Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ばかなお嬢様(1/12)

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『ばかなお嬢様』とは - buenaguarda

 

『ばかなお嬢様』

 

登場人物

 

リセオ(騎士)
トゥリーン(従者)
レアンドロ(騎士)
オタービオ(老人)
ミセーノ(オタービオの友人)
ラウレンシオ(騎士)
ドゥアルド(騎士)
フェニーソ(騎士)
ルフィーノ(教師)
ニーセ(オタービオの娘)
フィネア(ニーセの妹)*姉か妹かわかりませんが、ここでは妹と設定します。
クララ(侍女)
セリア(侍女)
ペドロ(従者)
音楽家たち
ダンスの教師

 

第一幕
第一場

イリェスカスの宿屋の前。リセオとトゥリーンが登場。

 

リセオ いい宿屋だったな。
トゥリーン ええ、肌寒くてね。
リセオ なんだか、かゆくないか?
トゥリーン 南京虫にやられたんでしょう。そいつはどこにでもいるんですよ。
リセオ 噂に聞いたイリェスカスの感想はどうだ?
 こんな場所、他にどこにもないだろう。 
トゥリーン ええ、その理由がよくわかりました。
リセオ 何か言いたそうだな。
トゥリーン 食事はいつもサワーチェリー、
 聞かされるのは、でたらめな作り話ばっかりときた。うんざりですよ。
リセオ それがここの特色だよ、トゥリーン。
 ここは王宮とセビーリャの間にあって、
 カスティーリャとアンダルシアを結ぶ中継地なんだ。
 旅人たちが互いに情報を交換したり、
 インディアスから来た連中がむこうの話をしたり、
 一般市民が買い物のことやら、仕事のことやらを
 長々とおしゃべりしたりするところなんだよ。
 で、出発の準備はできたのか?
トゥリーン ええ。
リセオ 聖像も積んだか?
トゥリーン もちろんです。
リセオ それじゃ、馬を連れてきてくれ。行くぞ。
トゥリーン 食事はしなくていいんですか?
リセオ ここで食事をしていったら、
 目的地に着くのは夜中になってしまう。
 ぼくは婚約者として参上するんだから、
 昼のうちに到着しないと失礼だろう?
トゥリーン でも、途中でお腹がすきますよ。
 保存食を荷馬車に積んであるんですが、
 まだここに着いていないようです。
 こんなこともあろうかと、私も少々、食べ物を持ってきました。
リセオ ほんとか?何を持ってきたんだ?
トゥリーン 何だと思いますか?
リセオ 言ってくれよ。
トゥリーン さあね。
リセオ ケチなやつだな。
トゥリーン 聞かない方がいいですよ。
リセオ どうして?
トゥリーン だって、今は食べないんでしょう?聞いてもつらくなるだけですよ。
 食べるときがきたら教えてあげます。
リセオ あらかじめ、何を食べるのかわかっていれば、
 今のこの空腹もやわらぎそうなのに…
トゥリーン じゃあ、教えましょう。
リセオ 頼む!
トゥリーン 塩漬けした豚肉です。
リセオ なんだ。そんなのがあると言われても、ちっとも嬉しくない。
 ほかに何かないのか?
トゥリーン あとはこれとか…きれいな箱に入ったお菓子とか。
リセオ そのチーズをもらおう。
 男が甘い菓子を食べるのは、かっこ悪いからな。
トゥリーン チーズを立ち食いしてるのも、
 かっこいいとは思えませんがね。
 もうすぐ結婚するっていうのに、あなたって人は!
リセオ いいじゃないか。まだ相手に会ってもいないんだから。
トゥリーン 宮廷のレディたちっていうのは、
 みんな繊細なガラスみたいなものなんですよ。
 透き通るような、神々しい美しさの持ち主なんです。
リセオ ふうん。彼女たちは、透き通ったゴハンでも食べてるのかね。
トゥリーン きっとそうでしょう。
 あなたのお相手のフィネア様への贈り物は…
リセオ なんだったかな?
トゥリーン 砂糖とジャムとゼリーです。
 一週間は甘いもの漬けで過ごすことになるかもしれませんね。
リセオ すてきなプレゼントだ。
トゥリーン ニーセ様へ贈るのはなんでしたっけ?
リセオ フィネアの姉のニーセには、敬意をこめて、
 ダイヤモンド製の薔薇と、金鎖を贈るつもりだ。
トゥリーン ニーセ様も美しいかただそうですね。
リセオ フィネアの評判はいいようだ。
 ニーセについてはほとんど知らない。
 ぼくにとっては、フィネアがぼくに与えてくれるものだけで十分だ。
 それは、世間でいちばん重要とみなされているものだからね。
トゥリーン 持参金…
リセオ それも、4万ドゥカードだ。
トゥリーン びっくりですよ、その金額には。
リセオ ちょっと信じがたい話だから、あっちに着いたら、
 お金をじかに見せてもらいたいな。
トゥリーン あそこの、緑色の飾りをつけた馬から、
 誰かが降りて、こっちへ来ますよ。
リセオ まずい。食べ物を隠せ。

 

第二場 
レアンドロ、リセオ、トゥリーン)

 

レアンドロ ちょっと失礼。ここの宿屋で食事はできますか?
リセオ ええ。ここへ無事にたどり着けて、よかったですね。
レアンドロ あなたがたもね。
リセオ マドリードへ行かれるんですか?
レアンドロ いえ、逆です。昨日マドリードを発ってきたんですよ。
 請願書の手続きに時間がかかって、なかなか出発できませんでした。
 あれはほんとうに面倒ですよ。
リセオ 請願ってのは、文字通り、請い願うということですからねえ。
 耐え忍んで待つしかないんでしょうね。
 あなたと一緒にマドリードまで行きたかったんですが、残念です。
レアンドロ あそこに行っても、ろくなことはないと思いますよ。
 悪いことは言いませんから、やめておきなさい。
リセオ ぼくは、なにかを請願しに行くわけじゃありません。
 なんて言いますか…ある取引に行くんですよ。
 あなたはマドリードをよくご存じのようですね。
レアンドロ ええ。あそこで育ちましたから。
リセオ ある人の家柄についてお聞きしたいんですが…
レアンドロ 家柄なんて信用できませんよ。
 マドリードでは、みんなチェスの駒みたいにだまし合いをやってるんです。
 ゲームに負けて、あぶれたやつらがいっぱいいますよ。
 キングやルークやビショップになれたやつは立派なお屋敷に住んでいますが、
 その他の連中は、ポーンみたいに地べたを這いまわるだけ。
 あそこでは何もかもがめちゃくちゃです。
リセオ オタービオさんは、さすがに、ポーンということはないと思います。
レアンドロ オタービオなら知ってますよ。
 彼はビショップといったところですね。いい暮らしをしてますよ。
リセオ 貴族で、ふたりの娘がいるそうです。
レアンドロ それなら、私の知っている男にまちがいありません。
 彼の娘たちというのがねえ、月とスッポンみたいに対照的なんですよ。
リセオ というと?
レアンドロ まったく似ていないんです。
 ニーセのほうはすばらしい娘ですが、
 フィネアのほうは、まともな理性も思考力もないんです。
 ニーセはおしとやかで、賢くて、エレガントで、機転もきくのに、
 フィネアはのろまで、ばかで、おっちょこちょいで、まぬけときている。
 そのフィネアに、まわりの連中がなんとか夫を見つけてやろうとしていると、
 もっぱらの噂ですよ。
リセオ (トゥリーンに)聞いたか?
レアンドロ 娘にあれだけ高額の持参金をつけてやれる人は
 そう多くはいないでしょう。
 しかし、ばかな娘と縁組みされる男は気の毒ですよ!
 だって、それなりにきちんとした家柄の男が、
 金ほしさにあのフィネアと結婚しようと、
 いそいそとオタービオの家へ向かっているそうなんですから。
リセオ (トゥリーンに)とんだ取引をしたもんだ。
 このままじゃ、笑いものにされるぞ。
トゥリーン (リセオに)今は、しらばっくれておきなさい。
リセオ (トゥリーンに)その必要はないよ。
 あまりのショックで言葉も出ない。
 (レアンドロに)で、ニーセのほうは美人で、おしとやかなんですか?
レアンドロ ええ、だからとても人気がありますし、
 彼女に夢中になっている男はたくさんいますよ。
リセオ フィネアのほうは、そんなにばかなんですか?
レアンドロ ええ。あの娘にとってはかわいそうなことですが。
リセオ 血のつながった姉妹なのに、
 そんなにも違っているものなのか。
 しかし、持参金はどうなっているんですか?
 姉妹は同額の持参金を与えられるんでしょう?
レアンドロ オタービオの兄弟のひとりが、
 フィネアに財産を残したと聞いています。
 財産がなければ、あの娘をまともな男と結婚させることはできないと思い、
 頭の悪さを金で補ったというわけですよ。
リセオ よけいなことを!
レアンドロ あんな娘でも、だれかと結婚すれば、
 ニーセみたいにおしとやかになるかもしれませんしね。
トゥリーン (リセオに)そろそろ、食事にしませんか?
リセオ そうしよう。準備してくれ。
 しかし、もう何も食べる気がしなくなったな。
レアンドロ 他になにか、聞きたいことは?
リセオ ありません。それでは失礼します。
 (トゥリーンに)ひどい話だ、まったく!

 レアンドロ退場。

 

第三場
(リセオ、トゥリーン)

 

トゥリーン これからどうしましょうか?
リセオ もう、馬に乗っていいよ。食欲がなくなった。
トゥリーン 元気を出してくださいよ。まだ結婚したわけじゃないんですから。
リセオ ばかな娘を妻にするくらいなら、殺されるほうがましだよ。
トゥリーン だったら、会ってから結婚を断ればいいんです。
 そうしたからって、罪にはなりません。
リセオ それもそうだな。会うだけ会ってみるか。
 今から恐怖で身がすくむ思いだけど。
トゥリーン 考えすぎですよ。
リセオ 唯一の希望は、姉のニーセのほうがすてきな娘らしいってことだ。
 彼女のほうがぼくの結婚相手だったらよかったのに。

リセオとトゥリーンは退場。 

 

第四場 
マドリード、オタービオの家の一室。
(オタービオ、ミセーノ)

 

オタービオ だから、発案者はファビオだったんだよ。
ミセーノ 君は、それに不満があるのか?
オタービオ 私の兄弟が、あれだけの財産を愚かなことに使ってしまったんだぞ。
 ばかなやつだ、ファビオも。
ミセーノ 彼が君たちに財産を譲ったことが不都合だというのか?
 君がその使いみちを決めたらいいじゃないか。
オタービオ たしかに、今日まで我々が不自由なく生活してきたのは、
 彼がフィネアに譲ってくれた財産のおかげだ。
 彼は、愚かな者が受け取るべき権利として、フィネアにそれを残したんだ。
ミセーノ 彼にとって、フィネアはただの姪という以上の存在だったんだろう。
オタービオ なるほど、君の指摘は鋭い。
 彼は、自分の愚かさを受け継いだフィネアに、
 自分にとって恵みであった財産をも受け継がせたというわけだ。
ミセーノ ニーセのほうは、美人で頭がいいから、
 君にとっては、先行きが楽しみだろう。
 彼女を一番心にかけているのが君であることは、誰も疑わないよ。
オタービオ 私にとって、娘はふたりとも同じくらい大切だ。
 しかし、私もいつか、好きな女ができないともかぎらない。
 娘たちが私に反発するようになり、よその男と結婚して、
 自分の道を歩んでいってくれるほうがいいのさ。
 フィネアはたしかに頭がよくないが、
 運よく転がりこんだ財産と、
 天が授けてくれたかわいらしい顔立ちが、それを補ってくれるだろう。
 ニーセはおしとやかだが、うぬぼれが強くて、
 私にとってはフィネアの問題よりもやっかいなんだ。
 あの子はいつも誉められるし、お洒落だから、
 男たちはみんなあの子をちやほやして、おだてているんだよ。
 もし私が、ばかな女と口のうまい女のどちらかを
 結婚相手に選ぶとしたら(こんなことを言っても驚かないでくれ、
 この年齢で結婚した男もいるのだから)、
 ばかな女のほうを選ぶだろう。
ミセーノ 妙なことを言うなよ。
 君が娘たちと結婚するわけでもなかろうに。 
オタービオ 私は、知性ある女性たちを悪く言っているんじゃない。
 そういう女性たちはりっぱだと思う。
 だが、口のうまい女たちのまやかしは、たちが悪いんだよ。
 妻というものは、やさしく、正直であるべきだ。
ミセーノ そして、子どもをたくさん産むべきだ、と言うのか?
 才女というものが気に入らないのかもしれんが、
 女性の悪口はやめておけよ。
オタービオ 夫に尽くす妻にふさわしい行動を挙げてみようか。
 できるだけ家にいて、おとなしく生活し、
 無駄なおしゃべりをしたり、派手に着飾ったりはしない。
 家族を第一に考え、外で何かを見聞きすることは控え、
 子どもたちを熱心に教育し、
 美しくあるよりも、清潔であることを心がける。
 女なんて、もともと口がうまいんだから、
 抽象的な観念についてしゃべらせたりしたら、どうなることか?
 私はニーセのそういうところに、うんざりしているんだよ。
 私の結論はこうだ。
 女は気立てさえよければ、知識などは、後から身につければいい。
 フィネアには知識はないが、素直で正直だ。
 ニーセは、素直さの点ではフィネアに劣っている。
ミセーノ なかなか深みのある話だね。
オタービオ しかし、どちらにしても、極端なのは良くない。
 あの子たちは二人とも、あまりに極端だ。
ミセーノ それで、彼女たちを誰と結婚させるつもりだ?
オタービオ そこは父親の務めとして、よく考えているよ。
 これが現実だとわりきって、フィネアは財産目当ての男と結婚させる。
 ニーセは頭がよすぎるせいで、まだ求婚してくれる男がいないんだが、
 フィネアのほうには、私の友人や親戚を介して、
 ひきもきらずに結婚の申し込みがきている。
 恋人としての資質よりも、金を望んでのことだがね。
ミセーノ それはしかたないな。君が選んだ方法はまちがっていないと思うよ。
オタービオ そうだろう?
 私がすべきなのは、フィネアに欠けているものを備えた男を探しだすことなんだ。
ミセーノ というと?
オタービオ いいか、ミセーノ。
 生まれつき思慮深い人間は、思慮が不足するということがないのだから、
 他人にそれを求めたりしないのだ。
 そういう人間は、むしろ金や食べ物を必要としていて、
 自分にそれを与えてくれる人間を求める。
 金が必要だと思えば、思慮を捨てて金をとるものなのさ。
ミセーノ 自分のことを思慮深いと思っている人間は多いが…
オタービオ この事実を信じない連中こそ、思慮が足りないんだ。
ミセーノ ニーセが来たぞ。
オタービオ あの子の自惚れの強さには、ほとほと参るよ。
ミセーノ ところで、私もきみの娘に縁談を持ってきたんだ。
オタービオ なんとしてでも、フィネアを結婚させよう。
 あのとおり、とてつもないばか娘ではあるが。

オタービオとミセーノは退場。

 

ばかなお嬢様(2) - buenaguarda