなおろかな考えをもってしまうほどに?
 まあいいわ。だったら私、
 ほどよく美しさが損なわれるくらいまで、
 苦行してあげるわよ。
フェリックス (安堵と感謝の表情で)なんてお優しいのでしょう!
 院長様、お許しください。
 私はもう二度と、
 このような不遜な考えを抱くことはいたしません。
ドニャ・クララ どんなに強い誘惑にも、逆らい続けることが大切よ。
 そうすれば、誘惑の力を弱めることができるわ。
フェリックス 私は、院長様に嫌われるような人間になりたくないのです。
ドニャ・クララ もし悪魔がまたあなたを誘惑することがあったら、
 思い出してちょうだい、フェリックス。
 私はイエス・キリストの妻だってことをね。(退場)
フェリックス (晴れ晴れとした表情で)もう、おこがましい考えなどは持つまい。
 クララは私に、太陽よりも明るい光を与えてくれた。
 彼女の晴れやかな顔が、私に己のおろかさを教えてくれた。
 私の心は、すでに変わり始めている。
 彼女の正しい導きによって、私の恐れは消えた。
 主よ、どうかあなたの怒りをお収めください。
 私をお咎めにならないでください。
 だれも、あなたの目から逃れることはできません。
 私があなたの妻と不義をおかすことなどありえません。
 たとえそれを試みたところで、
 あなたは密かに彼女を救い出すでしょうから。
 彼女が俗世に堕ちたとしても、
 あなたは常に彼女を見守り、
 彼女を連れ戻すことでしょう。(退場)

 

 二人の老人、ドン・ペドロとリカルドが入ってくる。

 

ドン・ペドロ 知っているよ、その育ちのいい青年のことは。
 家柄も申し分ないし、不満な点は何もない。
 きみが気に入るような人間なら、
 私も気に入るにきまっているからね。
リカルド ドン・カルロスは、あのとおりの美男で、
 名門の出身だ。
 もちろん、性格も非の打ちどころがない。
 彼ほどの男は、きみの親類の中にはいないだろうし、
 おそらくどこを探してもいないだろう。
 もちろん、エレナとつりあうような人間だって、
 ほとんどいないだろうがね。
 エレナの父親はきみだが、
 おそらく私のほうがきみよりも
 エレナの幸せな未来を望んでいると思うよ。
ドン・ペドロ きみがここへ、
 カルロスを連れてきたのかと思ったんだが…
リカルド 連れてきたとも。いま、玄関で待たせている。
ドン・ペドロ さっき窓から、ちらっと姿が見えたんだ。
リカルド それが彼さ。隠すつもりはない。
 彼が気に入ったのなら、挨拶してやってくれないか?
ドン・ペドロ いや、今はまだ…
リカルド おいおい、私がきみの不名誉になるような話を
 もってくると思うか?
 彼と会って、話をしてくれ。
 私が父親であったなら、あんないい青年は、
 娘にやってしまうより、自分がもらいたいくらいだよ。(笑う)
ドン・ペドロ (慎重に)たぶんそのとおりだろうが、
 エレナの父親である私と気が合うかどうかは、また別だからね。
 ともかく、彼に会おう。
リカルド (従者を呼ぶ)
 おい!玄関のところにいる青年を呼んできてくれ。
ドン・ペドロ 見た限りでは、彼はとても感じのいい男だった。
 しかし、お互いを知るためには時間をかけた方がよいだろう。
 だれかから聞いた話だが、
 縁談というものは、条件を話し合っているだけではだめだ。
 オルガンの鍵盤のように、
 実際に弾いてみないとわからないこともあるんだから。
リカルド (自信たっぷりに)それなら、
 弾いて、確かめてみるがいい。
 彼の身分とか、習慣とか、
 趣味とか、人づきあいとか。
 どれもよい響きがするはずだ。
 
 ドン・カルロスが入ってくる。

 

ドン・カルロス (ドン・ペドロの前にひざまずいて挨拶する)
 ペドロ様。お目にかかれて、この上なく光栄です。
ドン・ペドロ カルロスくん、顔をあげてくれたまえ。
 うちはそれほど堅苦しい家ではないよ。
ドン・カルロス ですが、私は恐れ多いのです。
 あなた様が私の両親に多大な援助を与えてくださったと伺っておりますので。
ドン・ペドロ そうだな。私はきみの力になってきたし、
 これからきみと互いに助け合う関係になれば、今後もそうするだろう。

 

 エレナが登場し、ひそかに扉の外で三人の会話を聞く。

 

リカルド なんだ、二人とも他人行儀だぞ!
 カルロス、私はペドロと一緒に、
 きみが望んでいる事柄について話し合った。
 彼は、喜んできみを息子としてむかえたいと言ったよ。
ドン・カルロス (感激して)なんと感謝を申し上げればいいか!
ドン・ペドロ (あわてて)カルロスくん、まってくれ!
 あまり大声でその話をするのはまずい。
 使用人たちに聞かれるかもしれないし、
 正式に話が決まる前に、噂が広まってしまうかもしれない。
 カルロスくん、結婚とは修道会や騎士団への入会と同じで、
 常にわれわれの敵対者たちの関心の的なのだよ。
 きみも知っているだろうが、長女のクララが修道女になり、
 息子のベルナルドも同じ修道会に入ったので、
 私は次女のエレナを後継ぎ同然に思っている。
 エレナは気立てが良く、私の自慢の娘だ。
 しかし、私はエレナ以外、
 きみに何も与えることができない。
ドン・カルロス 持参金のことをおっしゃっているなら、
 どうかやめてください。
 私は、そんなものは望んでいません。
 持参金をありがたがるなんて、卑しい考えです。
 私がエレナさんとの結婚を望むのは、
 私が彼女を愛しているからです。
 そして、彼女の父親であるあなたを尊敬しているからです。
ドン・ペドロ カルロス、私は、
 きみがエレナを愛し、夫としての責任を果たしてくれれば、
 いずれはきみに私の財産を譲るつもりだ。
 これから聖堂へ行く支度をするから、
 きみは先に行って、私を待っていてくれないか?
 神のもとで、きみとエレナを婚約させたい。
ドン・カルロス はい、喜んで。
 あなたの息子になれることを信じています。
ドン・ペドロ カルロスくん、
 きみに父と呼んでもらえれば私も光栄だよ。
リカルド (ドン・ペドロに)
 カルロスを気に入ってくれたようでよかった。
ドン・ペドロ この青年は謙虚で、好感が持てる。
 生意気な男というものは、たいてい愚かでわがままだからね。

 

 ドン・カルロスとリカルドは退場。
 エレナがこっそりと部屋の中に入ってくる。

 

ドン・ペドロ (エレナの姿に気づかず、別の方向を見て呼ぶ)

 エレナ!どこだ?
エレナ (ドン・ペドロの後ろから)なあに?
ドン・ペドロ (驚いて)もう来たのか!素早いな。
 今の話を聞いていたのか?
エレナ (意味ありげに微笑して)どうしてそんなことを訊くの?
 お父様、仕事の話でもなさってたの?
 私に愚痴でもこぼすために呼んだの?
 立ち聞きっていうのは、詮索好きな人たちのすることよ。
 それに、立ち聞きをするには、何か理由があるはずでしょう?
ドン・ペドロ ほんとうに聞いていなかったのか?
 おまえを結婚させようという話を?
エレナ (くすくす笑いながら)結婚?まさか。
 考えたこともなかったわ。
 だって、修道女になったクララをとても羨ましく思っているもの。
 すばらしい人ね。
 あの若さで、修道院の院長になるなんて。
 彼女なら、たとえ全世界を任されても、
 りっぱに治めてみせるに違いないわ。

 

 カリーソが、マントと帽子を入れた籠をもって登場。

 

カリーソ (部屋へ入ってくる)デオ・グラティアス
 どなたかいらっしゃいますか?
ドン・ペドロ カリーソさんか?
カリーソ (もったいぶって)偉大なる神は、
 私を創造し、また滅ぼすこともおできになります。
 御子イエスがあなたをお守りくださいますように。
 いかがお過ごしですか?
ドン・ペドロ このとおり、元気さ。
 ベルナルドは元気にしているかね?
カリーソ (わざと渋い顔をして)さあ、どうでしょう。
 今日の午後にお会いしたときは、元気そうでしたよ。
 もっとも、私たちが明日生きていられるかどうかは、
 神のみがご存じでいらっしゃいますがね。
ドン・ペドロ (厳粛な面持ちでうなずく)ごもっとも。
カリーソ (エレナに)エレナ様、お元気ですか?
エレナ 元気よ。
 お会いできてうれしいわ。

 

カリーソを抱擁しながら、耳元で何かをささやく)

 

カリーソ (恥ずかしそうに離れる)困ります…
エレナ こっちに来て。あなたにあやかりたいのよ。
カリーソ 何を?
エレナ 私に幸運が訪れるように、
 あなたから神様にお願いしていただきたいの。
カリーソ ええ、それでしたら
 私のつたないお祈りを奉げましょう。
 それから、祭壇にお供えをするとき、
 そのことも神様にお伝えしておきましょう。
 クララ様が、果物をお贈りするようにとのことでしたので、
 こちらへお持ちしました。
 実に心苦しいのですが、私は食べるわけにいかないのです。
 今日は断食をしているので。
エレナ (感心して)なんて信心深いかたなの!
ドン・ペドロ 彼は、この街の模範だな。
エレナ あの修道院で、このかたほど敬虔な修道士はいないわ。
ドン・ペドロ カリーソさん、私は、
 おそらく娘にとって善き計らいとなるであろう契約を結ぶのです。
 願わくは、それがうまくいくことを神にお願いしてください。
カリーソ ええ、私は罪びとですが、そういたしましょう。
 (エレナに向かって)ご結婚されるんですね?
エレナ (顔を赤らめながら)ええ。
 今、そのことを二人で話していたの。
 これから聖堂へ行くのよ。
ドン・ペドロ カリーソさん、クララは元気ですか?
カリーソ 院長様はとてもお元気ですよ。
 もっとも、あれほどの断食とか、お勤めとか、
 節制とか、たいへんな苦行とかをなさっているので、
 だいぶお疲れのようですが。
 顔も少し、おやつれになったようです。
ドン・ペドロ それを聞くと、せつない気持ちだ。
カリーソ この修道会にも敬虔なかたがたはたくさんいますが、
 まちがいなくあのかたは特別な存在です。
 まるで、人間のヴェールを被った天使ですよ。
ドン・ペドロ 神に感謝しよう。
 いいか、エレナ、
 クララを模範として、
 おまえも敬虔で善良な女性になってくれ。
 それでは聖堂に行って、クララに贈り物を渡そう。
エレナ ええ。
カリーソ (エレナをひきとめて)教えてください、お嬢様。
 その…だれと結婚なさるんですか?
エレナ ドン・カルロスとよ。
 彼のことをご存じ?
カリーソ (傍白)あんちくしょうめ、うまくやったな!
 (エレナに)ええ、知っています。
 申し分のない家柄の人ですよ。
 末永くお幸せに。
 お話がまとまれば、結婚式には必ず出席します。
エレナ どうか私たちの結婚がうまくいくように、神にお願いしてくださいね。
カリーソ (あたりの様子をうかがいながら、小声で)
 エレナ様、
 さっき言おうとなさっていたことはなんです?
エレナ (小声で)セゴビア産のいい生地で、
 マントとスータンを作るように頼んでおいたわよ。
カリーソ (祈る)神があなたに、

 結婚一年目でご長男を授けてくださいますように!
エレナ 今日、婚約をすることになっているの。
カリーソ (祈る)その後も、たくさんのお子を授かりますように!
 (エレナに聞こえないように)
 神よ、一か月間、靴下も靴も履かずにがまんしますので!

 

守護天使(4) - buenaguarda

守護天使(2) - buenaguarda