Las comedias de Lope de Vega

17世紀スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの未邦訳作品を翻訳しています。Traducciones (relativamente libres) de unas comedias de Lope ineditas en japonés. はじめての方はカテゴリー「このブログについて」からご覧ください。無断転載はお断りいたします。

アマルフィ公爵夫人の執事(1/11)

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『アマルフィ公爵夫人の執事』とは - buenaguarda

 

アマルフィ公爵夫人の執事』

 

登場人物

アントニオ 執事
アマルフィ公爵夫人
オタービオ・デ・メディシス 求婚者
ファブリシオ オタービオの従僕
ウルビーノ 公爵夫人の秘書
セルソ 公爵夫人の老僕
リビア 公爵夫人の侍女
ドリスト、メランポ、アルシンド 農民たち
フリオ、ディナルコ、フィレルフォ、ルペルト 公爵夫人の従僕たち
ベルナルド アントニオの友人
バルトーラ 農婦
フェニシオ フリオの従僕
ルシンド アントニオの従僕
フリオ・デ・アラゴン 公爵夫人の兄
アマルフィ公爵 公爵夫人の息子
アレハンドロ 公爵夫人の息子
レオノーラ 公爵夫人の娘


第一幕

アントニオ登場。

アントニオ 私はありふれた身分の男なのに、
 大それた望みを抱いている。
 いつか、このことで罰を受けるにちがいない。
 そして、この心は闇に閉ざされることだろう。
 私の目は、あのイカロスのように
 手の届かない美しいものを眺めてしまったのだ。
 イカロスと同じように、私も堕ちていくだろう。
 私の望みは、悲しみの海に消えていくだろう。
 凡人とは哀れなものだ。
 風を受けて飛ぼうとしても、
 自ら燃え尽きてしまうのだから。

 私の目は、あまりにも気ままに、
 あまりにも多く、
 公爵夫人を見つめすぎた。
 執事としてこの家に住んでいるうちに、
 自分にふさわしくない幸福を味わってしまった。
 けれども、彼女は私に希望を与えてくれる。
 私に向かって、多くは語らないけれど、
 優しく微笑みかけてくれる。
 だからこそ、私は愛してはいけないあの方を愛してしまう。
 凡人とは哀れなものだ。
 風を受けて飛ぼうとしても、
 自ら燃え尽きてしまうのだから。

 私は、宮廷に仕えるための修業を積み、
 夫人の叔父、ナポリ王フェデリーコ様の元で働いてきた。
 王がナポリを追われ、フランスへ行かれたときも、
 苦難多き人生に疲れてナポリへ戻ってこられたときも、
 私はつき従ってきた。
 当時、公爵夫人は夫を亡くし、
 ご子息はまだ幼かったので、
 私は、今度は彼女に仕えるようにと命じられた。
 夫人の信頼を得ることができたのはいいが、
 まさか自分が、
 こんな愚かな望みを抱くようになるとは思いもしなかった。
 凡人とは哀れなものだ。
 風を受けて飛ぼうとしても、
 自ら燃え尽きてしまうのだから。

 オタービオ・デ・メディシスとその従僕たち、ファブリシオが登場。

オタービオ アントニオはいるか?
ファブリシオ そこにいました。
アントニオ なんなりとお申し付けください、オタービオ様。
オタービオ アントニオ、私が日ごろ
 君に目をかけてやっている恩に報いてもらいたい。
 今日こそ、私の希望が
 不安に打ち勝つ日だ。
 そして、私の幸福を打ち立てる計画の
 礎が築かれる日だ。
アントニオ (傍白)計画とは、公爵夫人との結婚にちがいない。
オタービオ (従僕たちに)外へ出ていてくれ。彼とふたりだけで話をしたい。

 従僕たちは退場。

アントニオ 私は何をすればよろしいでしょうか、オタービオ様?
オタービオ アントニオ、君も知っているとおり、
 私はフィレンツェメディシス公爵の甥だ。
アントニオ はい。そればかりでなく、お人柄もりっぱな方です。
オタービオ 私はじきに公爵の地位を受け継ぐだろう。
 そして、アマルフィの公爵はすでに亡く、
 夫人と、まだ幼い息子が残されている。
アントニオ (傍白)やっぱり…
オタービオ そういうわけで、公爵夫人に、私の妻になってほしいのだ。
アントニオ オタービオ様、私から率直に申し上げます。
 公爵夫人はたしかにまだ若く、とても美しいお方です。
 しかし、現在私が行っている夫人の財務管理が他の方に委ねられますと、
 ご子息は夫人の後見人であることができなくなります。
 しかも、嫁ぐことで夫人はご自分の財産を失ってしまいます。
 つまり、夫人は貧しくなり、オタービオ様はなにも得るものがないのです。
オタービオ そんなことはわかっている。
 だが、彼女をながめているだけで、私にはじゅうぶんなのだ。
 彼女の美しさは、私にとって財産に匹敵する喜びとなるだろう。
アントニオ 夫人を愛していらっしゃるのですね。
 どんな豪雨も、灼熱の大地を冷やすことはできませんし、
 かえって熱を高めるだけでしょう。
 しかし、あとひと月ほど、その熱波が過ぎ去るのをお待ちください。
 きっとあなたは冷静さを取り戻され、
 あれは一時の気の迷いだったと思われることでしょう。
 それに、貧しさがもたらすものについてご想像ください。
 貧しくなれば、友人がひとりも訪れることのない、
 さびれた村に住まねばならないのですよ。
 そんなことになれば、愛の炎もすぐに消えてしまうでしょう。
 そして後悔によって愛に終止符が打たれるのです。
 オタービオ様、一時の情熱に信頼を置く人間は、
 風に飛ばされる凧のように、はかないものです。
オタービオ アントニオ、私は君に忠告してもらいに来たのではない。
 私の気持ちはもう決まっているのだから。
 だいいち、君はまだ若い。私の方が君よりもものをよく知っている。
 しかし君はここの執事で、
 夫人の気持ちを誰よりもよく知っていると思ったから、
 私はこの計画を最初に君に話すことにしたのだ。
 しかし、このことで君が大損をすることになるだろうとは、
 うかつにも思いつかなかった。
 君がこの計画に反対していることはわかった。見当ちがいだったな。
アントニオ それはあんまりです、オタービオ様。
 私は私利私欲で申し上げているのではありません。
 アラゴン家のことを思えばこそです。
 私は金持ちではありませんが、
 公爵夫人の財産をあてにするほど貧しくはございません。
オタービオ それならますますおかしい。
 なぜ君が、夫人への私の求愛に逆らうのだ?
 そんなことをして、君になんの得があるというのだ?
アントニオ 得ですって?心外です。
オタービオ われわれ二人が貧しい暮らしを強いられたところで、
 君には何のかかわりもなかろう。
アントニオ ええ、おっしゃるとおりです。結婚なさってください。
 お望みでしたら、一回といわず十回でも結婚なさればいいでしょう。
オタービオ 私の愛情が、誠実なものだと考えてはくれないのか?
アントニオ そうでしょうとも。でなかったら、
 誰がこんな愚かなことをするでしょうか。
オタービオ 君は私のことを、そんなふうに彼女に伝えるつもりか?
アントニオ 私は、命じられることをいたします。それが務めですから。
オタービオ それでは、今言ったことを私の代わりに夫人に伝えてくれ。
アントニオ お任せください。
オタービオ 彼女が求婚に応じてくれるよう、君が説得してくれ。
アントニオ お約束いたします。私にできるだけのことはいたしましょう。
オタービオ もしうまくいったら、
 それにふさわしいだけの礼はしよう。
 純金の金鎖を君に贈る。それではまた会おう。

オタービオ退場。

アントニオ もはや逃れる道はないようだ。
 悲しいことだな!
 しかし、これは私の愚かな恋を終わらせてくれる
 救いの道になるかもしれない。
 彼女が結婚してしまえば、
 この恋の原因もなくなるわけだ。
 虚しい恋心はこれで消えてしまうだろう。
 ともかく、結婚についての夫人の気持ちをお聞きしなければ。
 私の希望は、
 わずかではあるが、まだ残っている。

 アントニオ退場。

 喪章をつけたアマルフィ公爵夫人と侍女のリビア、老僕のセルソが登場。

公爵夫人 息子はどこにいるの?
セルソ お勉強の最中ですよ、奥様。
公爵夫人 なんの勉強?
セルソ 文法です。
 ラテン語は、書くだけでなく、言語としての規則も学ばねばなりませんから。
公爵夫人 いいことだわ。
 将来、公爵となるためには、ラテン語に通じていなければね。
セルソ とても上手に朗読なさっていますから、
 じきに習得されることでしょう。
 ご子息はイタリアでも随一の賢さをお持ちでいらっしゃいますよ。
公爵夫人 その賢さは父親譲りね。
 でも、先生に伝えておいてちょうだい。
 勉強だけでなく、武術も教えるようにって。
セルソ おっしゃるとおりです。
 男の子は、文武両道で教育しなくては。
 私がこんな老いぼれでなかったら、
 ご子息に剣術の技をすべてお教えしているところなのに。
公爵夫人 剣術に通じていたの?
セルソ イタリア中で、私にかなう者はおりませんでした。
 しかし今の私は、剣の代わりに杖に頼るありさまです。
 かつては剣術の達人をも打ち負かしたものですが、
 今では、寄る年波に打ち負かされました。
公爵夫人 それでは、先生に話してきて。
私の言ったとおりにしてくれるかどうか、確かめてきて。
セルソ わかりました、奥様。

 セルソ退場。

公爵夫人 ああ、リビア。この恋はつらすぎるわ。
リビア 私はいやな気分ですけどね。
 あなたが、身分の低い男を
 慕っている姿を見るのなんて。
 それに、私がなんとかしようとしたって、
 あなたの心が弱かったら、どうしようもないでしょう。
 若くして未亡人になるってのは、
 不幸なものですねえ!
公爵夫人 おまえは、本当にそう思ってるの?
 私が、ただ心が弱いから、道に外れようとしているって?
 世間から後ろ指をさされそうになっているって?
リビア 私に彼を呼びに行かせるなんて、ばかげてます。
 何を話すつもりですか?
公爵夫人 わかってるでしょう?
リビア あなたは、自分の人生をめちゃめちゃにしようとしてるんですよ。
 結婚だなんて、とんでもないことです。
公爵夫人 おまえも、本当は彼に魅力を感じているんじゃないの?
リビア まさか!奥様、神に誓ってそんなことはありません。
 彼を好きになったことなんか、一度もないですよ。
公爵夫人 リビア、私はいつだっておまえを信頼しているわ。
 私の気持ちはすべておまえに話してきたわ。
リビア 私はいつでも奥様の気持ちにお応えいたします。
公爵夫人 私の秘密は、おまえの秘密でもあるのよ。
 私は、自分自身にさえ言いづらいことでもおまえに話してきたわ。
 私がおまえに、アントニオを好きなのかと尋ねたのは、
 すべての女性の心をときめかせるほどに
 彼が魅力的だと思っているからよ。
 彼は評判もいいし、見た目も素敵だし、
 文章の書き方も完璧だし、
 仕事で失敗したことなんて一度もないの。
 おまえだって彼を誉めずにはいられないわよ。
 それに彼の品の良さとか、誠実さとか、
 判断力とか、そつのなさとか、服の選び方とか、
 馬の乗りこなし方とか、優雅さとか、
 音楽の才能とか・・・
リビア はいはい、奥様。
 その誉め言葉のオンパレードは面白いですよ。
 奥様にとってアントニオは、そのくらい面白いんでしょうね。
 だけど、あなたの望み通りになれば、
 あなたの財産と権力は、執事の手に渡ってしまうことになるんですから、
 このことはくれぐれも内密にしておかなくてはなりませんよ。
公爵夫人 私たちが結婚すれば、
 このつらさもなくなるわ。
 もちろん、結婚はこっそり執り行うつもりよ。
 そして、この秘密を公にする時が来たら、
 私は晴れて、アントニオの妻になるんだわ。
リビア 彼が殺されることにならなければいいですけどね。
 奥様、私は不安ですよ。
 決心を変えてほしいとは申しませんが、
 あなたと結婚したがっている男はたくさんいます。
 アントニオより地位の高い男は、いくらでもいるんですよ。
公爵夫人 わかってるわよ。
 召使いと結婚するということが、
 私の地位や名誉にふさわしくないということは。
 だけど、結婚というものは、
 名誉を重んじるためのものでもあるけど、
 神に対して嘘をつかないための行為でもあると思うの。
 あなたとアントニオに私の計画をわかってもらえれば、
 私の秘密は守られるはずよ。
リビア そう願いたいですね。

 

アマルフィ公爵夫人の執事(2) - buenaguarda