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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(2/9)

『日本の殉教者たち』 (Los primeros mártires de Japón)

タイコー あのふたりは、行ってしまったか?
アルカイデ ああ。もう、われわれ以外には誰もいない。
タイコー (アルカイデの足元にひれ伏す)あなたのおかげです。
 あなたは、無力な私を守ってくださった。
 あなたは、私の父です。たったひとりの友です。
アルカイデ タイコー、そんなふうにひれ伏すのはやめなさい。
タイコー いいえ、どうかこのままでいさせてください。
 私は、あなたにお仕えすることさえできればいいのです。
 あの帝のことなど、うらやんだりしません。
 あなたの計画のおかげで、
 私は残酷な暴君から解き放たれました。
 これからは、頼もしいあなたの存在こそが、
 私に喜びをもたらしてくれるでしょう。
 塔の外に出たら、空や大地や太陽のことを、
 もっとくわしく私に教えてください。
 この世のものは、私が想像していた形とは違っていました。
 ついさっき、それを知ったばかりです。
 あなたは私に、なにもわからないふりをしろと言いましたが、
 それは、そのままでいろというのとほとんど同じです。
 だって本当に、私はなにも知らないのですから。
 花や、太陽や、星を見ても、
 私はその名前しか知りません。
 それがどういうものなのか、わからないのです。
 私に、この世の大切な事柄を教えてください。
 私の命も、私の人生も、すべてはあなた次第なのです。
アルカイデ タイコーよ、おまえは突然に自由の身となったので、
 頭が混乱しているようだな。
 塔の外へ出れば、おまえは豊かな大地、美しい空、
 風のここちよさなどを感じ取ることだろう。
 大地はわれわれに果実を与え、
 美しい草花を生み出す。
 この世界の父は太陽だ。
 太陽こそ、すべてのものの父親なのだ。
タイコー そのことについて、知りたいのです。
 なぜ、太陽が神と呼ばれているのですか?
アルカイデ なぜかって?
 なぜなら太陽は、その美しい光ですべての物を照らすからだ。
 太陽は我々を照らし、
 その美しい光があるからこそ、世界は存在するのだ。
 夜が明けて、光り輝く太陽が昇るのを見れば、
 あれがすべてのものの王とみなされている理由が、
 おまえにもわかるだろう。
タイコー 「神」という名前は、
 恐れや、尊敬の念をよびさまします。
 私はなにも知らない人間ですが、
 神というものが、それほど単純なものだとは思えないのです。
アルカイデ なぜだ?
 神となるために、太陽は創られたんだぞ。
タイコー 太陽が誰かに創られたのだとすれば、
 神と呼ばれるのはおかしいです。
 太陽を創った者こそ、神と呼ばれるべきでしょう。
 太陽を創った者なら、太陽を壊すこともできるはずです。
 あなたの言うことが正しいのなら、
 誰かが太陽を壊したら、世界から神がいなくなってしまうではないですか?

 

 アマンキ登場。

 

アマンキ おい、おまえたち。
アルカイデ (タイコーに)ばかのふりをしろ。
アマンキ なにやってる。
タイコー ナニヤッテルとは、食べ物のことか?
アマンキ ぐずぐずするな。
 すぐ出ていかせないなら、外でも見張りをつけると
 帝がおっしゃっているぞ。
アルカイデ わかりました。
アマンキ (タイコーに)なにか、ほしいものはあるか?
タイコー その、ナニヤッテルというのを少しくれ。
アマンキ ほんとうにばかなやつだ。

 

 アマンキ退場。

 

タイコー 私の考えでは、
 神となる者は、
 ほかの者によって創られるはずはないのです。
アルカイデ 太陽は、その始まりの時から神だったんだ。
タイコー 太陽に、始まりがあったのですか?
アルカイデ というと?
タイコー 始まりがあるなら、
 終わりもあるはずです。
アルカイデ いいか、タイコー、
 太陽が太陽から生まれたのだとでも言うなら、
 このくだらない議論を続けることも可能だろう。
 しかし、太陽はそれ自身が原因であり、結果なのだ。
 太陽は、生まれるために他の創造主などもたないのだ。
 この世の男や女が、人間の手で創られるわけではないのと同じだ。
タイコー それではどうか、無知な私の、
 もうひとつのくだらない質問に答えてください。
 私はこれまで、あなたから何度も
 「女」というやさしい響きをもつ言葉を聞きました。
 その言葉はいつも私に、
 愛のような、恐れのような、
 望みのような気持ちをもたらすのです。
 女というものの正体はわかりませんが、
 神でないとすれば、きっと美しい生き物なのでしょう。
 太陽や神のことについてはもう質問しませんから、
 私がまだ知らない、この神のようなものについて教えてください。
 女とは何ですか?
アルカイデ 女というのは、男の伴侶のことだ。
 男というのは、お前のような人間だ。
 女がいなければ、この世は保たれないのだよ。
タイコー 女とは不思議なものですね。
 まだ見たこともないのに、私をこんな気持ちにさせるんですから。
 なにかうきうきとした喜びと、希望を感じます。 
アルカイデ タイコー、おまえは今や、
 たくましい青年になり、自由の身となったのだ。
 これから私が話すことをよく聞いてくれ。
 おまえが幼かったころから、
 この城は没落の危機にあった。
 おまえは、まるで誕生しなかったかのような扱いだった。
 知ってのとおり、私は先帝の命令に従って、
 この塔の中で、ひそかにおまえを養育してきた。
 今の帝のもとでは、
 おまえが塔の外に出られる望みはないかもしれないと思ったが、
 私は帝の命令や掟を無視して、
 おまえにさまざまなことを教えた。
 これまで黙っていて悪かったが、
 今こそおまえに、ほんとうのことを話そう。
 おまえは、先帝タイコー・ソマの唯一の息子で
 この、栄えある強大な帝国の支配者となるべき人間なのだ。
 昨日までのおまえは、ひそやかな存在にすぎなかった。
 しかし今やおまえは、この国の中心だ。
 おまえは、本来いるべき場所へと帰らなくてはならない。
 そうなってこそ、私はこれまで生きてきた甲斐があるというものだ。
タイコー 父上、ありがとうございます。
 私は、この手に王座を取り戻し、
 帝としてこの国を治める姿をあなたにお見せしましょう。
 私はただ、あなたにこれまでの恩をお返ししたいだけなのです。
 
 タイコーとアルカイデは退場。
 ボームラ王とその従者が登場。
 
ボームラ ただひとりの神しか信じず、
 多くの神々の存在を認めない、強情なやつらめ。
 私の手で復讐してやる。
 あの海は、今は穏やかだが、
 すぐに、キリスト教徒たちをのせた船でいっぱいになるだろうさ。
従者 ここに、マンガシルという者が住んでいます。
 日本人ですが、まともな教育を受けていません。
 ばかとはいえ、人並みのことはできます。
 キリスト教徒ではなく、そのほかの宗徒でもありません。
 いつもニコニコしている、のんきな男です。
 やつは、自宅にスペイン人たちを住まわせているんです。
ボームラ 呼んでこい。
従者 マンガシル!ボームラ王がお呼びだぞ!
マンガシル (声のみ)ありがたや、ありがたや。
 すぐにまいります。
ボームラ (傍白)私の怒りは、永遠に消えることはない。
 あのスペイン人どもが憎くてしかたがない。
従者 おい、まだか?
マンガシル (声のみ)ええと、すみません。物覚えが悪いもので。
 どの王様ですか?
 日本の王様は、スペインの司祭よりもたくさんいますからね。
従者 ボームラ王だ。
マンガシル (声のみ)こりゃ驚いた。すぐにまいります。
ボームラ (傍白)キリスト教を広めているやつらが、
 わが国の偉大な神々のことを軽んじるなら、
 今後、ただではすむまい。
従者 まだ出てこないのか?
マンガシル (声のみ)ほんもののボームラ王が来てるんですか?
従者 そうだ。
マンガシル (声のみ)なんと恐れ多い!すぐにまいります。
ボームラ (傍白)地獄や天罰の話をして
 人々を怯えさせるような連中は、
 あの船に乗せられ、インドへと送り返されるだろう。
 いい気味だ。
従者 マンガシル、王様はずっとお待ちなんだぞ!
マンガシル (声のみ)ほんとに?
従者 そうだ。
マンガシル (声のみ)こんな家へようこそ。すぐにとんで行きます!
従者 のろまなやつだ。
 とんで行くと言ったくせに、ぜんぜん来ないじゃないか。

 

 マンガシルが(おそらく袖をはためかせながら)登場。

 

マンガシル とぶのには、時間がかかるもんですから。
 私の家に王様がくるなんて!なんと喜ばしい!
 (*自分の足を指さして)私は日本のお作法にならっているんです。
 だから、家の中では裸足です。
 このほうが気持ちがいいですよ。
 スペインでほめられるのは
 頭のてっぺんを裸にすること(*聖職者になること)ですが、
 私たちの間でほめられるのは、足を裸にすることなんです。
 みなさんも、たまには帽子や靴をぬいでみませんか?
ボームラ お前はキリスト教徒か?
マンガシル めんどうな悩みごとはごめんです。
 私は、命令されればなんでもします。
 いたって品のいい人間ですよ。
ボームラ どの神を信じているんだ?
マンガシル どれも信じていません。
 ひとさまになにかをお願いするとき、嫌な顔をされたくないですからね。
 キリスト教徒たちは、神がひとりしかいないと言ってますが、
 日本人はふつう、神はおおぜいいると言っています。
 私はべつに、どっちでもかまいません。
ボームラ お前の家には、スペイン人の司祭たちが何人いるんだ?
マンガシル 3人です。
ボームラ 服はどんな色だ?
マンガシル ひとりは灰色です。暑いときは脱いでいます。
 ひとりは馬の色とも、鹿の色ともいえない色です。
 もうひとりはカササギみたいに、上が黒で、下が白です。
ボームラ そいつらを呼んで来い。
マンガシル 王様の声が大きいので、呼ばなくてももう出てきました。
ボームラ のこのこと現れたな。すぐに追放してやる。

 

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