Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(4/9)

第二幕

 タイコーとアルカイデが登場。

 

アルカイデ 息子よ、もうわかっているな?
 おまえほどの年齢になれば、
 世の中のことについて、正しく理解していなくてはならないし、
 悪しきものは、しりぞけなくてはならない。
 私は、長い経験から得た知識を、おまえにすべて教えたつもりだ。
タイコー わかっています。
アルカイデ これからも、野蛮でばかな人間のふりをしていなさい。
 身分を隠したまま、日本国内をめぐり歩いて、
 王たちに会ったら、
 いまの帝の地位はもともとおまえのものであることを伝えるのだ。
 おまえが先帝タイコー・ソマの息子で、
 国を治めるにふさわしい人物だとわかってもらうためには、
 目立ちすぎないようにしなさい。
 そうすれば彼らはお前を支援し、
 帝としてむかえてくれるだろう。
タイコー 父上、私がタイコーの名を名乗れるのも、
 あなたが私をいつくしみ、教育してくださったからです。
 あなたのおかげで私は強くなり、
 自分が生きる意味を知ることができました。
 しかし、まだ教わっていないことがひとつあります。
 あなたがいないときに、私はそれを知りました。
 それを感じることはできても、
 理解することはできませんでした。
 それがどんなものか、これからお話しします。
 私は、あなたが「女」と呼んでいる
 この上なく美しいものを見ました。
 それは、われわれの母なる自然を思わせるものでした。
 それを見ると私は、ときめきや不安をおぼえ、
 移り気になり、心が高鳴るのです。
 彼女が私をながめれば、喜びを感じ、
 いなくなれば、苦しみを感じ、
 彼女が私を見つめれば、幸福を感じるのです。
 彼女が去れば、私は悲しく不安になり、
 再び彼女に会えれば、私の胸は喜びに踊るのです。
 教えてください、この気持ちはなんなのですか?
 臆病になるかと思えば、むこうみずになり、
 苦しむかと思えば喜び、
 生きているようでも死んでいるようでもある、この気持ちは?
アルカイデ それは、愛というものだ。
 恋する男がもつ感情だ。
タイコー 愛とは、甘美でやさしいものですね。
アルカイデ 愛することの苦しさを知らない者は、
 みんなおまえのように、それを甘美だと言う。
 しかし、ひとたび嫉妬というものを味わえば、
 愛はおまえを裏切り、
 その内に毒蛇を宿すのだ。
タイコー 嫉妬とは何ですか?
アルカイデ 見たくないものを見ることによって
 死ぬほど苦しむことだ。
 その苦しみといったら、筆舌に尽くしがたい。
 愛する者で、それを知らずにいる者はほとんどいない。
 お前もいまに、それがどういうものかわかるさ。
 
 二人は退場。

 キルドラとネレアが山の上に登場。

 

キルドラ 谷へ降りたいのね、ネレア?
 その前に、私の秘密をあなたに打ち明けてもいい?
ネレア それって、恋の話?だったら話して。
 ひとの恋の話を聞くのは楽しいもの。
キルドラ あの、たくましい青年をおぼえてる?
 あらっぽくて、むこうみずで、
 私に夢中になって、あとをついてきた人のこと。
 私、あの人が気に入っちゃったの。
ネレア あんなのは、この山にいる野獣とおんなじよ。
 野蛮人の恋人になるっていうの?
 よくあんな人を好きになれるわね!
キルドラ まだ、好きだというほどじゃないわ。
 ただ、気になっているだけよ。
 あの人は野蛮人みたいなかっこうだったけど、
 言っていることはしっかりしていたし、頭もよさそうだったわ。
 あのあと、彼はどこかへ行ってしまったのよ。
 あの人のたくましい腕ならきっと、
 山のイノシシや、川辺のワニだってしとめられるわね。
 彼に弓をもたせたら、
 稲妻のような速さで、なんでも射抜いてしまいそう。
 空を舞っている、あのきれいなオウムでも。
ネレア なんであんな男をそんなにほめるのよ。
 あんなの、ばかで、なにも知らない男じゃない。
 だいいち、彼がどこの誰かもわからないっていうのに。

 

 タイコーとアルカイデが登場。(キルドラたちには気づいていない)
  

タイコー もし私が帝になったら、
 お金でも、権力でも、好きなだけあなたにさしあげます。
 どんな望みでも言ってください。
アルカイデ こうしておまえが自由の身になって、
 かしこい若者になった姿を見られたのだから、
 それが私にとって最高の宝なんだよ。
 おまえが帝になる日がきたら、
 私はおまえに、心から仕えよう。
 こうやって、おまえの足元にひざまずき、
 忠誠の証として、足にキスするさ。

 

 アルカイデはひざまずき、タイコーの足にキスをする。

 

キルドラ (ふたりの様子を見て)ばかみたい、あんなことをして!
 あんな挨拶は、太陽神とか、帝にだけするものよ。
 あんなに年を取った人が、あの人の前にひざまずいて、足にキスするなんて。
 わけがわからないわ。
ネレア きっと、あの人の友だちなのよ。
 からかっているだけでしょう。
キルドラ (傍白)私の気持ちなんか、あの人に言うもんですか。
アルカイデ (タイコーに)あの暴君が、狩りをしにやってきた。
 うまく芝居をするんだぞ。
タイコー あの人には会いたくありません。
 私はむしろ、愛する女性に会いに行きたいのです。
 つらく苦しいのですが、
 胸にある思いは強くなるばかりです。
 彼女がいなければ、私はどうしていいかわかりません。
 さようなら、父上、
 私はこの恋のゆくえを運にまかせます。

 

 タイコー退場。

 

アルカイデ (独白)太陽神が、おまえをお守りくださるように。
 海をこえて、あのスペインに達するほど、
 おまえの国が栄え、広がっていくことを願っているよ。

 

 アルカイデ退場。

 

ネレア キルドラ、もう行きましょう。
キルドラ あんな男を好きになりかけていたなんて、恥ずかしいわ。
 みっともないことをして!
 もし彼が正気だとしても、どうせ下品で、ばかな男にきまってる。
ネレア 恋をしていると、よくそういう勘ちがいをするものよ。
 
 ネレアとキルドラは山を降りていく。
 帝が登場。
 
帝 (空へ向けて矢を射る)あそこに鳥がいる。
 体を矢で貫かれたまま、天へ向かって飛んでいく。
 どこへ行こうというのか?
 鳥よ、おまえは彗星のような軌道で飛んでいるな。
 しかし、すでにおまえは弱り、死にかかっている。
 そら、真っ赤な血に染まって落ちてきたぞ。
 私が太陽に捧げた弓で、こいつを拾い上げるとするか。
 (キルドラとネレアに気づく)
 おや、女がいるぞ。
 こんなところで、こんなに美しい女を見つけるなんて、運がいい。
 野山にも、高貴な美しさをもつものがあるのだな。
 なにかで読んだことがあるが、
 異国のディアナという美しい女神は、森の狩人だったそうだ。
 きみたちも女神なのか?

 

 キルドラとネレアはひざまずき、目を覆う。

 

キルドラ 私たちのようにいやしい者は、
 陛下のお顔を見ることも、お答えすることも禁じられているのです。
帝 それはたしかに掟で定めたことだが、
 瑣末なことだから、このさい免除しよう。
 私が帝だと、なぜわかった?
キルドラ 陛下の威光は、この地に鳴り響いております。
帝 太陽のように輝かしい顔を、それ以上隠してはならん。
 これは命令だ。
ネレア (キルドラに)キルドラ、どうしましょう?怖いわ。
帝 なぜ、震えているんだ?
 緊張しているのか?それとも、私が怖いのか?
キルドラ 両方です。
帝 ふたりとも、立ちなさい。
 その清らかな瞳を見せてくれ。
 偉大な男を屈服させるのは、美しい女だけだ。
 名は何という?
キルドラ 私はキルドラ。
 これは私の友人のネレアです。
 私たちは、この村で生まれ育ちました。
 山で狩ってきた獲物や、
 大地で育てた作物などを食べて暮らしているのです。
 要するに、いやしい階層の人間です。
 陛下、どうぞ私たちのことなどお気にとめないでください。
 こんなみすぼらしい女たちと一緒にいては、
 不愉快に思われるでしょうから。
帝 礼儀正しくしているつもりかもしれんが、
 それでは愛想がなさすぎるぞ。
キルドラ 陛下のようなおかたが、
 村の女にご興味をもつ必要はありません。
帝 きみたちに、
 私が美しい朝を迎えられるようにしてもらいたいものだ。
キルドラ こんなひなびた土地にいれば、
 どんな顔の女でもきれいに見えてしまうんですよ。
 そんなお世辞はおやめください、陛下。
帝 いいや、まちがいなく、きみは美しい!
 私はきみが気に入った。
キルドラ (傍白)へんなの。この男も、野性味のある女が好みらしいわね。

 

 ボームラが登場。

 

ボームラ 羽を紅く染めた鳥が落ちてきた。
 桜草の花さながらに、血に染まっている。。
 (ネレアに気づく)あれは、ネレアじゃないか!
 彼女に恋したために、私は死ぬほど苦しんだ。
 彼女への恋をとがめられ、私はキリスト教の信仰を捨てた。
 そのネレアがあそこにいる。
 もし帝が、美しいネレアを気に入ってしまったらどうしよう?
 神よ、帝にとって彼女が魅力的な女でありませんように!
 私にとっては、おそろしく魅力的なんだが。
タイコー (声のみ)キルドラ、グアレ、ネレア!
 どこにいるんだ?
ボームラ 陛下がネレアに魅力を感じてしまう前に、
 ふたりを引き離そう。
 (帝に)陛下!鳥が野に落ちました、
 陛下の矢に射抜かれて、羽を丸めて落ちてきましたよ。
帝 それがどうした?
ボームラ 帝はネレアたちといっしょにいたいらしい。
 ふたりの女のうち、
 帝が気に入ったのはどっちなんだろう?
 (帝に)陛下、夜鳴き鳥のことをご存知ですか?
 やつらは昼の光を嫌っていて、
 昼の間は鳴かないんです。
帝 それがどうした?
ボームラ なんでもありません。
(傍白)ただの私の嫉妬ですから。

 

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