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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ラウレンシオの誤算

 『ばかなお嬢様』は、ロペ・デ・ベガが生きた時代のマドリードを舞台としています。第一幕でリセオがイリェスカスの街についてトゥリーンに説明する台詞、レアンドロが、生き馬の目を抜くようなマドリードでの生活をリセオに語る台詞、ラウレンシオが経済力のない自分の不遇を嘆く台詞などに、同時代の人々の生活や日常的な悩みが反映されていて興味深いです。

 大航海時代を経て新大陸貿易による富を得たスペインでは、インディアーノ(indiano)と呼ばれる「新大陸帰りの成金」が現れました。第三幕のフィネアとニーセのダンスの場面では、インディアーノを風刺するような歌が歌われます。こうした成金が出現するいっぽうで、身分は高くても経済的に困窮するラウレンシオのような立場の人間もいたわけです。こういう男性にとって、文筆活動などはあまり収入を得られるものではなく、裕福な家庭の女性と結婚して持参金を得るという方法は非常に魅力的だったのでしょう。

 

 オタービオは、大貴族というほどではありませんが平民でもない、中流階級に属します。この時代の結婚は、劇の内容から察するに、親や親戚が決めた相手と婚約し、本人同士が会ってお互いの意思を確認してから正式に結婚するというのが慣例だったようです。しかし、ロペ自身がイサベル・デ・ウルビーナをかどわかしたとして訴えられながらも、最終的にはイサベルの親に結婚を認めさせたように、恋愛結婚も不可能だったわけではありません。

 

 ラウレンシオはあきらかに持参金目的でフィネアに近づき、彼女と自由に会う機会をつくるために、姉のニーセとも恋人の関係を続けているふりをします。嘘つきで打算的な男性ですが、憎めない面もあります。他の男性はだれひとり恋愛対象として見ていないフィネアを一人前のレディとして扱い、好きになろうと真剣に試みるのが彼のいいところでしょう。(マヌエル・イボラ監督の映画では、ホセ・コロナードが野性味のあるラウレンシオを演じています。)しかし、フィネアの心をつかむためにやったことが、結果的にフィネアを賢い娘にしてしまい、彼の計画は狂ってしまいます。


La dama boba - YouTube

 総合的に見れば、これは「愛が人を教育する」というテーマの劇ということになります。フィネアはもともと寛容な家庭でのびのびと育てられた女性ですが、異性への恋心が彼女の知性を飛躍的に向上させた点がこの劇の楽しいところだと思います。


La Dama Boba - Trailer - YouTube