Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

アマルフィ公爵夫人の執事(11/11)(終)

 アントニオ登場。

アントニオ 私はなにをしているんだ?
 これまで、死の恐怖を克服してきたというのに、
 その道を捨てて、卑怯にも逃亡するなんて!
 私は、愛する妻と子どもたちを、彼らの元に残してきたのだ。
 こんなことは耐えられない!
 わが妻、アレハンドロ、レオノーラ、そしてまだ見ぬわが子よ。
 あれほどの幸福の後に、こんな惨めな状態に陥るなんて、
 胸が張り裂けそうだ。
 失ったもののことばかり考える人生など、なんの意味がある?
 いっそ、あの崖下に身を投げてしまいたい。
 この剣で、この短刀で、簡単に死ねるじゃないか。
 愛する家族が、無慈悲な者たちの手にかかったとなれば!
 なぜ私は生き永らえているのだ?
 子どもたちと妻がいなければ、
 私には行くべき場所もない。生きるべき時間もない。

 ドリスト登場。

ドリスト 歩きにくい道だ!迷ってしまったらしい。
 だけど、あそこにいるのは誰かと思ったら、
 アントニオ殿じゃないか!
アントニオ ドリストなのか?
 なぜ、私の家族を置いて逃げてきたんだ?
 みんな死んでしまったというのか?
ドリスト 死んでなんかいませんよ。
 公爵といっしょに、アマルフィにいます。
 奥様は、とても丁重に迎えられました。
 公爵が、みずから馬に乗って奥様を出迎えたんです。
 ふたりで、笑いながら並んで行かれましたよ。
 公爵は、アレハンドロやレオノーラと抱擁を交わし、
 あなたとの結婚について、奥様と話をしました。
 フリオは、あなたを連れてこなかったことを謝罪し、
 公爵は喜んで、
 あなたを以前よりも敬意をもって待遇するつもりのようです。
 ウルビーノからの手紙を持ってきました。
アントニオ よかった!ほんとうに状況は変わったのか?
ドリスト 私がこの目で実際に見たんですから、たしかですよ。
アントニオ 神が私に、慈悲を与えてくださったに違いない。
 さっきまで不運を嘆いていたが、今は心をしずめて、
 この朗報を受け入れなくては。
 (手紙を読む)「事態は、われわれの想像とはかなりちがっていた。
 公爵は、フリオ・デ・アラゴンとオタービオ・デ・メディシスの怒りを退け、
 平和の天使となってくれた。
 あまり遠くまで逃げないで、状況を見守っていてくれ。
 必ず、神が近いうちに君に平穏をもたらしてくれることだろう。
 ウルビーノ・カステルベトロ」
 この手紙が、私の命を救ってくれた。
 私は、望みをつなぐことができた。
 なんと礼を言えばいいんだろう。
 ドリスト、ほんとうに公爵は、
 私にそんな厚遇を与えてくださるのか?
ドリスト 公爵はフリオや、他の人々の怒りを鎮められました。
 そして、奥様と子どもたちを世話してくださっています。

 ウルビーノ登場。

ウルビーノ こんなに茂みが多くちゃ、
 アントニオを見つけるなんて無理だな。
 馬が死んでしまうなんて。おまけに、道に迷ってしまった。
アントニオ 誰かいるぞ。
ウルビーノ これはなんだろう?人の足跡だ。
 あれは?もしかしてアントニオか?
アントニオ ウルビーノだ。
ドリスト 彼だとしたら、
 あなたをアマルフィに連れ戻すために来たんでしょう。
アントニオ ウルビーノ!なにがあったんだ?
ウルビーノ これは奇跡だな。
 おまえを探しに来たんだが、道に迷ってしまって、
 見つけるのをあきらめていたところだ。
アントニオ なぜ私を探しに?
ウルビーノ 戻ってきてもらうためさ。
 公爵が、万事とりはからってくれたんだ。
 彼は君主らしくふるまい、叔父たちの心をしずめた。
 安心しろ。フリオは心をいれかえたんだ。
 枢機卿はフリオに、おまえを傷つけず、敬意を払うようにと命じた。
 おまえを重要な人物とみなし、厚遇するつもりのようだ。
 フリオがおれに、これをお前に渡すようにと頼んできた。
 (アントニオに手紙を渡す)
アントニオ 要するに、彼は度量の大きさを示したわけだな。
ウルビーノ すぐに出発しよう。
アントニオ ほんとうに、なにもかもうまくいっているのか?
ウルビーノ もちろんだ。
アントニオ (読む)「わが兄である枢機卿は、
 貴殿と貴殿の妻子に手出しはせぬようにと私に告げた。
 貴殿に出す条件は、スペインかドイツで生活するということである。
 この条件を承諾するなら、妻子を引き取りに来てもらいたい。」
 スペインかドイツで?
 一緒に暮らせるのなら、どこへでも家族を連れていくさ。
 ウルビーノ、ありがとう。
 神は私に憐れみをかけてくださったのだな。
ウルビーノ 感謝されるだけのことはしたと思うよ。
 行こう。君の妻が待っている。
アントニオ 着くまでの時間がもどかしいよ。
ドリスト 私が先導します。
ウルビーノ 急ごう。

 全員退場。
 オタービオ、フリオ、公爵登場。

公爵 叔父上、ありがとうございます。
 このご恩は、一生忘れません。
フリオ おまえが喜んでいるのなら、われわれもそれで満足だよ。
オタービオ 過去のことを話すのはもうやめよう。
 大事なのは、過去の傷を癒すことだ。
 公爵は、母上が出発する準備を手助けしたまえ。
公爵 できれば、母に私の相続した財産をすべて譲りたいのですが、
 私は息子として、また後継者として、
 この公国を治めていかなければなりません。
 ですから、国以外のすべての財産を母に譲ります。
 母と別れなくてはならないのは、さびしいのですが。
フリオ 母上は、二度とイタリアへ戻ることはないだろう。
公爵 それがあなたのご希望なら、しかたありませんね。
フリオ オタービオ。
オタービオ なんだ?
フリオ (小声で)もう、心配しなくていいぞ。
 妹は、われわれ一族の名を汚した罪の代償はすでに払った。
 あいつの食べ物の中に、それを仕込んでおいたからな。
オタービオ 食べ物?
フリオ 半時間もしないうちに死ぬだろう。
オタービオ なんてことをしたんだ、おまえというやつは!
フリオ オタービオ、妹の罪を許すわけにはいかん。
オタービオ 私は彼女を愛しているんだ!
 そんなことは耐えられない!
フリオ 静かにしろ。公爵に聞こえるぞ。
オタービオ あんなすばらしい女性に、おまえはなんてひどいことを!
フリオ うるさい。
 すばらしい人間が、われわれの家名を情欲のために汚すと思うか?
オタービオ だからといって、こんなことをするおまえは狂っている!
公爵 オタービオ殿、なぜそんなに怒っていらっしゃるんです?
 もう、不満に思っている方はいないと思っていましたが。
フリオ 彼は、おまえの母上をここにいさせるべきだと言っているんだ。
公爵 私もそれを望んでいるのです。
フリオ おまえがそうしたいなら、そうするがいい。
公爵 ありがとうございます、叔父上。

 ウルビーノ、アントニオ、ドリスト登場。

アントニオ (傍白)あの男の目を見ると、ぞっとする。
ウルビーノ アントニオを連れてきました。
アントニオ (公爵に)陛下、つつしんでご挨拶申し上げます。
 私はかつて、自分がこの家にとって、
 なくてはならない存在だと思い上がっていました。
 けれど、陛下の前では、私など、とるにたらない者です。
公爵 アントニオ、母は私に、
 君を私の父として与えてくれたのだ。
 これからは、君を父親として扱いたい。
アントニオ 私はそのような名に値しません。
 私は陛下にお仕えすべきと思います。
公爵 それはだめだ、アントニオ。
 母と君の結婚が神に祝福されたものであるなら、
 私は君の息子なのだ。
 母は私に、生命を与えてくれた。
 母は君に、高貴さを与えた。
 私の望みは、母の望みと同じだ。
 母が最も大切にしているものを、私も大切にしたいのだ。
アントニオ そのような寛大なお言葉をいただけるのですか。
 私が願っていた以上のご厚意です。
公爵 こっちへ来て、叔父上に挨拶してくれ。
 すばらしい慈悲を示してくださったのだ。
アントニオ どうか、ここにおられる方々に、
 私の申し開きをさせてください。
公爵 叔父上、アントニオです。
フリオ 誰であるかはわかっている。彼と話をさせてくれ。
公爵 彼を親切に扱ってください。お願いします。
アントニオ フリオ様、私の行いをご不快に思っておられるのでしたら、
 どうかお許しください。
フリオ (傍白)今は我慢しておいてやる。
 (アントニオに)アントニオ、枢機卿猊下と私は、
 君が私の妹を妻とすることに同意する。
 隣の部屋を君のために準備したから、自由に使っていい。
アントニオ ありがとうございます。
フリオ 礼には及ばない。妹がそこで待っているぞ。
アントニオ ご厚意に、心から感謝申し上げます。
公爵 叔父上、彼への思いやりを示してくださってうれしいです。
アントニオ あ!
ウルビーノ 大丈夫か?どうしたんだ。
フリオ なにかあったのか?
オタービオ アントニオが部屋の前で倒れたようだ。
フリオ 喜びが大きかったんだろうさ。
アントニオ (傍白)神よ、なにか起こるというのですか?私に?

 アントニオ退場。

オタービオ (傍白)こんな男のやることに加担してしまったなんて!
 だが、あそこに公爵夫人が来た。元気そうに見える。
 フリオの言葉が嘘であったならいいのに!

 公爵夫人とリビア登場。

公爵夫人 それはほんとう?
リビア たしかに、そう聞きました。
公爵夫人 アントニオに会いにきたの。ここにいると聞いたから。
公爵 彼に会いませんでしたか?
リビア あの人たち、嘘をついたのかしら?
公爵 アントニオは、隣の部屋へ入っていきましたよ。
 入れ違いになったのかもしれません。

 フェニシオ(フリオの従者)登場。

フェニシオ 仕度がととのいました。
フリオ (公爵夫人に)彼に会わなかったのか?
公爵夫人 ええ。誰か人をやって、彼を探してちょうだい。
公爵 すぐに。(大声で)父を呼んできてくれ。
フリオ 自分の母親を辱めた男を、よく父などと呼べるな?
公爵 そのことは、もう忘れようと言ったではないですか。
フリオ そのとおりだ。われわれはその事実を、永遠に葬らねばならん。
 妹よ、おまえの子どもたちを見るがいい。
 そして、あつかましくも、おまえを妻と呼んだ男を見るがいい。
 もうすぐ、その扉が開く。
 そこにあるものを見れば、枢機卿はお喜びになるだろう。
 公爵も、ささやかな楽しみを得られるに違いない。
 妹よ、おまえは、死ぬ準備をしておけ。
 毒が効いてくるころだ。
 扉を開けろ!

 扉が開く。テーブルがあり、皿が三つ並んでいる。
 中央の皿の上にアントニオの首、両脇の皿の上に子どもたちの首が載っている。

公爵夫人 なんて恐ろしいことを!
 甘い言葉で私をだまして、夫と子どもたちを殺したのね!
 神よ、この卑劣な行いにどうかお裁きを!
 なにか言って、私の子どもたち!
 アレハンドロ!レオノーラ!
 アントニオ!ああ、私のアントニオ!
フリオ 倒れたぞ。毒がまわったな。
オタービオ これは現実なのか?
 神よ、なぜこんな悪事を見過ごされるのですか?
 私の人生には、もはやなんの価値もない!
フリオ 落ち着け、オタービオ。
オタービオ なんのために?私には絶望しか残っていないのに。
フリオ どうした?
オタービオ 私が愛した女性は死んだ。
 生きていく意味などあるか?

 オタービオ、走って退場。

公爵 よくもこんな恐ろしい、非道なまねをしてくれたな!
 剣を抜け!おまえを倒す!
フリオ 子どもじみたことを言うんじゃない。
 私はおまえの名誉を救ってやったんだ。それを覚えておけ。

 フリオ退場。

公爵 人でなしめ!
 あいつらに復讐するまでは、この剣を手放すものか。
 絹の服も、金の刺繍も、身につけるものか。
 あいつらと同じテーブルになど、座ってやるものか。
 母の遺体を外へ運び出してくれ!


 

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