Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(6/12)

第三場
(ラウレンシオ、ニーセ)

 

ラウレンシオ もう、あいつらはいないよ。
 ニーセ、元気そうでよかった。
 この腕にきみを抱かせてくれ。
ニーセ 近よらないで!
 嘘つき!お調子者!詐欺師!
 ばか!浮気者!
 一か月会わなかっただけで、もう心変わりするなんて!
 私は病気で寝込んでたっていうのに!
 でも、一か月だろうが、何か月だろうが、
 きっと、あんたには関係ないわね。
 どうせあんたは、
 私が死んだと思ってたと言うつもりだったんでしょ?
 私が死ねば、思うぞんぶん、
 あんたの愛をフィネアに捧げられるものね。
ラウレンシオ なんのことを言ってるんだ?
ニーセ うまくやったわね。
 あんたは、お金はないけど、頭はいい。
 フィネアは、お金はあるけど、頭は悪い。
 「ぼくは、自分にないものがほしい。
  ぼくがすでに持っているものはいらない。
  だったらフィネアと結婚しよう」。そう思ったんでしょ?
 いい考えよ。とっても合理的。
 前は、あれだけ私に夢中だったくせに。
 たしかに、私とあんたが一緒になっても、
 ふたりが今より頭がよくなるわけじゃないものね。
 ひょっとして、あんたは私が女王様みたいに、
 男の人たちを支配したがっているとでも思ってたの?
 そんな私よりも、お金が欲しいから、
 フィネアを好きになろうとしたのね?
ラウレンシオ ちょっと、ぼくの話を…
ニーセ 聞きたくない。
ラウレンシオ 誰がきみにそんなことを言ったんだ?
 たった一か月でぼくが心変わりしただなんて。
ニーセ 一か月なんて、あんたにとっては、
 たいした長さじゃなかったって言うのね?
 もういいから、それ以上私に話しかけないで。
 お月さまは空に浮かんでいて、
 あんなに超然としているのに、
 一か月の間に満ちたり欠けたりして、変わっていってしまう。
 あんたは地上にいて、
 それも、騒がしいマドリードにいて、
 そこには面白いことがあふれているんだから、
 一か月もあれば、気が変わってしまって当然よ。
 セリア、あなたが見たことを彼に言ってあげて。
セリア ラウレンシオ様、
 ニーセ様があなたにこんなことをおっしゃるのは、
 無理もないことなんです。
 私は見たんですよ、あなたがフィネアに言い寄っていたのを。
ラウレンシオ セリア、きみがそんなことを言ったのか!
セリア だって、本当のことじゃありませんか。
 それに、うちのニーセ様を愚弄しているのは、
 あなただけじゃありません。
 あなたの従者のペドロは、あなたと手を組んで、
 クララを口説いているんでしょう?
 私には、ちゃんとわかってるんですよ。
ラウレンシオ なんだ、セリア、
 きみはそのふたりに嫉妬してるわけか。
 きみの言いたいことはわかったよ。
 ぼくがペドロと、あのばかなクララを罰してやればいいんだろう? 
ニーセ ラウレンシオ、ペドロがクララを口説いたことは、
 そんなに恥ずべきことなの?
 あんたが彼に、そうしろと命令したくせに。
 あんただって、フィネアを口説いたくせに。
 占星術師みたいな人ね、あんたって。
 もったいぶった言い回しを使って、
 他人の悪事は言い当てるくせに、
 自分の悪事には気づかないのよ。
 たいした才能だわ!
 あんたは言っていたわよね。
 「ニーセが美しいことは認める。
  しかし、見る目のある人々にはわかることだが、
 彼女のすばらしさは外見のみではない」って!
 フィネアがそれを聞いたら、どう思うかしら?
 あんたはこれから、ふつうの詩じゃなくて、
 ロマンセ(*1行8音節の詩)で話さなきゃいけないわね。
 「賢い(discreto)」と、「ばか(necio)」では、脚韻は踏めないもの。
 ラウレンシオ!私は心からあんたを信頼していたのに、
 これがそのお返しってわけ?
 「病床と監獄を訪問してくれるのが真の友人」っていうけど、本当だわ。
 私は思い悩んだせいで病気になったのに、
 あんたは会いにも来てくれなかった。
 ひどい人ね!
 あんたが私にくれたのは、心変わりと、裏切りと、ごまかしだった。
 ダイヤモンドなみにハード(*duro=固い、つらい)なプレゼントだったわ。
 それじゃ、さよなら!
ラウレンシオ 待ってくれ!
ニーセ 何をよ?
 あの、お金持ちのおばかさんを口説けばいいじゃない。
 言っておくけど、私はあんたが思っているより早く、
 フィネアとリセオを結婚させるつもりよ。
ラウレンシオ ニーセ!

 

第四場
(リセオが入ってくる。ラウレンシオはニーセの手を掴む)

 

リセオ(傍白)本当のことを言うのが遅くなってしまった。
 けれど、ぼくはもうニーセへの気もちをごまかすことはできない。
ニーセ はなして!
ラウレンシオ 待ってくれ!
リセオ きみたち、何をしてるんだ?
ニーセ (リセオの姿を見て、とっさに嘘をつく)
 だって、ラウレンシオが私に、
 彼が書いた詩を破いて捨てろって言うのよ。
 ある、ばかなお嬢さんについて書いた詩なの。
 私は、そんなことはしたくないのに。
ラウレンシオ リセオ、ニーセをとめてくれ。
 きみからもニーセに頼んでくれないか?
リセオ (ニーセの手を掴み)それじゃ、お願いだ、
 きみが、ぼくの気もちを慰めてくれ。
 ぼくの心こそ、破れそうになっているんだ。
ニーセ なにを言ってるのかわからないわ。
 手をはなしてよ、二人とも!

 ニーセとセリアは退場。

 

第五場
(ラウレンシオ、リセオ)

 

ラウレンシオ やれやれ!
リセオ ニーセがきみにあんなに腹を立てるなんて、驚いたよ。
ラウレンシオ リセオ、驚くことはないよ。
 頭のいい人たちは、だいたい、気分の浮き沈みが激しいんだ。
リセオ (ラウレンシオに手袋を投げつけて)なにか、言いたいことはあるか?
ラウレンシオ べつに。
リセオ それじゃ、今日の午後、プラド(牧草地)に来てくれ。
ラウレンシオ きみが選ぶ場所なら、どこでもかまわない。
リセオ ロス・レコレトス修道院の裏で、二人だけで話がしたい。
ラウレンシオ 話というのは、口でするほうじゃなくて、
 剣でするほう(*決闘のこと)か?
 どうしてそうなるのか、よくわからないけど、
 それなら、馬とペドロはおいて、独りでいくよ。
リセオ わかった。(退場)

 

第六場
(ラウレンシオ、独り)

 

ラウレンシオ (去るリセオにむかって)それじゃ、また後で!
 (独白)なんて嫉妬深くて、うぬぼれの強いやつだ!
 きっと、ばかなフィネアが、
 彼にぼくとのことや、ぼくが書いた手紙のことを
 話してしまったんだろう。
 今さら言い訳をしても、手遅れだろうな。
 借金の返済と決闘は、長引かせればそれだけ悪だくみを生むっていうから、
 ここで時間稼ぎをしても、あまり意味はなさそうだ。(退場)

 

第七場
(フィネア、ダンスの教師)

 

教師 もう疲れちゃったんですか?
フィネア ええ。もう踊りたくないわ。
教師 軸足を使わないから、うまくいかないんですよ。
フィネア ちょっと向きを変えては、とび跳ねるなんて、
 めんどうくさいんだもの。
 カササギじゃあるまいし、家の中をぴょんぴょんとび跳ねるなんて。
 ステップ、バックステップ、
 フロレータ(*ステップの一種)、またフロレータ。
 ばかばかしい!
教師(傍白)つくづく残念だ!
 偉大なる自然が、こんなに美しいいれものに、
 こんな鈍い脳みそを入れるなんて!
 美しさなんて、この世では、
 さほど重要なことではないのかもしれない。
フィネア ねえ、先生。
教師 はい?
フィネア 明日は、ドラムを持ってきて。
教師 それは楽しいでしょうけど、いなか者の楽器ですよ。
フィネア ほんとうは、鈴のほうがもっと好きなんだけど。
教師 鈴なんて、馬がつけるものですよ。
フィネア 私にとって、面白いと思えることをしてよ。
 首に鈴をつけたら変だろうけど、
 足につければ、それほどかっこ悪くないでしょう?
教師(傍白)ここは、機嫌をとっておいた方がいいな。
 (フィネアに)わかりました。あなたが言うとおりにしますよ。
フィネア 踊りながら、外を歩いてみたらどうかしら?
教師 そんなことをしたら、
 私のまわりに人が集まってきてしまいます。
フィネア どうして?踊るのが先生の仕事なんだから、
 なにもおかしくないでしょう?
 お菓子や、服や、靴を作る人たちのまわりに、
 人が集まってくるところなんて、見たことないわ。
教師 それはそうです。でも、その人たちだって、
 外で仕事をしたりはしませんからね。
フィネア やろうと思えばできるわよ。
教師 そりゃあ、できるでしょう。
 でも、私は外で踊る気はありません。
フィネア だったら、もういいわ。
 二度とここへ来ないで。
教師 わかりました。
フィネア 私、片足で歩いたり、バックしたり、
 とび跳ねたりするのなんか、いやなの。
教師 私だって、こんな不作法で、
 くだらないことをやりたがる人には、
 ものを教えたくありません。
フィネア いいわよ。私には夫がいるもの。
 夫ほど上手にものを教えてくれる人はいないんだから。
教師 マヌケな妻さえいなければね。
フィネア マヌケってなによ、あんたこそ!(教師をぶとうとする)
教師 フィネア様、その手をひっこめなさい!
 マヌケっていうのはね、
 世話をしてくれる人に対して、
 怒ってばかりいるような人のことですよ。
フィネア (しょんぼりして)そうなの?
教師 (フィネアの様子を見て)まあ、たとえそうなっても、
 また、おだやかでやさしい態度に戻るんですけどね。
フィネア ほんとに?
教師 ええ。
フィネア 先生、私、先生に感謝はしてるのよ。
 でも、きっと世界中のどこを探しても、
 私ほどのマヌケはいないわね。
教師 私の言葉を信じることが、礼儀を知るための第一歩ですよ。
 それではこれで失礼します。

 教師は退場。クララが入ってくる。

 

第八場
(クララ、フィネア)

クララ ダンスをなさっていたんですか?
フィネア ねえ、クララ、
 みんなで一日中私を追いかけ回して、
 読み書きやダンスをさせるけど、
 こんなこと、まったく意味がないと思うの。
 私が楽しいのは、ラウレンシオといるときだけよ。
クララ フィネア様、実は、
 とても悪いニュースがあるんです。
 どのようにお伝えしていいものか…
フィネア どのように伝えるかって?ただ、しゃべったらいいのよ。
 私たち女は、おしゃべりするのがあたりまえなんだから。
 難しいことじゃないでしょう?
クララ 休日に居眠りをしてしまうのは、悪いことですか?
フィネア 眠ることが悪いとは思わないわ。
 でも、最初の人間であるアダムは、眠っている間に、
 肋骨を神様に抜かれちゃったわね。
クララ 神はアダムの肋骨から、女のエバをお作りになりました。
 私たち女は、眠っている人間の肋骨から生まれたんだから、
 居眠りぐらいしたって、不思議じゃありませんよね。
フィネア 私、やっとわかってきたわ。
 なぜ男が、私たち女につきまとうのか。
 そして、なぜ男は次から次へと女たちを口説いてまわるのか。
 要するに男っていうのは、自分の肋骨をなくしたもんだから、
 それを探し回っているのよ。
 そして、自分の肋骨だった女を見つけたときに初めて、
 女を追いかけまわすことをやめるんだわ。
クララ でもねえ、フィネア様、
 私は、一年か二年ほど付き合って別れた男がいるんです。
 彼は自分の肋骨を見つけたって言えるんでしょうか?
 それなりに、私に満足していたんだとしたら?
フィネア どうなのかしらね?でも、
 少なくとも、結婚した男の人たちはそれを見つけたはずだわ。
クララ なるほど!いいことをおっしゃいますね。
フィネア 私はもう、いろんなことを覚えたの。
 きっと、恋が私を教育してくれたんだわ。
クララ さっきの話に戻りますが、
 私はラウレンシオ様から、
 あなた宛ての手紙を預かっていたんです。
 その後で糸紡ぎをしていたら、
 あんまり静かだったもんですから、
 つい、居眠りをしてしまいました。
 私は手紙を糸の房の中に差し込んでおき、
 ランプのそばで糸紡ぎをしていたんですが、
 気がつくと、ふわふわした麻糸の房に
 火が燃え移ってしまっていたんです。
 「居眠りする者に罪はなし、
  睡魔とは速やかに襲い来たるものなれば」って言いますよね。
 急いで、糸房を足で踏みつけて火を消したので、
 燃え尽きはしませんでしたよ。
 私の髪の毛はこんなに焦げてしまいましたけど。
フィネア それで、手紙は?
クララ 燃え残りがここにあります。
 何箇所か、まだ読めますよ。
 私の前髪が燃えたのに比べれば、ましなほうです。
フィネア なんて書いてあるの?
クララ どうぞ、読んでください。
フィネア 私には、ほとんどわからないわ。
クララ 神よ、恐ろしき炎から、女の髪を守りたまえ!

 

第九場
(オタービオが入ってくる。)

 

オタービオ (傍白)あの娘を教育するのにくたびれてきた。
 ガラスで岩を彫ろうとするようなものだ。
 ダンスも読み書きもあの娘は覚えない。
 以前に比べれば、乱暴ではなくなったが。
フィネア あら、マヌケなお父様、ちょうどいいところへ!
オタービオ マヌケとはなんだ?失礼な。
フィネア ダンスの先生が、私のことをマヌケだと言ったのよ。
 私、初めは腹が立ったけど、先生はこの言葉の本当の意味を教えてくれたわ。
 怒った後で、やさしくなる人のことだってね。
 お父様は今、怒っているけど、
 きっとまたやさしくなるってこと、私にはわかってるわ。
 だから私は、お父様のこともマヌケと呼んであげたいの。
オタービオ フィネア、他人の言うことをなにもかも信じたりしてはいけない。
 その言葉を使うのはやめなさい。そういう意味ではないんだから。
フィネア それならやめるわ。
 ところでお父様、字は読める?
オタービオ あたりまえだ。
フィネア それじゃ、お願い。これを読んで。(手紙を差し出す)
オタービオ この手紙か?
フィネア そうよ。
オタービオ 読むぞ。
 「ぼくに、好意を示してくれてありがとう。
  昨晩はきみの美しさを思い出して、ぼくは一睡もできなかった。」
フィネア それだけ?
オタービオ それだけだ。残りは燃えてしまっている。
 誰がおまえにこれを書いたんだ?
フィネア ラウレンシオよ。
 ニーセのアカデミアにいる、あの頭のいい人。
 私を愛してるって言ってくれたの。
オタービオ(傍白)この娘がばかなせいで、とんでもないことになった。
 あれは、ニーセがうちにつれてきた男だ。
 音楽家で、詩人で、
 美形だが、自慢げに香水をつけていて、
 髭も生やしていない、頭のいかれた役立たずだ。
 (フィネアに)ひょっとして、ほかにも彼となにかあったのか?
フィネア 昨日、階段の一段目のところで、
 彼は私を抱きしめてくれたわ。
オタービオ(傍白)ろくでなしどものせいで、
 私にとって不名誉きわまりない事態になっている!
 賢いニーセは、軽薄な男たちにちやほやされて調子に乗り、
 ばかなフィネアは、ずるくて抜け目のない男に恋してしまっている。
 しかし、フィネアに罰を与えるのはよくない。
 自分に夫がいることを、きちんと理解させよう。
 (フィネアに)フィネア、よく聞きなさい。私は怒っているんだよ。
 よその男と抱き合ったりしてはだめだ。わかったかい?
フィネア わかったわ、お父様。今は反省しているの。
 そのときはとても気もちよかったんだけど。
オタービオ おまえが抱き合ってもいいのは、夫のリセオだけだ。

 

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