読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

守護天使(1/12)

読む前に『守護天使』について知りたい方はこちらからどうぞ。↓

lopedevega.hatenablog.com

 

登場人物

 

ミサにやってくる若者たち
従者たち
カリーソ 女子修道院のサクリスタン(聖具管理人)
フェリックス クララの執事
ドニャ・クララ 修道院の院長 *「ドニャ」は貴族の女性の名につける敬称
ドニャ・エレナ クララの妹
ドン・ペドロ クララとエレナの父 *「ドン」は貴族の男性の名につける敬称
リカルド 老人
ドン・カルロス エレナの婚約者、のちに夫
歌手たち
天使
偽のカリーソ(天使)
羊飼い(キリスト)
宿屋の主人
声(聖母マリア
ヒネス カルロスの従者
守衛所の女性
三人の盗賊
リセーノ 村人
コスメ、リセーノの息子
二人の女性
二人の男性
水浴する二人の青年
果樹園の女性
銀細工師

 

第一幕
(シウダー・ロドリゴの街にある女子修道院付属聖堂の前。
 マントに身を包んだ女性たちが、従者たちとともに走って登場。)

 

女性1(レオナルダ) どうしよう?遅刻したみたいだわ!
女性2 だったら、さぼっちゃいましょう。
従者 あとでお祈りしておけばいいですよ。
女性1 (困った様子で)まずいわ。ミサに遅れるなんて。
 (女性2とその従者を睨んで)
 あなたたちを待っていたりしなければよかった。

 

 (男性たちが、反対側から登場。)

 

男性1 (男性2に)昨日、うちの侍女が
 ぼくに教えてくれたんだ。
 きみにとって、いい知らせだよ。
 レオナルダも、きみが好きなんだってさ。
 ぼくも、きみなら彼女にふさわしい男だと思うよ。
 だってきみは、真剣に彼女との結婚を考えているっていうんだから。
 (まわりの男性たちを見ながら、軽蔑するように)
 この聖堂には、ずうずうしくて下品な男たちも来るが、
 ぼくはそういうやつらが大嫌いだ。
 連中は、ミサに来る女性たちを眺めているだけで、
 祭壇のほうなんか、まるで見ちゃいない。
男性2 ぼくの恋が実ったのなら、
 神に感謝の捧げものをしないとな。
 レオナルダとぼくは、
 この聖堂の入口で会うことになっている。
 (少し考えて)ここで待っていてもいいんだが、
 聖堂に入って、彼女の姿を眺めているのも悪くない。
 (男性1に)ねえきみ、
 結婚というものは聖なる秘跡のひとつなんだから、
 そのためにぼくが彼女を見つめたって許されるよな?
 ぼくは、心のきれいな女性を、
 未来の妻として見つめるだけなんだから。
男性1 もちろんだよ。
 今日こそ、きみの願いがかなうといいな!
男性2 (入口にある聖水盤を見て、うっとりとしながら)
 この聖水に、彼女も手を浸したにちがいない。
(男性1に、心配そうな顔で)ぼくが手を浸しても、罪にはならないか?
男性1 あたりまえさ。
 聖水は、ぼくたちから罪と誘惑を遠ざけてくれるものだ。
 それ以外に何がある?
 聖水は、むしろきみの苦悩を和らげてくれるだろう。
 きみの恋は、誠実で正しいものなんだから。

 

 (男性1,2は聖堂に入る。
  サクリスタン⦅聖具管理人⦆のカリーソが登場。)

 

カリーソ (女性たちに挨拶する)
 主キリストがほめたたえられんことを!
女性2 カリーソさん、今日のミサは?
カリーソ (不機嫌に)あるかもしれませんね、奇跡でも起きれば。
 なんですか、今ごろやって来て?
 このシウダー・ロドリゴの街に、
 こんなだらしない人たちがいるなんて、
 まったくもって嘆かわしい。
 どうして寝坊したんです?
 (十字を切って)神よ、彼女らをお許しください。アーメン!
 (女性たちに)いいですか?
 ミサに遅刻するのは悪いことなんですよ。
 キリスト教徒というものは、
 神父様が時間を告げたらすぐにミサにあずかり、
 その日のお勤めが滞りなく行われるようにと祈るべきなんです。
 また、あの血に飢えた獅子のごとき悪魔が
 私たちの無垢な心を破滅させることがないよう、
 神にご加護を願わなければいけません。
女性1 (感心した様子で)あなたは本当に敬虔なのね、カリーソさん!
女性2 戒めの言葉、ありがたく頂戴するわ。
カリーソ (ますます饒舌になり)
 女ってものはみんな、
 9時も過ぎてから家を出る。
 そのくせ、マントに豪華な刺繍。
 裏地は白いカンブリック。
 靴は皮張り、コルク底。
 聖堂に入るや否や、
 小部屋めがけてまっしぐら。
 ダマスク織のクッションに座って、
 すました顔で、化粧の準備。
 吐き気がするほど猛烈な
 おしろいの匂いをまき散らし、
 色とりどりの絵具を出して、
 いったいどこの大画伯?
 あれこれ薬を調合して、
 まるで腕利きの薬剤師!
 お祈りの時間がきても、
 女たちは鏡をながめ、
 化粧のノリを確認してる。
 それから、喉の調子を整えて、
 ゲップみたいな発声練習。
 だれを獲物にしようというのか、
 歯をハンカチで磨きだす。
 まるで剣先を研ぐように。
 そして、男の気を引くために、
 骨粉や竜血で頬を染め、
 唇にはワックスを塗って、
 花びらみたいに見せかける。
 洗面台がどこかにあれば、
 せっせと顔に水をまく。
 安物のビーズみたいな
 偽の涙がいっちょうあがり。
 最後の仕上げは、
 世にもおそろしい毒の杯。
 男を甘く見ちゃいけない。
 女たちの魂胆ぐらいお見通しさ。
 その肌は、偽造肉みたいな匂いがする。
 毒杯は、それをごまかす調味料。
 見事な手さばきで香水をつけ、
 女たちは優雅な雌猫に変身する。
 たとえ偽りの仮面でも、
 目を楽しませるならそれでよし。
 畑に種をまくように、
 体に花を咲かせるだけ。
 化粧が終れば、お次は髪だ。
 熱であぶって縮れさせた
 ブロンドもどきの優雅な髪も、
 太陽の光の下では、
 白髪まじりの貧乏髪。
 二時間かけて結い上げたのに、
 編み込んだ房の間から、
 地毛の色が見えている。
 髪結いたちは左右から、
 しつこいほどのアドバイス。
 女たちはくたびれて、
 鏡に向かって大あくび。
 服の上に羽織るのは、
 噂にたがわぬ持参金。
 夫にとっては、不幸の源。
 女ってものは、うつろな空箱。
 飾り物ばかり詰め込んでる。
 合唱席に香が焚かれる頃になって、
 幕屋みたいな女たちは、
 威風堂々とやってくる。
 日曜でも平日でもおかまいなしに!
(女性たちに向かって)
 2時に来ておいて、ミサですって?
 祭壇の扉はもう閉まってますよ。
 どうせ、自分の姿を人に見せたいだけでしょう?
 虚栄におぼれていないで、
 地獄とか、生と死とか、
 罪と栄光のことについて考えなさい。

 

 (カリーソが話している間に、男性1,2が聖堂から出てきて
  レオナルダ⦅女性1⦆を見つける。)

 

女性1 (嫌悪感をあらわにして)もううんざりよ、カリーソさん。
 いやみもいいかげんにして。
女性2 女を目の敵にしてるとしか思えないわ。
 もっとほかにも言いかたがあるでしょうに。
カリーソ これでも私は、控えめに言ってるつもりですよ。
 去年の聖体行列を覚えていますか?
 あなたがたはそのときも、
 身支度に時間をかけて遅刻したじゃないですか。
女性1 (むっとして)私たちはこれでも、
 大学で学士号を取ってるんだから!
カリーソ (女性1のマントをつまんで)
 これが学士号?
女性2 違うわよ。
カリーソ こんなものをかぶっていて、
 私の顔が見えるんですかね?
女性2 マントをつけるのが、悪いっていうの?
カリーソ たいしたことじゃないですよ。
 マントの陰で、かつらを作っている程度ならね。
 あなたがたご自慢のマントは、
 隠しごとには便利なしろものです。
 露天商が使っている布と同じで、
 人に見られたくないものを隠せますから。
 悪魔たちはたいてい、
 昼間はそういうところに潜んでいるんですよ。
 そんな女にだまされる男たちは、気の毒ですねえ!
女性2 決めつけないでよ!
カリーソ 失礼しました。
 (男性1を見て)あそこにも、似たようなやつがいるな。
 カード遊びみたいに、
 マントの中をちらちら見せていやがる。
(男性たちに)さっさとミサに出なさい!きみたちは遅刻だ!
男性1 わかったよ。
カリーソ (女性たちに)あなたがたも、早く行きなさい。
女性1 行くわよ。
カリーソ (傍白)困った連中だ!
 今がカーニバルの時期だからって、
 大目に見てもらえると思うなよ。
女性2 (女性1に)信心深く生きるってのも大変そうね、レオナルダ。
男性1 (男性2に、皮肉まじりに)扉のところで待っていれば、
 彼女と話ができるよ。
 もし邪魔が入っても、このカリーソが、
 すごい奇跡をおこしてくれるだろうからね。
男性2 (怒って)ぼくは二度と、ここのミサには来ないぞ。
カリーソ (皆に)早く聖堂に入って!
 互いに離れて座らなきゃだめですよ。
 まじめにお祈りをしなさい。

 

(皆が聖堂に入る。カリーソのみが残る)

 

(独白)サクリスタンって立場の者はいつも、
 ああいう連中に責められるんだ。
 やつらは、てんで無知だから、
 人に敬意を払うということを知らない。

 

(聖堂の中から、陽気な音楽が聞こえてくる)

 

 そら始まった…ダンスだな。
 イタリアやフランスじゃあるまいし、
 こんなにカーニバルを派手に祝うなんて!
 神よ、このどんちゃん騒ぎをお許しください。
 まったく、あるまじきことだ。
 だれもかれも、あんなに浮かれやがって。
 いらいらしてきた。
 人々が堕落に向かっているのを見るのは、
 おれには耐えがたい。
 まだ終わらないようだな、この音楽は。
 おれは踊ったりせんぞ。
(次第に中の様子が気になってくる)
 しかし、歌を聴くぐらいはいいだろう。
 それほど下品な歌ではなさそうだから。

 

守護天使(2) - buenaguarda