Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(7/9)

第三幕

 修道服を持ったフランシスコ会士、マンガシル、ネレアが登場。

 

フランシスコ会士 (マンガシルに)私たちを家に迎えてくれたとき、
 あなたはキリスト教に慈悲の心を示してくれました。
 わたしたちの友マンガシルよ、
 私たち3人の修道服を、あなたが預かっていてくれませんか。
 帝は、いずれ私たちを殺すでしょう。
 私たちは、死に臨むとき、この服を着ていたいのです。
 これを持っていることで、あなたに危険が及ぶかもしれません。
 しかし、恐れないでください。
 聖人たちがあなたを守ってくださるでしょう。
マンガシル ぜひ守っていただきたいもんです。
 私は災難のまっただ中にいるんですよ。
 このあいだ、ひとりのばかを見張っておくようにと命令されたんですが、
 私はぐっすり眠ってしまって、
 そいつを逃がしてしまったんです。
 それ以来、処罰されることが怖くて、
 ベッドの中で毎日震えているんですよ。
 でも、いい考えがある。
 やつらが私を捕まえに来たら、
 この服を着ることにします。
 正しい人間がこの服を着れば、
 聖人たちが守ってくれるんですよね?
フランシスコ会士 その聖人たちの名は、
 ドミニクスアウグスティヌス、フランチェスコです。
マンガシル それじゃ、服はここの衣装箱の中に隠しておきます。
フランシスコ会士 (ネレアに)ネレア、
 われわれがボームラにつけ回されている理由は、
 どうやらあなたにあるようですよ。
 彼はあなたに執着しています。
 あなた自身は、いつキリスト教徒になろうと考えているのですか?
ネレア 今はまだ、決めかねています。
 それより神父さま、ボームラだけでなく、帝もよくこの森へやってくるんです。
 私たちが狩りをするところを見に来ているだけなのか、
 それとも、キルドラに言い寄ろうとしているのかは知りませんけど。
 さっきも帝の姿を見かけました。
 神父さま、ここにいるのは危険ですから、お逃げください。
 ご自身の命をよりよくお使いになってください。
フランシスコ会士 わかりました。
 主がこの国を教会へと導かんことを!

 

 フランシスコ会士は退場。

 

ネレア (帝の姿を見て)花や小枝よ、
 おまえたちは小鳥をやさしく養ってくれる。
 どうか私のことも、
 あの恐ろしい帝の手から守ってちょうだい。

 

 ネレアは茂みの中に隠れる。
 帝とボームラが登場。

 

帝 ボームラ、われわれの復讐の炎が、
 あの炉の中で燃えさかっているぞ。
 不可思議な力をつかって私を脅かした男がいるのだが、
 そいつは、まちがいなくスペイン人の司祭だ。
 私は、やつらが聖像と呼んでいるものを
 この谷へ持って来させて、焼くようにと命じてやった。
ボームラ よくご決断されました。
 やつらが日本人に聖像を惜しみなく与えたせいで、
 われわれの拝んでいた像は壊され、
 太陽神の祭壇に供物が捧げられることもなくなってしまいましたからね。
 もうひとつお知らせがあります、陛下。
 私が思うに、タイコーは、ばかではありません。
 ばかのふりをしているだけです。
 そして、彼とキルドラは愛し合っているようです。
帝 なんだって?
 あのいやしい女がタイコーを愛し、
 私をないがしろにしているなんて!
 それが事実なら、ふたりとも私の手で殺してやるだけだ。
ネレア (傍白)この話を聞けてよかった。
 キルドラに知らせなくちゃ。
 この人たちに気づかれないうちに逃げましょう。

 

 ネレア退場。

 

帝 タイコーは、ばかのふりをして私をだまし、
帝の座を奪おうとしているんだな?
ボームラ ええ、おそらく。

 

(*訳者による補足:
帝 油断ならんな。
 一刻も早く、なにか理由をつけて、
 あいつをひっとらえてやろう。
 (傍白)しかし、ボームラの話はほんとうに信用できるのか?
 キルドラが私をさしおいて、
 あのタイコーを愛しているなどとは信じられない。
 だいいち、ボームラがつけ回していたのはネレアのほうだったぞ。
 ネレアとまちがえているんじゃないか?
 この男は嫉妬深いから、
 ネレアを独り占めするために、タイコーを始末しようとしているのかもしれん。)

 

 二人の兵士が、フランシスコ会士をつれて登場。

 

兵士1 なんでそんなに、うれしそうな顔をしているんだ。
 おまえは捕まったんだぞ。
兵士2 (帝に)この男はスペイン人です。
 日本人たちに交じって説教していました。
 われわれは、この谷の木陰に潜伏して、
 やつを発見しました。
帝 よくやった。それはおまえたちの手柄だ。
ボームラ 早く、聖像やロザリオといったものを、
 やつらから没収しましょう。
 隠れているキリスト教徒たちは、それらを護符にしているんです。
 護符を取り上げてしまえば、やつらは信仰を忘れるでしょう。
 夜になったら、おとりを使い、
 告解を求める声をあげて外を歩かせましょう。
 その声を聞けば、たとえどこかの家にかくまわれていても、
 司祭たちは出てくるはずです。
帝 (フランシスコ会士に)お前はスペイン人か?
フランシスコ会士 私は神に仕える司祭ですから、
 偽証などいたしません。
 おっしゃるどおり、私はスペイン人です。
帝 この国で、いったい何をしている?
フランシスコ会士 この上なく神聖な真実、
 人間の魂の進むべき道、すなわちキリスト教を伝えているのです。
帝 おまえに訊きたい。
 私はひとりのスペイン人に会ったのだ。
 その男は整った顔立ちをしていて、
 目は大きく、背は中くらいだった。
 その男が話すと、私は矢で胸を射抜かれるような感じがした。
 やつは私に道理を説いていたのだが、
 そのとき、なにか不思議な力によって私は動けなくなったのだ。
 その男が誰なのか、おまえにわかるか?
フランシスコ会士 その方を気に入っていただけましたか?
 私にはそれがどなたかわかります。
 その方の話をよくお聴きになってください。
帝 その男の名はなんという?
フランシスコ会士 アロンソ・ナバレーテ師です。
 スペインの名家に生まれ、
 教養と武芸にすぐれた方でした。
 神とスペイン国王の忠実な僕でしたが、
 ドミニコ会の修道服を、生涯の武具として選ばれたのです。
 幼少の頃から俗世を軽蔑しておられました。
 バリャドリッドの修道院で清貧の生活を送り、
 そこで豊かな美徳と教養を身につけた後、
 フィリピンと呼ばれる地域へ赴かれました。
 病のために、一時スペインに戻りましたが、
 日本への布教にかける熱意によって、
 ふたたびローマへ行き、修道会の命を受けて、
 多くの司祭とともに、この国へと戻ってこられたのです。
 ナバレーテさまの方の豊かな美徳は、とても私の口では語りきれません。
 敬虔で、神を畏れる心をもち、慈悲に満ちあふれています。
 福音を述べ伝えるため、不眠不休の働きをなさっています。
 あなたがナバレーテさまを捕えて殺したなら、
 むしろあの方は永遠の存在となり、殉教者の冠を栄誉として受け、
 その教えはさらに広まるでしょう。
 われわれキリスト教の司祭たちは、死など恐れていません。
帝 黙れ。
 おまえの犯した罪は、おまえの血で償ってもらうぞ。
 その男を連れていけ。

 

 兵士1とフランシスコ会士は退場。

 

帝 ナバレーテとかいう男を殺してやる。
 その名を口にするのもおぞましい。
 キリストが、あの男を救いになど来るものか。
兵士2 陛下、マンガシルという男がおります。
 いつも自宅にキリスト教徒たちをかくまっていました。
 われわれがやつの家に踏み込んだところ、
 やつは、司祭たちの服に変装していました。
 おそらく、彼らのことを知っているはずです。
帝 マンガシルを連れてこい。

 

 アウグスティノ会の黒いマント、ドミニコ会の白い胴着、フランシスコ会のフードをつけたマンガシルが登場。

 

マンガシル 太陽神ばんざい!
 デオ・グラシアス!
 あれ?こんがらがってきた。
 あのばかの話をお聞きになりたいんですか?
 いいですとも。
 マンガシル師に神のお慈悲を。
帝 お前は、どういう服の着方をしているんだ?
マンガシル (もったいぶった口調で)われ、罪のうちに眠り、
 怒りとともに手放さん。
 彼を縛りしゆえに。
帝 スペイン人の司祭たちはどこにいる?
マンガシル われ、その者に言えり。
 「友よ、行くことなかれ。
  主が怒り給う」と。
帝 お前の家には司祭が何人いるんだ?
マンガシル 愚かなる者、
 ろくなことをせず。
 われになんの言葉も残さず…
帝 このばかめ!こっちの質問の意味もわからないのか?
マンガシル わかりません。
 このフードをかぶっているので、よく聞こえないんです。(フードをとる)
帝 何人のスペイン人をかくまってきた?
マンガシル 私は誰もかくまっていません、陛下。
 私は迷い人なんです。
帝 どの宗教を信じているんだ?
マンガシル どれも信じていません。
 私はもともと裏切り者で、恩知らずなんです。
帝 お前が着ている、そのスペイン製の服は、お前のものか?
マンガシル 私も、この服も、陛下のものです。
 私は陛下にお仕えいたします。
 なんでもお命じになってください。
帝 あっちへいけ。ウスノロめ。
マンガシル 陛下に逆らう理由などありましょうか?
 ご命令にしたがい、あっちへ行きます。

 

 マンガシル退場。
 場面転換。聖像とロザリオが運ばれてくる。タイコー、ボームラ、トマスが登場。

 

ボームラ 聖像が、火あぶりにされるために運ばれてきたぞ。
タイコー (ばかのふりをして、聖像を指さしながら)あの人たちが、
 きみたちになにか迷惑でもかけたっていうのか?
 食べることも、話すこともできないのに!

 

 帝が登場。

 

帝 火山のように熱せられた炉から、炎が噴き上がっているぞ。
 私の国には、キリスト教の護符などあってはならない。

 

 炉の蓋が開けられ、ロザリオと聖像が投げ込まれる。
 ナバレーテが登場。

 

ナバレーテ 信仰を持たない野蛮人たちめ!
 怒りにかられて、こんなひどいことをするとは!
 国王の肖像を壊す国がどこにある?
 こんなふうに、神や聖人たちを侮辱するなんて、
 おまえたちには畏れも敬意もないのか?
 誰を破壊しているのか、わかっているのか?
 無分別な民よ!
 地上にふたたび、大洪水が起こるぞ。
 この火の海は、その前触れだ。
 おまえたちは、神の似姿である聖像を火に投じるのか?
 神の怒りが落ちるぞ!
 しかし、どんな恐るべき責め苦の中でも、
 希望の光が消えることはない。
 なぜなら神は、私とともに来て、
 火の中から神の十字架を取り戻してくださるだろうから。
 私の信仰で、この地獄の都に畏れをもたらそうではないか。
 この炉は、バビロンの業火だ。

 

 ナバレーテ、炉の中へ身を投げる。

 

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