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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(9/12)

『ばかなお嬢様』 (La dama boba)

第二十三場
(ラウレンシオが入ってくる)

ラウレンシオ(傍白)二人だけで話をしているな。
 リセオがもしニーセに告白したら、
 ぼくがニーセに出まかせを言ったことがばれてしまう。
 (ニーセと目が合う)まずい、見つかった。
ニーセ(リセオの背後にいるラウレンシオに向かって)
 あなたが来てくれて、うれしいわ!
リセオ (自分に言われたと思い)え?ほんと?ニーセ。
ニーセ みんな、あなたが私をだましているって言うだろうけど、
 私は信じないわ。
 あなたがそんなことをするなんて思えないもの。
リセオ だましている?
 ニーセ、ぼくは誓って言うけど、
 これまでフィネアに愛情を感じたことなんかないんだ。
ラウレンシオ(ニーセに)ニーセ、
 ぼくに向かって話しているんだろうけど、
 リセオは自分に言われているんだと思って、喜んでるよ。
ニーセ (怒って)私、もう行くわ。
 からかうのも、いいかげんにしてよ。
 なにが愛情よ、ばかばかしい!
リセオ どうして行っちゃうんだ、ニーセ?
 ぼくを喜ばせておいて!ひどいよ!
ニーセ どいて!(退場)

 

第二十四場
(リセオ、ラウレンシオ)

 

リセオ (ラウレンシオに)きみは、ずっとぼくの後ろにいたのか?
ラウレンシオ さっき、入ってきたばかりだよ。
リセオ ニーセは、きみに話していたのか。
 ぼくに話しているのかと思った。
 きみを見て、あんなに喜んでいたのか。
 きれいだけど、罪作りな人だなあ!
ラウレンシオ 元気を出せよ。
 雨だれ石をうがつって言うだろう。
 今夜、ぼくが彼女を呼び出して、きみと話をさせてあげるよ。
 彼女は頭のいい人だ、リセオ。
 だからきみは、彼女をだまさなくちゃいけない。
 そうでもしなかったら、彼女はいつまでも
 かなわない望みにしがみついたままでいるだろう。
 ぼくの心は、フィネアのものだっていうのに。
リセオ たのむ、ぼくに協力してくれ。
 でなかったら、ぼくはこの痛手から立ち直れそうにない。
ラウレンシオ ぼくが、うまくやってやるよ。
 頭のいい人間をだますのは、最高に気分がいいからね。

 

第三幕

第一場
(フィネア、独り)

 

フィネア 愛よ!
 あなたはすばらしいわ!
 あなたのおかげで、
 私たちのありのままの美しさも、
 磨き上げた美しさも、輝き続けるんだもの。
 あなたを学ぶと、不思議なことが起きるの。
 この世の闇はなくなり、
 無口な人たちは、話せるようになり、
 荒っぽい人たちは、もの静かな賢者になるの。
 ほんの二か月前までの私は、ばかな娘だった。
 あたりまえの理性さえ、持ちあわせていなかった。
 獣みたいに単純に考えて、
 草みたいに、伸びほうだいに育った。
 崇高な理性というものは、私には欠けていたの。
 あなたを知るまではね。
 あなたは、まるで太陽のように、私を明るく照らしてくれた。
 私の理性を覆っていた闇を、打ち砕いてくれた。
 あなたは、すばらしい能力で、私を教育してくれた。
 私に知性を与え、生まれ変わらせたのよ。
 愛よ、ほんとうにありがとう。
 あなたにりっぱに教育してもらったおかげで、 
 人に会うたびに、私はずいぶん変わったと言われるわ。
 私は夢見ているのよ、
 美しい理性のお城に住んでいる自分を。
 幸せなことを想像していると、
 私の中に元気がわいてくるの。
 愛よ、そろそろ私に栄誉を与えてくれてもいいでしょう?
 ラウレンシオを私にちょうだい。
 私が彼に恋したから、
 あなたは私をここまで教育できたのよ。

 

第二場
(クララが入ってくる)

 

クララ みんな、あなたが知的な女性になったと噂していますよ。
フィネア うれしいわ。
 お父様が、今の私を見て喜んでいるから。
クララ お父様はいま、ミセーノ様と話していらっしゃいます。
 あなたの読み書きやダンスの上達ぶりを知って、
 お二人とも、あなたに別の人格が乗りうつったようだとおっしゃっていますよ。
 リセオ様がこの奇跡を起こしたと思っていらっしゃるようです。
フィネア クララ、私が感謝しているのは彼じゃなくて、
 私の先生になってくれたラウレンシオのほうよ。
クララ 私にとってのペドロみたいにね。
フィネア 笑っちゃうわ。私たちが変わったのが誰のおかげなのか、
 お父様たちはぜんぜんわかってないんだもの。
 愛の力って偉大ね!すばらしいわ!

 

第三場
(ミセーノ、オタービオ)

 

ミセーノ (オタービオに肖像画を見せながら)
 私はこれが、きみにとって
 いちばんいいことだと思うよ。
 フィネアは、知性ある娘になってくれた。
 それは、思いがけない幸運だった。
 次はニーセの番だ。
 この、立派な青年と結婚させてやるといい。
オタービオ このドゥアルド以外に、
 きみが保証人になれる男はいないのか?
 私から見れば、彼もうぬぼれの強い青二才だよ。
 偉そうなことを言って、気取った詩を書くのが格好いいと思っているんだ。
 ソネットが書けたって、りっぱな夫にはなれん。
 ニーセは、アカデミアの女神などとおだてられて、
 こういう詩人どもを家に呼び寄せている。
 だが、女性にペトラルカやガルシラーソの詩をきかせて
 なんの役に立つというんだ?
 女性にとって必要なのは、ウェルギリウスでもタッソでもない。
 糸紡ぎや、農作業や、縫い物だろう?
 昨日、私はニーセがどんな本を持っているのか調べてみた。
 紙に書かれた原稿もあったよ。
 祈祷書ならいいがと思ったが、
 本棚にあったのは、次のようなものだった。
 ギリシャ語で書かれた『ふたりの恋人の物語』、
 ロペ・デ・ベガの『詩集』、
 セルバンテスの『ガラテア』、
 リスボンのカモンイスの著書、
 『ベツレヘムの羊飼いたち』、
 ギリェン・デ・カストロの『コメディア集』、
 オチョアの『叙情詩集』、
 パストラナ公のアカデミアでルイス・ベレスが歌ったとされる歌、
 『ルーケ著作集』、
 フアン・デ・アルギーホの『書簡』、
 リニャーンの『ソネット百編』、
 『“聖なるエレーラ”著作集』、
 『巡礼者の書』、
 アレマンの『ピカロ』。
 まだあるんだが、うんざりしてきたかい?
 こんなくだらない本は、ぜんぶ焼き捨てたいよ!
ミセーノ ニーセも、結婚して子どもが生まれれば、
 そんなものを読む時間もなくなるだろうし、
 子どもに夢中になってくれるさ。
オタービオ ごりっぱな趣味だよ!
 ドゥアルドが歌でも作る男なら、
 ニーセは大喜びで結婚するだろうな。
ミセーノ ドゥアルドは詩人ではあるが、第一に騎士なんだ。
 心配するな。詩は趣味で書くだけだろうから。
オタービオ ニーセも詩を書いているんだが、私はそれが気に入らん。
 心配するのは当然だろう?
 あの子がそんなものを書いたら、
世間が大笑いする女性版ドン・キホーテが生まれるだろうからな。

 

第四場
(リセオ、ニーセ、トゥリーンが入ってくる)

 

リセオ きみがそんなに冷たい態度ばかりとるなら、
 ぼくは、もっとぼくの努力に報いてくれそうな人に
 気もちを向けてしまうかもしれないよ。
 わかっているだろう?ニーセ。
 あのフィネアが、今ではみんなから賞賛されていることを。
 きみが相手にしてくれないなら、
 ぼくは、いっそフィネアを好きになろうかとも思っている。
 きみがもう少し、ぼくにやさしくしてくれればいいのに。
 そんなふうに冷たくされると、
 きみを愛することも、信じることもできなくなりそうだ。
 フィネアは、以前はばかだったけど、
 いまは見違えるほどすてきになった。
 ぼくも、彼女に魅力を感じてしまうほどだ。
 ニーセ、ぼくの気もちをわかってくれよ。
 でなかったら、ぼくはきみへの腹いせに、
 フィネアを好きになりかねない。
ニーセ 私を怒らせようっていうの?リセオ。
 うまいことを思いついたわね。
 もっとも、それは、私があなたを好きだったらの話だけど。
リセオ ぼくみたいな貴族の身分の騎士なら、
 尊敬されるほうだし、
 恋の相手としては悪くないと思うよ。
ニーセ 恋っていうのはね、与えられるんじゃなくて、
 自分で見つけて、つかまえるものなの。
 選ぶんじゃなくて、ぐうぜん出会ってしまうものなの。
 理性というより、感覚で手に入れるものなの。
 恋に、質の違いなんてものはないの。
 いろんな人間の感情を決定する星の運勢みたいなもので、
 たまたま恋というものに当たれば、恋をするのよ。
リセオ そんなのはおかしい。
 ぼくは、嫉妬から言ってるわけじゃない。
 自分の趣味が悪いからって、それを星のせいにするのか?
 もしきみがひどい目にあってから、
 「あれは星のめぐりあわせが悪かった」なんて言っても、
 ただの言い訳にしか聞こえないよ。
ニーセ 星のせいにしてるわけじゃないわ。
 だって、ラウレンシオは郷士だけど、りっぱな騎士で…
リセオ もういいよ。
ニーセ あなたも、彼に敬意を払って。
リセオ オタービオさんが、こんなに近くにいさえしなかったら…
オタービオ (リセオを見つけて)やあ、リセオ!
リセオ (オタービオに)こんにちは!
ニーセ(傍白)なんで、誰かを無理に愛さなくちゃいけないのよ!
 こんなの侮辱だわ!
 
第五場
(セリアが入ってくる)

 

セリア ダンスのレッスンの時間だそうですよ。
 先生がお二人を呼んでいらっしゃいます。
オタービオ ちょうどいい。
 ここに、歌手たちを呼んできてくれ。
 ミセーノに、フィネアがどれだけ成長したかを見てもらおう。

 

第六場
(歌手たちが入ってくる)

 

リセオ(傍白)ぼくの愛は、偽りの仮面をかぶって、
 今日、フィネアのもとへ行くだろう。
 よくあることなんだ。
 愛が復讐の衣をまとい、
 軽蔑を好意へと変えてしまうことは。
セリア 歌手と、先生がいらっしゃいました。
オタービオ どうぞ、こちらへ!
リセオ(傍白)今日こそ、知性よ、
 おまえを侮辱したやつらに復讐するんだ!
オタービオ ニーセ、フィネア。
ニーセ はい。
オタービオ このあいだ習ったダンスを、ここで踊ってみなさい。
リセオ(傍白)愛とはまったく移り気なものだ!

 

 オタービオ、ミセーノ、リセオは座る。歌手たちは歌う。
 ニーセとフィネアはダンスを踊る。

 

歌手たち アモール(愛神)はくたびれた。
 もう、女に尽くすのにはうんざり。
 こっちが一文無しになったって、
 誰も同情してくれない。
 アモールはインディアスへ渡り、
 恋の矢筒を売り払った。
 生命よりも、魂よりも、
 いま、欲しいのはドブロン金貨。
 インディアスで、どう金を稼ごうか?
 なにか売ろうか?宝石?絹?オランダ製の布?
 いやいや、賭博で稼ぐにかぎる。
 アモールはインディアスから、
 金貨と銀貨を持ち帰った。
 なんて豪華に着飾ったアモール!
 ご婦人がたはすっかり夢中。
 宮廷を歩くアモールの服は、
 どこもかしこも、勲章だらけ。
 彼を目にしたご婦人がたは、
 こんなふうに噂する。
 「あの人、いったいどこから来たの?」
 ―ビエネ・デ・パナマ(パナマから)。
 「あの騎士、いったいどこから来たの?」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「帽子には飾りひも、」
 ―ビエネ・デ・パナマ(パナマ製の)。
 「襟には金の刺繍、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「腕には幅広の袖、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「靴下留めには房飾り、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「足には新品の靴、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「トルコ風のおしゃれな上衣」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「あの人、いったいどこから来たの?」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「あのお坊ちゃん、どこから来たの?」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「短い襟に長い袖、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「帯からさげているナイフ、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「琥珀色の革手袋、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「気のきいた話ができて、」
 ―ビエネ・デ・パナマ(パナマじこみの)。
 「女の人には親切で、」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「甘やかされた、わがままな人」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「彼の名は、インディアスのアモール」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「カスティーリャから来た新参者」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「にせもののクリオーリョ(植民地生まれ)」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 「あの人、いったいどこから来たの?」
 ―ビエネ・デ・パナマ。
 勲章をさげたアモールの、なんてすばらしい姿!
 最も優雅な人というのは、人を恋に陥らせる人。
 女たちは、老いも若きも蠅のように、
 うるさく彼につきまとう。
 銀貨の味は、蜜の味
 彼に好かれた女には、
 嫉妬の炎が降りかかる。
 アモールの家のまわりでは、
 女たちが大合唱。
 「そこのモーロ人、ヘーゼルナッツを取るんじゃない。
  それは私の取り分だ」
 アモールはゴート人に逆戻り。
 ―それは私の取り分だ。
 長い袖に短い襟、
 ―それは私の取り分だ。
 飾りひもと金糸の刺繍、
 ―それは私の取り分だ。
 つば広帽にまるい靴、
 ―それは私の取り分だ。
 幅広の袖、細身のパンツ、
 ―それは私の取り分だ。
 おしゃべりのくせに、けちなやつ。
 ―それは私の取り分だ。
 年寄りなのに、若作り。
 ―それは私の取り分だ。
 モーロ人を殺した卑怯者。
 ―それは私の取り分だ。
 ようやく彼は目が覚めた。
 ―それは私の取り分だ。
 ばかなアモール!ばかなアモール!
 ―それは私の取り分だ。
 ぼくはきみを愛しているのに、きみはほかの男が好きなのか!
 ―それは私の取り分だ。
 「そこのモーロ人、ヘーゼルナッツを取るんじゃない。
  それは私の取り分だ」

 

ミセーノ お見事!
 神に感謝したまえ、オタービオ。
 これまでの苦労が報われたのだから。
オタービオ この音楽会を、ドゥアルドとニーセにささげよう。
 娘たち、話したいことがあるから、こっちへおいで。
フィネア ええ、喜んで。
オタービオ 私は幸せ者だ!

 

ばかなお嬢様(10) - buenaguarda

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