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Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

アマルフィ公爵夫人の執事(6/11)

第二幕

 オタービオ、ウルビーノ、召使いたちが登場。

オタービオ 公爵夫人に、フリオ殿から手紙が来ていることを伝えたか?
ウルビーノ お伝えしましたよ。
 でも奥様は、そんな話は聞こうともしないんです。
 とても深い心の苦しみに襲われていらっしゃるものですから。
オタービオ おいたわしいことだ。
 私は二年間ローマに行っていたが、
 その間も彼女を思う気持ちは深まるばかりだった。
 ようやく故郷に帰り、もろもろの処理もすんだので、
 フリオ殿に、彼女との結婚の許可を正式に願い出たのだ。
 彼は、「妹が承諾した後で許可する」と言ってくれた。
 そして、彼女を説得するための手紙まで書いてくれた。
 できれば、私からじかにその手紙を渡したいのだ。
ウルビーノ もう、二か月もこんな調子です。
 誰も奥様に面会できません。
オタービオ それではウルビーノ、私に代わって彼女に話してくれ。
 私の気持ちと、私の社会的立場を心に留めてほしいと。
 君も私の味方になって、彼女を説得してくれ。
 そうしてくれなければ、私の気持ちは、

 むしろいさかいの元になってしまいそうだ。
 しかし、彼女は本当に病気なのか?
 私を遠ざけるための口実じゃないのか?
 君の話では、彼女は二か月も寝込んでいるそうだが、
 本当は、私がここに来たのが病気の理由なんじゃないか?
 どうなんだ?
 彼女の病気は私のせいなのか?
 望まれない求婚者ほど、迷惑なものはないからな。
ウルビーノ もちろん、奥様のご病気はほんものです。
 オタービオ様も、ご存じかと思っていましたが。
 奥様に今日お会いになることはできません。
 でも、お手紙はたしかにお渡ししておきます。
 具合が良くなられたら、明日にでもお話しされるでしょう。
オタービオ 本当だろうな?
 私がいなかった二年の間、彼女は元気だったというのに、
 私が戻ってきたとたんに病気だなんて!
ウルビーノ ちがいます、オタービオ様。
 一年ほど前も、奥様は別の病気にかかったのです。
 おそらく、メランコリーだと思いますが。
オタービオ だとすれば、若くして夫を亡くしたことによるのかもしれないな。
 それで、彼女の相談相手になっているのは君なのか?
ウルビーノ 以前にくらべると、私が奥様に助言することは減りました。
 たぶん、私はこの役目から解かれるでしょう。
 はっきりいって、奥様はめったに私の意見など求められません。
 アントニオが、奥様の相談相手であり、右腕なのです。
 私はほとんど、やることがなくなってしまいました。
オタービオ アントニオは有能な男だな。
ウルビーノ ええ、まちがいなく。
オタービオ ナポリ王に仕えていたときは、すこぶる評判が良かった。
ウルビーノ アントニオは、成功するだけの才覚をもった男だと思います。
 ですが、彼は私に対してはひどいことをしました。
 私が結婚したいと思っていた女性に言い寄ったんです。
オタービオ リビアだろう?
ウルビーノ ええ。でも、リビアの方も私の苦悩なんて、ほったらかしなんです。

 アントニオ登場。

アントニオ オタービオ様。
 ご存じでいらっしゃるかと思いますが、奥様はご病気です。
 ご気分の安静のために、今日はお話しできないそうですが、
 快復されたら、必ずお知らせして、お会いになるとのことです。
オタービオ わかった。
 私は、彼女が私を避けるために仮病を使っているのかと思っていたのだが、
 ほんとうに病気のようだな。
 彼女の快復を祈っているとお伝えしてくれ。
 高貴なご婦人が、求婚者をベッドで迎えるようなことは私も望まない。
 あとで私から見舞いの品を贈らせてもらうよ。
アントニオ お伝えしておきます。
オタービオ それでは失礼する。

 オタービオ退場。

アントニオ ウルビーノ、調子はどうだ?
ウルビーノ あまり良くないな。
 むしろ、おれたちの友情について心配したらどうだ?
 今なら、邪魔者はいないから、おまえに話してやろう。
 おれが、おまえの仕打ちをどう思っているかを。
アントニオ おれたちの関係がぎくしゃくするようになったのは、
 まちがいなく恋のせいだな。
 考えてみてくれ、ウルビーノ
 おれたちの頭上に浮かんでいる雲は、いろんな形に姿を変える。
 おれたちはそれを見て、「蛇だ」とか「船だ」とか言う。
 思うに、恋をしている人間も、こんな雲を作り出すんだ。
 その雲は、「疑惑」とか「裏切り」とか呼ばれる。
 でも、最後にはその雲はみんな散り散りになってしまう。
 雲は、もともと実体のないものなんだ。
 要するに、ウルビーノ、想像力の落とし穴に惑わされるな。
 おれは、おまえを怒らせるようなことをした覚えはない。
ウルビーノ へえ、そうなのか。
 おまえは、目からは涙を流しながら、
 獲物をばりばり食っているワニみたいなやつだな。
 おれは公爵夫人に、リビアとの結婚を許可してもらおうとした。
 そしたら、おまえがもうすぐリビアと結婚することになっていると聞かされた。
 アントニオ、それが事実なら、おまえはおれの友だちでもなんでもない。
 むしろ、優しい言葉の裏に本性を隠した偽善者だよ。
アントニオ ウルビーノ、それはおれの責任じゃないんだ。
 おれはリビアに求婚した覚えはない。
 たぶん、公爵夫人が、おれの仕事への見返りとして、

 それが適当だと思ったんだろう。
 ありがた迷惑だったけどな。
 おれはリビアが好きじゃないんだから。彼女は面倒くさいよ。
 おまえに誓って言うが、リビアとは結婚しない。
ウルビーノ おまえが断ったら、リビアがかわいそうだろう!
アントニオ だって、そもそも結婚なんか申し込んでないんだよ。
 彼女だって、おれと無理やり結婚させられると知ったら憤慨するだろう。
ウルビーノ それじゃ、まだおれは希望を持っていられるのか?
アントニオ 希望は大ありさ。
ウルビーノ それなら、もう一度、公爵夫人に頼みに行ってくる。
アントニオ 忘れるなよ、おれはおまえの親友だ。

 ウルビーノ退場。

アントニオ 毎日が、危険ととなりあわせの生活だな。
 私たちが密かに結婚して二年たった。
 この結婚のもたらした幸福はたとえようもない。
 私をうらやまない男がいるだろうか?
 私たちには息子が生まれた。
 生まれ落ちてすぐに、私がここから連れ出して、
 今は農家の夫婦に育ててもらっている。
 そして今ふたたび、私たちに子どもが生まれた。
 妻は、おもてむき病気ということにしているが、
 彼女の部屋で、女の子を産んだばかりだ。
 かわいい赤ん坊だった!
 二人のわが子は、私にとって、かけがえのない存在だ。
 ひとりが太陽なら、もうひとりは月。
 美しく、清らかに、この世を照らしてくれる。
 もうすぐ日が暮れる。
 私は誰にも見つからないうちに、
 娘を安全な場所へ連れていかなければ。
 あの子の生命の光は、暗い影をおしのけてくれるだろう。
 夜の闇も、恐れることはない。
 息子が暮らしている村に辿り着くまで、
 あの子を私のマントの下に隠していこう。

 アントニオ退場。ウルビーノ登場。

ウルビーノ 公爵夫人が、リビアとアントニオを結婚させると言ったとき、
 おれはショックでおかしくなりそうだった。
 アントニオは、自分がリビアに好かれてなどいないと言っていたが、
 確かめなければ気がすまない。
 あいつが本当に信用できるかどうか、真実をつきとめる必要がある。
 恋をすれば、親友さえ裏切るようになるものだということは、
 恋を経験した者の常識だからな。
 ここは、以前、おれとリビアが会っていた場所だ。
 おれたちが、お互いに愛を告白した場所だ。
 もしアントニオが、
 本気で彼女と結婚しようとしているなら、
 ここで彼女と会うに違いない。
 おれがかつてそうしたように。
 アントニオは、なにかを企んでいるのかもしれない。
 公爵夫人にむりやり結婚させられるように見せかけているのかもしれない。
 もしあいつの言ったことが真実なら、この結婚をやめさせるだけにするが、
 もしおれを裏切っているのなら、
 剣を抜いて、あいつの鼻先につきつけ、
 舌を切り落とすと脅すくらいのことはしてやる。
 なんの音だ?隠し扉が開いたぞ。
 あれは階段へ通じていて、その先を曲がると公爵夫人の部屋があるはずだ。
 どういうことだ?

 赤ん坊を抱いたリビアが登場。

リビア アントニオ!
ウルビーノ (傍白)リビアの声だ。アントニオを呼んでいる。
 これ以上、おれの恐れていたことが事実だったことを示すものがあるか?
 なんてひどい裏切りだ!
リビア アントニオ!
ウルビーノ (傍白)アントニオのふりをして、リビアと話をしてやろう。
 リビアがおれをだましたんだから、おれが彼女をだまして悪いことがあるか?
 (リビアに)なんだ?
リビア 赤ちゃんを抱いていてくれない?私は用事があるの。お願いね。

 リビア、赤ん坊をウルビーノにあずけて退場。

ウルビーノ これは悪夢か?
 赤ちゃんだって?だとしたら、おれの運命は呪われている!
 想像していたよりもずっとひどい状況だ。
 おれは、アントニオがリビアを口説いているものだと思っていた。
 それどころか、あいつらには赤ん坊がいる。
 この赤ん坊こそ、アントニオがおれを欺いていた証拠だ。
 こういうことは、ふつうは言葉によって告げられるものなのに、
 おれは、まさにあいつらの愛の成果を手渡されてしまった。
 誰かが来た。アントニオに違いない。

アントニオ登場。

アントニオ (傍白)遅刻してしまったか?
 どこにいても、オタービオがつきまとってくる。
 公爵夫人との結婚話ばかりもちかけてくるんだから。
 人の気配がする。誰だろう。
 またオタービオがついて来たのか?
 おかしいな。
 ふだん、夜にここへ来る者はいないのに。
 何をしているんだ?
 (ウルビーノに)そこの方!なにかご用ですか?
 公爵夫人はお休み中です。
 よその方がここにいると、
 この家の悪い評判がたつので、困るんです。
 バルコニーからあなたの姿が見えてますよ。
 私は公爵夫人の執事です。出ていってもらえませんか?
ウルビーノ よく言えるな、執事だなんて。
 おまえを裏切り者と呼んでやるよ。
 おれをだましたな、アントニオ!
アントニオ ウルビーノ!こんなところで何をしているんだ?
ウルビーノ おまえがどんなにひどい人間かを確認してるのさ。
アントニオ そんなことを言われる覚えはない。
ウルビーノ 大嘘つきの卑怯者!
 おれがここに立っていたら、リビアがおれをおまえと間違えて声をかけてきた。
 そしてこいつをおれに渡したんだ。
 アントニオ、おまえは無理やり彼女と結婚させられるなんて言っていたが、
 彼女はおまえの赤ん坊を産んでいたんだぞ。
 たいした策略だな!
 ふたりで仲よく、楽しんだんだろうな。
 それでもまだおまえは、リビアとの結婚を
 ありがた迷惑だとおれに言うつもりか?
 子どもを返すぞ!
 この子どもはおまえの一部だ。
 抱いているのもいまいましいが、
 子どもには罪はない。
 おれが復讐する相手は、おまえひとりだ。
 おまえはさっき、この家の評判がどうだとか言っていたが、
 おまえの評判のほうが大問題だろうが。
 たぶん、おれがこの赤ん坊を公爵夫人のところへ持っていって、
 おまえの恥ずべき行為の証拠として見せればよかったんだろうがな。
 その、羽みたいに軽い赤ん坊は、
 おまえの軽薄さをよく表してるよ。
 おれはかならず、公爵夫人にこのことをすべて話しに行く。
 奥様に忠実な執事であるおまえが、いかにおれを苦しめ、
 この家の名誉を汚しているかということをな!

 ウルビーノ退場。

 

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