Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

アマルフィ公爵夫人の執事(9/11)

第三幕

 アントニオ、ベルナルド(アントニオの友人)登場。

ベルナルド 話を続けてくれ。正直いって、驚いているが。
アントニオ 妻は、私が執事をやめるほうが得策だろうと判断した。
 それで、私はアマルフィを離れ、ナポリアンコーナで6年を過ごした。
 さいわい、解雇された後に怪しまれることはなかったので、
 何度も彼女に会いに行くことができたよ。
 夜中に馬を走らせて家まで行けば、リビアがドアを開けておいてくれた。
 私たちは、離れていても互いに深く愛し合っている。
 しかし今、妻は三人目の子どもを身ごもった。
 それをきっかけに、彼女は周囲に私たちの関係を公表するつもりでいる。
 オタービオの怒りを買うことが心配なので、
 彼女は巡礼という名目で、ロレートを訪れることにした。
 そして、その前に、亡くなったアマルフィ公爵との間に生まれた長男に、
 自分の所有地と財産を譲る手続きをした。
 私が予想していたよりも、計画はうまくいっているよ。
ベルナルド 公爵夫人は、宮廷を留守にしているのか?
アントニオ 彼女は、早く私に会いたがっているんだ。
 それに、妊娠していることに不安も感じている。
 だから、以前からアンコーナを訪れてみたかったと周囲に説明して、
 私のところに寄るのだそうだ。
 まさに、今日という日にね。
 彼女は公国を手離し、夫である私とともに暮らすことを、
 みんなの前で宣言するだろう。
 私は、彼女の夫にはふさわしくない男だと思われるだろうが、
 少なくとも、私たちが正式に夫婦となったことは認めてもらえるにちがいない。
ベルナルド 彼女の兄たちが怒り狂うぞ。
 君を探し出して殺そうとするだろう。
アントニオ そうだな。
 だが、彼らは高貴な人々なのだから、
 幼い甥と姪の存在を考えれば、
 そこまでむごい仕打ちはしないのではないか?
 今日、ここへ子どもたちが来てくれる。
 私と会うのは6年ぶりだ。
ベルナルド あの兄たちは、血も涙もない人でなしだぞ。
 君の身が心配だ。
アントニオ 彼らが権力者であるのはわかっている。
 でも、人としての情だってあるはずだ。
 とりわけ、身内のこととなればね。
ベルナルド 神が彼らの心を和らげてくれることを祈るよ。

 ルシンド(アントニオの従者)登場。

ルシンド 失礼します。
アントニオ 公爵夫人は到着したか?
ルシンド はい。
アントニオ 私は幸せだ。
 どんな死に方をしようが、この喜びに比べればなんでもない。
 彼女の兄たちに何をされてもかまわない。
 私はただ、彼女の夫として認めてもらいたいだけだ。
 それよりすばらしい栄誉はない。
ベルナルド 栄誉がすばらしければ、危険もそれだけ大きいんだよ。
アントニオ たった一時間でも、彼女の夫としての時間を過ごせるなら、
 幸せな男として死んでやるよ。
 妻を迎えに行こう。
 子どもたちも来るころだ。
 妻はすぐに、自分の子どもたちだとわかってくれると思うよ。
 子どもたちのほうは、びっくりするかもしれないな。
 妻はすごい美人だから。

 アントニオ、ベルナルド、ルシンド退場。
 公爵夫人、リビアウルビーノ、セルソ、フリーオ、ディナルコ、フィレルフォ登場。

ウルビーノ 奥様、なぜアントニオを訪問するのですか?
公爵夫人 彼を許そうと思っているから、それを態度で示すのよ。
ウルビーノ それにしても変ですよ。
 彼が去っていったのは6年も前なんですから。
 それに、彼は執事の身でありながら、奥様に恥をかかせたのです。
 それなのに、彼の家に滞在するとおっしゃる。
 ほかに、滞在させてもらえる家はないのですか?
公爵夫人 もちろん、もっといい家を持っている人たちも知っているわよ。
ウルビーノ アントニオは、解雇されてから、質素な暮らしをしているようです。
公爵夫人 それでも、テーブルとベッドくらいは私に提供できるでしょう。
ウルビーノ 今日は、私が何を申し上げても、
 聞き入れてはいただけないようですね。
公爵夫人 ウルビーノ、私がそうしたいと言っているのよ。

 アントニオ、ドリスト、農家の子どもの服を着たアレハンドロ、レオノーラ登場。

アントニオ 奥様、こんな小さな家へ、
 よくお越しくださいました。
公爵夫人 アントニオ、会いたかったわ!
ディナルコ あの様子を見ていると、いらいらしてくる。
フリーオ 黙っていろよ。アントニオは敬意を払うに値する男だぞ。
アントニオ 奥様、まずはご挨拶させてください。
公爵夫人 だめよ。これからは、そういう関係ではなくなるんだから。
アントニオ それでは、この子たちを紹介します。
 天使のようにかわいい子どもたちですよ。
公爵夫人 誰の子なの?
ドリスト 私の子どもたちです、奥様。
アントニオ どうか、この子たちに挨拶をさせてやってください。
アレハンドロ ぼく、ひと目見て、この人が好きになっちゃった。
レオノーラ わたしもよ。
公爵夫人 あなたたちのお母さんは?
アレハンドロ 死にました。
ドリスト 物心がつく前に、死に別れたんです。
公爵夫人 あなたの名前はなんというの?
アレハンドロ アレハンドロです。
レオノーラ わたしはレオノーラ。
公爵夫人 (傍白)私の中で、愛と恐れとが、せめぎ合っているわ。
 なにをためらっているの?
 ここで勇気を出して宣言しないのなら、なんのために来たの?
 言わなくてはならない時がきたのよ。
 (大声で)みんな、私の話をよく聞いて。
 私がここへ来たほんとうの理由を知ってほしいの。
 これまで、あまりにも長い間、あなたたちから隠してきたのだけれど、
 それは、今日という日に備えるためだったのよ。
ウルビーノ (傍白)なにを話すつもりだ?
ディナルコ 奥様、われわれには、
 なんのことをおっしゃっているのかさっぱりわかりません。
 しかし、どうぞお話を続けてください。
公爵夫人 夫が亡くなったとき、
 私はまだ若かったでしょう?
 それに、息子も幼くて、私の所有地を統治することなどできなかったわ。
 だから私は、アントニオをナポリから呼び寄せて、私の執事になってもらったの。
 みんな知っているとおり、彼は有能な人よ。
 彼と接しているうちに、私はすぐに彼を愛するようになったの。
 あなたたちがこれをおかしなことだと思うなら、
 どうかそんな考えは捨ててちょうだい。
 過去にこういう例がなかったわけではないし、
 私たちの愛情は誠実なもので、非難を受けるいわれはないんだから。
 アントニオと私は、密かに結婚式を挙げたの。
 そして、その後に生まれたのが、この子たちよ。
 リビアの子だと思った人が多いでしょうけど、私の子なの。
 ふたりとも、私たちの元を離れて、他人の手で育てられたわ。
 娘が生まれたとき、私はその場を切り抜けるために、
 アントニオを解雇しなくてはならなかった。
 彼の追放は、大きな混乱を招いてしまったわね。
 私の涙がやむことはなかったし、
 彼がいない年月は私にとって荷が重く、つらいものだった。
 兄たちは、このごろ私に疑惑を持ちはじめた。
 だから、決着をつけるために私は今日、ここへ来たの。
 私はこれから、ここで生活します。
 アントニオは私の夫よ。
 私は公爵夫人の称号も、所有地も、財産も、廷臣も望まないわ。
 アマルフィ公国は、私の長男が受け継ぎます。
 息子はもう大人になったから、りっぱに統治していくでしょう。
 自分の民を守り、将来は結婚して、後継ぎを得るでしょう。
 私の息子に仕えたいと思う者たちには、お金と手紙を渡すわ。
 もし、私に仕えようと思ってくれるのなら、
 この家に住んで、私と仲良く暮らしていきましょう。
ウルビーノ だれか、意見のある者はいないか?
フリーオ なんと言っていいかわからない。
ウルビーノ おまえは?
ディナルコ わからない。こういうことは年長者にきいてみよう。
セルソ それでは、一番年をとっている私が答えましょう。
 私が思うに、起きてしまったことは起きてしまったのであり、
 なかったことにはできません。
 ですから、忠告など無意味でしょう。
 もちろん、このことは世間で大騒ぎを引き起こすでしょうし、
 兄上たちはなんらかの処分をお考えになるでしょうし、
 召使いたちはおおいに悲しむことになるでしょうけどね。
 神が、彼らに心の安らぎをお与えになりますように!
 なあに、心配いりませんよ。だってこの結婚は、
 奥様がおっしゃったように、神ご自身によって祝福されたのですから。
 私はといいますと、
 奥様が赤ん坊のころからお世話をしてきた以上、
 今さら、おそばを離れることはできません。
 どっちみち、私は年寄りですから、
 あなたのおそばにいることで、罰せられようが、許されようが、
 どんなことも受け入れるつもりでおります。
 私はアントニオに仕えます。彼はりっぱな人間ですし、
 あなたの夫に選ばれたことで、さらに美点が増えたのですから。
公爵夫人 いつまでも元気でいてね、セルソ。
 兄たちはきっと、兄妹としての血のつながりと、
 私の幼い子どもたちと、アントニオの人柄の良さを
 心に留めてくれると思うわ。
 フリーオ、なぜ黙っているの?
フリーオ ただ、私の今の気持ちを
 申し上げたくないだけです。
 率直に言いますと、私はこのような事態を恐れていました。
 奥様の様子を見ていれば、何を考えていらっしゃったかはわかりましたから。
 ですからどうか、私がこの場を去ることをお許しください。
 私はご子息に仕えることで、亡き公爵への敬意を表すつもりです。
 奥様は公爵に背かれたのですから。

 フリーオ退場。

ディナルコ 奥様、私も同じ理由で、ここから去らせていただきます。
 ましてや、あなたの前途は危険に満ちていますから。
 あなたに神のご加護がありますように。
 私はもう若くはありませんので、
 より安全な場所を探したいと思います。

 ディナルコ退場。

フィレルフォ こんなことにならなかったら、この場にいるのですが、
 なにもかもが、私の想像を超えていました。
 よく理解できません。
 どうか、この場を去ることをお許しください。
 奥様の幸福をお祈りいたします。
公爵夫人 私の息子に仕えてくれるのね。ありがとう、フィレルフォ。
フィレルフォ 神のご加護がありますよう!

 フィレルフォ退場。

ウルビーノ 私もここから去ることはできますが、
 あいつらを非難してやります。
 私は、奥様にお仕えしてきたように、これからはアントニオに仕えます。
 彼があなたの夫にふさわしいのなら、
 私の主人にもふさわしいはずですから。
 もちろん、私は自分が彼をかつて陥れたことはわかっています。
 ですから、彼に許しを乞います。
アントニオ そんな必要はないよ、ウルビーノ
 おれはいつでも、おまえを友だちだと思ってきたんだから。
公爵夫人 あなたの気持ちが嬉しいわ、ウルビーノ
 夫と同じように、私からもあなたに感謝するわ。
ウルビーノ 奥様…
公爵夫人 もう、私は公爵夫人じゃないわ。
 アマルフィには新しい公爵がいるのよ。
 私はアントニオと同じ身分でありたいの。
 広い領地も、贅沢な暮らしもいらないわ。
 彼の妻になれれば、それで十分よ。
 リビア、あなたはウルビーノと結婚したらいいわ。
 私は貧しくはなるけど、それでもあなたに
 持参金をもたせてあげるくらいのことはできるもの。
リビア あなたにお仕えすることが、私にとっての持参金です。
 もし私が必要なら、一生あなたにお仕えいたしますよ。
公爵夫人 ドリスト、あなたは善良でりっぱな人だわ。
 私はあなたにもここにいてもらいたいの。
 だから、従者の服に着替えてもらってもいいかしら?
ドリスト 奥様、喜んでそういたします。
 私は、この子たちのそばを離れたくないんです。
 ひっぱたかれて、犬みたいに扱われたって、
 この子たちのためになら死ねますよ。
公爵夫人 子どもたちも、服を着替えましょう。
アントニオ そうだな。
 この子たちが、どこから見ても君の子どもであるとわかるようにね。
公爵夫人 行きましょう。
 私たちはこれから、なんでも分け合って暮らしていきましょう。
 富なんて、たいして価値のないものよ。
 私たちは、小さな家と、さっぱりした服があればいいの。
 でも、愛情にかけては、私たちは王室なみに豊かだわ。
アントニオ これ以上の幸せはない。

 全員退場。

 

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