Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

日本の殉教者たち(1/9)

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『日本の殉教者たち』とは - buenaguarda

 

『日本の殉教者たち』

 

登場人物

タイコー・ソマ(Tayco Soma)
帝(El Emperador)
ボームラ
シンゴ
アマンキ
シゲン
インディオたち
兵士たち
アルカイデ(城塞主)
マンガシル
トマス(少年)
キルドラ
グアレ
ネレア
アウグスティノ会士
ドミニコ会アロンソ・ナバレーテ
フランシスコ会

 

第一幕

 太鼓の音。
 4人のインディオが帝を肩に担いで登場し、彼を玉座に座らせる。
 帝の前に、王冠をかぶった4人の王たち(ボームラ、シンゴ、アマンキ、シゲン)が進み出る。

 

ボームラ 陛下、陛下はこの世において並ぶ者なき、
 強いお方です。
 輝かしき太陽神は、陛下に栄光の冠をお授けになりました。
 私たちをはじめ、この国の王74人は、
 陛下のお定めになった掟を守っております。
 陛下への忠誠をお示しするために、
 私たちはこうして、御前にご挨拶にまいりました。
シンゴ 御世がとこしえにあらんことを。
アマンキ 御世がとこしえにあらんことを。

 

 ボームラ、シンゴ、アマンキ、自らの冠をとって帝の足元に置く。
 シゲン、舞台の端に残る。

 

帝 シゲン、なぜ私の元へ来ないのだ?
 なぜお前だけが、私への服従を示さないのだ?
シゲン お答えします。
 この美しい日本が、あなたのような暴君に支配されるのは、
 正しいこととは思えないからです。
 私はあなたに服従するために来たのではありません。
 私たちのほんとうの帝である、偉大なタイコー・ソマは、
 常に、永遠なる太陽のもとにおられるのですから。
 傲慢なあなたは、この国を支配しようという野望から、
 まだ6歳だったタイコーを亡きものにしようとたくらみ、
 それが不可能と気づくと、
 天へ届くほどの高みにあるあの塔に、彼を追いやりました。
 あなたは、なにも知らない子どもの彼を
 牢獄に閉じ込め、監視させたのです。
 彼を野蛮人のように扱い、孤独な状態に置き、
 自らの高貴な身分を、悟らせないようにしたのです。
 15年間、あなたはこの国の王たちを自分に服従させてきました。
 しかし、法にのっとった、私たちのほんとうの帝はタイコー・ソマです。
 彼はいま、ウサカの塔にいます。
 みなさん、私についてきてください。

 

 シゲン、去ろうとする。
 帝、玉座から立つ。

 

帝 待て、愚かなやつめ!
 私は、他の者たちより優れているから、この国をうまく治めているだけだ。
 暴君などと言われる筋合いはない。
 国を支配しているから、裏切り者扱いされねばならないというのか?
 親から受け継いだ帝国が、なんだというんだ?
 親から受け継いだ家名が、なんの役に立つというんだ?
 その価値のない者は、なんの手柄も残せはしない。
 私の定めた掟が気に入らないというのなら、
 お前の命をもらうだけだ。
 思い知るがいい、
 私を恐れ、服従するしか、
 お前に選ぶべき道はなかったんだとな!

 

 帝、弓矢を取って前に出る。

 

シンゴ お待ちください、陛下。
 王たちの目の前で彼を殺すのはよくありません。
シゲン あなたが私たちによこした通知によれば、
 この儀礼が終われば国へ帰ってよいとのことでしたね。
 あなたが約束を破れば、誰もあなたに服従しなくなりますよ。
 この国はまた、いまわしい戦に見舞われることでしょうね。
帝 誰がシゲンをそそのかして、
 私を侮辱するようなまねをさせたんだ?
 私に逆らうことを勧めている者たちが、どこかにいるのか?
ボームラ 私がお答えします。
 私は、かつてキリスト教徒だったので、その理由を知っています。
帝 話してみろ。
ボームラ 私は、すでにその教えを捨てました。
 私には、キリスト教徒たちのもくろみがわかっています。
 彼らはシゲンばかりでなく、多くの人々に対して、
 陛下が傲慢な暴君であり、
 不当なやり方でこの国の支配者になっていると
 言いふらしているんです。
 そして、タイコー・ソマが生きている限り、
 あなたが真に帝の座を得ることはできないのだから、
 早くあなたを倒すべきだとも言っています。
 キリスト教徒たちはおぞましいやつらです。
 彼らは傲慢で、愚かで、尊大です。
 へりくだっているふりをしながら、
 陛下の家臣たちに近づき、
 われわれの信じている神を捨て、
 キリストの教えを受け入れるようにと強引に迫るのです。
 今の日本には、キリスト教の司祭たちがおおぜいいます。
 彼らは、この教えをますます広めてしまうかもしれません。
 彼らをこの国から追放してください。
帝 帝である私が、
 今まで、そんな野蛮な連中の存在を知らなかったとはな。
 むこうみずで、危険な考えをもつキリスト教徒たちが、
 私に歯向かおうとしているのか。
 私を恐れないとは、いまいましい。
 しかし、この不名誉を、やつらの血であがなわせてやろう。
 太陽に栄えあれ!太陽こそ、わが存在の源なり。
 キリスト教徒たちを生かしておくわけにはいかん。
 ひとり残らず、やつらを探し出せ。
 斬り殺し、火あぶりにしてやるのだ。
 ボームラ、すぐに、この仕事にかかれ。
 私の権威をゆるぎないものにするんだ。
 やつらの首にかせをはめ、ひっとらえろ。
 スペインから持ちこまれた、おかしな慣習は捨てさせろ。
 この地に、ひとりのキリスト教徒もいなくなるまで、
 私は手をゆるめないぞ。
 それでもなお、ここに残ろうとするやつらがいるかもしれない。
 そいつらに対する罰や拷問の方法も考えておけ。
ボームラ お約束します。
 この国にいるスペイン人の司祭たちを、ひとり残らず引っ立ててやります。
 洗礼を受けた日本人はみな、
 刀とか、弓矢とか、火を使って拷問してやります。
 しかし、私もそうだったのですが、
 彼らはそう簡単に教えを捨てないかもしれません。
 司祭たちは、無知なやつらに、むなしい教えを語るのをやめないのですから。
 スペイン人司祭たちは、私に人生を楽しむのを禁じて、
 私の恋愛を妨害したのです。
 たわごとを言いやがって!
 私がなによりも好きなのは女なのに。
 この手で、やつらに復讐してやる。
 いまわしいキリスト教徒たちめ、根絶やしにしてやるからな。
帝 (シンゴに)こいつはいったい、なんの話をしているんだ?
シンゴ ボームラは、ほんとうはキリスト教徒たちが怖いのですが、
 怒りでごまかそうとしているのです。
 彼の胸のうちには悲しみがあるのですが、
 それを懸命に打ち消そうとしているのです。

 

 ボームラ退場。


帝 (外の様子を見ながら)
 この野で、鳥を追ってみることにしよう。

 多くの鳥たちが、天高くを飛びまわっている。
 四月の風が、この大地に花の色を添えた。
 澄みきった天球の上を、春が通り抜けてゆく。
 美しい光景とは、心をゆさぶるものだな。
 花は風に揺れ、野原には鳥が飛び交う。
 ところで、あそこに見える塔は何だ?
シンゴ タイコーが幽閉されている塔です。

 

(*おそらく、ここで場面が切りかえられ、ウサカの塔の内部となる。)
 帝、アマンキ、老いたインディオのアルカイデ(城塞主)が登場。

 

帝 この老いぼれは誰だ?
アマンキ アルカイデです。
 タイコー・ソマを養育してきた者です。
アルカイデ 陛下、お目にかかれて光栄です。
 タイコーがいる、このウサカの塔に
 なんのご用でしょうか?
帝 アルカイデ、
 私は帝になってから、
 この土地でなにを恐れることもなく、
 狩りを楽しんできた。
 しかし今日、私は初めて思いをめぐらせてみたのだ。
 これまで一度も考えなかった事柄、つまりタイコーのことにな。
 教えてくれ、アルカイデ。
 この空虚な牢獄の中で、タイコーは何を楽しんでいるのだ?
 どのような人生を送っているのだ?
 彼の背丈はどのくらいで、外見はどんな様子なのだ?
 たくましいのか?美しいのか?
 温和なのか?それとも、たけだけしいのか?
 臆病者なのか?勇敢なのか?
 控えめなのか?尊大なのか?
 好戦的で気まぐれなのか?
 高貴なのか?執念深いのか?
 分別はもっているのか?
アルカイデ 陛下、そのようなお考えは捨て去ってください。
 彼のことを心配する必要はありません。
帝 どういうことだ?
アルカイデ タイコーは野蛮人のような男で、まるで無知なのです。
 知恵もない、ばかなやつです。
 どんな学者でも、彼を動物と見分けることはむずかしいでしょう。
 彼の話す言葉は、まるででたらめですし、
 なにかをもっているとしたら、おそらく感情だけです。
 他人に質問するということもないし、
 好奇心をもつこともありません。
 もともと、彼の頭では、多くのことは覚えられないのですから。
 多少の言葉は話しますが、
 こんなせまい塔の中で暮らし、
 なんの教育も受けていないので、
 知識も感覚も、これ以上伸びることはないでしょう。
帝 タイコーに会ってみたい。
アマンキ 私が連れてきましょう。
帝 私が誰であるのかを彼に知られないようにして、ここへ来させろ。

 

 アマンキ退場。

 

アルカイデ 陛下、
 彼はろくに話ができないので、
 身ぶり手ぶりで意思を伝えます。
 生まれてから一度も太陽を見たことがないので、
 一日に、昼と夜があることも知りません。
 朝焼けの輝かしい光も、
 大地に咲き乱れる花も、
 その花をめぐって、恋する者たちが
 ほほえましい争いを繰り広げる様子も知りません。
 月に満ち欠けがあることも、
 この世に女というものが存在することも、
 まったく知りません。
 彼はおそろしく無知なのです。

 

 アマンキ登場。

 

アマンキ タイコーの部屋へ行くと、
 彼は私を見て、ひどく驚きました。
 騒ぎ立て、じろじろと私を見ながら考え込んだあげく、
 おびえながら、「おまえは神なのか?」と私に言いました。
 「だっておまえは、世界の中に入ってきたじゃないか」と。
 彼の世界には、彼とアルカイデの二人しかいないようです。
 しかし、ともかくも彼を連れてきました。
 驚きのあまり、放心しているようですが。

 

 毛皮をまとったタイコーが登場。

 

帝 よく彼を連れてきてくれた。
 奇妙な姿をしているな。
アルカイデ どうやら、すっかり頭が混乱しているようです。
 無知な野蛮人ですから、
 これまでずっと、空や大地のことも知りませんでした。
 いま、思いきって、太陽のほうを見ようとしています。
 しかし、光に目をやられて、顔をそむけました。
 おい、タイコー!
タイコー だれだ、おれの名を呼ぶのは?
帝 ふりかえったぞ。
 しかし、見ているのは彼自身の影だ。
 ぎょっとしている。
タイコー おれにつきまとうおまえは誰だ?
 あっちへいってくれ!
 おれが近づくと、おまえは遠ざかる。
 おれが遠ざかると、おまえはついてくる。
 おまえは誰なんだ?
帝 おい、タイコー!
アルカイデ こっちを見て、びっくりしています。
 人間が三人もいるからでしょう。
アマンキ おびえているようです。
タイコー いつからここには、こんなにたくさんの人間がいるんだ?
 おれたちは、ふたりだけじゃなかったのか?
アルカイデ ここは別の世界なのだ。
 ここにはより多くの光があり、より多くの人間がいるのだ。
タイコー (帝を指さして)だれが、あの人間をつくったんだ?
帝 神だ。
タイコー 神ってだれだ?
帝 それは、太陽だ。
タイコー 太陽ってなんだ?
帝 あの、山の上で輝いている、美しいもののことだ。
タイコー いってみよう!
帝 どこへ?
タイコー おれもあの太陽のように、神になるぞ。
 あの山に登れば、太陽にさわれそうだ。
 そうすればおれも、あんなふうにぎらぎら輝けるんだろう?
アマンキ こんな無知な人間を見たのは初めてだ。
帝 私はこんな男を恐れていたのか!
 こんなにばかで、粗野な男を厳重に見張らせていたのか!
 権力を求めているようには見えないし、
 この様子では、たいして勇気もないようだ。
 こいつをこれ以上、幽閉しておくのはやめよう。
 わが国の民は、
 私が暴君だという噂が間違いだったということに気づくだろう。
 私は傲慢な人間などではない。
 野蛮人のこいつが捨ててしまった希望を、
 帝であるこの私が、わざわざかなえてやるんだからな。
 タイコーに、こう言ってやれ。
 「牢獄に幽閉するという罰は終わった。
  これからは山の中に住み、自然のままに生きるがよい」と。
 この男に野心がなく、
 私に害を与えるような人間でないということがわかった以上、
 この国の民が、彼のほんとうの姿を見て、
 失望してくれるほうが、私にとっては都合がいい。

 

 タイコーは帝から冠を奪う。

 

タイコー これ、きれいだな!
アルカイデ やめろ!
アマンキ それをこっちへよこせ!
帝 ほうっておけ。彼がそれをどうするのか見たい。
タイコー おれが生まれたときから、これはあったのか?
 おれはここで、これを見たような気がするんだ。
アルカイデ タイコー、なにをしているんだ?
タイコー (冠を自分の頭にかぶせようとするが、うまくいかない)
 これのかぶり方がわからない。
 はずし方はわかったのに。
アマンキ ばかなやつめ!
帝 アマンキ、こいつが理性のない愚か者でよかった。
 これから私は、心穏やかにすごせるだろう。
 もはや私の邪魔をするものはない。
 神でさえ、私に敵をつくろうとは思っていないようだからな。
 私の身は安泰だ。

 帝とアマンキは退場。

 

日本の殉教者たち(2) - buenaguarda