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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(12/12)(終)

『ばかなお嬢様』 (La dama boba)

第二十二場
(リセオ、トゥリーン)

 

リセオ どう思う?
トゥリーン あきらめて、フィネアさんと結婚しなさい。
 ふつうの持参金なら、2万ドゥカードってところでしょう。
 ばかな娘をもらうかわりに、
 あちらがさらに2万ドゥカードを上乗せしてくれるっていうなら、
 けっこうな話じゃないですか。
 ここで結婚をやめたりしたら、
 みんなあなたのことを、なんてばかなやつだと笑うでしょうよ。
リセオ それでもいい。
 フィネアとは結婚しない。
 ぼくはどうしてもいやなんだ、
 ばかな娘と結婚するのは。
トゥリーン もう、所持金もほとんどないのに、
 いまさら結婚を断るっていうんですか?
 あなたは、高い代償を払うことになりますよ。

 二人は退場。

 

第二十三場
(フィネアとクララが入ってくる)

 

フィネア 今のところ、秘密はばれていないわね?
クララ 心配いりませんよ。うまくいっています。
フィネア 私がこんな計画を考えられるようになったのも、
 ラウレンシオのおかげだわ!
クララ あのかたはずいぶん、
 しんぼうづよく屋根裏部屋での生活に耐えていらっしゃいますね。
フィネア べつにおかしくないわ。
 あそこは、愛し合う私たちが二人きりになれる家なんだもの。
 ラウレンシオは、少し不便でしょうけど。
クララ そして、ネコが今日、屋根裏で赤ちゃんを産みましたよ!
フィネア 屋根の下に住んでいる人間たちに、気をつかってくれたのね。
クララ (歌う)屋根裏部屋に住んでるのは、
 プラトンも顔負けの哲学者!
フィネア 違うわ。
 だって、ラウレンシオというのは、聖人からとった名前なんだから。
クララ (歌う)屋根裏部屋に住んでるのは、
 尊大だけど、偉大な男!
 屋根裏部屋に住んでるのは、
 愚者と呼ばれる、賢い男!
フィネア 私、こう思うの。
 ばかな人たちの欠点は、
 自分たちが悪いと思わないことじゃないかって。
クララ そのとおりですね。
フィネア 知性というものは、
 ばかな人たちから、盲目的な自信を奪うの。
 私がばかな娘だったとき、
 私は自分をとても賢いと思っていたわ。
 でも、人間は賢くなると、むしろ謙虚になるの。
 いろいろなことを学んだ今の私は、
 自分がいかに無知であるかということを知っているわ。
クララ (歌う)屋根裏部屋に住んでるのは、
 罪をおかした闘牛士!
 ベッドの上では死ねない男!
 屋根裏部屋に住んでるのは、
 デスグラシアス(desgracias:不運)に見舞われても、
 「グラシアス(gracias:ありがとう)」と言いながら、
 おちぶれていく敗残者!
 屋根裏部屋に住んでるのは、
 恋に胸こがすお嬢様!
 屋根裏部屋に住んでるのは、
 インディアスからつれてきた、
 いとも貴重なる雄のワニ!
 屋根裏部屋に住んでるのは、
 ゴート人に蜂起した
 モロッコ生まれのイスラム教徒!
 屋根裏部屋に住んでるのは、
 愛のことばを書く詩人!
 だれかに命を狙われる男!
 それから…
フィネア ちょっと待って。
 お父様がこっちへ来たわ。

 

第二十四場
(オタービオ、ミセーノ、ドゥアルド、フェニーソが入ってくる)

 

ミセーノ そのことは言ったのか?
オタービオ 言ったよ。
 私があいつに腹を立てているということもな。
 私を怒らせるような輩は、この家にいてはならんのだ。
フェニーソ あんなくだらない男を追い出すのは、当然のことですよ。
オタービオ (ドゥアルドに)ありがたいことに、
 ミセーノは、ニーセときみとの縁談をもってきてくれた。
 ニーセには、こんないい話には、
 いつまでも迷っていてはいけないと話した。
 私の心は決まっている。
ミセーノ (フィネアに気づいて)待て。フィネアがここにいるぞ。
オタービオ (フィネアに)フィネア、話があるんだ。
フィネア お父様ったら、
 私に、男の人から隠れろって命令したくせに。
 私に会いたいなら、ひとりで来てよ。(去ろうとする)
オタービオ ちょっと待ってくれ。
 おまえの結婚の話なんだ。
クララ 男なら、だれでもいいから結婚しろっていうんですか?
オタービオ 私に文句があるのか?
フィネア 違うの、お父様。
 でも、男の人たちが入ってきたから、
 私は屋根裏部屋へ行くわね。
オタービオ ここにいる人たちは、おまえのために集まってくれたんだよ。
フェニーソ (フィネアに)あなたに、大切な用事があって来ました。
フィネア やめてよ!
 言ったでしょう。お父様は、
 男の人に会うなと私に命令したって。
ミセーノ (フィネアに)聞いてくれ。私たちは、
 きみをフェニーソと結婚させようと思っているんだ。
フィネア ご冗談を。
 私は、聞き分けのいい娘なのよ。
ミセーノ フェニーソを見てくれ。いい男だろう?
フィネア さよなら、ミセーノさん!

 フィネアとクララは退場。

 

第二十五場
(ドゥアルド、オタービオ、ミセーノ)

 

ドゥアルド どうしてあなたは、フィネアに
 男たちから隠れるよう命令したりしたんですか?
オタービオ すまないな。
 まったく、困った娘だ。
ミセーノ リセオが来たようだ。
 話にけりをつけようじゃないか。
オタービオ かんじんのフィネアがいないというのに?

 

第二十六場
(リセオ、ニーセ、トゥリーンが入ってくる)

 

リセオ (ニーセに)ぼくはもう、ここを去ろうと思う。
 ただ、その前にきみに伝えておきたいんだ。
 きみに恋したために、ぼくが失ってしまったもののことをね。
ニーセ ほんとうは、あなたがりっぱな人だってことはわかってるの。
 だから、もしお父様さえ賛成してくだされば、
 私はあなたの妻になるつもりよ。
 これまでの嫉妬の苦しみはつらかったけど、
 あなたと幸せな結婚ができれば、
 それは失恋への素敵な復讐になると思うわ。
リセオ (聞いていない様子で)ああ、ニーセ!
 きみに会わなければよかった。
 トロイアヘレネみたいに、
 きみはたったひとりで、ぼくを陥落させてしまったんだ。
 ぼくはきみの妹と結婚するためにここへ来た。
 そしてきみを見たときから、
 ぼくはきみの美しさと知性に、心を奪われてしまった。
 きみの前では、黄金も無力だ。
 きみは、常識という巨大な障害を突き崩し、
 ぼくの心を屈服させた。
 ぼくの敗北は、きみの美しさを増幅させた。
 きみの美しさに目が眩まない男なんて、いないだろう。
 ニーセ、ばかなぼくのことを哀れと思ってくれ。
 もう、ぼくはここからいなくなるんだから。
トゥリーン (ニーセの様子を見て)ニーセ様、
 あなたの、氷のように冷たい心も解けたようですね。
 あなたも失恋の痛手を経験なさいましたからね。
ニーセ トゥリーン、私たち女は、
 男の人が流す涙ってものに、いちばん弱いのよ。
 火あぶりや拷問や毒薬よりも破壊力があるの、
 男の人の涙には。
トゥリーン (ニーセの前にリセオをつき出し)
 それじゃ、この人をごらんなさいよ。かわいそうに。
 あなた、これを見てなんとも思わないんですか?
 あなたは血も涙もない野獣ですか?
 トラですか?ヒョウですか?ジャガーですか?
 魔物ですか?キルケーですか?パンドラですか?
 ええと、それから…
 私は、あんまり神話にくわしくないんですよ。
ニーセ はいはい、私が降参するわよ。
 それでいいでしょ?

 

 セリアが入ってくる。

 

セリア ニーセ様、聞いてください。
ニーセ セリアなの?
セリア はい。
ニーセ なあに?
 いまはみんな、あなたにかまっていられないのよ。
 まあいいわ。どうしたっていうの?
オタービオ (ニーセに)なにごとだ?
セリア 気がかりなことがあるんです。
オタービオ 気がかりなこと?
セリア さっきクララが、
 ヤマウズラ二羽と、肉を二切れと、
 ウサギ二羽と、パンと、タオルと、
 ナイフと、塩入れと、酒袋を、
 かごに入れて運んでいたんです。
 私がこっそりついていくと、
 彼女は屋根裏部屋へ入っていきました。
オタービオ なんだ、そんなことか。
 それは、フィネアのためだろう。
フェニーソ ばかな女性というのは、
 そんなにたくさん食べるものなんですか?
オタービオ 私がフィネアに、
 屋根裏部屋へ行くように命令したのだ。
 男たちから身を隠すためにな。
セリア それはいま初めてお聞きしました。
 だとしても変ですね。
 私がクララについていくと、彼女は扉を閉めたんです。
ミセーノ それで?
セリア 私が部屋の中をのぞくと、彼女は床の上に
 白いテーブルクロスを何枚か敷いていました。
 ピクニックで、地面にじゅうたんを敷くときみたいに。 
 その上に、クララと、フィネア様と、
 それに二人の男の人が座ったんです。
オタービオ 男だって?けしからん!
 おまえの知っている男たちか?
セリア 顔は見えませんでした。
フェニーソ (セリアに)思い当たる男はいないのか?セリア。
オタービオ ラウレンシオだろうか?
 そんなはずはない。あいつはトレドにいるんだから。
ドゥアルド 落ち着いてください。
 ぼくとフェニーソが、上がって見てきましょうか?
オタービオ いや、私がひとりで行く。
 私の家でそんなことが起きるなんて、
 なんという侮辱だ!(退場)

 

第二十七場
(フェニーソ、ニーセ、ドゥアルド、リセオ)

 

フェニーソ やっかいなことにならなければいいが。
ニーセ 大丈夫よ。お父様は賢明なかただもの。
ドゥアルド そのとおり。
 まちがいなく、知性とは貴い宝石のようなものだ。
フェニーソ ドゥアルド、
 愚かな人間は常に過ちを犯す。
 だからニーセ、きみはおおいに賞賛されるべきだ。
 ヨーロッパじゅうを見ても、
 きみほど知性にあふれた女性はいない。
リセオ そして、彼女ほど美しい女性もいない。

 

第二十八場
(ラウレンシオ、剣を抜いて彼を追うオタービオ、フィネア、クララ、ペドロが入ってくる)

 

オタービオ (ラウレンシオに)よくも私の家でこんなことを!
 覚悟しろ!
ラウレンシオ (逃げながら)オタービオさん、剣を収めてください。
 ぼくです。妻と一緒にいただけです。
フェニーソ ラウレンシオか?
ラウレンシオ そうだよ。
オタービオ なぜおまえがここにいるんだ?
 卑劣なやつめ。
フィネア お父様、なにを怒っているの?
オタービオ フィネア!おまえはとんでもないやつだ。
 ラウレンシオがトレドへ行ったなどと
 嘘をついたな?
フィネア お父様、私たちはこの家の屋根裏部屋を、
 「トレド」って呼んでいるのよ。
 だから、嘘はついてないわ。
 高い場所だけど、
 そこにはアルカサル(城)もあるし、
 セゴビア橋もあるのよ。
 そして、フアネーロが作った
 水の汲み上げ装置で、
 ロープを使わずに水が昇っていくの。
 屋根裏部屋に隠れろと、お父様は私に命令しなかった?
 だから、ぜんぶ屋根裏部屋が悪いのよ。
 あそこに独りでいろっていうの?
 そんなのは無理よ。
 私が怖がりなのは知ってるでしょう?
オタービオ (怒って)その舌を切ってしまえ!
 その口を引き裂いてしまえ!
ミセーノ これでは、どうしようもないな。
ニーセ クララが食事をはこんでいたのはどうして?
クララ お嬢様が、私に命令なさいましたので。
ミセーノ オタービオ、きみは賢明な人間だ。
 どうすればいいか、わかっているだろう。
 どちらを選ぶかはきみ次第だ。
 二人を斬り殺すか、自由にしてやるか。
オタービオ きみは、どちらがいいと思う?
ミセーノ 自由にしてやるのがいいだろう。
オタービオ (フェニーソに)フェニーソ、
 私は、よかれと思ってきみを呼んだのだが、
 こういうことになってすまない。
 私に悪意がなかったことはわかってほしい。
 (ドゥアルドに)ドゥアルド、きみにも謝りたい。
 フィネアにはラウレンシオという夫ができてしまったし、
 ニーセはどうやら、リセオと結婚することになりそうだ。
 昨日、リセオは私に、
 ニーセを愛しているから結婚したいと言ったんだ。
フェニーソ (ドゥアルドと目くばせして)
 それがお二人の幸せであるなら、
 私たちはいさぎよく身を引くことにしましょう。
 お二人は、心から望んでいる相手を得たのですから。
ラウレンシオ 風向きが良くなってきたぞ。
 (オタービオに)フィネアの夫として認めてもらえますか?
オタービオ (フィネアに)フィネア、彼の妻になるがいい。
 おまえは、ばかで機知にあふれた娘だ。
リセオ (オタービオに)ぼくも、ニーセと結婚できますか?
オタービオ ああ。
ラウレンシオ 最高だ。
 ぼくは彼女に知性を与えた。
 彼女はぼくに、4万ドゥカードを与えてくれた。
ペドロ 名犬ペドロにも、ごほうびの骨をもらえませんか?
 お二人の結婚式のテーブルから、
 おこぼれをちょうだいできてもよさそうなものですが。
フィネア (ペドロに)あなたは、クララと結婚したらいいわ。
トゥリーン 私は、みんなが幸せなときに、
 ひとりだけ不幸になるさだめなんですね?
ニーセ セリアはあなたが好きなのよ、トゥリーン。
 彼女と結婚したらいいじゃない。
トゥリーン 調理場の天使が、おれの妻になってくれるなんて!
フェニーソ (ドゥアルドに)残っているのは、きみとぼくだけだな。
 われわれも結婚しようじゃないか。
 きみの麗しいお手を、どうかぼくに。
ドゥアルド それは客席の皆様にお願いしろよ。
 (客席に向かって)われわれの至らぬ点はお見逃しくださいますよう。
 賢明なる方々のために、
 この、ばかげた芝居を終わりにいたします。
 

 

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