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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

アマルフィ公爵夫人の執事(7/11)

『アマルフィ公爵夫人の執事』 (El mayordomo de la duquesa de Amalfi)

アントニオ 大変だ!どうすればいい?
 二年間、私たちが結婚している事実を隠してきたのに、
 たった一度の間違いで、すべてが壊れてしまうかもしれない。
 だが、不幸中の幸いだった。
 ウルビーノは、これを私とリビアとの子だと思い込んでいる。
 彼の判断が、嫉妬のせいで的外れになっているのは、
 こっちにとっては都合がいい。
 今はむしろ、そのことに感謝しよう。
 ウルビーノが苦悩にさいなまれている間は、私は安全だ。
 リビアも誤解されてしまったわけだが、
 もしウルビーノが、秘書としてこの家の名誉を守るつもりなら、
 リビアをかばってやらなくてはならないはずだ。
 妻は、本当のことを知っているから、
 ウルビーノが何をしゃべろうが、心配はない。
 とにかく、私は早く娘を安全な場所へ運ばなければ。
 この子を抱いているところを、誰かに見られたらおしまいだ。
 おいで、おチビさん。
 おまえの兄がいるところへつれていってやろう。
 そこは山の中で、農夫たちが暮らしている。
 彼らは善良で、正直な人たちだ。
 そこにいれば、安全に暮らせる。
 神がおまえをお守りくださるだろう。
 
 アントニオ退場。ドリスト、バルトーラ登場。

ドリスト バルトーラ、おれが街へ行くからって、
 そんなふうに泣くのはやめてくれ。
バルトーラ よくそんなことができるわね、人でなし!
ドリスト 落ち着けよ。おまえはおれの妻だ。
 結婚したとき、おれは順境のときも逆境のときも、
 死が二人をわかつまで一生おまえと生きていくと誓った。
 今はちょうど、逆境のときなんだよ。
バルトーラ 生涯、私だけを愛するとも誓ったわよね。
ドリスト そうだっけ?
バルトーラ ほら、おぼえてないくせに。
ドリスト どっちにしろ、おれはおまえを愛してるよ。そんなの周知の事実だ。
バルトーラ あんたが出かけて、私をほったらかしてると、
 私、いろいろいやなことを考えちゃうのよ。
ドリスト くだらない!
バルトーラ ドリスト、私、がまんできないの。
ドリスト バルトーラ、それは嫉妬ってやつだ。
 でも、それは都会のやつらがかかる病気で、おれたちには関係ないよ。
バルトーラ 嘘だわ。昼があれば必ず夜もあるように、
 愛があれば必ず嫉妬もあるのよ。
 嫉妬のない愛なんて、
 歯車のない時計、
 玉ねぎのぶら下がっていないフック、
 皿の入っていない食器棚みたいなもんなの。
 でなかったら、
 屋根のない家、
 庭師のいない庭、
 乳鉢のない漆喰、
 火のないストーブ、
 水の入っていない泉、
 果物の入っていないタルト、
 油の入っていないフライパン、
 羊毛のない糸巻棒、
 ベーコンのついていない揚げパン、
 病気じゃない病人、
 鼓手のいない太鼓、
 荷物を運んでいないロバ、
 葉っぱのないキャベツ、
 農家のない農場、
 家庭のない男と女、
 そんなところよ!
 嫉妬のない愛なんてね!
 これでわかった?
ドリスト ああ、よくそれだけ口がまわるもんだ、バルトーラ。
 その頭のよさにはびっくりだよ。
 どこかで勉強でもしたのか?
 教会で、神父さんの本でも読んだのか?
バルトーラ ちがうわよ、ドリスト。
 恋をしていると、なんでもわかるようになるの。
 どれだけ私が恋で学習してるか、あんたにはわからないでしょうね。
ドリスト ぜったい、神父さんになにか教わったんだろう。
バルトーラ 悩んでいれば、心についてなんでもわかるようになるの。
ドリスト そりゃまた、奥が深いな!
バルトーラ 私たちはみんな、愛について学ぶ生徒なのよ。
ドリスト わかった、わかった。
 だとしても、おれには自由が必要なんだ。
 女は、夫を家の中に閉じ込めるべきじゃない。
 一日中、妻の顔を見ていたら、男ってものは、
 妻のことを、思っていたよりかわいくないと思い始めるもんなんだ。
 妻が、女というよりは椅子みたいに、
 料理に使うまな板みたいに、
 おたまを引っかけるラックみたいに見えてくる。
 だから、男が自由に外出できるようにするのが一番いいんだ。
 そうすれば、帰ってきたときに妻が新鮮に見えるんだから。
 それに、男がいつも妻をながめていると、
 いろいろとイライラすることが出てくるもんなんだ。
 妻が鏡の前で髪をセットしているときの、
 あのクリップとか、ピンとか、香水瓶とか、化粧品とかさ。
 そりゃあ、化粧が終わって、きれいになった顔を見るのはいい。
 だけど、そこに至るまでの過程は見たくないんだよ。
 女の顔は、パイみたいなもんだ。
 できあがったときは最高の状態だけど、
 それまでに、いろんなものが中に詰め込まれてる。
 とにかく、おれの知る限り、女はみんな似たようなもんだ。
 結婚するまでは男にちやほやされるけど、
 結婚してからは、男にあれもこれもと要求する。
 ちょっと待て。誰かが来るぞ。
バルトーラ ひとりだわ。馬に乗って来たみたい。

 アントニオ登場。

アントニオ (傍白)全速力で馬をとばしてきたが、
 もう夜が明けてしまった。誰かに見つからなかっただろうか?
 あそこに人がいる。
 (ドリストとバルトーラに)やあ、おはよう。
 バルトーラの家はどこか知っているかな?
バルトーラ この人、道に迷ったのかしら?
ドリスト おまえの知り合いじゃないのか?
バルトーラ なんだ、領主様だわ。
ドリスト ほんとだ。
バルトーラ お久しぶりです、領主様。
アントニオ ドリスト!バルトーラ!
 私の息子はどうしている?
ドリスト りっぱに育ってますとも。
バルトーラ とても元気ですよ。
アントニオ それで、君たちの赤ん坊は?
バルトーラ 6日前に死にました。
ドリスト 悲しいことですが、これも運命でしょう。
 あの子を、将来司祭にすればいいとすすめる人がありましたが、
 すでに教会に入ってしまいました。
 最後の審判の日まで、あの子はずっとそこにいるんでしょうね。
アントニオ それは気の毒に。
 私の子が生き延びたのは、たまたま運が良かったんだな。
バルトーラ もし、乳母をほしがっている人がいたら、
 私のところへよこしてください。
 アントニオ様の子どもは、一年半に乳離れしました。
 今はまるまると太ってますよ。
アントニオ バルトーラ、実を言うと、
 まさに今の君を必要としている人間がここにいるんだ。
 私の娘で、あの子の妹になる赤ん坊だ。
 太陽が仲間をほしがって、お月さまが生まれたのさ。
バルトーラ その子をこっちへ!抱かせてください。
 なんてかわいい子!すてきだわ、
 また赤ちゃんが抱けるなんて!
ドリスト それじゃ、この子にあげるお守りをもらいに行こう。
バルトーラ たくさんのお守りをね。神様がこの子を守ってくださるように。
 見てよ、この子、笑ったわ。私に話しかけてる。
アントニオ 君にここで出会ったのは、じつに幸運だったよ。
バルトーラ 私のお乳をほしがってるみたい。
 じっとこっちを見てるもの。
 かわいい子、私のお姫さま!
アントニオ 君はいい人だね!
ドリスト 妻の言うことを聞きましたか?
 生後二日の赤ん坊が、
 自分に話しかけてるとか、お乳をほしがってるとか思ってるんですよ。
 こういう発想が、女を作っていくんですね。
 赤ん坊がちょっと咳をすれば、「ママ」と言ったと言い張るんですから。
アントニオ それでは、私の息子に会いに行こう。
 この金は、子どもたちの養育のために使ってくれ。
ドリスト あなたの乗ってきた馬は?
アントニオ 木につないできたから、大丈夫だろう。
ドリスト 誰かに馬を見張らせておきますよ。
バルトーラ お花みたいにきれいな子!
 私の娘のように思えるわ、ドリスト。
 赤ん坊って本当に心を明るくしてくれるものね。
 ところであんたは、どこでも好きなところへ行っていいわよ。
ドリスト 冗談だろう?
バルトーラ かまわないわよ。私は、この子さえいればいいんだもの。
ドリスト おれのことなんか、どうでもいいのか?
バルトーラ どうでもいいわけじゃないけど、
 この子の方が大事だというだけよ。
ドリスト ああ、そうですか。
それなら、おれも大事な女の子を、よそで見つけてやろうっと。

 アントニオ、バルトーラ、ドリスト退場。
 公爵夫人とウルビーノ登場。

公爵夫人 その話っていうのが、オタービオのことなら、
 聞きたくないわ。
ウルビーノ そうではありません、奥様。
 ですが、奥様は、オタービオ様のことも、
 再婚を申しこむ他の方々のことも、軽蔑していらっしゃるようですね。
公爵夫人 それで、どういう話なの?
ウルビーノ 奥様のお加減がよくなって喜ばしく思っておりますが、
 こんなときに奥様がお怒りになるようなことをお伝えしなければならないのは、
 心苦しく思います。
公爵夫人 なんで、私が怒るの?
ウルビーノ もちろん、奥様がそれをどのように見られるかによりますが。
公爵夫人 ふうん。
ウルビーノ なぜ、私の話を聞こうとなさらないんです?
公爵夫人 もういいから、あっちへ行って!
ウルビーノ 権力をもった女性なんて、
みんな似たようなものですね。
 あなたは、私を追い払ったことを、いまに後悔しますよ。
公爵夫人 わかったわよ。話してちょうだい。
ウルビーノ 私は、奥様にとって良かれと思えばこそ、申し上げるのです。
公爵夫人 そうらしいわね。それで?
ウルビーノ ゆうべ、私はアントニオに間違えられました。
 リビアがテラスから、私を見て声をかけ、
 私に、彼女の悪事の証拠品を手渡したのです。
公爵夫人 証拠品って?
ウルビーノ 毛布にくるまれた、生まれたばかりの赤ん坊です。
公爵夫人 それはほんとう?誰の子どもだったの?
ウルビーノ もちろん、リビアの子どもです。
 リビアは、密かにアントニオとの間に赤ん坊を産んでいたんです。
 これは、奥様とこの家の名を汚す行為ではありませんか。
公爵夫人 赤ん坊…
ウルビーノ ええ。奥様のお部屋へ、
赤ん坊を持ってこようかとも思ったのですが、
 それはやめておきました。
公爵夫人 あなたは、夢でも見たんじゃないの?
ウルビーノ そうかもしれませんね。
 夢の中で、私はその赤ん坊を水路に投げ込みましたよ。
公爵夫人 えっ?!
ウルビーノ 今の話がぜんぶ私の夢だとしたら、
 子どもを殺したからといって、なんの問題もないでしょう?
公爵夫人 もし本当のことなら、
 その子どもの命の方が、私の家名なんかよりも、
 はるかに大事なことよ!
ウルビーノ 殺したというのは嘘です。
 でも、リビアが赤ん坊を産んだことは事実です。
 アントニオがその子を受け取りに来ました。
公爵夫人 その赤ん坊は、今どこにいるの?
ウルビーノ 私がアントニオに渡しました。
公爵夫人 よくやってくれたわ。
 子どもは無事なのね。
 人は、神の慈悲深いご意思にしたがって行動しなければならないわ。
 ところで、何の話をしていたんだっけ?
 そう、私の家で、召使いどうしが子どもをつくったということね。
 とんでもないことだわ。
 そんなことをするようには見えなかったから、
 私はアントニオを信頼していたのに。
 リビアをここにつれてきてちょうだい!
ウルビーノ 奥様、召使いたちがこのことを知れば、
 いずれイタリア中に噂が広まるでしょう。
 そして悪意のある者たちがこの家を誹謗し、
 奥様の名をおとしめることになりますよ。
公爵夫人 それではどうしたらいいと思うの?
 私の兄たちを呼び寄せるべきだと?
ウルビーノ まだ、このことは他の者たちには知られていませんから、
 秘密になさっておくのがよろしいでしょう。
公爵夫人 アントニオには、死んでもらいましょう。
ウルビーノ いいですね。
公爵夫人 まさか。できるはずないわ。
 彼を殺しても、怪しまれるだけよ。
 それにアントニオは家柄のいい人間ですもの。
 むしろリビアと結婚させる方がいいわ。
ウルビーノ ですが、もしそうなされば、
 世間は、奥様がふたりの恥知らずな行いを知っていたと考えるでしょう。
 そんな不祥事を見逃すような主人だと思われますよ。
公爵夫人 だったら、私がどうすべきなのか教えてちょうだい。
ウルビーノ アントニオを、ここから永久に追放するのです。
公爵夫人 それはいい考えね。だけど、リビアには知らせないでおきましょう。
 まずアントニオを解雇しておいて、あとで二人とも罰することにするわ。
 いい助言をしてくれたわね、ウルビーノ
 私は今まであなたの言うことに耳を貸さなかったけど、
 これからはあなたがアントニオに代わって、
 執事として私の家を管理し、
 私の右腕になってちょうだい。
 召使いたちを呼び集めて。もちろんアントニオもよ。
ウルビーノ これが最善の策でしょう。
 何ごとにも用心が肝要ですから。

 ウルビーノ退場。

 

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