Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

フアン・ラティーノについて

 

Juan Latino

Juan Latino

 

 『ばかなお嬢様』の中で、オタービオが娘のニーセに、フアン・ラティーノの話を聞かせる台詞があります。

 

オタービオ グラナダのフアン・ラティーノを知っているか?
 彼は黒人で、彼の母親はセッサ公の奴隷だった。
 彼自身も、もともとは奴隷だった。
 フアン・ラティーノは学識があったので、
 ある市会議員の娘のラテン語教師になり、
 その娘と結婚してしまったのだ。
 彼はラテン語の活用を、
 「私は愛する」「あなたは愛する」という具合に、
 その娘に教えたんだろう。
 いわば、ラテン語のせいでふたりは結婚したんだ。
ニーセ ふうん。
 でも、お父様の娘でいる限り、そういうことは起きそうにないわね。

                      (『ばかなお嬢様』)

 

 フアン・ラティーノ(Juan Latino 1518?-1596)は実在の人物です。幼いころにアフリカから母親とともに奴隷としてスペインに連れてこられ、セッサ公(Duque de Sessa)フェルナンデス・デ・コルドバの家に買われました。セッサ公は彼に洗礼を受けさせ、息子のゴンサーロと同様に教育しました。そして彼は、ラテン語に秀でていたことから、フアン・ラティーノラテン語のフアン)と呼ばれるようになります。セッサ公は彼を自由の身にし、彼はカール5世が創設した大学のラテン語教授となりました。グラナダ大司教ペドロ・ゲレーロの友人でもあり、彼のラテン語の才能については、セルバンテスが『ドン・キホーテ』の序文でも言及しているほどです。

 フアン・ラティーノは、教え子のドニャ・アナ・カルバハルという身分の高い女性と恋をし、結婚しました。このことは当時の人々を驚かせたようです。同時代の劇作家ディエゴヒメネス・デ・エンシーソ(Diego Jiménez de Enciso)は、この恋愛を題材として『フアン・ラティーノ』というコメディアを書いています。

 

 ロペがフアン・ラティーノと面識があったかどうかはわかりませんが、資料によれば彼は1605年に第6代セッサ公ルイス・フェルナンデス・デ・コルドバの秘書になっています。セッサ公はロペのよき擁護者であり続けました。『ばかなお嬢様』が収められた戯曲集を、ロペはセッサ公に捧げています。フアン・ラティーノのことが台詞に出てくるのも、おそらくは彼がセッサ公の家と関係の深い人物であるからなのでしょう。

 

参考文献:Felipe Blas Pedraza Jiménez, Lope de Vega : pasiones, obra y fortuna del monstruo de naturaleza,  Editorial Edaf, 2009.