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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(8/9)

『日本の殉教者たち』 (Los primeros mártires de Japón)

タイコー 火の中へ身を投げたぞ。
 スペイン人ってやつは、なんてばかで、信心深いんだろう!
帝 わざわざ、私に復讐されるために来たのか。
 太陽神ばんざい!
トマス ナバレーテさま!神父さま!
 こんなこと、信じられない!
 イエス・キリストよ、神父さまをお救いください!
 神の母であるマリアさま、どうぞご加護を!
 ぼくはもう、神父さまに会えないんですか?
帝 おまえもキリスト教徒か?
トマス はい、そうです。
帝 キリスト教徒になったら、なにかいいことでもあるのか?
トマス 永遠の命が手に入るのです。
帝 永遠の命だと?
 そんなものが手に入るものか。
 幼いおまえの命は、私の手で葬り去られるのだ。
トマス 魂は、死ぬことはありません。
 天国で生きるのです。
 あなたは地獄で、永遠に苦しみ続けるでしょう。
 それは、終わることのない死なのです。
タイコー そういうことを言うようなら、
 きみたちも、あまり無邪気というわけでもないな。
帝 (空を仰ぐ)あそこに、われわれの神々がいる。
 透きとおった天球の、紺碧に輝く露台から、
 これをご覧になっていることだろう。
 あれはなんだ?あの魔術師が、火の中から帰ってきたぞ!
 早く殺せ!

 

 白い服を着たナバレーテが、聖像とロザリオを背負い、花に囲まれて登場。

 

ナバレーテ 神は、その偉大な力によって、炎を創造されました。
 あなたがたは、怒りに身をまかせて、
 神の肖像を炎で焼くという不敬を犯したのです。
 むなしいものを崇拝している野蛮人たちよ、
 あなたがたはまちがっています。
 ほんとうの神を敬っていれば、
 炎から雪や花々を生み出すことさえできるのですから。
 キリスト教の信仰はこの世の宝であり、もっとも価値あるものです。
 この美しい聖像は、不死鳥の輝きを放ち、
 炎からよみがえり、星のようにきよらかに光っています。
帝 あいつを捕えろ!殺せ!
タイコー この人の言っていることは、
 正しいのかもしれないし、まちがっているのかもしれない。
 でも、とにかくこの人は自分の神を救ったんだ。
 うらやましいじゃないか。
 だから太陽神よ、ぼくが彼を助けられるようにしてくれ。
 自分の神を守った人間を、ぼくが守ってやったなら、
 ぼくの力のほうが、彼の力よりもずっと大きいってことになるからな。
帝 ばかなことを言っているおまえも、
 あの男とともに死ぬがいい。
タイコー 神を呼んだほうがいいか?
 太陽神ばんざい!

 

 タイコーは、傍にある木材を振り回し、兵士たちをなぎ倒す。

 

トマス 神父さまを助けて!あいつらをやっつけて!
タイコー ぼくのどこから、こんなすごい力が出てきているのだと思う?
 まあ、おまえたちにはわからないだろうな。
帝 やめろ、野蛮人め。
タイコー いやだね。
(ナバレーテに)早く逃げろ。
ナバレーテ 私は神の意志にしたがって、死を受け入れます。
タイコー ばかなことを言うな。
 ぼくが助けたいのは、自分自身くらいは守れる神だ。
ナバレーテ これは、ばかなことではありません。
 私の、心からの望みなのです。
タイコー いいから、逃げて、自分の命を守れ。
ナバレーテ 私の命は神に捧げます。
タイコー それなら、しかたがない。好きにしたらいい。
ナバレーテ あなたに神のご加護がありますように。

 

 タイコーとナバレーテは、別々の方向へ引き立てられて退場。
 場面転換。
 キルドラとネレアが登場。

 

キルドラ ネレア、お願いよ。
 黙っていないで、話してちょうだい。
 たとえそれが、悪い知らせでも。
ネレア それなら言うわ。帝があのことを知ってしまったのよ。
キルドラ (傍白)ほんとうは、聞くのが怖くてたまらないわ。
ネレア タイコーが、ばかじゃないってこと。
キルドラ ばかよ。だって、私みたいな女を愛しているんだもの。
ネレア それから、あなたも彼を愛しているってこと。
 要するに、あなたたちが相思相愛だってことを知ってしまったの。
 キルドラ、帝は恐ろしい人よ。
 彼は、あなたたちの恋を無事には終わらせないと言ったわ。
 あなたもタイコーも、生かしてはおかないって。
キルドラ あの帝の嫉妬に、いつまで私は苦しめられるのかしら。
 私の命は惜しくないけど、タイコーを助けるにはどうしたらいいの?
 帝が嫉妬しているなら、私ひとりを殺して満足してくれればいいのに!
 この愛をまっとうするためなら、私はいつでも死を受け入れるわ。
ネレア たいへんよ!帝がやってきたわ。

 

 帝とボームラが、縛られたタイコーを連れて登場。

 

帝 下劣な男め。神々の名において、おまえを生かしてはおかない。
 (ボームラに)タイコーがばかではないというのが真実なのかどうか、
 そして、やつとキルドラが愛し合っているのかどうかを確かめるぞ。
ボームラ 承知しました。
キルドラ (傍白)どうしよう!
帝 (タイコーに)おまえが愚か者だというのは、偽りだな?
 おまえは、ばかのように見せかけて、大げさな芝居をしながら、
 腹の中では陰謀を企てていた。
 私から帝位を奪い、私を殺そうと考えていたんだ。そうだろう?
キルドラ (傍白)もうおしまいだわ。彼は嫉妬にかられて、
 私たちに復讐するつもりなんだわ。
帝 さいわい、キルドラがこのことを私に教えてくれたのだ。
 彼女におまえを見張らせていたのは、むだにはならなかったな。
タイコー (傍白)なんだって?
 キルドラはぼくをだましていたのか?
 そんなことは信じられない。
 けれど、アルカイデは女を信用するなと言っていた。
 女ってほんとうに、そんなに不誠実なものなのか?
帝 (傍白)タイコーは私の話に動揺しているようだな。
 しかし、このままこいつを処刑しても、私の心は満たされそうにない。
 この男に嫉妬していることに変わりはないのだから。
 キルドラは、タイコーを愛しているのだろうか?
 それとも、ネレアがタイコーを愛しているのか?
 どうやってそれを確かめればいいんだ?
ボームラ お悩みになっていらっしゃるのでしたら、
 二人とも、やつの前につれてこられてはどうですか?
帝 そうだな。おそらく、神が真実を示してくださるだろう。
 キルドラとネレアをつれてこい。

 

 タイコーの前にキルドラとネレアが引き出される。

 

帝 無償の愛ほど、すばらしいものはない。
 タイコーを愛しているのはどちらの女なのかを、今から確かめよう。
 この男にむかって矢を放てば、
 愛する女は、やつをかばおうとせずにはいられないはずだ。
 やつを木に縛りつけろ。

 

 タイコーが木に縛りつけられる。

 

ボームラ おまえも、惨めな最期を迎えたものだな。
キルドラ (傍白)ここで、彼をかばって死ねなかったら、
 私は不誠実な女だわ。
 でも、私が彼を愛していたのだとわかれば、
 けっきょく、彼は帝に殺されてしまうことになる。
 どうすればいいの?
 そうだわ、ネレアに…
ネレア 私にどうしてほしいの?
キルドラ 彼を助けたいの。
 でも、それには、あなたの手助けが必要なのよ。
ネレア おやすいご用よ。私はあなたの親友だもの。
 彼をかばうふりをすればいいんでしょう?
 そうすれば、帝があなたの恋人を殺すことはないものね。
キルドラ ありがとう。あなたの言葉で、生きる望みが出てきたわ。

 

 ネレアは、矢をつがえた兵士たちとタイコーの間に立ちふさがる。

 

ネレア あなたたち、何をするつもりなの?
 弓を下ろしなさい!
 この人は、私の命よりも大事な人なのよ。
 この人を殺すというのなら、私を殺して!
帝 (傍白)本気で言っているのかどうか、実際に射てみなければわからん。
 (兵士たちに)やれ!
ボームラ よけろ、ネレア!
ネレア (タイコーをかばって矢に射られる)帝のひとでなし!
 愛しいこの人には、なんの罪もないのに。
 なぜこんなひどいことをするの?
 私を彼のかわりに殺してちょうだい!
帝 ネレアの言っていることは真実だろう。
 私にとっては、よろこばしい結果だ。
 タイコーを愛しているのはキルドラではなかった。
キルドラ (傍白)ネレア、なんてばかなことを!
 どうして、自分の身を投げ出したりしたの?
 タイコーのため?私のため?
 誰のためだとしても、あなたが死ぬべきじゃなかったわ!
 私の命を彼女にあげたい。
タイコー なんてことをするんだ!
 こんなむごい仕打ちには、神々だって目をそむけるだろう。
 かわいそうなネレア!
 (帝に)この暴君め、よく聞いておけ。
 ぼくはばかなんかじゃない。
 いつかおまえを殺してやろうと思っていたんだ。
 おまえが帝だなんて、絶対に認めないからな。
キルドラ (傍白)タイコー、お願い、冷静になって。
 このままでは殺されるわ。
タイコー だけどぼくは、キルドラに裏切られた。
 (兵士たちに)おまえたち、ぼくに矢を射ってくれ。
 ぼくを早く死なせてくれ。
ネレア タイコー、やけを起こさないで。どこにいるの?
 (死ぬ)
帝 これで、真実があきらかになった。
 キルドラに対する疑念が消えて、私は晴れやかな気分だ。
ボームラ (傍白)そして、私の嫉妬は永遠に続くだろう。
 ネレアがタイコーを愛していたなんて!
 しかし、残念だったな、ネレア。
 おまえが愛した男は、おまえの処刑人になってしまった。
帝 だが、この男をうかつに処刑するのは危険だな。
 私はかつて、タイコーから帝の座を奪ったのだから、
 たとえ私が法にのっとって彼を処刑しても、
 タイコーを殺したとなれば、諸国の王たちが私に背くかもしれない。
キルドラ 陛下、私が彼を殺します。
帝 キルドラ、おまえの申し出を嬉しく思うぞ。
キルドラ これは、陛下のお命を救うためです。あとは私にお任せ下さい。
帝 わかった。
キルドラ (傍白)嫉妬のおかげで、彼は私を処刑人に選んでくれたわ!
ボームラ (傍白)そうやって、お前の復讐を果たすがいい。
 私は、私の復讐を果たす。

 

 帝、ボームラ、兵たちは退場。

 

タイコー キルドラ、きみの目的は、
 ぼくを殺すことだったんだな。
 今が絶好の機会じゃないか。
 何をぐずぐずしているんだ?なぜ殺さない?
 なぜ矢を射ってくれないんだ?
 キルドラ、もうこれ以上、ぼくを裏切らないでくれ!
キルドラ しっかりして。私は、あなたを愛してるのよ!
タイコー その言葉は、帝に言ってやってくれ。
 縄をほどかないでくれ!
キルドラ あなたを助けるために、裏切ったふりをしたのよ。
 どうしたの?私の話を聞いていないの?
タイコー もう、二度と君に会うことはないだろう。
キルドラ 待って!どこへ行くの?
タイコー 死ぬ。
キルドラ それなら私も!

 

 タイコーとキルドラは退場。

 

日本の殉教者たち(9)(終) - buenaguarda

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