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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(9/9)(終)

 帝、アルカイデ、ボームラが登場。
 帝は短剣をアルカイデに向けている。

 

帝 おまえは私に、タイコーがばかで無知なやつだと言ったな。
 そして、私の命令どおり、
 あいつには、ほんとうの身分を知らせていないと言ったな。
 この嘘つきめ!
 よくも私をだましたな。覚悟しろ。
アルカイデ 陛下、落ちついてください。
 タイコーが女を愛し、陛下に嫉妬していたというのですね?
 私は嘘など申し上げてはおりませんし、
 そのような厳罰を受ける覚えもありません。
 考えてみてください、
 野獣のようなやつらにも、
 ささやかではありますが、愛や妬みはあるのです。
 しかし、もしタイコーが陛下を侮辱するようなことがあれば、
 そのときは陛下のために、
 タイコーに毒を飲ませることも、私はいとわないでしょう。
ボームラ 約束しろ。
 キルドラがタイコーを殺しそこなったときは、
 おまえがやつを殺すとな。
帝 タイコーのことはそれでいい。
 しかし、まだ気がかりなことがある。
 キリスト教徒たちが、われわれの神々の像を破壊しているのだ。
 やつらを皆殺しにしてやろう。
 すぐに、国じゅうの軍隊を集めるのだ。
 太鼓を鳴らせ。激しい戦になるぞ。
 あの、恐るべき力をもったナバレーテを捕えろ。
ボームラ 太陽神が、陛下に勝利を与えたまわんことを!
帝 日本を乱すキリスト教徒たちは、ひとり残らず殺してやる。

 

 帝とボームラは退場。

 

アルカイデ 生き残るのは、私かおまえか、どちらかだ。
 私が、正当な後継者であるタイコーを帝の座につければ、
 神々はお喜びになるだろう。

 

 タイコーが登場。

 

タイコー 父上!
アルカイデ よく私を父上などと呼べるな?
 おまえは私を裏切ったんだぞ。
 私の忠告に従わず、先帝の名を汚したのだ。
 私はおまえの父などではない。
 言っておくが、いつまでも恋にうつつを抜かしているというなら、
 おまえには、死んでもらったほうがましだ。
 女を信用するなと言ったろう。
 おまえがもっと慎重で思慮深ければ、
 こんなことにはならなかったものを。
タイコー おっしゃるとおりです。すべての責任は私にあります。
アルカイデ ここで待っていろ。
 同盟を結んだ王たちに、援軍を頼みに行ってくる。
 今日、この国は新しい支配者を得るだろう。
 すでにお前の名のもとに、軍が集められているんだ。
タイコー あなたはまるで、神のような方ですね。
アルカイデ 忘れたのか?おまえを育てたのは私だぞ。
 私がここまでするのも、おまえを愛していればこそだ。

 

 アルカイデ退場。

 

タイコー もう、愛という言葉は聞きたくない。
 それは恐ろしい怪物の名だ。
 愛は、とてつもない力で、ぼくをなぎ倒す。
 それなのに、愛による苦しみは甘くやさしい。
 キルドラは、ぼくの愛を裏切った。
 言葉で彼女を軽蔑することはできても、
 ぼくの心は、まだ彼女を求めている。
 
 太鼓の音。

 

タイコー 軍が近くまで来ているらしい。
 なにかあったんだろうか。
 
 太鼓を鳴らす兵士たち、マンガシル、縛られたナバレーテとトマスが登場。
 
マンガシル (処刑人のふりをしてナバレーテに近づく)

 神父さま、お許しください。
 告白します。
 私は処刑人みたいな恰好をしてますが、
 心は処刑人ではありません。
 私は神父さまの心の友人です。
ナバレーテ 私は今、とてもうれしいのですよ。
 この世で最も美しく、神々しい夜明けを見に行くのですから。
 あなたに、お願いをしてもいいですか。
マンガシル いくらでも言ってください。
ナバレーテ 筆記用具と、あなたの家に置いてきた服を、
 持ってきてもらいたいのです。
 私たちは、誓願を立てた修道会の一員として死ぬのですから。
マンガシル わかりました、神父さま。
トマス この蝋でできた十字架に、千回のキスをします。
 ぼくも死にに行きます、悦びのうちに。
ナバレーテ トマス、きみの人生は幸福だよ。
 気をしっかりもっていなさい。
トマス はい。ぼくはイエス・キリストの騎士です。
 たとえ子どもでも、ぼくは強いんです。
ボームラ さっさと歩いて、山へ登れ。

 

 太鼓の音とともに、タイコーを残して全員退場。

 

タイコー ぼくが見たものはなんだったのか?
 ぼくが聞いたものはなんだったのか?
 キリスト教とは、死にゆく人々にあれほどの悦びを与えるのか?
 あれほど神を深く信じている人たちが、自分を偽っているはずはない。
 子どもでさえ、神のために喜んで死のうとしている。
 あの子に強さを与えているのが神であるなら、
 その神は、きっと気高く、崇高なものにちがいない。
 ぼくは、キリストに誓った約束を守ろう。
 あれほど多くの兵士さえ周りにいなかったら、
 あの聖なる人たちを助けられるかもしれないが、
 ぼくにはどうすることもできない。
 怖いからではなくて、ぼくにできることがなにもないからなんだ。

 

 帝が登場。

 

帝 キリスト教徒たちの死体の山を見ないうちは、
 私の気がおさまらない。 
 図々しくも、私の国で説教をしてまわるとはな!
 やつらはもう死んだか?
 その扉を壊せ。
 私の復讐が成し遂げられたのを見たい。

 

 トランペットの音。扉が破られ、山が背景に現れる。
 岩の間に、十字架に磔にされたトマス、
 下方に、斬られた自分の首と斧を手に持っているナバレーテ、
 十字架の右側に、矢で胸を貫かれたフランシスコ会士、
 その隣に、槍に貫かれたアウグスティノ会士がいる。

 

トマス (帝に)あなたに、神父さまたちの聖なるご遺体を見る資格はない。
帝 なぜお前だけ生きているんだ?
トマス ぼくもこれから死ぬ。
 神父さまたちは先に天国へ行って、
 ぼくが行くための道を用意してくださっているんだ。
  
 軍隊のラッパの音。ボームラが登場。

 

ボームラ 軍からの知らせです。
 国内で反乱が起こりました。
 やつらは、陛下から帝の座を奪おうとしています。
 あの山へお逃げください。
 50人の王たちが軍を率いてやってきます。
 女たちまでもが、弓矢を持って参戦しています。
 そして、スペイン人司祭たちが死んだ後、
 あちこちで奇跡が起こったという報告がありました。
帝 このキリスト教徒たちをいけにえとして捧げているときに、
 反乱を起こしただと?
 それは、われわれの神々に歯向かうということだ。

 

 ラッパの音。武装した人々とともに、アルカイデ、タイコー、キルドラ、グアレが登場。

 

アルカイデ 暴君を倒せ!タイコーを帝に!
全員 タイコーを帝に!
アルカイデ (帝に)私がタイコーに飲ませた毒とは、これさ。
帝 おのれ!
 神々が私を見捨てるものか。
 キリスト教徒たちをいけにえとして捧げた、この私を!(逃げる)
タイコー 逃がさないぞ。(帝を追う)
グアレ 帝を倒しましょう!
キルドラ (トマスを見て)ああ、トマス!
 たったひとりの息子の、死に目にも会えなかったなんて!
トマス お母さん、復讐するのはやめて。
 キリストは十字架の上で、人々を赦されたんだ。
 ぼくもキリストにならって、
 ぼくを蔑んでいる人たちの赦しを祈って死ぬよ。

 

 舞台上方で、タイコーと帝が対峙する。

 

タイコー おまえの背後は崖だ。
 これ以上逃げるというなら、そこから身を投げるしかない。
 罪のないキリスト教徒たちが流した血に、赦しを乞うがいい。
帝 (天を仰ぎ)神々よ、もしあなたがたに力があるなら、
 キリストとその信者たちを
 私の手で滅ぼさせてください!
 私は、死ぬことでやつらに復讐します。
 やつらにも、どうか死をもたらしてください!
 キリスト教徒たちめ!
 おまえたちは私に災いをもたらしたな。
 しかし、私は心やすらかに死ぬのだ。
 ナバレーテは死んでしまった。
 あいつは、私の命をほしがっていたが、
 私が死ぬところを自分で見ることはできなかったのだ。
 ざまあみろ!
(崖の上から身を投げる)

ナバレーテ (斬られた首が話す)喜ぶのはまだ早いですよ。
 私はちゃんと見ているのですから。
帝 なんだと?ちくしょう!
(死ぬ)

 

 キルドラはトマスの元で嘆く。
 タイコーがキルドラのそばへ行く。

 

タイコー (キルドラに手をさしのべて)キルドラ、
 息子の死を悲しんでいるあなたに夫が必要であれば、
 この手を取ってほしい。
キルドラ 私は、これからずっとあなたに、心から仕えます。

 

 二人は手を取り合う。

 

トマス 愛するお母さん、
 神さまは、お母さんが皇妃になるところを
 ぼくが見るまで、この世にとどめておいてくれたんだ。
 ぼくとの約束を守ってね。
 (死ぬ)
タイコー (キルドラに)なにを約束したんだ?
キルドラ キリスト教徒になるってこと。
タイコー その約束を守ってくれ。私もそうする。
 けれど、この国を統治するまでは秘密にしておこう。
 そして、私たちが信徒になることによって、
 いま日本で起きている出来事に
 赦しと、結末をもたらさなくてはならない。
 

 

 

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