Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

アマルフィ公爵夫人の執事(4/11)

 アントニオ登場。

アントニオ 馬車が到着しました、奥様。
公爵夫人 ありがとう。気分転換のために外出しようと思っていたけど、
 気が変わったわ。ウルビーノ
ウルビーノ はい。
公爵夫人 兄たちを怒らせたくないから、
 私は体調が悪くて、
 手紙の返事をすぐに書けないのだと伝えて。
 兄たちが計画している私の結婚については、
 なにか解決策を考えてみるから。
 それからおまえは、
 他人の悪口を言うもんじゃないわ。
 その人はおまえのことをいつも誉めているんだから。
 おまえはそれに値しない人間なのに。
ウルビーノ それでは、フリオ様に手紙を出しておきます。
公爵夫人 アントニオ、この結婚の話は忘れてちょうだい!

 ウルビーノ退場。

アントニオ 奥様、おっしゃる意味がよくわかりませんが。
公爵夫人 手紙のことよ。
 あなたはへまをしたわね。ウルビーノに見られていたのよ。
アントニオ それは、リビアが不注意だったからです。
公爵夫人 もっと慎重に行動してくれないと困るのよ。
 私の立場があやうくなるところだったじゃないの。
アントニオ (傍白)気まぐれだな!この人もやっぱり女だ!
 ころっと気を変えるんだから。
 好きになっても、嫌いになっても、勝手に命令する。
 (公爵夫人に)奥様、私は思いちがいをしていたようです。
 あなたは私の名前を手紙に書かれました。
 しかし、あなたは私より、紙切れの方を信用なさるのですね。
 あの手紙は、あなたがご自身の心をうちあけられたものです。
 その中には、私の名前が書かれていました。
 私はそれを、あなたの愛のしるしだと思いました。
 そして、その手紙をお書きになったあなたの手が、
 私に向かって差しのべられているものと思いました。
 しかし、私はまちがっていました。
 私の喜びは、ただの勘ちがいでした。
 私の名に愛などこめられていなかったのです。
 あの手紙は、何も書かれていない白紙と同じでした。
 黒いインクで書かれた「アントニオ」という文字は、
 むしろ私の墓標に刻まれるべき文字でした。
 私の運命なんて、あの紙のように薄っぺらいものなんでしょうね。
 おろかな私の!
公爵夫人 へらず口はやめなさい。私の立場がどうなるかは、
 常にあなたの肩にかかっているのよ。
 それなのにあなたは、うかつにもミスをしたんですからね。
アントニオ 私に落ち度があったとすれば、
 あなたの愛に自分が値しない人間だと思い、
 この気持ちを秘め続けていたことだけです。
 しかし、あなたはもう、明日にでもオタービオ様と結婚されるんでしょうね、
 そして、チャンスを逃したことを悔やみ、
 ぬけがらのようになった私をご覧になることでしょう。
 私はここから去り、
 あなたにご迷惑のかからないような遠い土地へ行きます。
 あなたに会えなくなったら、私の人生など終わったも同然です。
公爵夫人 アントニオ、待って!
アントニオ いやです。
公爵夫人 そんなに怒らないでよ!
アントニオ 無理です。
公爵夫人 あなたが私を愛していることはわかったわ。
 だけど、私はあなたに、もう召使いの態度をとってほしくないの。
 私の身分のことは忘れてちょうだい。
 あなたは、いつも遠慮がちにして、
 私が優しい言葉をかけるのを待っている。
 そんなの、男としてどうかと思うわ。勇気を出してよ!
 はっきり言って!私のことを愛してるって!
 恋の世界では、ふつうは男のほうがリードして、
 愛を告白するものでしょう。女はどっちかというと受け身だわ。
 でも、女にだって愛する気持ちはあるの。
 そして、女が一番きらうのは、
 男が臆病になって、自分の気持ちを打ちあけないことなのよ。
アントニオ 奥様、ほんとうのことを言いますと、
 利口な者より、愚か者の方がずっと大胆なのです。
 なぜ大胆になれるかというと、愚かだからです。
 けれども、私の慎重さは奥様のお気に召さなかったのですね。
 そして、あなたが私を愛してくださっているとわかった今、
 本心を申し上げる勇気さえないのは、たしかに私が悪いのです。
 ですから、私は自分を変えることにしました。
 あなたの手を取り、あなたをこの腕に抱き、
 あなたの唇に花をお渡しします。私の・・・
公爵夫人 アントニオ、やめて!
アントニオ どうしてですか?だってあなたのほうから・・・
公爵夫人 調子に乗らないで!
アントニオ そうですか。それでは、私はまた召使いに戻ります。
 ばかなことをして、申し訳ありませんでした。
公爵夫人 待ってよ、アントニオ!もう一度戻ってきて!
 まったく、これじゃあ、どうどうめぐりだわ。
 だけど、私もはっきり言わなくちゃ。
 恋は隠し通せるものじゃないのよ。
 アントニオ、私はあなたを愛しているわ。
 これは本当の気持ちよ。
 でも、あなたにもわかっているでしょう?
 私はあなたへの愛を公表することはできないの。
 もしあなたに抱かれているところを人に見られたら、
 大変なことになるのよ。
 私たちの愛は秘密にしておかなくてはならないの。
 だけど、神を敬う気持ちがあるなら、
 私たちは、ちゃんと結婚するべきだわ。
 兄たちがこのことを知ったら、
 私もあなたもきっと殺されるでしょうけど。
 彼らは、私たちの味方になってくれるような人たちじゃないんだもの。
 残念だけど、愛し合っているふたりが、
 そのことを周りに知られてしまったために
 破滅してしまうことはよくあるのよ。
 私たちの間に子どもができれば、
 迷うことなく 私はあなたを自分の夫として宣言するわ。
 そうすれば、兄たちも事実を受け入れざるを得なくなるでしょうから。
 でも、それまでは、私たちの関係を
 誰にも知られないようにしておきましょう。
アントニオ 賢明ですね。
 あなたのお立場を考えれば、そうするのがいいでしょう。
 ですが、私もまた、この愛を秘密にしておきたいのです。
 あなたと愛し合っている喜びを、
 誰かとわかちあいたいなどとは思いませんから。
 私は嫉妬深いんです。
 この幸運をひとりで味わいたいのです。
 今日、あなたは私を生まれ変わらせました。
 私に誇りをくださったのです。
 私はあなたの夫だと思っていいのですね?
公爵夫人 今日から、私はもうあなたのものよ。
 身分も地位も関係ないわ。
 だけど、なんとかして、
 こっそり結婚する道を考えましょう。
アントニオ 騒ぎを起こさずに、
 事を運ぶ方法があります。
 私の所有地へ行きましょう。
 身なりを変えて、農夫や羊飼いたちの間にまぎれこむのです。
 その土地の司祭に頼めば、
 私たちを結婚させてくれるでしょう。
 そうできれば、私にとってこれ以上の幸福はありません。
 どうかすぐにでも、そうしてください。
公爵夫人 いい考えだわ。
 服を着替えて、今夜出発しましょう。
 そこに行って式を挙げれば、
 結婚という誠実な絆で結ばれた私たちは、
 これから恥じることなく、幸福に生きられるわ。
アントニオ あなたが不在になることを、家の者たちにどう説明しますか?
公爵夫人 リビアに頼んで、私が病気で寝込んでいると
 召使いたちに説明してもらいましょう。
アントニオ わかりました。
 それでは、夜が更けたころ、馬を2頭つれてきます。
公爵夫人 お願いね。
アントニオ 服もさがしておきます。
公爵夫人 道は遠いけど、
 私たちの目的のために頑張りましょう。
 気をつけてね。召使いたちには、絶対になにも話さないで。
アントニオ 私は、誰もあてにするつもりはありません。
 あなたへのこの気持ちだけが頼りです。
公爵夫人 アントニオ、私がどんなにあなたを愛しているかわかる?
アントニオ 私は幸せ者です。
公爵夫人 あなたのためになら、死んでもかまわないわ。
アントニオ 死ぬとしても、それはむしろ生への道です。
 あなたに神のご加護がありますように。
公爵夫人 あなたにも!

 アントニオと公爵夫人は退場。
 メランポとアルシンド(老いた農夫)、ドリスト(若者)登場。 

メランポ アルシンド、そこをどけ。
 このろくでなしを殺してやる。
アルシンド 落ち着けよ、メランポ。
 おまえがどんなにこの子をかわいがっているか、教えてやれ。
ドリスト 冗談じゃないよ。
 このじじいは、おれを殺したがってるんだぞ。
メランポ おまえなんぞ、天罰を受けて、
 地獄へ落ちればいいんだ。
ドリスト じいちゃん、頭を冷やしてくれ。
 なんでそんなに怒ってるんだ?
メランポ おまえがおれをまったく敬っていないからさ。
ドリスト 敬うって、どうすることだ?
メランポ おれの忠告に従うってことだ。あたりまえだろう。
アルシンド どうか、いきさつを教えてくれないか?
ドリスト おれは結婚したいんだ。
 それなのに、じいちゃんがそれを認めてくれないんだよ。

 

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