Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(11/12)

第十二場
(ラウレンシオ、ペドロ、フィネア)

 

ラウレンシオ 出てもいいかな?
フィネア どうだった?
ラウレンシオ 最高だった。きみの計画はすばらしいよ。
フィネア そうね。でも演技とはいえ、
 またばかな娘に戻るのは、悲しいことだったわ。
 ばかのふりをしていてさえこう思うのなら、
 ほんとうにばかな人たちは、どう感じているのかしら?
ラウレンシオ なにも感じないさ。
ペドロ もし、鏡が人間の愚かさを映すことができたら、
 ばかな人たちは鏡の前から逃げ出しますよ。
 自分のことをりこうだと思いこみでもしないと、
 人間はみじめになるだけですからね。
フィネア ラウレンシオ、
 なにかやさしい言葉を私にかけてくれない?
 私、ばかになってしまった自分のこの気もちを
 なぐさめてあげたいのよ。

 

第十三場 
(ニーセとセリアが入ってくる)

 

ニーセ (フィネアとラウレンシオを見て)またあの二人、一緒にいるわ。
 まるで恋人みたい。
セリア あなたをだまそうとしているだけかもしれませんよ。
ニーセ (セリアに小声で)ここから、二人の話を聞いていましょう。
ラウレンシオ (フィネアに)フィネア、
 どっちの言葉がほしい?
 きみを気づかう言葉?
 それとも、ぼくがいま、きみに言いたい言葉?
 どっちでもいいよ。だって二つとも同じなんだから。
 ぼくの気もちはきみの中にある。
 その中から、やさしいものをきみが選んでくれればいい。
 想像してごらん。
 きみはいま、四月の草原を歩いているんだ。
 そこで、たくさんの花を摘んでくれ。
 それが、ぼくのきみに対する気もちなんだから。
ニーセ セリア、これは、恋人が言う言葉だと思う?
 それとも、義理の兄が、親切から言う言葉だと思う?
セリア そりゃ、親切から言ってるんでしょう。
 でも、あんな甘ったるいことを言う義理の兄なんて、
 私はいやですね。
フィネア 私の願いを、神様が叶えてくれないかしら。
ラウレンシオ あきらめなければ、きっと叶うよ。
ペドロ (ラウレンシオに小声で)ニーセさんが聞いていますよ。
ラウレンシオ まずい。
フィネア 私、また、ばかに戻るわね。
ラウレンシオ 頼む。
フィネア (わざと乱暴に)あっちへいって!
ニーセ (ラウレンシオを引きとめる)待ってよ。
 どういうことになってるのか、説明してもらいましょうか。
ラウレンシオ なにを怒ってるんだ?
 やきもちでも焼いてるのか?
ニーセ 私の勘違いなら、ただのやきもちだろうけど、
 ほんとうにあんたがフィネアとつき合っているなら、
 これはあんたの裏切りじゃないの!
ラウレンシオ 簡単に結論を出すんだな、きみは。
 そして、ごまかされていると思ったら、
 そこにつけ入るんだな。
 きみは、リセオを好きになるための
 大義名分がほしいのか?
 彼は、本気できみとの結婚を望んでいるっていうのに。
 ごりっぱだよ、ニーセ。
 自分が結婚するために、
 ぼくという悪者が必要だなんて。
 もしきみが、彼と結婚したいのなら、
 素直に彼を受け入れればいいだろう。
 ぼくを責めるのはやめてくれ。(退場)
ニーセ どこへ行く気?私を置き去りにして。
 あんたに文句を言いに来たのに。
 あんたの反論も聞きたかったのに。
 これじゃ、話もできないじゃない。
ペドロ 私の主人の言っていることはもっともですよ。
 どうぞ、結婚なさってください。
 それでもう、終わりにしましょう。(退場)

 

第十四場
(フィネア、ニーセ、セリア)

 

ニーセ なんなのよ、これは?
セリア ペドロまで、怒って行ってしまいました。
 あの男が、主人と同じように卑劣だってことがわかりましたよ。
ニーセ あんな人、もう大っきらい。
 私の人生は、苦難の連続だわ。
 自分が非難される前に先手をうつなんて、
 きたないやり方ね!
セリア 私だって、
 あんな根性曲りのペドロのことなんか、もう知りません。
ニーセ (フィネアに)あんたもそうよ。
 私を裏切っておきながら、
 よくも平然としていられるわね。
 私をわざと怒らせようと企んでいるんでしょう?
 あんたは、半人半魚のセイレーンみたいな女ね。
 もともと魚なみにばかだったくせに、
 いつのまにか知恵をつけて、
 私に災いをもたらすためにやってきたんだもの。
 彼とせいぜい、楽しくやったんでしょうね?
フィネア 半信半疑の精霊ってなに?
 私、半信半疑でもないし、精霊でもないんだけど。
 しっかりしてよ、ニーセ。
ニーセ なにを言ってるのよ、この子は?
セリア また、ばかになってます。
ニーセ いいかげんにしなさい!
 ばかか利口か、どっちかに決めたらどう?!
 あんまり私を怒らせると、
 いくら妹でも、許さないわよ。
フィネア ニーセは、神父さまみたいに、
 人間の魂を許すことができるの?
 クエンタ(cuenta:ロザリオ、数珠)を使って許すのかしら?
ニーセ クエンタ(cuenta *考えという意味もある)はあるわよ。
 でも、あんたを許すことは考えてないわ。
 あんたは私を裏切ったんだから。
 私の魂そのものである恋人を奪うつもり?
 この裏切り者!
 あんたはずる賢い女だわ。
 私の魂を返してよ!
フィネア また?
 みんな、私に魂をねだるんだから。
 私は魂のコレクター?
 それとも、人の魂を盗む泥棒?
 山の中で蛇を飼っている悪魔かなにか?
ニーセ ばかな話はもうたくさん。
 私の目の前から消えてよ!

 

第十五場
(オタービオ、フェニーソ、ドゥアルドが入ってくる)

 

オタービオ なんの騒ぎだ?
フィネア (オタービオに)みんなが私に、魂をよこせって言うの。
 私は煉獄の番人かしら?
ニーセ そうよ!
フィネア じゃあ、逃げなさいよ、早く。
オタービオ (ニーセに)なにを怒っているんだ、おまえは?
フィネア ニーセは頭がいいから、
 普通じゃないものを欲しがっているの。
 魂とか、ハンシンハンギとか、セイレイとかをね。
オタービオ また、わけのわからないことを言っているようだ。
ニーセ そうでしょう?
オタービオ (ニーセに)おまえのせいで、
 フィネアがばかになってしまったんじゃないのか?
フィネア ニーセが悪いのよ。
 私のものを取ろうとするんだもの。(ニーセを叩こうとする)
オタービオ また、元のもくあみか!
フェニーソ (フィネアを見て)哀れなもんだ。
ドゥアルド みんな、フィネアが賢くなったと言ってなかったか?
オタービオ なんてことだ!
ニーセ (オタービオに)私から、ひとつ提案してもいい?
オタービオ 言ってみろ。
ニーセ お父様に、はっきりと宣言してほしいの。
 ラウレンシオを、もうここへは来させないって。
 そうするのが、わたしたちの父親としての義務だし、
 ご自身の名誉を守ることにもなるんだから。
オタービオ なぜだ?
ニーセ フィネアがぜんぜん正式に結婚しないのも、
 私がお父様の機嫌をそこねているのも、
 彼のせいだからよ。
オタービオ ラウレンシオを追い出せばいいのか。
 それなら、実に簡単なことだ。
ニーセ それで、この家は平和になるわ。

 

第十六場
(ペドロとラウレンシオが入ってくる)

 

ペドロ うまくいきましたね。
ラウレンシオ フィネアのおかげだよ。
セリア ラウレンシオ様がいらっしゃいました。
オタービオ (ラウレンシオに)ラウレンシオ、
 私はこの家を建てたとき、
 アカデミアなどを作るつもりはなかった。
 ニーセを育てていたときも、
 この娘を詩人などにするつもりはなかった。
 私は、娘を完璧な女性にするために文学を学ばせたのだ。
 私は常々、娘を節度ある女性にするには
 ほどほどの教育をしておけばよく、
 それ以上の知識を与えるのは不要だという意見に賛同してきた。
 私はこれ以上、詩は望まない。
 ソネットはもう終わりだ。
 音楽の演奏もいらない。
 私は、残りの人生を静かに過ごしたい。
 きみが、しゃれた服でも作りたいというなら、
 よそへ行って仕事をしたまえ。
 ガルシラーソの詩集のほうが、よっぽどわが家のためになる。
 そういうものは2レアルで売っているし、
 きみが作る詩などよりもずっと優美で、
 上品なソネットをたくさん紹介しているんだ。
 もうここへ、くだらない悪習を持ち込まないでくれ。
 出ていってもらおう。
ラウレンシオ いいですよ。
 あなたはぼくに、妻を与えてくださったんですから。
 あなたは、あなたの家で、好きなように楽しまれたらいい。
 ぼくはぼくの家で、自由に楽しむことにします。
オタービオ 妻?
ラウレンシオ フィネアのことです。
オタービオ 気はたしかか?
ラウレンシオ ひと月以上前に、彼女は結婚を承諾してくれました。
 証人も三名います。
オタービオ それはだれだ?
ラウレンシオ ドゥアルドと、フェニーソと、ペドロです。
オタービオ (三人に向かって)きみたち、それはほんとうか?
フェニーソ (オタービオに)オタービオさん、
 フィネアはたしかに、自分の意志で結婚を承諾しました。
ドゥアルド そのとおりです。
ペドロ 私の主人がそう言っているんですから、
 まちがいありません。
オタービオ フィネアはばかなのだから、簡単にだませる。
 私の娘が、だまされて結婚を承諾したのなら、そんなものは無効だ。
 (フィネアに)答えなさい、フィネア。おまえはばかなんだろう?
フィネア なりたいときは、ばかになるわ。
オタービオ なりたくないときは?
フィネア ならないわ。
オタービオ はっきりせんな。
 しかし、ばかでないとすれば、フィネアはリセオと先に婚約しているのだから、
 彼の妻になるべきだ。
 いますぐ、結婚の届け出をしてこよう。(退場)
ニーセ (セリアに)来て、セリア。私たちも行きましょう。
 (傍白)私はふられたのね。みじめな気分だわ。

 

 ニーセとセリアは退場。

 

ラウレンシオ (ドゥアルドとフェニーソに)きみたちも出ていけよ!
 どうせ、ぼくを笑いものにする気だろう?
フェニーソ (にやにやして)そのとおり。
ドゥアルド 残念だったねえ!
フェニーソ こんどは、またニーセを口説こうっていうんだろ?
ドゥアルド やりそうだよな、こいつなら。

 

 ドゥアルドとフェニーソは退場。

 

第十七場
(ラウレンシオ、フィネア、クララ)

 

ラウレンシオ もうおしまいだ。
 ニーセがぼくたちのことを、オタービオさんに話したにちがいない。
 ここを追い出されたら、
 きみに会うこともできないよ、フィネア。
フィネア 出ていかなければいいのよ。
ラウレンシオ むりだよ。どこにいろっていうんだ?
フィネア あなたの隠し場所くらい、ちゃんと用意してあるわ。
ラウレンシオ どこに?
フィネア この家には、すてきな屋根裏部屋があるの。
 クララ!

 

 クララが入ってくる。

 

クララ なんですか、フィネア様?
フィネア クララ、私の運命はあなたの手に握られているのよ。
 ラウレンシオを屋根裏部屋へ連れていってあげて。
 だれにも見つからないようにしてね。
クララ ペドロは?
フィネア 彼も一緒よ、もちろん。
クララ (ラウレンシオに)ご案内します。
ラウレンシオ (フィネアに)なんだか、おそろしくなってきた。
 こんなことをして大丈夫なのか?フィネア。
フィネア なにがよ?
ペドロ クララ、食事の時間になったら、
 あんたのご主人に頼んで、食べ物を持ってきてくれ。
クララ まったく、食いしん坊なんだから。
ペドロ (傍白)屋根裏に隠れるなんて。ネコじゃあるまいし!

 

 ラウレンシオ、ペドロ、クララは退場。

 

第十八場。

フィネア(独り)私がラウレンシオを愛していると
 公表できないなんて、悲しいことね!
 私は恋というものを知ったから、
 理性を備えた女性になれたっていうのに。
 世の中って、理不尽だわ。
 でも、彼とこっそり会う生活というのも楽しそうね。

 

第十九場
(オタービオが入ってくる)

 

オタービオ(傍白)あいつに、私の怒りを思い知らせてやろう。
 剣ではなく、法律によってではあるが。
フィネア お父様、まだ怒ってる?
オタービオ 結婚の手続きのために戻ってきたんだ。
フィネア 私が悪かったの。ごめんなさい。
オタービオ それで、ラウレンシオは?
フィネア もう彼は、この家には来ないと誓ったわ。
オタービオ どこへ行ったんだ?
フィネア トレドへよ。
オタービオ それはよかった!
フィネア もう、彼がマドリードへ戻ってくる心配はないわ。
オタービオ フィネア、おまえは
 リセオに恋することによって、りこうな娘になったんだろう?
 それがどうして、またばかになってしまったんだ?
フィネア お父様、私にどうしてほしいの?
 そもそも、ばかな人間を信用しちゃいけないのよ。
オタービオ なんとかしなくては。
フィネア もし、また別の男の人が現れたら、
 どうするつもり?
オタービオ 男どもは、簡単におまえをだましてしまうから、
 男が家に来たら、おまえはどこかに隠れなさい。
 だれも、おまえを見ることがないように。
フィネア どこに隠れればいいかしら?
オタービオ 人目にふれない場所だ。
フィネア 屋根裏部屋はどうかしら?
 ネコたちがいるところよ。
 あそこにいてもいい?
オタービオ だれにも見られない場所なら、
 おまえの好きなところでいいよ。
フィネア それじゃ、決まりね!
 私、屋根裏部屋へ行くわ。
 お父様の命令なら、それは絶対だもの。
 私に命令したってことを、ちゃんと覚えておいてね。
オタービオ わかった。

 

第二十場
(リセオとトゥリーンが入ってくる)

 

リセオ(傍白)ニーセのことがほんとうに好きだったから、
 どうしても彼女のことが忘れられない。
フィネア 男の人たちが来たわ。
 お父様、私、屋根裏部屋へ行くわ。
オタービオ リセオなら、その必要はないよ。
フィネア いやよ。
 だって、男の人が来たんだもの。
オタービオ リセオとトゥリーンは、もともとこの家にいるじゃないか?
フィネア 命令には、絶対に従わなくてはいけないんでしょう?
 私はもう、男の人には会わないわ。
 正式に結婚した夫以外にはね。(退場)

 

第二十一場
(リセオ、オタービオ)

 

リセオ フィネアのことを心配されているのはわかります。
オタービオ これが父親というものなのだよ。
リセオ ぼくから、ひとつ提案があるのですが…
オタービオ ラウレンシオをなんとかしろというんだろう?
 それなら大丈夫だ。
 彼がフィネアをたぶらかすようなことは、もう起きないだろう。
リセオ なぜです?
オタービオ 彼は、トレドへ行ってしまったらしい。
リセオ それはよかった!
オタービオ それで、きみのほうはどうなんだ?
 フィネアと正式に結婚もせずに、
 ずっとここで生活するつもりかね?
 きみがだらだらと予定を先延ばしにしていては、
 同じような不都合が続くのだ。
 きみとフィネアの婚約から、
 もう二か月も経つんだぞ。
リセオ ずいぶんな言い方をされますね。
 ぼくとフィネアとの縁談は、
 親戚からなかば強いられてのことでしたし、
 フィネアはとんでもなくばかな女性です。
 ぼくに、彼女を好きになれというんですか?
オタービオ なるほど。やっと本音を言ったな。
 しかし、フィネアは無垢な娘だし、美人だし、
 持参金だって多いじゃないか。
 ドブロン金貨は、最も堅い大理石の倍の価値があるんだぞ。
 きみは、4万ドゥカードの上に、不死鳥でも求めているのか?
 フィネアは足をひきずっているかね?手が不自由かね?
 目が不自由かね?
 もしそうだったとしても、なにが不足なんだ?
 金粉で化粧をするわけでもないんだから。
リセオ ぼくは、ニーセと結婚したいんです。
オタービオ ニーセだと?
 私は、ほんの二時間前に、
 ニーセとドゥアルドを婚約させたばかりだ。
 はっきり言っておくが、
 明日のこの時間まできみに猶予を与えるから、
 よく考えておきなさい。
 きみがフィネアと結婚しないのなら、
 一生、この家に足を踏み入れることは許さない。
 きみも、ラウレンシオと同類だということだ(退場)

 

 

ばかなお嬢様(12) - buenaguarda

ばかなお嬢様(10) - buenaguarda