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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(6/9)

 日本人の服を着た3人の修道士たちが登場。

 

ドミニコ会士(ナバレーテ) われわれは再び、いばらの道へと引き返してきた。
 神よ、ここでまかれた種が、実を結びますように。
 (他の修道士たちに)みなさん、うまく日本人に変装して、
 戻ってくることができましたね。
 時間を無駄にしてはなりません。
 真の神を知らない人々に、正しい信仰を伝えましょう。
 信徒は増えていますが、司祭が不足しています。
 滞りなく仕事が進むよう祈りましょう。
 神が、私たちをひとつにしてくださいますように。
フランシスコ会士 ひとりひとり、違う土地に行きましょう。
 そのほうが布教には効率的ですから。
アウグスティノ会士 私はフィシェン(Fixén)と
 アンガラキ(Angalaqui)に行きます。
ナバレーテ 私は、今いるこの土地を担当します。
 キリストの使徒たちにならって、人々に布教しましょう。
 それではお二人とも、ここでお別れですね。
 神のご加護がありますように。
フランシスコ会士 お気をつけて、管区長さま。

 

 フランシスコ会士とアウグスティノ会士は退場。

 

ナバレーテ 主よ、私はこの国の偶像崇拝者たちを、
 教会へと正しく導いてみせます。
 ひとつ、うれしいご報告があります。
 この近くの野原で、
 私は、二つの異教神の偶像が破壊されているのを見ました。
 おや、あそこに女性がいる。
 誰かが、彼女を辱めようとしているようだ。
 私の正体がばれてはまずいから、
 ひとまず、この茂みに身を隠そう。

 

 ナバレーテは木陰に身を隠す。
 帝とキルドラが登場。

 

キルドラ (逃げながら)神々よ、お助けください!
 太陽神よ、なぜ暴君をおとがめにならないのですか?
帝 待て、キルドラ。
 帝の私が、おまえに会いに来てやったんだぞ。
 私から逃げられるとでも思うか?
 ここにいるのは、私とおまえの二人きりだ。
 おまえが気に入った。私の愛人になってくれ。
キルドラ 帝ともあろう方が、
 こんな恥知らずなことをするなんて!
帝 私に愛を求められたら、それに逆らう理由などおまえにはないのだ。
 そんなに嫌がるなら、力ずくでも私のものにしてやる。
キルドラ 助けて!

 

 ナバレーテが木陰から出てきて、キルドラと帝の間に立つ。

 

ナバレーテ (キルドラに)彼は、あなたにふさわしくない人です。
 それに、あなたが信じるべきなのは、
 真の創造主であるわれわれの神です。
 この国を治めているのは、こんな野蛮な君主なのですね。
 (帝に)なぜ、人としての道に外れたことをなさるのですか?
 民に模範を示すべき立場のあなたが?
帝 私に逆らうとは、愚かなやつだな。
 命知らずめ。

 

 帝は弓に矢をつがえ、ナバレーテに狙いをつける。

 

ナバレーテ 神は暴力や強制を嫌います。
 復讐ではなく、謙遜と清貧をこの世にもたらされたのです。
帝 (矢を射ようとするが、突然動けなくなる)おまえは何者だ?
 腕が動かない。だれかに押さえつけられているようだ。
 おまえのしわざなのか?
ナバレーテ 私は、人間の魂の救済を求めています。
帝 まさか、神ではあるまいな?
ナバレーテ ただの人間です。
 あなたの言っている神とは、にせものにすぎません。
 私の神だけが真実の神です。
帝 だから私にはおまえを殺せないというのか?
ナバレーテ 神があなたにそれをお許しにならないのでしょう。
帝 おまえは魔術師か?
ナバレーテ 私は、魔術など知りません。
帝 私を押さえつけている、この得体のしれない力はなんだ?
ナバレーテ ですから、神のお力です。
帝 うるさい!
ナバレーテ どうか、私の話を聞いてください。
帝 おまえがいると、心がかき乱される。
ナバレーテ 私に、あなたの命をあずけてくださいませんか?
帝 命をとるだって?冗談じゃない。
 おまえは死神か!
ナバレーテ 逃げるのですか?
帝 そうじゃない。混乱しているだけだ。
ナバレーテ 帝のあなたが、私を怖がっているのですか?
帝 人間なら怖くはない。しかし、おまえは人間と思えない。
ナバレーテ 私の神は、あなたより強いということですね。
帝 おまえの神じゃない。われわれの神々だ!

 

 帝は退場。

 

ナバレーテ (キルドラに)どうして、私たちは助かったのだと思いますか?
キルドラ わかりません。教えてください。
ナバレーテ われわれが信仰する神のおかげです。
 神の子であるキリストは、人間に永遠の命を与えるために、
 みずから十字架につけられたのです。

 

 タイコーが登場。

 

タイコー (傍白)どうしても、この愛と嫉妬から逃れることができない。
 ぼくの心が蝕まれていくみたいだ。
 望みがもてない。
 なにをやってもだめな気がする。
ナバレーテ (キルドラに)正しい人であったキリストは、
 私たちの罪をあがなうために死にました。
 その血によって、私たちに神の力がもたらされたのです。
タイコー (二人に気づく)キルドラがあそこにいる。
 この茂みに隠れていれば、あの二人からは見えないだろう。
 なにを話しているのか、聞いていよう。

 

 タイコーは木陰に身を隠す。

 

ナバレーテ その方があなたをお救いになったということは、
 きっと、あなたを求めていらっしゃるということです。
 その方を愛し、慈悲を求めなさい。
 その方は、天の主人であり、世界の主人です。
 あなたがその方を愛せば、あなたも豊かになれるでしょう。
タイコー (傍白)帝の話をしているんだな。
 またぼくは、みじめな思いをするはめになるのか。
 この男は、あんな暴君のために、
 キルドラを説得するつもりなんだ。
ナバレーテ キルドラ、賢明な選択をしたいと思うのであれば、
 このセニョール(*=主キリスト)を愛しなさい。
タイコー (傍白)セニョールだって?
 彼女を愛しているのは、ぼくと帝だけかと思ったら、
 三人目の男もいたのか。
ナバレーテ 神の王国に入った者は、永遠の時を生きるのです。
 セニョールは、あなたを愛しておられます。
 そのお方の絵をあなたにあげましょう。
 そして、あなたがトマスという善き果実を神にささげたことを、
 私は知っていますよ。
 どうかこれを受け取ってください。

 

 ナバレーテは、キリストの磔刑が描かれた聖画をキルドラに渡す。

 

タイコー (傍白)お願いだから受け取らないでくれ、キルドラ。
 きみがそれを受け取ったら、ぼくは生きていけない。
キルドラ (ナバレーテに)あなたのお話を聞けて嬉しいです。
 きっと、時間をかければ、私にもそのことが理解できるようになるでしょう。
 今すぐにとは言いませんが、
 そのセニョールに、私は魂をささげようと思います。
 その方にキスをして、太陽神のように崇めます。
タイコー (傍白)なんで、そんなひどいことを!
 いくらなんでも、あんまりだ。
 苦しみと悲しみのせいで、
 これ以上、ばかのふりをすることはできない。
 だけど、キルドラに罪があるわけじゃない。
 ぼくが、ただ勝手に傷ついているだけなんだから。 
ナバレーテ (キルドラに)私の言葉に、
 あなたが気を悪くしていなければいいのですが。
 さようなら、キルドラ。
 その絵を大事にしてください。

 

 ナバレーテ退場。
 タイコーは木陰から姿を現す。

 

タイコー (キルドラに)あの男は、
 とんでもないことをしてくれた。
 世の中は、なんて不公平なんだ!
 誰もかれもが、ぼくにひどい苦しみを味わわせるなんて。
 キルドラ、きみは節操のない、いやな女だ。
 そうやって、ぼくに勝ち誇って、
 自慢げな顔を見せつけているつもりだろう。
 人の心ってものには、なんのルールもないのか。
 力できみをねじ伏せるくらい、ぼくにとっては簡単だけど、
 そんなことをする理由がない。
 ぼくが勝手に傷ついて、
 勝手に思い悩んで、
 勝手にきみに恋しているだけなんだから。
 勝手に怒って、
 勝手に嘆いているだけなんだから。
 だから、せめて、きみが持っているその肖像画に復讐させてくれ。
 そうすれば、ぼくの気がすむんだ。
 この樹に、そいつを磔にしてやる!
キルドラ やめなさいよ!ばかね!
タイコー ぼくは、この苦しみから救われたいんだ。
 こいつに、仕返ししてやりたいんだ。

 

 タイコーはキルドラから聖画を奪い取り、短剣で樹の幹に突き刺す。描かれたキリストの顔から血が噴き出る。

 

キルドラ なんてことをするの、この野蛮人!
 それはキリストの絵よ。
 キリスト教徒たちが、神と信じているものよ。
 あの神父さまは、私にキリスト教のことを教えてくれただけなのに。
 勘違いもはなはだしいわ!
タイコー (自分の行いを悔いて)ぼくはなにをしたんだ?
 なんて罪深いことをしてしまったんだ?
 (聖画に向かって)セニョール、どうか許してください。
 神のあなたは、人の姿をしている。
 ぼくは、あなたを殺してしまったんだろうか。
 けれど、あなたは罪を犯しているはずはないのに、
 なぜ、十字架につけられているんですか?
 こんな若さで、たったひとりで責め苦を受けるなんて、
 つらく、恐ろしかったにちがいない。
 ぼくたちは、たとえ仲間がおおぜいいたって、
 自分の命を差し出すことなどできはしないのに。
 ぼくは、あなたが神だということを否定はしない。
 だけど、信じてもいない。
 あなたに仕えるわけではないが、
 あなたがどんなものなのかを知らず、
 過ちを犯してしまったことをあなたに許してもらいたい。
 神よ、あなたは怒っているんでしょうね。
 あなたの皮膚は裂け、
 あなたの血がぼくに降りかかった。
 ぼくは、怒りのあまり、どうかしてしまっていた。
 あなたをこんな目にあわせてしまうなんて!
キルドラ (傍白)こんなことを言うってことは、
 きっと彼は、ばかじゃなくて、賢い人なんだわ。
タイコー (キルドラに聞こえないように)キリストよ、
 これから、あなたに秘密の誓いをする。
 この国がぼくの手に任される時がきたら、
 ぼくはあなたの信徒になるだろう。
キルドラ (タイコーに)その絵に、なにか秘密でも打ち明けているの?
タイコー たいしたことじゃない。
 ぼくが君を愛しているってことだけだよ。
キルドラ それで、その絵に嫉妬したのね。
タイコー ひどいことをしてしまった。
キルドラ (アルカイデの姿を認めて)あなたのお友だちが、
 あなたを探しにやってきたみたいだわ。
 それじゃ、またね。
 私があなたと一緒にいるところを見られないほうがいいでしょう。
タイコー 待ってくれ。あれはアルカイデだ。
 彼がなにをしに来たのかわかるまで、ここにいてくれないか。
キルドラ わかったわ。
 私はここに隠れて、話を聞いていることにするわ。

 

 キルドラは木陰に隠れる。
 アルカイデとシゲンが登場。 

 

アルカイデ タイコー、シゲン殿がおまえに会いに来てくれたぞ。
 彼は、賢明で優れた王として名高く、
 おまえのことを、実の息子のように思っているんだ。
 この人は信用できる。
 彼は、おまえがこの国の君主となる姿を見たいと望んでいるそうだ。
シゲン タイコー殿、お会いできて光栄です。

 

 シゲン、タイコーの前にひざまずき、足にキスをする。

 

キルドラ (傍白)どうなってるの?王さまが彼の前にひざまずいているわ。
タイコー (シゲンに)どうかお立ちください。
 私たちは互いに、友情の絆を結びましょう。
シゲン ええ、永遠の絆を。
タイコー アルカイデの話では、
 あなたは私の父を敬い、忠実に従っておられたそうですね。
シゲン ええ、あなたの父上は最高の君主でした。
キルドラ (傍白)あの人たちが、ふざけているとは思えないわ。
 いったい、なにが起こっているの?
 タイコーは、見違えるように堂々としているわ。
 一度は忘れようと思ったのに、また彼を好きになってしまいそう。
シゲン あなたはタイコー・ソマの名を冠せられるにふさわしい方です。
 愚かな人間のふりをなさっていたのは、賢明なご判断でした。
 恐れ多いことですが、もうしばらくの間、その芝居をお続けください。
 そうなさっている限り、帝はあなたを愚か者だと思い、
 油断しているでしょうから。
キルドラ (傍白)彼は、わざとばかな人間のふりをしていたのね。
 ばかなことを言っている彼も、私はきらいじゃなかったけど。
シゲン 私は、諸国の王たちが蜂起して、
 あなたを王座につけてくれるように、
 手はずを整えておきましょう。
キルドラ (傍白)たとえ彼のことを好きになっても、
 私にとって、いいことはなさそうね。
 私と彼とでは、身分が違いすぎるもの。
 彼がりこうな人だったらいいのにとは思っていたけど、
 まさか、こんなに高貴な人だったなんて!
アルカイデ タイコー、おまえは恋のせいで身を危うくしただろう。
 そんなことでは、これからも帝に怪しまれてしまうぞ。
 それに、女を信用してはだめだ。
 秘密をもらされる怖れがあるからな。
シゲン そういう感情は、やり過ごすにこしたことはありません。
 自制なさってください、タイコー殿。
 恋を軽く見てはいけません。それによって滅んだ国は多いのですよ。
タイコー わかりました。おっしゃるとおりにします。
シゲン 今夜、またお会いしましょう。
タイコー ありがとうございました、シゲン殿。

 

 アルカイデとシゲンは退場。

 

タイコー (傍白)もう、恋のことは忘れよう。
 ぼくは、日本の帝にならなくてはいけないんだ。
 まだ、キルドラのことを思わずにはいられないけど、
 彼女のことはあきらめよう。

 

 キルドラが木陰から出てくる。

 

タイコー どうしたんだ?そんな顔をして。
 いつもはぼくに冷たくするくせに。
キルドラ タイコー、私、あなたが好きになったの。
タイコー ぼくを好きになったって?
 冗談はやめてくれ。
 その言葉を信じろっていうのか?
 もう、なにがなんだかわからない。
 これ以上、ぼくをからかわないでくれ。
キルドラ からかってなんかいないわ。
 あなたはりっぱな人だもの。私、あなたを尊敬するわ。
タイコー (傍白)そんなことを言われたら、ばかのふりもできない。
 (キルドラに)キルドラ、帝はきみに、ダイヤをくれると言っていたのに、
 なんでもらっておかなかったのさ?
 ぼくはまた、ばかになってしまったみたいだ。
 いっそ、きみのことなんか、なにもかも忘れてしまえたらいいのに。
キルドラ タイコー、もう、ばかのふりなんかしないで。
 私、あなたが好きなんだから。
タイコー きみって、口のうまい女だね。
キルドラ そうよ。そして、心からそう感じるのも上手なの。
タイコー それじゃ、本当にぼくを好きになったのか?
キルドラ あなたに夢中よ。
タイコー 生まれて初めて、愛の喜びを知った。
 キルドラがぼくを愛しているなんて!
 アルカイデ、シゲン殿、
 どうか許してください、約束を破ってしまって。
キルドラ タイコー、無理にそう言っているんじゃない?
タイコー まさか。なんでそんなことを?
キルドラ 女を信用してはだめなんでしょう?
タイコー さっきの話を聞いていたのか。
キルドラ ええ。残念に思うわ。
タイコー どうして?
キルドラ あなたが、高貴な人だとわかったから。
タイコー 高貴な人間だったらいけないのか?
キルドラ 私は、身を引くべきなんじゃない?
タイコー あの人たちは、きっと愛を知らないんだ。
 でなかったら、愛を忌み嫌うはずがない。
キルドラ ありがとう、そう言ってくれて。
タイコー きみを愛している。ぼくは幸せだ。
キルドラ あなたが帝になっても?
タイコー ぼくはずっと、きみのものだ。
キルドラ 帝になれなかったら?
タイコー そのときはもちろん、きみのものだ。
キルドラ (身に飾っていたバラの花を渡す)
 タイコー、このバラを受け取ってくれる?
タイコー ありがとう。これは、どんな王国にもまさるぼくの宝だ。
キルドラ あなたも、お世辞が上手ね。
タイコー これ以上の真実はないと言ってくれ。
キルドラ そんなことを言っていたら、たとえ帝になっても、
 すぐにその座を奪われてしまうわよ。
タイコー そうなっても、このバラは失わない。
 またきみに会いたい。どこへ行けばきみに会える?
キルドラ 私はいつも、この野原にいるわ。
タイコー わかった。
キルドラ あなたを愛しているわ。
タイコー それじゃ、さよなら、キルドラ。
キルドラ さよなら。

 

第二幕終

 

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