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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(4/12)

第十四場
(ラウレンシオ、ペドロ、フィネア、クララ)

 

ラウレンシオ (フィネアにむかって、大げさに嘆く)
 そこのきれいなお嬢さん、
 ぼくにはわかったんだ。
 太陽は、東方諸国から昇ってくるだけじゃなかった。
 きみの瞳からも、太陽が、
 真っ赤な光を放射しているのが見える。
 なんてすごい威力なんだろう。
 そんな瞳で周りを見ながら、
 真っ昼間に外へ出かけるなんて!
 きみは何がしたいんだ?
フィネア 食事に行くだけよ。
 放射とかそんなのじゃなくて、
 おなかがへってるだけよ。
ラウレンシオ (フィネアの目を見つめ、涙ぐむふりをする)
 かわいい星が二つ、きらきら光ってる。
 ぼくは、ぼくじゃなくなってしまったみたいだ。

 なにが起きたんだろう?
フィネア 星が出ているような時間に外を歩いたら、
 そんなふうに鼻風邪をひくに決まってるじゃない。
 朝は早く起きて、
 夜は鐘の音とともに寝なくちゃ。
ラウレンシオ どうしてわかってくれないんだ?
 きみを愛してるのに。
 純粋で、正直で、飾り気のない気もちで。
フィネア 愛してるって、どういうこと?
ラウレンシオ ぼくのものになってほしいと思ってるってこと。
フィネア なにが?
ラウレンシオ 美しいものが。
フィネア 金とか、ダイヤモンドとか、
 そういうもののこと?
ラウレンシオ 違う。きみみたいにきれいな女性のことだ。
 神の善きはからいで、
 女性には美しさが与えらた。
 そして、きみのその美しさが、
 ぼくに、きみを手に入れたいという気もちを抱かせたんだ。
フィネア あなたが私を愛してるとわかったら、
 私はここで何をすればいいの?
ラウレンシオ ぼくを愛してくれればいいんだ。
 愛には愛でお返しをするって、聞いたことはない?
フィネア やりかたがわからないわ。
 誰かを愛したことなんかないし、
 教科書にも書いてなかったし、
 お母様も教えてくれなかったから。
 あとでお父様にきいてみるわ。
ラウレンシオ ちょっと待って。それはだめだ。
フィネア じゃあ、どうすればいいの?
ラウレンシオ 説明するよ。
 眼の霊力(espíritus)で、
 ぼくの目から光が出るんだ。
 それは炎のような紅い色をしていて、
 きみの目の中に入っていくんだ。
フィネア いやよ。悪霊(espíritus)なんてきらい。
 あっちへいって!  
ラウレンシオ 悪霊じゃなくて、霊力っていうのは、
 ぼくたちの心のことだよ。
 この二つが出会うと、美しい炎ができて、
 ぼくたちの心は、かき乱されてしまうんだ。
 いとしい相手を自分のものにするまではね。
 だから、人は結婚というものをするのさ。
 ぼくたちの愛は、
 神の意志によるものなんだから、正しいんだ。
 ぼくの心の居場所は、きみの胸の中なんだ。
フィネア 結婚すると、人はそんなふうになるの?
ペドロ(クララに)おれも、ご主人と同じように、
 あんたをめちゃくちゃに愛してるんだ。
 このチャンスをずっと待っていたんだ。
クララ 愛って何のこと?
ペドロ 愛?愛ってのはばかげていて、すさまじいものさ。
クララ それじゃ私は、ばかげたことをしなきゃならないの?
ペドロ ばかげているけど、すごく気もちのいいものなんだ。
 だから、たいていの人間は、りこうな考えを捨ててそっちを選んでしまう。
クララ フィネア様がやるっていうなら、私もやろうかな。
ペドロ 愛を知るには、愛について勉強しなくちゃならない。
 でも、たとえがさつな人間でも、
 ちょっと練習すれば、できるようになる。
 誰かを好きになり始めたら、
 心は、うっとりする病気にかかるんだ。
クララ 私に、病気になれって言うの?
 これまで、せいぜいしもやけぐらいにしか
 かかったことないのに。
フィネア (ラウレンシオに)その勉強、楽しそうね!
ラウレンシオ ぼくがきみに、
 ぼくを好きになる方法を教えてあげるよ。
 愛っていうのは、ぼくたちを賢くしてくれるものなんだ。
フィネア 結婚と関係あることなら、私にとって、都合がいいわ。
ラウレンシオ ぼくにとっても、大事なことだ。
フィネア それじゃ、私はあなたの家に行って、
 あなたとそこで一緒に過ごすのね?
ラウレンシオ そうだよ。
フィネア それって、いいことなの?
ラウレンシオ 結婚する人間にとっては、正しいことだよ。
 きみのお父さんとお母さんも、そうやって結婚した。
 そして、きみが生まれたんだ。
フィネア 私が?
ラウレンシオ そう。
フィネア お父様とお母様が結婚したとき、
 私はそこにいなかったってこと?
ラウレンシオ(傍白)まさか、ここまでばかだったとは!
 この娘と結婚する前に、
 ぼくの方がおかしくなってしまいそうだ。
フィネア あら、お父様が来たわ。
ラウレンシオ それじゃ、もう行くよ。ぼくのことを忘れないでね。(退場)
フィネア もちろんよ!
クララ あんたのご主人、行っちゃったわ。
ペドロ うん。おれも行った方がよさそうだ。
 おれのことを忘れないでくれよ。(退場)
クララ だったら、行かなきゃいいのに。 
 
第十五場
(フィネア、クララ)

 

フィネア あなたもわかった?クララ。
 愛がどういうものかってこと。
 まさか、あんなものだったなんて!
クララ なんだか、
 手羽も内蔵もこま切れにして煮込んだ
 チキンシチューみたいですね。
フィネア クララ、お父様は、
 私に失礼なことばっかりするの。
 インディアスだか、セビーリャだか、トレドだか知らないけど、
 どこかの騎士と私を結婚させようとしてるのよ。
 二度目にそのことを私に話しに来たとき、
 りっぱな服を着た、かっこいい男の人のカードを
 手紙の中から取り出して眺めてから、
 私に、「これを持っていなさい、フィネア。お前の夫だ」って言っただけで、
 そのまま行っちゃったんだから!
 つまり、私は結婚ってものがなんなのかも知らなかったのに、
 夫を持たされたってわけ。
 顔とシャツと上着しかつけていないような夫をね。
 ねえ、クララ、
 この人でも誰でもそうだけど、
 いくらすてきな服を着てたって、
 腰から下の部分がないなんて、あんまりじゃない?
 足がついていない人なんて!
クララ そりゃそうですよ!
 そのカード、持ってますか?
フィネア これよ。(肖像画を出す)
クララ いい男ですね!
フィネア ええ。でも上半身しかないでしょ?
クララ これじゃあ、歩けませんね。
 気の毒に。かわいい目をしてるのに。
フィネア お父様が来るわ。ニーセも一緒よ。
クララ あなたを正式に結婚させるつもりじゃないですか?
フィネア そんなのいやよ。
 だって、さっきの男の人には、
 ちゃんと足も体もあったもの。
クララ それに、犬を使って狩りをしてますね。
 あのペドロって男、私にかみついてきましたよ。

 

第十六場
(フィネア、クララ、オタービオ、ニーセ)

 

オタービオ (ニーセに)トレド通りから、馬で入ってきたそうだ。
ニーセ まだここに到着していないなんて、おかしいわね。
オタービオ 荷物を下ろしているんだろう。
 フィネアはうまくやってくれるだろうか?心配でたまらない。
ニーセ ここにいるわよ、花嫁さんは。
オタービオ (フィネアに)フィネア、その様子だと、まだ知らないのか?
ニーセ 知らないわ。
 どうせこの子は嫌がるだろうから、知らぬが仏よ。
オタービオ おまえの夫が、マドリードに着いたぞ。
フィネア 物忘れがひどいのね、お父様。
 カードの中にいる男の人なら、もう私にくれたじゃない。
オタービオ あれはただの肖像画だ。
 本物のリセオが、たった今、到着したってことだ。

 

第十七場
(セリアが入ってくる)

 

セリア リセオ様が、馬でお着きになりました。
オタービオ いいか、フィネア。
 おとなしく、女らしくふるまうんだぞ。
 (使用人たちに)椅子とクッションを持ってきてくれ。

 

第十八場
(リセオ、トゥリーン、使用人たちが入ってくる)

 

リセオ (オタービオに)お目にかかれて光栄です。
 あなたの息子となる許可をいただいた者です。
オタービオ われわれのほうこそ光栄だ。よく来てくれた。
リセオ 教えてください。
 このお二人のうち、私の妻はどちらなのでしょうか?
フィネア 私よ!この人、そんなことも知らないの?
リセオ それでは、夫婦の抱擁を交わしましょう。
フィネア (オタービオに)いいの?
オタービオ もちろんいいとも。彼は夫なのだから。
フィネア (リセオと抱擁を交わしてから、クララに小声で)クララ!
クララ お嬢様!
フィネア こんどは、足もくっつけて来たわ!
クララ 私たちをからかってるんでしょうか?
フィネア 上半分しかない姿は、怖かったわよ。
オタービオ (リセオに)義理の姉になるニーセとも、抱擁を交わしてくれ。
リセオ  美しいかただとお聞きしていましたが、
 その噂は本当でしたね。
ニーセ 私でお力になれることがあったら、おっしゃってください。
リセオ そして聡明なかただという噂も!
 あなたの評判は、スペイン中に広まっていますよ。
 みんなあなたを、“神聖なるニーセ”と呼んでいます。
 あなたの知性にあふれた美しさ、
 その美しさは比類ないものだと。
フィネア 私と結婚しに来たくせに、
 どうしてニーセの方にお世辞を言うの?
 失礼しちゃうわ。
オタービオ ばか、おまえは黙っていろ!
 みんな、座りなさい。
リセオ (トゥリーンに小声で)トゥリーン…
トゥリーン はい?
リセオ(傍白)かわいいけど、やっぱりばからしいな、彼女は。
オタービオ (リセオに)マドリードまでの旅はどうだったかね?
リセオ 希望に胸が高鳴っていました。
 ここまでの道のりが長く感じられましたよ。
フィネア 馬がのろいんだったら、
 うちの水車を引いてる馬を貸してあげましょうか。
ニーセ 黙ってなさい!
フィネア そっちこそ。
ニーセ フィネアはかわいいし、いい子なんですけど、
 ちょっと変わった性格で。
リセオ トゥリーン、宝石はあるか?
トゥリーン まだ着いてません。
リセオ (オタービオに)使用人たちの乗った馬が遅れているようです。
 お許しください。
フィネア 宝石を持ってきたの?
トゥリーン(傍白)こんなに怒鳴られっぱなしのお嬢さんには、
 宝石の原石で十分だけどね。
オタービオ (リセオに)暑いのかね?何か飲むかい?
 どうしたんだ?具合でも悪いのか?
リセオ すみません、お水をもらえますか?
オタービオ (使用人たちに)水だけでは悪い。
 なにか甘いものも持ってきなさい。
フィネア 先週の土曜に来てくれれば、
 私とクララがお料理をしていたのに。
オタービオ おまえは引っこんでいなさい!
フィネア スパイスをたくさん作ったの。面白かったわ。

 

 水とタオル、盆、菓子箱が運ばれてくる。

 

セリア お水をお持ちしました。
オタービオ なにか食べなさい。
リセオ  お嬢さんを見ていると、気が高ぶってしまって。
 その笑い声を聞くと、食べ物がのどを通りません。
 お水をいただきます。(飲む)
フィネア この人、ロバみたいにがぶがぶ飲んでる!

 

 リセオ、むせて水を吹きだす。

 

トゥリーン(傍白)うまいこと言うね!
オタービオ 今日のおまえは、なんて行儀が悪いんだ!
 頼むから黙っていなさい!
フィネア まだほとんど何もしてないわよ!
 (リセオに)待ってて。口のまわりを拭いてあげるから。
オタービオ おまえが?
フィネア なにか問題あるの?(タオルでリセオの口を拭く)
リセオ(傍白)ぼくの髭を半分もっていきやがった!ちくしょう!
オタービオ (リセオに)きみは、少し休みたまえ。
 (傍白)フィネアは、じっとしていられないようだ。
 ここから連れていかせよう。
リセオ(傍白)もう手遅れだ。
 こんなひどい状況で、気が休まるわけがない。
オタービオ フィネアとニーセは、自分の部屋に戻りなさい。
 身のまわりの物を整えておきなさい。
フィネア 私のベッドは、二人で寝られるくらい広いの!
ニーセ あのね、フィネア、
 あなたはまだ結婚式をすませていないのよ。
フィネア それがどうしたの?
ニーセ いいから、私についてきて。
フィネア 部屋に戻るの?
ニーセ そうよ。
フィネア さよなら。じゃあね!
リセオ(傍白)絶望の海に沈んでいく気分だ。
オタービオ (リセオに)私もそろそろ行かなくては。
 きみたちの結婚式を盛大に行うために、
 いろいろと準備をしなくてはならないのでね。
 では、失礼する。

 

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