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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(8/12)

第十六場
(ニーセが入ってくる)

 

ニーセ お邪魔するわよ。
フィネア ニーセ、これでいいでしょう?
 ラウレンシオはもう、私の心の中にはいないわ。
 彼と結婚するのはあなたなんだもの。
 ラウレンシオにハンカチで視線を取ってもらって、 
 私を抱き離してもらったわ。
ラウレンシオ (ニーセに)なにが起こったのか説明してあげるよ。
 すごく面白かった。
ニーセ 今はいいわ。
 二人で庭に出ましょう。
 あなたにいろいろと言いたいことがあるの。
ラウレンシオ どこへでも行くよ、ぼくは。

 ラウレンシオとニーセは退場。

 

第十七場
(フィネア、独り)

 

フィネア ニーセはとうとう、彼をつれて行ってしまったわ。
 なぜ、このことがこんなにつらいの?
 ラウレンシオについて行きたい。
 なにかが私を縛りつけて、自由を奪っているみたい。
 私は、ラウレンシオなしではいられないの。
 (オタービオが来るのに気づき)お父様だわ。静かにしていよう。
 口は閉じて、目で話すのよ。

 

第十八場
(オタービオが入ってくる)

 

オタービオ リセオと一緒にいたんじゃなかったのか?
フィネア お父様が私に会って最初にすべきことは、
 私が言いつけに従っているかどうか、きくことじゃないの?
オタービオ なんのことだ?
フィネア お父様は私に、ラウレンシオと抱き合うなと言ったじゃない。
 だから私は、彼に頼んで、抱き離れてもらったの。
 これで、帳消しになったでしょう?
オタービオ またやったのか。ばかめ!
 あいつと抱き合ったんだな?
フィネア ちがうわ。
 最初にラウレンシオは、私を抱いていた右手を上に挙げたの。
 私、なるほどと思ったわ。
 だってそれは、抱き合うのとは逆のことだもの。
 次に、彼は左手も上に挙げたの。
 だからもう私は、彼と抱き離れたわ。
オタービオ(傍白)この娘は、少しりこうになったと思ったら、
 こんどは前よりもばかになってしまう。
 なげかわしいことだ!
フィネア ねえ、お父様。
 自分の愛している人が、他の人について行ってしまったときに
 感じる気もちのことをなんと呼ぶの?
オタービオ それは、嫉妬というんだ。
フィネア 嫉妬?
オタービオ 嫉妬とは、愛につきものの感情だ。
 愛から生まれた子どものようなものだよ。
フィネア それじゃ、嫉妬のお父さんは愛なの?
 お父さんはたくさんの喜びを与えてくれる、とてもいい人ね。
 でも、そんな悪い子どもがいるなんて、かわいそうに。
オタービオ(傍白)気のきいたことを言うじゃないか。
 まだ、希望はあるのかもしれん。
 愛によって育てられた子どもは、きっとものを覚えてくれるだろう。
フィネア お父様、嫉妬の苦しみを取り除くには、どうしたらいいの?
オタービオ それには、愛するのをやめるのがいちばんだ。
 愛のあるところには、必ず嫉妬があるものなのだから。
 嫉妬とは、愛がもたらす喜びに対してわれわれが支払うものなのさ。
 ところで、ニーセはどこへ行ったんだ?
フィネア ラウレンシオと一緒に、庭へ行ったわ。
オタービオ やれやれ!
 あの子は、詩や歌などやめて、
 ふつうの言葉で話すことを覚えればいいのに。
 私が言い聞かせてやろう。(退場)
フィネア (独白)いったいどうして、
 私の中にこんな気もちが湧いてきたのかしら?
 なんなの?この、胸を焦がすような激しい感情は。
 お父様が言うように、これが嫉妬っていうものなのだとしたら…
 おそろしい病気みたい!

 

第十九場
(ラウレンシオが入ってくる)

 

ラウレンシオ うまくごまかして、逃げられてよかった。
 お偉いお父様を怒らせると、やっかいだからな。
 でも、彼のおかげでニーセからも逃げることができたのはありがたい。
 ぼくのかわいい恋人のところへ戻ろう。
 フィネア?…
フィネア もうあなたとはしゃべらないわ。
 どうしてさっきは、ニーセと一緒に行っちゃったの?
ラウレンシオ 行きたくて行ったわけじゃないんだ。
フィネア だったら、なぜ行ったの?
ラウレンシオ きみに、いやな思いをさせたくなかったから。
フィネア 私、あなたに会えないのがつらかったけど、
 こうしてあなたに会っても、腹が立って、
 いっそあなたなんかどこかへ行ってしまえばいいと思ってしまうのよ。
 期待と不安の間をさまよっているの。
 私、嫉妬しているのよ。
 さっきお父様がその言葉を教えてくれたわ。
 いやな言葉!
 でも、いいの。お父様が、それを取り除く方法も教えてくれたから。
ラウレンシオ 取り除く方法?
フィネア あなたを愛するのをやめればいいのよ。
 私の中から愛を取ってしまえば、私の心もきっと落ち着くわ。
ラウレンシオ そんなことができるの?
フィネア あなたが私に愛を与えてくれたんだから、
 あなたがそれをいちばんうまく取り除けるはずよ。
 そうでしょう?
ラウレンシオ いい方法がある。
フィネア どんな?
ラウレンシオ (ペドロ、ドゥアルド、フェニーソがやってくるのを見て)
 それを手伝ってくれる人たちが来た。

 

第二十場
(ペドロ、ドゥアルド、フェニーソが入ってくる)

 

ペドロ あそこにいるのは、フィネア様とラウレンシオ様ですね。
フェニーソ ラウレンシオのやつ、様子がおかしいぞ。
ラウレンシオ (三人に向かって)きみたち、ちょうどいいところに来てくれた。
 ドゥアルド、フェニーソ、
 きみたちは、あの賢いニーセに恋しているんだろう。
 だったら、フィネアとぼくがやろうとしていることを説明するから、聞いてくれ。
ドゥアルド きみは神出鬼没だな。
 キルケー〔*魔女の名〕に魔法でもかけられて、
 この家の中をさまよっているのか?
ラウレンシオ ぼくは真面目だよ。
 黄金を作り出すという、錬金術の実験をやっているんだ。
ペドロ もう、夢みたいなことを考えるのはやめたらどうです?
 体力と時間のむだづかいですよ。
ラウレンシオ おまえは黙ってろ!ばか!
ペドロ 黙りませんよ。
 ばかってのは、黙ってられないものなんです。
ラウレンシオ (ドゥアルドに)ちょっとフィネアと話すから、
 しばらく待っていてくれないか。
ドゥアルド いいよ。
ラウレンシオ (フィネアに)フィネア、
 さっききみに話した方法について、
 あの三人に相談してきた。
フィネア 早く、私から愛を取ってよ!
 嫉妬で苦しいの!
ラウレンシオ きみは彼らの前で、ぼくの妻になると誓ってくれ。
 そうすればもう、嫉妬に悩まされなくてすむ。
フィネア それだけでいいの?やるわ!
ラウレンシオ それじゃ、あの三人を呼んでくれ。
フィネア フェニーソ、ドゥアルド、ペドロ!
三人 はい?
フィネア 私、ラウレンシオの妻になるわ!
ドゥアルド ええっ?
ラウレンシオ きみらは、この結婚の証人だよ。異議はないか?
三人 はい。
ラウレンシオ (フィネアに)フィネア、これできみは
 愛と嫉妬の苦しみから解放されたよ。
フィネア ありがとう、ラウレンシオ!
ラウレンシオ (ドゥアルド、フェニーソ、ペドロに)
 きみたち三人は、ぼくの家に来てくれ。
 公証人を呼ぶから。
フェニーソ それじゃ、きみはフィネアと結婚するのか?
ラウレンシオ そうだよ、フェニーソ。
フェニーソ ニーセは?
ラウレンシオ ぼくは知性を捨てて、金をとったのさ。

 

第二十一場
(フィネアがひとり残る。ニーセとオタービオが入ってくる)

 

ニーセ (オタービオに)私が彼と話をしていたからって、
 どうってことないでしょう?
オタービオ いいか、ニーセ、
 そういうことはおまえの評判を落としかねないんだ。
ニーセ 彼は誠実な人だし、文才もあるのよ。
 私は彼を、私の先生だと思ってるの。
オタービオ グラナダのフアン・ラティーノを知っているか?
 彼は黒人で、彼の母親はセッサ公の奴隷だった。
 彼自身も、もともとは奴隷だった。
 フアン・ラティーノは学識があったので、
 ある市会議員の娘のラテン語教師になり、
 その娘と結婚してしまったのだ。
 彼はラテン語の活用を、
 「私は愛する」「あなたは愛する」という具合に、
 その娘に教えたんだろう。
 いわば、ラテン語のせいでふたりは結婚したんだ。
ニーセ ふうん。
 でも、お父様の娘でいる限り、そういうことは起きそうにないわね。
フィネア (オタービオとニーセに)私のことを話しているの?
オタービオ (フィネアに気づき)フィネア、ここにいたのか?
フィネア もう、私は叱られなくてもいいのよね。
オタービオ 誰に?
フィネア お父様と、ニーセによ。
 聞いて。ラウレンシオが私から愛を全部取り除いてくれたの。
オタービオ(傍白)またなにか、ろくでもないことが起きたのか?
フィネア ラウレンシオは、私が彼の妻になると誓えば
 愛はなくなるって言ったの。
 だから私は、証人たちの前で誓ったわ。
 もう私の中に愛はないし、
 嫉妬に苦しむこともなくなったわ。
オタービオ なんてことだ!
 ニーセ、私はもう生きた心地がしない。
ニーセ (フィネアに)それは、まだ婚約をしていない未婚の女性がする誓いよ。
 あんたにはもう、リセオという夫がいるでしょう。
フィネア だったらなに?
 愛を取り除くためだったら、そんなこと、どうでもいいじゃない。
オタービオ (ニーセに小声で)ラウレンシオを家から追い出そう。
ニーセ (小声で)まって、お父様。勘違いしないで。
 彼は、うまくフィネアを言いくるめてくれたのよ。
 彼とリセオは、フィネアに結婚がどういうものかということを
 教えているところなの。
オタービオ そうなのか?
 そういうことなら、私はなにも言わん。
フィネア なにをふたりだけで話してるの?
オタービオ フィネア、私と一緒においで。
フィネア どこへ?
オタービオ 公証人がいるところへだ。
フィネア わかったわ。
オタービオ 来なさい。
 (傍白)このところ、白髪が増える一方だったが、
 ようやく安心できる。

 

 フィネアとオタービオは退場。

 

ニーセ(独白)さっき、ラウレンシオが私に話してくれたわ。
 彼とリセオが協力して、フィネアの行儀の悪さを直してやるために、
 いろいろと策を講じているところだってね。
 私にとっては、悪くない話だわ。

 

第二十二場
(リセオが入ってくる)

 

リセオ ニーセ、ラウレンシオはぼくの気もちを
 きみに伝えてくれた?
ニーセ なんのこと?あなたの気もちって。
リセオ その様子だと、まだ聞いてないのか。
 彼は、ぼくの力になると約束してくれたんだ。
 ぼくが、きみのことを好きだと彼にうちあけたから。
ニーセ なるほどね。
 あなた、フィネアとのつき合いにくたびれてきたんでしょ?
 あの子を自分好みの妻にするためにがんばっているみたいだけど、
 ちょっと自信がなくなってきたから、
 私で練習してから、またフィネアのところに戻るつもりね?
リセオ ぼくは、ほんとうにきみが好きなんだ。ちゃかさないでくれ。
ニーセ ばかじゃないの?
リセオ ああ。たしかにぼくはばかだった。
 ばかな相手と結婚しようとしていたんだから。
 ぼくは、自分の気もちをよく考えてみた。
 その結果、考えが変わったんだよ。
ニーセ 冗談じゃないわ。
 この浮気者!勘ちがい男!
 こんなの、私の父と妹に対する裏切りよ!
 あんたなんか出ていって!
リセオ あんまりだ、そんな言いかた!
 ぼくが不器用で、気もちを伝えるのがへたくそだからって。
ニーセ そうよ、へたくそなのよ!

 

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