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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

ロペ・デ・ベガとジョン・ウェブスター: ヒロインの比較

 『アマルフィ公爵夫人の執事』

(『ロペ・デ・ベガ戯曲集11部』1618年)

El mayordomo de la Duquesa Amalfi : comedia famosa / Lope de Vega | Biblioteca Virtual Miguel de Cervantes

 

 今回翻訳した『アマルフィ公爵夫人の執事』は、イタリアの作家バンデッロ(Matteo Bandello)の原作がもとになっています。バンデッロの短編集はヨーロッパ各国で翻訳・翻案され、シェークスピアをはじめとする劇作家たちに多くのインスピレーションを与えました。(『ロミオとジュリエット』もバンデッロの翻案のひとつといえます。)

 イギリスの劇作家ジョン・ウェブスターの書いた『モルフィ公爵夫人』も、ロペの『アマルフィ公爵夫人の執事』と原案は同じです。アマルフィ公爵夫人が執事のアントニオ・ダ・ボローニャと密かに結婚し、その結果、彼女の兄たちによってふたりとも殺されるというプロットは共通しています。文学的評価からいえば、ウェブスターの作品のほうが高いかもしれません。

 ウェブスターの劇では、初めからモルフィ公爵夫人の周囲で謀略が進行しており、彼女は否応なく自由を奪われ、殺される運命にあります。公爵夫人は、誰も信用できない中で、唯一心を許せる人間としてアントニオを選び結婚するのですが、その宣言はかなり一方的で、アントニオの意思もあまり確認していません。それだけ彼女が追い詰められているということでもあるのでしょう。

 ロペの劇では、宮廷はもっと優雅で、居心地のいい場所のようです。ロペの創造した公爵夫人は、自由恋愛を信奉する冒険家であるがゆえに、魅力のない貴族よりも魅力のある執事を選択したのだといえます。そして、自分のほうが身分が上であるがゆえにアントニオに積極的にアプローチしていくものの、相手からも思われているという確信がほしいという意思表示も見せています。悲劇的な最期をとげるという点ではふたりとも共通しているものの、ロペの描いた公爵夫人は、より自由で豊かな恋愛を追い求めることができたぶん、幸せであったように思います。