読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(3/9)

『日本の殉教者たち』 (Los primeros mártires de Japón)

 フランシスコ会ドミニコ会、アウグスティノ会の修道士たちが登場。

 

ボームラ おい、おまえたち、
 日本の偉大な帝が、
 キリスト教を広めている司祭たちに厳しい罰を与えよと、
 私に命じられた。
 私の希望がかなったのさ。
 私を侮辱したおまえたちに復讐してやるのは、
 最高の気分だ。
 いまは西風が吹いているから、
 キリスト教徒どもを船に乗せれば、
 インドへ送ってやることができる。
 おまえたちを、日本から追放する。
 さっさと出ていけ。
 日本にはもともと、いにしえの神々がいるんだからな。
フランシスコ会士 かつてはキリスト教徒だったあなたが、
 そんな重罪を犯すおつもりなのですか?
 (ドミニコ会士に)ドミニコ会の管区長アロンソ・ナバレーテさま、
 彼になにか言ってあげてください。
 わたしたちの言葉を伝えましょう。
 そして、つつしんで苦難を受け入れましょう。
ドミニコ会士(アロンソ・ナバレーテ) 王よ、ご自分を取り戻してください。
 あなたがたの神々は、はかないものです。
 そんなものを信じてはなりません。
 あなたが洗礼式のときに身に受けた清らかな水を、
 どうぞ汚さないでください。
 洗礼とともに、あたらしい名を与えられたでしょう?
 神であり、また人であるキリストは、
 私たちのために十字架につけられ、血を流されたのです。
 キリストは、永遠の存在です。
 私たちに生命を与えてくださるかたです。
 そのキリストを否定すれば、
 地獄へ行くことになるのですよ。
 恐ろしいと思わないのですか?
 あなたはかつて、キリスト教徒だったのだから、
 もっと強く業火で焼かれるでしょう。
 あなたは、まるでユダですよ。
 教会を敵に売ったということは、
 ユダのように、キリストを売ったということです。
 私たちは、あなたにほんとうの神を教え、
 あなたに、ほんとうの知恵を与えたのに、
 なぜ、こんなひどい仕打ちを受けるんですか?
 真実をあなたに教えただけなのに、
 あなたはなぜそれを、侮辱されたなどと言うんです?
ボームラ これまで、おまえたちがこの国にいられたのは、
 帝が寛大だったからだ。
 しかし、帝はもう、おまえたちのやることに我慢ならなくなったから、
 海の向こうへ追放することにしたのさ。
 あの船の船長を、おまえたちの見張りにする。
 口答えはするな。
 (船に向かって)おい、そこのおまえたち!

 

 ボームラ退場。

 

マンガシル 神父さま、
 私はのんきな男なので、
 これまで怒ったことがないんですけど、
 ほんとうは、ここで怒ったほうがいいんでしょうね?
ドミニコ会士 マンガシル、あなたのために祈ります。
 神があなたに、これまでの私たちの宿代を払ってくださいますように。
 あなたを聖人にしてくださいますように。
マンガシル 神さまが払ってくれる前に、
 あなたが払ってくれればいいのに。
ドミニコ会士 神はとても善いかたですから、
 ちゃんと払ってくださるはずです。
 私は、あなたがキリスト教徒になり、
 かしこい人になってくれるという望みも、捨てていませんよ。
マンガシル ところで、宿代は全部でいくらでしたっけ?
ドミニコ会士 いくらであろうと、神がきっと払ってくださるはずです。
マンガシル はいはい、宿代なんて、
 怒るほどのことじゃありませんからね。
 神が神父さまとともにありますように。

 

 マンガシル退場。

 

フランシスコ会士 管区長さま、どうしますか?
 ここにとどまるのは危険です。
 やっと信者が増えたと思ったのに、
 このままでは、彼らを失ってしまいますね。
 私たちが日本にまいた種も、
 もし私たちが追放されたら、実らなくなってしまうでしょう。
アウグスティノ会士 心配いりませんよ。
 いまは耐え忍ぶときなのです。
 われわれの教えは、じゅうぶんに人々の間に根づき、
 受け入れられています。
ドミニコ会士 われわれは、たとえ命を危険にさらすことになっても、
 ここへ引き返してくるべきでしょう。
 もし私たちが日本を去れば、
 すでにキリスト教徒になった者たちを
 悲嘆にくれさせることになるのですから。
 私たちがいなければ、
 誰が彼らのためにミサを挙げるのですか?
フランシスコ会士 彼らのことを思うと、胸が痛みます。
アウグスティノ会士 では管区長さま、
 われわれのとるべき道を、お決めになってください。
ドミニコ会士 ひとまず抵抗せずにここを去り、
 あとでこっそりと戻ってきましょう。
 服を替え、インディオに変装するのです。
 日本の信徒たちが教会に戻ってきてくれたとき、
 私たちが、彼らを導かねばなりません。
 私たちはすでに日本語を話せますから、
 日本へ引き返す方法は、途中で誰かに教えてもらいましょう。
 敬虔な日本の信徒たちのために、私たちの命を使おうではありませんか。
アウグスティノ会士 船はどうするんですか?
ドミニコ会士 聖ライムンドのように、
 私たちの修道服を帆にして、小舟を作ればいいのです。
 布教に賛同する者たちは、一緒に来てくれるはずです。
 そまつな小舟でも、勇気をもって大海原に漕ぎ出しましょう。
 インディオたちは、宣教師たちのこうした勇気に信仰心をかきたてられて、
 キリスト教徒になったのですよ。
フランシスコ会士 われわれは、
 死ぬ覚悟をもって、ここへ戻ることを誓いましょう。
ドミニコ会士 神よ、われわれにご加護をお与えください。
 そして、勇気をお与えください。
アウグスティノ会士 われわれを、日本へ導いてください。
フランシスコ会士 主キリストよ、この地へ再び戻ってこられますように!

 

 少年トマスが登場。

 

トマス デオ・グラシアス(*失礼しますという意味)。
ドミニコ会士 トマス!どうしたんだ?泣いたりして。
トマス 司祭さまたちがいなくなってしまうと思うと、悲しいんです。
 ぼくはこれから、どうやってミサのお手伝いをするんですか?
 どうやって、りっぱなキリスト教徒になればいいんですか?
ドミニコ会士 神が、きみの最高の父になってくださるよ。
 元気を出しなさい。さあ、涙をふいて。にっこりと笑って。
 私たちは、またここへ戻ってくるんだから。

 

 ラッパの音。

 

フランシスコ会士 ラッパが鳴っている。
 出港の合図です。
(船の中からの声)出港するぞ!
ドミニコ会士 みなさん、行きましょう。
フランシスコ会士 さようなら、トマス。
ドミニコ会士 怠けてはいけないよ、トマス。
 ロザリオをいつも持っていなさい。

 

 修道士たち退場。

 

トマス ぼくは、神父さまに言われたことを忘れはしない。
 これからは、神父さまのことを思って泣き暮らすだろうけど、
 毎日、ロザリオのお祈りをささげよう。
 だって、マリアさまという名前は
 とてもやさしくて、清らかなんだもの。

 

 弓矢を持ったキルドラが登場。

 

キルドラ リセオ、なぜ泣いているの?
トマス ぼくをリセオなんて呼ばないで、お母さん。
 トマスと呼んでくれないのなら、
 お母さんはもう、ぼくのお母さんじゃないや。
キルドラ おまえは、すっかりキリスト教徒になっちゃったのね。
トマス りっぱなキリスト教徒には、
 異教徒のお母さんなんて必要ないよ。
キルドラ 死んだおまえのお父さんも、
 私と同じ宗派だったけど?
トマス だからお父さんはいま、地獄にいるんじゃないか。
 日本人が永遠の神を信じないなんて、不幸なことだよ。
 お母さん、いつキリスト教徒になってくれるの?
キルドラ 私が、昼をつかさどる太陽ほどの権力を手に入れたらね。
 私がこの国の皇妃になったらね。
 いまの私は、山の中で獣とたたかう、いやしい狩人よ。
 そうしないと生活できないんだもの。
 こんな私が、真珠と黄金でできた冠でもかぶるようになれば、
 キリスト教徒になってあげてもいいわ。
トマス それがお母さんの条件だね?
 いいとも、喜んで受け入れるよ。
 その可能性がまったくないわけではないからね。
 いまの約束を守ると、ぼくに誓ってよ。
キルドラ 誓うわ。
トマス ナバレーテ神父さまが出港するところを見に行ってくるよ。
 神父さまが乗っていれば、海が荒れることなんかないさ。
 いってきます。

 

 トマス退場。
 グアレとネレアの歌声がきこえてくる。

 

グアレ(声のみ) 花のあいだを
 駆け抜けていく鹿よ、
 なにかを恐れているのか?
 逃げるがいい、
 3人の女たちが、おまえを探している。
 女たちはおまえを、
 愛の矢で射抜く。
キルドラ グアレが、歌で私を呼んでいるわ。
 私も歌で答えよう。
 あの歌声から察するに、
 私を探しに来たようね。
 (歌う)
 狩人たちよ、
 アモル(愛神)の矢で生き物を射る、おそろしい女たち、
 その情けで、獲物の傷を癒せ。
 その愛で、獲物の命を奪え。

 

 グアレとネレアが登場。

 

ネレア 狩りの時間よ。
 山の獣たちが、私たちをこわがる時間ね。
キルドラ グアレ!ネレア!
 太陽神にあなたたちの声を聞かせたいわ。
 それに、あなたたちの美しさも見せたいわ。
 グアレ、ポレモが来るまでのあいだ、歌を続けてちょうだい。
 歌声だけで獲物を射抜けそうなくらいすてきよ。
 太陽神は、きっと私たちを賞賛してくれるわね。
 歌声で、獲物の傷だってなおせそうだもの。
グアレ あなたがそう言うなら、歌を続けるわ。
 (歌う) 
 花のあいだを
 駆け抜けていく鹿よ、
 なにかを恐れているのか?
 逃げるがいい、
 3人の女たちが、おまえを探している。
全員 女たちは、アモルの矢で獲物を射る。
 ネレアの瞳を恐れよ、
 この狩人の輝かしい美しさは
 太陽にもひけをとらない。

 

 タイコーが舞台上方に登場。
 (*この間にポレモがキルドラたちに合流している)

 

タイコー あの獰猛なイノシシは、
 どこへいってしまったんだろう?
 太っているくせに、すばやいやつだ。
 血の跡も残さずに、いなくなってしまうなんて。
 必ず見つけてやるぞ。
ネレア 人の声がするわ。
キルドラ 鹿をねらってきた狩人たちでしょう。
 歌の邪魔をしないでよ。
グアレ (歌う)4人のニンフはまるで、海神の娘たちのよう。
 山に仕える彼女たちの矢は、象牙や珊瑚をも貫く。
タイコー (キルドラたちに気づく)この山には、
 なんて優雅な生き物が仕えているんだろう!
 神々しいほどの美しさだ!
 胸がしめつけられるようだ。
 炎のように胸が熱くなるかと思うと、
 氷のように冷たくなる。
 心臓をわしづかみにされたようだ。
 ぼくはどうなってしまったんだ?
 すばらしく美しい4つの顔。
 あれは神の顔だ。人間の顔ではない。
 あんな生き物を初めて見た。
 きっと、女というものにちがいない。
 いままでぼくは女というものを見たことがなかった。
 このチャンスをのがすものか。

 

 タイコーは舞台下方に降り、キルドラたちの前に姿を現す。

 

ネレア あら、あの山から獣が降りてきたわよ。
キルドラ 私たちがいつも獣を殺しているもんだから、
 むこうから戦いを挑んできたのかしら。
タイコー (顔をそむけながら)きみたち、頼むから、
 そんなにきれいな顔をこっちに向けないでくれ。
キルドラ へんな男ね。女が怖いの?
タイコー それじゃ、きみたちは女なのか?
キルドラ そうよ。
タイコー なんて美しい生き物なんだろう!
 ぼくは、女を見るのは初めてなんだ。
 きみたちは、まるで神みたいだな。
キルドラ 私は、こんなにびっくりする人を見たのは初めてだわ。
 野蛮人さん、あなたはだれ?
タイコー 生きているってすてきだ。
 こんなにきれいな人を見ることができるんだから。
 ぼくは男だ。きみに会えてとてもうれしい。
 きみを創った神は偉大だ。
ネレア あっちへ行きましょう、キルドラ。
 こんなところにいちゃだめよ。
タイコー ぼくの命は、きみの手に握られてしまった。
 ぼくの心は、きみに奪われてしまった。
キルドラ おおげさね。誰のことをいってるの?
タイコー きみたちは、みんなすてきだ。
 (キルドラにむかって)だけど、その中でもきみは、
 とくにきれいだ。
 ほかの人たちは美の女神だけど、
 きみは麦穂の上に飾られたバラの花だ。
キルドラ あなたって、ほんとうにへんな人ね。
タイコー きみは、ほんとうに美しい。
ネレア キルドラ、行きましょう。

 

 ネレア、グアレ、ポレモ退場。

 

タイコー ぼくは、きみが好きだ。
キルドラ (タイコーの手をふりほどく)はなしてよ!
タイコー 怒っているのか?
キルドラ 私の仲間が、あっちで私を待ってるのよ。
タイコー そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃないか。
キルドラ しかたないでしょう。私はほんとに怖い女なんだから。
タイコー さっきとぜんぜん様子がちがう。
キルドラ べつに、ふざけてなんかいないわ。
タイコー どうして、ぼくに冷たくするんだ?
キルドラ 私が女だからよ。女っていうのは、そういうものなの。
タイコー いくら美しくても、
 それだけでは完璧な人にはなれないってことか。
キルドラ あら、そう。
 それじゃ、愛というものは完璧なのね。そういうふうに。
タイコー ぼくはもう、君のものだ。
 これから先もずっと。
キルドラ 男っていうのは、そういうものなの。あなたもね。
タイコー ただの男じゃないよ。きみを好きになった男だ。
キルドラ 私はただの女よ。
タイコー そんなのはいやだ。君もぼくを好きになってくれないと。
キルドラ おことわりよ。好きにならないとはいわないけど。
タイコー どういう意味?
キルドラ 今はそんなこと、どうでもいいの。
タイコー どうでもいい?ひどいよ。行かないでくれ。
キルドラ もう行くのはあきらめたわ。
タイコー ぼくを置いていくつもり?
キルドラ だから、いてあげるってば。
タイコー 置いていかれたら、ぼくはもう生きていけない。
キルドラ 知らないわよ、そんなこと。

 キルドラ退場。

第一幕終

 

日本の殉教者たち(4) - buenaguarda

日本の殉教者たち(2) - buenaguarda